葬儀社の業績・利益を調べる場合、帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、葬儀社の業績・利益の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。
今回は株式会社 コムウェルの現状について、貸借対照表をもとに分析いたします。
上場企業の決算資料ほど詳細ではありませんが、事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。
株式会社 コムウェルの概要
株式会社 コムウェルは、1972年(昭和42年)に東京都杉並区において「中央互助センター」として創業したことに始まります。
1978年(昭和53年)に葬祭部門を開設し、その後霊園、仏壇、貸衣装や、医療機関救急輸送サービス事業をおこなってきました。
2002年に現在の社名に変更し、東京都内を中心に冠婚葬祭事業を展開しています。
おもな運営事業部は以下のとおりです。
- ブライダル事業部:都内を中心に、50か所以上のホテル、専門式場、レストランと提携
衣装サロン「ブライダルサロンHANA」やフォトスタジオを展開 - セレモニー事業部:都内に9か所のセレモニーホールを展開し、家族葬から社葬まで対応
- メモリアル事業部:霊園・墓地の紹介、アフターフォロー、海洋散骨に対応(ハワイでの海洋散骨もおこなう)
- トランスポート事業部:病院等へ送り迎えのための寝台タクシー、冠婚葬祭時の貸切バスなどを備える
都内のセレモニーホールは以下のとおりです。
・コムウェルホール 高円寺
・家族と寄り添う温泉付き葬祭場 四季風 松庵
・コムウェルホール 板橋
・コムウェルホール 町田駅前会堂 けやき
・コムウェルホール 小平
・コムウェルホール 西東京
・家族葬ホール 四季風 八王子
・家族葬ホール 四季風 江戸川
・邸宅型葬祭場 四季風 東大和
邸宅型葬祭場:ゲストハウスを借りて自宅のような空間で、家族だけでゆっくりとお見送りができる
通夜から葬儀までおこなえる、家族葬向け施設
【名称】株式会社 コムウェル
【設立】1972(昭和47)年6月16日
【代表取締役】山川 寅彦
【所在地】東京都杉並区阿佐谷南3-6-1
【公式サイト】https://comwell.co.jp/company/
【事業内容】・会員事業
冠婚葬祭互助システムの会員営業・管理等に関する事業
・ブライダル事業
ご婚礼・七五三・成人式等の衣裳に関する事業
・セレモニー事業
ご葬儀に関する事業
・トランスポート事業
民間救急輸送、旅客輸送に関する事業
葬儀社の決算公告とは
決算公告資料はその会社が健全な経営を行っているかを確認できる計算書類となります。株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告といいます。
公告の方法は全部で3つあります。
- 官報に掲載
- 日刊新聞紙に掲載
- 電子公告(会社のウェブサイトに掲載)
決算公告は義務的な側面が強いですが、取引先や銀行に情報の開示を行うことで、自社の透明性や健全性を見せることができるという重要な側面も持ち合わせております。
なぜ葬儀社は決算公告をおこなうのか?
大手葬儀社、あるいは葬儀・葬祭事業を長きにわたって営んでいる会社は、冠婚葬祭互助会を運営するケースが少なくありません。
冠婚葬祭互助会とは、冠婚葬祭などの行事に備えるために、毎月一定の掛金を複数回の支払いで積み立てるサービスです。
冠婚葬祭互助会の会員になることで、葬儀や婚礼といったライフイベントの際に会員割引を受けられるなど、さまざまな面で優遇されます。
一般的な専門葬儀社は、開業にあたって特に許認可は必要ありませんが、冠婚葬祭互助会は経済産業大臣の認可を受けた企業のみ行える事業です。
会員から掛金として支払われた前受金は割賦販売法によって積み立てられた前受金の2分の1を次の何らかの方法で保全することが義務付けられています。
- 法務局に供託する
- 経済産業省の指定する保証会社と供託委託契約を結ぶ
- 銀行や信託会社などの金融機関と供託委託契約を結ぶ
上記のいずれかの方法を選択する必要があります。
また、経済産業省は割賦販売法に基づき互助会事業の経営指導や立入検査等を行っています。
なお現在、冠婚葬祭互助会事業者として登録されている事業者は以下より確認することができます。
経済産業省 前払式特定取引業者(冠婚葬祭互助会)許可事業者一覧
上記のように、冠婚葬祭互助会では政府・行政の認可団体として運営している側面があり、義務である決算公告を発表する事業者が多い状況です。
コムウェルの貸借対照表
決算期 | 第28期 | 第29期 | 第30期 | 第31期 | 第32期 | 第33期 | |
会計年度 | 2018年6月期 | 2019年6月期 | 2020年6月期 | 2021年6月期 | 2022年6月期 | 2023年6月期 | |
利益剰余金 | 7億3千0百万円 | 7億2千5百万円 | 7億2千8百万円 | 7億2千9百万円 | 7億3千5百万円 | 7億3千8百万円 | |
資 産 の 部 | 流動資産 | 38億0千5百万円 | 37億5千7百万円 | 36億4千3百万円 | 38億0千3百万円 | 35億4千0百万円 | 33億7千0百万円 |
固定資産 | 117億2千8百万円 | 116億2千9百万円 | 115億6千0百万円 | 115億0千5百万円 | 114億3千7百万円 | 113億2千9百万円 | |
有形固定資産 | |||||||
無形固定資産 | |||||||
投資その他の資産 | |||||||
繰延資産 | 2百万円 | 1百万円 | 1千2百万円 | 2千3百万円 | 1千7百万円 | 3千1百万円 | |
資産合計 | 155億3千5百万円 | 153億8千7百万円 | 152億1千5百万円 | 153億3千2百万円 | 149億9千4百万円 | 147億3千0百万円 | |
負 債 の 部 | 流動負債 | 3億4千7百万円 | 3億8千4百万円 | 2億2千4百万円 | 2億4千0百万円 | 2億1千7百万円 | 2億8千7百万円 |
役員賞与引当金 | |||||||
賞与引当金 | |||||||
その他 | |||||||
固定負債 | 143億9千0百万円 | 142億1千1百万円 | 141億9千6百万円 | 142億9千5百万円 | 139億7千4百万円 | 136億3千8百万円 | |
退職給付引当金 | 2千3百万円 | 2千7百万円 | 3千5百万円 | 3千9百万円 | 4千1百万円 | 3千3百万円 | |
雑収入復活引当金 | |||||||
役員退職慰労引当金 | |||||||
その他 | |||||||
負債の部計 | 147億3千7百万円 | 145億9千5百万円 | 144億2千0百万円 | 145億3千5百万円 | 141億9千1百万円 | 139億2千4百万円 | |
純 資 産 の 部 | 株主資本 | 7億9千8百万円 | 7億9千2百万円 | 7億9千5百万円 | 7億9千7百万円 | 8億0千3百万円 | 8億0千6百万円 |
資本金 | 9千5百万円 | 9千5百万円 | 9千5百万円 | 3千0百万円 | 3千0百万円 | 3千0百万円 | |
資本余剰金 | 1千3百万円 | 1千3百万円 | 1千3百万円 | 7千8百万円 | 7千8百万円 | 7千8百万円 | |
資本準備金 | |||||||
その他資本余剰金 | 1千3百万円 | 1千3百万円 | 1千3百万円 | 7千8百万円 | 7千8百万円 | 7千8百万円 | |
利益剰余金 | 7億3千0百万円 | 7億2千5百万円 | 7億2千8百万円 | 7億2千9百万円 | 7億3千5百万円 | 7億3千5百万円 | |
利益準備金 | 2千9百万円 | 2千9百万円 | 2千9百万円 | 2千9百万円 | 2千9百万円 | 2千9百万円 | |
特別償却準備金 | |||||||
その他利益剰余金 | 7億0千2百万円 | 6億9千6百万円 | 6億9千9百万円 | 7億0千0百万円 | 7億0千6百万円 | 7億0千9百万円 | |
評価・換算差額等 | |||||||
その他有価証券評価差額金 | |||||||
(うち当期純利益) | -1千8百万円 | -5百万円 | 3百万円 | 2百万円 | 6百万円 | 3百万円 | |
新株予約権 | |||||||
自己資本 | -4千0百万円 | -4千0百万円 | -4千0百万円 | -4千0百万円 | -4千0百万円 | -4千0百万円 | |
評価・換算差額等 | |||||||
その他有価証券評価差額金 | |||||||
純資産の部計 | 8億3千8百万円 | 8億3千2百万円 | 8億3千5百万円 | 8億3千7百万円 | 8億4千3百万円 | 8億4千3百万円 | |
負債・純資産合計 | 155億3千5百万円 | 153億8千7百万円 | 152億1千5百万円 | 153億3千2百万円 | 149億9千4百万円 | 147億3千0百万円 |
貸借対照表でまずチェックしたい箇所は純資産の部です。総資産に対する純資産の比率である「自己資本比率」が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされていますが、10%を下回っている場合は改善が必要な状況といえるでしょう。
自己資本比率が低い場合は借入金などの負債が多いので資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で、自己資本比率が高い場合は返済義務を有しない資金を大量に抱えているので倒産リスクは低くなると考えられます。
自己資本比率は中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、自己資本比率は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は最低でも20%程度はあると安心です。
逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は最低でも15%程度は欲しいところです。
貸借対照表の左右(運用状況と調達状況)の合計額は必ず一致する
「資産」=「負債」+「純資産」という計算式が成り立つことから、
貸借対照表のことをバランスシート(Balance Sheet)またはビーエス (B/S) と呼ぶこともあります。
コムウェルの自己資本比率は5.72%
自己資本比率は「自己資本比率(%)=純資産÷総資産×100」の計算式で算出可能です。
コムウェルの自己資本比率を求める式は下記のようになります。
8億4千3百万円÷147億3千0百万円×100=5.72%
コムウェルの2023年6月期における自己資本比率は、5.72%(前年同期比0.1%増)となっています。
コムウェルの資産と負債について
自己資本比率の次に確認したいのは、資産と負債の額になります。
貸借対照表でいうところの資産は左側に、負債は右側上段に記載があります。
この赤い円の箇所を確認することで、その会社の資産と借金の額を確認できます。
資産合計の推移
貸借対照表の左側に記載されており、「会社の所有する資産」を表します。
資産は下記の3つに構成されています。
・流動資産 = 1年以内に現金化もしくは費用化できる資産
例) 現金、有価証券、商品、製品など
・固定資産 = 長期にわたって会社が保有するものや1年を超えて現金もしくは費用となる資産で有形固定資産や無形固定資産がある。
例)・有形固定資産:建物、土地、車など
・無形固定資産:ソフトウェアなど
・繰延(くりのべ)資産 = 会社設立にかかった費用や社債発行にかかった費用を一括して費用として計上せずに資産として計上し期間内(数年など)に分けて償却するものとなります。
例) 創立費、開業費、開発費など
コムウェルの資産合計の推移は以下のようになっています。
コムウェルの2023年6月期における資産合計は、147億3千0百万円(前年同期比1.76%減)となっています。
過去5年間にわたって、コムウェルの資産合計はほぼ横ばいといった状況で、大幅な変動はみられません。
同社の沿革を確認しましたが、2021年に結婚式場「ルアール東郷」の運営を開始し、2022年に「家族葬ホール 四季風 八王子」をオープンした以外は新規出店はおこなっていないようです。
負債合計の推移
貸借対照表の右側上段に記載されており、「返す必要のある他人からの借金」を表します。
負債は下記の2つで構成されています。
・流動負債 = 1年以内に支払い期日を迎える負債となります。
例) 家賃、従業員の給与や賞与、買掛金(サービスや商品の金額を後払いするもの)など
・固定負債 = 1年以内に支払い期日を迎えない負債となりますので、流動負債以外の負債は固定負債になるということです。
例) 従業員の退職金、社債、長期借入金など
コムウェルの負債合計の推移は以下のようになっています。
コムウェルの2023年6月期における負債合計は139億2千4百万円(前年同期比1.89%減)となっています。
過去5年間では2021年に少し増加しましたが、それ以外は毎年少しづつ減少しています。
財務安定性指標の一つである流動比率(流動資産÷流動負債×100)も、2023年6月期の時点で117.42%(安全ラインは100%以上)となっており、当面の支払い能力について不安は感じられません。
コムウェルの純資産について
自己資本比率、資産合計、そして負債合計をみてきましたが、最後に確認したいのは「純資産」となります。
純資産は貸借対照表でいうところの右側下段に記載があります。
純資産は資産(現金、土地、建物など)から負債(借金)を差し引いたものです。
この赤い丸の箇所を確認することでその会社の純資産を確認できます。
コムウェルの純資産合計、当期純利益、利益剰余金の推移はそれぞれ以下のようになっています。(各用語についても分かりやすく解説しています)
純資産合計の推移
会社の所有する現金や建物などの資産から負債(借金)を差し引いたものとなります。
純資産の割合が高ければ財務健全性が高いと考えます。一方で、純資産がマイナスの状態を債務超過といい、2期連続で債務超過の状態が続いた場合、東証上場の廃止基準に抵触することがあります。
コムウェルの2023年6月期における純資産合計は、昨年と同じく8億4千3百万円(前年同期比同率)となっています。
過去5年間におけるコムウェルの純資産合計は約8億4千万円前後で推移しており、ほとんど変動がない状況です。
新型コロナの影響で債務超過に陥る企業も多い中、2020年以降もほとんど変わりなく純資産合計を維持していたといえます。
当期純利益の推移
会社が1年間で得た全収益から法人税や住民税そして費用を差し引いたものが当期純利益となります。
この当期純利益がマイナスとなると当期純損失となります。
当期純利益の額をみることで、その会社の収益性がどのくらいなのか判断できる指標になります。
コムウェルの2023年6月期における当期純利益は300万円(前年同期比48.04%減)となっています。
2018年・2019年と当期純損失が続いていましたが、2020年6月期以降は当期純利益が発生しており、コムウェルの業績は回復傾向にあるようです。
前年より減少はしましたが、新型コロナの影響が大きかったとみられる2020年・2021年でも純利益をあげており、2024年6月期の決算公告が待たれるところです。
利益剰余金の推移
利益剰余金とは簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずにコツコツと社内で貯めたお金です。正確な会計用語ではないですが利益剰余金のことを内部留保とも言います。
内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。利益剰余金は貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。
内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で収益状況が悪化した際にも、従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため、企業が生き残るための重要な資金源となります。
コムウェルの場合は以下のように推移しております。
コムウェルの2023年6月期における利益剰余金は、7億3千8百万円(前年同期比0.41%増)とわずかに増加しました。
利益剰余金の増加は営業利益の発生を意味していますので、コムウェルは2023年6月期も黒字経営であったと思われます。
新型コロナの影響が最も大きかった2020年から2021年にかけて、葬儀業界の業績も大幅に悪化し、収益が減少した企業も多かったようですが、コムウェルの経営状態は安定していたようです。
株式会社 コムウェルのまとめ
今回は株式会社 コムウェルの決算公告を参考に、現状分析を行いました。
新型コロナによる影響が大きかったとされる葬儀業界ですが、貸借対照表をみる限りコムウェルの財務状況は安定していたようです。
過去5年間における財務状況は、ほぼ横ばい状態ですが、2020年6月期以降は当期純利益が発生しているところをみると、業績は回復傾向にあると思われます。
コムウェルでは終活セミナーや事前相談会、施設見学会のほか会員サービスとして、舞台やミュージカルなどの特別価格での案内など、イベント活動にも積極的に取り組んでいるようです。
今後のコムウェルの決算公告にも引き続き注目していきたいと思います。