国産火葬炉メーカー4社まとめ|火葬場でおこる課題や自治体の取り組みを紹介

火葬炉メーカー

「火葬場の予約が取れず、何日も待たなければいけない」という話を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
状況によっては、火葬をするために10日以上も待たされることもあるようです。
ご遺族様にとっては、大切な人と離れがたい気持ちがあるものの、火葬までに待たされる時間は非常につらいものだといえるでしょう。  

本記事では、火葬場の待機期間や問題点を考えるとともに、自治体の取り組みや火葬炉メーカーについて紹介していきたいと思います。
ぜひ、最後までご覧ください。

目次

日本の火葬の概要

葬送

日本は、世界でもトップクラスの火葬率になっています。
火葬が多い理由をひも解くとともに、その現状を見ていきましょう。

火葬の歴史

記録上、日本で最初に火葬された人物は、文武天皇4年(700年)に火葬された元興寺の開祖である道昭(どうしょう)とされています。
しかし、縄文時代の遺跡から火葬骨が出土しているほか、弥生時代以降の遺跡に火葬が行なわれた痕跡があることから、道昭よりも古くから火葬が存在していたことが推測されます。

平安時代になると皇族や貴族、僧侶の間では火葬が主流になっていったものの、庶民の間では、風葬(ふうそう)が中心でした。
仏教の普及とともに庶民の間でも、火葬や土葬が行われるようになったようです。
それに伴い、火葬場が設けられるようになっていきます。
江戸時代末頃までは、屋外でご遺体を火葬する「野焼き(のやき)」が中心だったようです。

明治時代になり、火葬場の臭気や煤煙(ばいえん)などの問題から、政府は火葬禁止令を布告しました。
しかし、土葬用の墓地の不足や伝染病の流行により、間もなく火葬禁止令を廃止、火葬を推進するようになります。

大正時代になると、地方公共団体が火葬場設営に積極的になり、火葬が飛躍的に普及するようになりました。

日本の火葬率

2021年の火葬率は99.97%(「衛生行政報告例」2021年度/厚生労働省より)となっており、日本国内で死亡したほとんどの人が火葬されていることがわかります。

火葬率推移-min

出典:厚生労働省 衛生行政報告例(各年度次よりデータを抜粋してグラフを作成)

なお、火葬は法律で義務付けられているわけではありません。「墓地、埋葬等に関する法律」第5条により、日本で土葬をするためには、市町村長から「埋葬許可証」をもらう必要があります。
これを墓地管理者に提出し、許可をもらうことで土葬が可能になります。

しかし実際には、土葬が可能な墓地が少なく、条例で土葬自体を禁止している自治体も多いため、基本的には火葬することが必要になるのです。

火葬に関する問題

棺

火葬するために待機しなければいけない日数が増加していると言われていますが、その要因はいくつかあるようです。
その原因を考えてみましょう。

死亡者数の増加

高齢化がすすんでいる昨今、間もなく「多死社会(高齢化がすすんだ後に、死亡者数が増え、人口が減少する状態)」を迎えるとされています。
2022年、日本国内の死亡者数は戦後最大となる158万2033人となりました。2002年の死亡者数98万2379人と比較すると、20年間で大きく増加していることがわかります。

死亡者数推移2-min

出典:厚生労働省 統計白書『死亡数の推移』を元に作成

火葬場が受け入れられる人数と死亡者数が乖離(かいり)していくことで、火葬までの待機期間が長期化するという状況が起きているようです。

火葬施設の問題

新たな火葬場が必要であっても、なかなか実現しにくい現実があります。
火葬場を建設するためには、周辺の住民の理解が必要になりますが、自宅近くに火葬場が建設されることに抵抗感を持つ人が少なくありません。

また、火葬炉の経年劣化(けいねんれっか)や老朽化(ろうきゅうか)などの問題を抱えている既存の火葬場も多いようです。

季節・時間による偏り

人は、常に一定のペースで亡くなるわけではなく、季節や気候の変動により、死亡者数が増える時期とそれほど多くない時期があります。火葬の予約が一定の時期に集中することが珍しくありません。
繁忙期には、1週間、10日間の待機が必要になるということが起こります。
また、葬儀施設を併設している火葬場の場合は、「火葬」ではなく「葬儀会場」を利用するために待つことも多いようです。

その地域の慣習にもよりますが、葬儀・告別式後に火葬を行うという流れが多くなっています。早い時間の火葬、もしくは遠方から来る参列者に配慮して、遅い時間帯の火葬は避ける傾向があります。
混雑する時期であっても、希望者が少ない時間帯の火葬は、予約がとれることもあるようです。

最近は、予約状況を一般に公開している火葬場が増えています。

地域による偏り

「火葬まで何日も待たなければいけなかった」という声のほとんどが、人口が多い都市部になります。
比較的人口が少ない地域では、比較的、火葬の予約が取りやすいということもあるようです。

また、圧倒的に自治体が運営する公営の火葬場が多いものの、一般の企業が運営する民営の火葬場もあります。
火葬費用に差があることが多く、公営を希望する人が火葬を待っていることもあります。

いずれにせよ、これから死亡者数増加が見込まれることを考えると、火葬場の問題は看過(かんか)できないと言えるでしょう

火葬問題の対策

みそはぎ

葬儀社の対策

火葬まで待機期間が長引いた場合、葬儀社様は、ご遺体の保全が問題になってくるでしょう。
時間を追うごとにご遺体の状態は変化していきます。

また、ドライアイスなどによる保冷のほか、臭気やご遺体からの感染リスクに配慮する必要もあります。
季節や気温、ご遺体の状況、ご遺族様の心情などにもよりますが、火葬までに日数が必要な場合は、よりよい状態で保全するためにご遺体をお預りし、保冷庫などに安置することも検討する必要があるといえるでしょう。

こういった状況を踏まえ、将来的な待機期間の長期化に備えて、すでにご遺体安置施設の拡大や、最新保冷庫の導入に取り掛かっている葬儀社様もあるようです。

自治体の対策

火葬場には、民営と公営があります。
ここでは、公営の火葬場についてみていきましょう。

火葬場の新規建設・改築

今後、火葬施設が不足する予想を踏まえ、これまで火葬場を持っていない、火葬場不足を懸念する自治体が新設や増設の検討を始めているようです。

それまで火葬場を持っていなかった川口市は、2018年に「川口市めぐりの森」として赤山歴史自然公園の整備とともに火葬場を新設しました。
また、火葬炉の増設費用を負担することで既存の越生斎場の共同運営に加入した坂戸市の例もあります。

 PFI法の導入

PFI 法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)を利用して、火葬場の建替えや整備を行う自治体も増えています。

  • 北海道札幌市:(仮称)札幌市第2斎場整備運営事業
  • 埼玉県越谷市:仮称越谷広域斎場整備等事業
  • 広島県呉市:(仮称)呉市斎場整備等事業
  • 愛知県豊川市:豊川宝飯衛生組合斎場会館(仮称)整備運営事業
  • 栃木県宇都宮市:(仮称)宇都宮市新斎場整備・運営事業
  • 岩手県紫波町:(仮称)紫波火葬場整備事業
  • 愛知県一宮市:一宮斎場整備運営事業
  • 大阪府泉佐野市:(仮称)泉佐野市火葬場整備運営事業業
  • 岩手県盛岡市:盛岡市火葬場整備等事業

参照:全国地域PFI協会【事業例一覧】斎場整備事業

PFI 法
公共事業を実施するための手法の一つ。 民間の資金と経営能力・技術力を活用し、公共施設等の設計・建設・改修・更新や維持管理や運営を行う。

「友引」の取り扱い

「友を引く(一緒にあの世に導いてしまう)」という言い伝えから、友引を休業日とする火葬場が少なくありません。
しかし、火葬の待機期間を懸念(けねん)して、友引も業務を行うことを検討する自治体が増えてきました。 

火葬炉の種類

合掌

ご遺体を火葬する設備を「火葬炉」と言います。日本で使われている火葬炉は2種類で、その違いを説明しましょう。

台車式

日本の多くの火葬場で取り入れられているのが台車式です。

台車式は、台車に五徳(ごとく)などを挟み、棺を載せて火葬する方法です。
火葬炉の性能にもよりますが、火葬にかかる時間は、通常1時間~1時間20分程度とされています。火葬後、ご遺骨の状態がご遺体の形のまま残りやすいようです。

火葬炉と炉前ホールの間に前室が設けられることが多く、火葬する際に発生する有害物質や臭気、熱気、燃焼音などを抑えやすくなっています。

一方でロストル式に比べると、火葬後の冷却や清掃が必要であるため火葬可能数は多くなく、建設費が高くなる傾向にあるようです。

ロストル式

ロストルと呼ばれ炉内の火格子の上に棺を載せて火葬する方法です。

燃焼効率が高く、火葬にかかる時間が短く、40分~1時間程度とされています。また、骨受皿を交換することで火葬炉の冷却の必要がないため、1日の火葬回数が多く設定できるようです。
ロストル式の火葬炉を取り入れているのは、大都市部の火葬場が多くなっています。

一方で、全身のご遺骨の位置がそのままの形で残るとは言えないため、収骨がある日本では、抵抗がある方もいるかもしれません。
また。構造上前室を設置しにくいため、炉前室に臭気や熱気、燃焼音などが漏れやすくなっています。

海外の火葬事情

海外では、宗教や文化などにより火葬に否定的な場合もあり、日本ほど火葬率が高くはありません。しかし、考え方の変化や感染症の流行、衛生面や環境面の配慮など、さまざまな理由から火葬が増加している国が増えています。
収骨を前提とする日本とは異なり、アメリカなどでは、強い火力で灰になるまで火葬する(焼き切り)ことが一般的です。

日本の高い技術を持った火葬炉は、ベトナムや韓国、シンガポールなど、アジア圏を中心に輸出されるようになっています。
東京都内で6か所の火葬場を運営する東京博善株式会社を傘下に持つ株式会社広済堂ホールディングスも現在、火葬炉の海外輸出に向けて準備をすすめているようです。

主要な火葬炉メーカー

ここでは、高い技術を持った日本の火葬炉メーカーを紹介しましょう。

株式会社宮本工業所

宮本工業所

出典:株式会社宮本工業所

火葬炉のパイオニアとしてトップシェアを誇るのが富山市の株式会社宮本工業所です。

宮本工業所が開発した無公害炉システムでは、環境負荷を軽減、エネルギー、時間、コストの低減を可能にしています。設計、施工だけでなく、操作、保守管理などソフト・ハード両面から火葬場のサポートを行っています。

宮本工業所が提案する24時間予約システムでは、電話やパソコンによる予約とともに自動的に火葬炉、待合室の自動割り付けを行うことができ、火葬場の運営の効率化を提案しています。

「MECS(ミィークス)」と名付けられた最新の火葬炉は、ダイオキシン類を無害化する触媒(しょくばい)装置など高度制御システムを導入し、火葬炉設備本体の軽量化に成功しコンパクト化を実現しています。

また、韓国やベトナムの斎場にも火葬炉施工の実績を持っています。

【社名】株式会社宮本工業所
【創業】昭和2年10月1日
【所在地】〒930-8512 富山市奥田新町12番3号
【従業員】325名(令和2年11月1日現在)

【主要製品】

  • 工業炉
    • アルミニウム工業炉
      溶解炉、保持炉、加熱炉、溶体化炉、調質炉、熱処理炉、乾燥炉
    • 鉄鋼工業炉
      鋼片加熱炉、熱処理炉
    • 銅・銅合金用工業炉
      溶解炉、加熱炉、熱処理炉
    • 付帯設備
      切粉溶解システム「Eco-SMS」、トータル制御システム「Smart Furnace」
    • 燃焼機器
      リジェネレイティブバーナ、水素バーナ
  • 火葬炉
    無煙突式無煙・無臭火葬炉(特許)、汚物焼却炉、動物焼却炉、付帯設備

【公式サイト】https://www.miyamoto-k.co.jp/

富士建設工業株式会社

富士建設工業

出典:富士建設工業株式会社

新潟市に本社を置くのが富士建設工業株式会社です。
独自に開発した「富士式火葬炉」は、無煙・無臭・無公害の火葬炉です。

2023年7月には、産業ガスを取り扱う企業であるエア・ウォーター株会社とともに、大樹忠類火葬場(北海道大樹街)で、家畜ふん尿由来のバイオガスを燃料による焼試験を行ないコストなど実用化には課題はあるものの、実証実験に成功しました。

国内での施工実績は北海道から沖縄まで及び、また海外(韓国)での実績も豊富です。

  • 南海郡追慕ヌリ栄華園(Namhae-gun Memorial Park):火葬炉2基
  • 昌原市上福公園(Changwon-si Sangbok Memorial Park):火葬炉4基
  • 洪城郡追慕公園(Hongseong-gun Memorial Park):火葬炉8基
  • 公州市追慕公園(Gongju-si Memorial Park):火葬炉3基
  • 蔚山空の公園(Ulsan Haneul Memorial Park):火葬炉10基

【社名】富士建設工業株式会社
【設立】昭和36年3月31日
【所在地】新潟県新潟市北区島見町3307番地16
【従業員】534名 (技術職 482名 ・ 事務職 52名)
【事業内容】

  • 清掃施設の設計、施工及び維持管理に必要な業務
  • 火葬炉に関する一切の装置、機械、器具、雑品の製造及び販売業務
  • 火葬炉設備の設計、施工、技術指導及び維持管理に関する必要な業務
  • 公害防止関連施設の設計、施工及び維持管理に必要な業務
  • 土木建築請負業
  • 損害保険代理業
  • 霊柩寝台車運送事業
  • 火葬業務、火葬場及び葬祭場の運営管理に関する業務
  • 以上各号に附帯関連する一切の業務

【公式サイト】http://www.fuji-kasouro.co.jp/index.html

太陽築炉工業株式会社

太陽築炉工業

出典:太陽築炉工業株式会社

福岡県に本社をおく企業で、火葬炉の設計・製作・施工監理・メンテナンス及び火葬場の運営受託・管理・火葬場の設計を行っています。
火葬場の建設だけでなく、定期点検による火葬炉の性能維持とライフサイクルコストの最小化などにも力を入れている企業です。

国内はもとより、台湾やシンガポールなど海外での施工実績もあります。

【社名】太陽築炉工業株式会社
【創業】昭和4年3月1日
【所在地】〒812-0045 福岡県福岡市博多区東公園6番21号
【事業内容】火葬炉の設計・製作・施工監理・メンテナンス及び火葬場の運営受託・管理・火葬場の設計
【公式サイト】https://taiyochikuro.jp/

A-Tech 株式会社

A-Tech

A-Tech株式会社は、株式会社thyssenkruppOtto(TKO)から、バーナー関連事業、燃焼関連事業などの事業譲渡を受けて設立された企業です。

火葬炉関連では、設備の設計・製作・据付工事などを行っています。
最近では、3Dで自動に動くバーナーや排ガスによる発電設備を備えた新型の火葬設備を開発しています。

東京都内で6か所の火葬施設を運営する東京博善四ツ木斎場などに導入されている「東博式ロストル搬送低公害火葬プラント」を手掛けたのもA-Tech社のようです。

ロストル式

出典:A-Tech株式会社

【社名】A-Tech 株式会社
【設立】2017年1月6日
【所在地】〒102-0083 東京都千代田区麹町2丁目2 オーセンティック半蔵門5階
【公式サイト】https://www.a-tech-eng.com/index.html

まとめ

本記事では、火葬場が抱える問題点、そして問題点の解消に向けた取り組みなどについて紹介しました。

今後、死亡者数は今後も増加し続けることが予想されます。
国立社会保障・人口問題研究所がまとめた将来推計人口によると、2040年に死亡者数がピークを迎え、やや減少傾向に転じるものの、ほぼ変わらないレベルを30年以上維持し続けると予想されています。

民営、公営問わず、それぞれの火葬場や自治体は、それに対応すべく準備をしているようです。
常に新たな情報にアンテナを伸ばしておくことが必要だと言えるでしょう。

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