葬儀後、ご遺族様が対応しなければならない相続手続きには、様々な専門家の協力が必要になる場合があります。その中でも「行政書士」は、書類作成の専門家として多くの場面でご遺族様をサポートを行っています。
相続手続きでは、戸籍謄本の収集から始まり、相続関係説明図の作成、財産目録の作成、遺産分割協議書の作成など、数多くの書類収集や作成が必要です。行政書士はこうした書類関連業務のエキスパートとして、煩雑な手続きをスムーズに進める力強い味方となるでしょう。また、各種金融機関や役所での手続き代行も行えるため、忙しいご遺族様の大きな負担軽減につながります。
この記事では葬儀業界で働く皆様に向けて、相続手続きにおいて行政書士がどのような役割を果たしているのか、「できること」と「できないこと」を中心に解説します。ご遺族様へのアフターサポートとして相続手続きの専門家と連携することは、新たな価値提供につながるかもしれません。こうした知識を身につけ、ご遺族様に適切なアドバイスができるようになりましょう。
行政書士とは

行政書士は、国家資格を持つ法律の専門家です。主に官公署(役所)に提出する書類の作成を行います。また、日常生活や事業活動で必要となる様々な契約書や証明書類の作成も担当します。一言で言えば「書類の専門家」と呼べるでしょう。
行政書士の業務範囲は非常に広く、多岐にわたります。例えば、会社設立時の定款作成や各種許認可の申請書類作成、外国人のビザ申請サポート、建設業や運送業などの許可申請、そして相続に関する手続きなど、私たちの生活や事業活動に関わる様々な場面にかかわっています。
特に役所に提出する書類は、一般の方にとって馴染みのない専門用語が並び、記載方法も複雑なことが少なくありません。行政書士は、こうした煩雑な手続きをスムーズに進めるための橋渡し役を担っているのです。
相続業務で行政書士ができること

行政書士は相続手続きの中で、主に調査や書類作成を担当します。具体的には以下の6つが、行政書士の主な業務です。

(1)相続人調査と相続関係図の作成

相続手続きの第一歩は、誰が相続人になるのかを確定させることです。行政書士は、故人様の出生から死亡までの戸籍謄本を収集し、正確に相続人を特定する作業を行います。
この調査はご遺族様自身でも行えますが、複雑なケースも少なくありません。例えば、故人様が過去に養子縁組をしていたり、再婚していたりすると、家系図が複雑になり、ご遺族様が把握していなかった相続人が見つかることもあるのです。
また戸籍謄本の収集も意外と手間のかかる作業です。故人様が転居を繰り返していた場合、複数の市区町村から戸籍謄本を取り寄せる必要があります。また、古い戸籍(除籍謄本や改製原戸籍と呼ばれるもの)は読み取りが難しく、専門的な知識が必要となります。
次に、行政書士は収集した戸籍情報をもとに「相続関係説明図」を作成します。これは故人様を中心に、相続人が誰で何人いるのか、故人様とどのような関係にあるのかを図で示したものです。この図があることで、金融機関や各種手続きの窓口でもスムーズに対応してもらえるようになります。
【相続関係説明図の例】

なお、ご遺族様自身で相続関係説明図を作成できる「株式会社日優|相続関係説明図の作成」などのWebサイトも存在します。例えばこちらのサイトでは故人様や相続人の情報を入力していくと、上記画像のような相続関係説明図が作成され、PDFファイルでダウンロードできます。
さらに、行政書士は「法定相続情報一覧図」の申請も代行できます。これは法務局が発行する公的な証明書で、一度取得すれば各種相続手続きで戸籍謄本の提出が不要になる便利なものです。無料で複数部取得できるため、銀行や証券会社など複数の機関で手続きを行う場合に特に重宝します。
相続人調査を行政書士に依頼するときの費用相場は3万〜7万円程度です。ただし、相続人の人数や調査の複雑さによっては相場よりも高額になることも考えられます。
(2)相続財産の調査と財産目録の作成

相続人が確定したら、次に必要なのは故人様が残した財産を把握することです。行政書士は、故人様の財産を調査し、それを「財産目録」としてまとめる作業を行えます。
【財産目録の例】

故人様の財産は、預貯金や有価証券、不動産、自動車、生命保険金など多岐にわたります。また、借入金や未払い金などの負債(マイナスの財産)も相続の対象となります。ご遺族様自身で全ての財産を把握するのは難しいことが多く、思わぬところで財産が見つかることも少なくありません。
行政書士は、銀行や証券会社に対する残高証明書の請求、不動産の名寄せや評価証明書の取得、保険会社への契約内容の照会など、様々な方法で財産調査を代行します。
こうした調査結果をもとに作成される財産目録は、その後の遺産分割協議や相続手続きの基礎となる重要な資料です。財産の内容や価値が明確になっていれば、ご遺族様の間で「あの財産はどうなった?」といったトラブルを防ぐことができるでしょう。
特に注意したいのは、財産調査が不十分だと後から「実は多額の借金があった」「知らなかった不動産が見つかった」などのトラブルが発生する可能性があることです。行政書士による丁寧な財産調査は、こうした思わぬ事態を未然に防ぐことができます。
相続財産の調査を行政書士に依頼するときの費用相場は3万〜8万円程度です。こちらも相続人調査と同様に、調査の内容によって金額が上下することがあります。
(3)遺産分割協議書の作成サポート

相続人と財産が確定したら、次は「誰がどの財産を引き継ぐか」を決める段階に入ります。故人様が遺言書を残していない場合、ご遺族様全員で話し合いをして財産の分け方を決める必要があります。この話し合いを「遺産分割協議」といい、その結果を書面にまとめたものが「遺産分割協議書」です。
行政書士は、この遺産分割協議書の作成を代行できます。ただし、特定のご遺族様の立場に立って交渉したり、有利な内容を引き出すといった業務は行えません。あくまでご遺族様の話し合いによって決定された内容を、適切な書面にまとめる役割を担っています。
なお、遺産分割協議書は形式的な要件を厳密に満たす必要があります。これらが不十分だと、銀行や法務局、税務署などの窓口で「この協議書では手続きできません」と突き返されてしまうことがあります。行政書士はこうした要件を熟知しており、確実に受理される遺産分割協議書を作成できるため、ご遺族様は余計な手間や時間をかけることなく、安心して次のステップに進むことができるでしょう。
遺産分割協議書の作成サポートを行政書士に依頼する場合、5万〜10万円程度の費用がかかります。
(4)預貯金・有価証券の相続手続き

故人様の預貯金や有価証券は、金融機関がその死亡を知った時点で凍結されます。これらの財産を相続するためには、各金融機関で所定の手続きが必要になります。行政書士は、この預貯金の解約払戻しや有価証券の名義変更などの手続きを代行することができます。
預貯金の相続手続きでは、戸籍謄本や遺産分割協議書などの書類を銀行の窓口に提出します。一見シンプルな手続きのようですが、実際には金融機関ごとに独自の基準や必要書類があり、事前に予約が必要な場合も少なくありません。
特に困るのが、銀行窓口の営業時間が平日の日中に限られていることです。仕事や家事で忙しいご遺族様にとって、何度も銀行に足を運ぶのは大きな負担となります。行政書士に依頼すれば、必要書類の準備から窓口での手続きまで、すべてを代行してもらえます。
有価証券の相続手続きも同様です。上場株式の場合は証券会社に連絡し、故人様の口座から相続人の口座へ株式を移す手続きが必要になります。相続人に証券口座がない場合は、口座開設から始めなければなりません。非上場株式については、発行元の会社に直接連絡して株主名義の書き換えが必要な場合もあります。
なお、預貯金・有価証券の相続手続きを行政書士に依頼する場合の費用相場は、1金融機関あたり3万~5万円程度です。
(5)自動車の名義変更手続き

故人様が所有していた自動車も相続の対象となります。自動車の相続には、運輸支局での名義変更手続き(相続による移転登録)が必要です。行政書士は、この自動車の名義変更手続きも代行できます。
自動車の名義変更手続きには、相続関係を証明する戸籍謄本、車検証、印鑑証明書など複数の書類が必要となります。また、相続により自動車の保管場所が変わる場合は、新たに車庫証明を取得する必要があります。さらに、運輸支局の管轄が変わるケースでは、自動車を実際に持ち込んでナンバープレートを交換し、新しいプレートに封印をしてもらう手続きも発生します。
これらの手続きは、平日の日中に運輸支局に出向く必要があり、場合によっては何度も足を運ばなければならないこともあります。特に車庫証明の取得から始まり、ナンバープレートの交換まで含めると、時間も手間もかかるものです。
行政書士に依頼すれば、必要書類の準備から申請手続き、場合によっては自動車の運搬までを一括して代行してもらえます。
自動車の名義変更手続きを行政書士に依頼する場合の費用相場は、1台あたり3万~5万円程度です。
(6)遺言書作成のサポートと遺言執行

遺言書には主に自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類があります。自筆証書遺言は本人が自分で書くもの、公正証書遺言は公証人が作成するものです。行政書士自身が遺言書を作成することはできませんが、遺言書の文案作成や要件に関するアドバイスなど、様々なサポートが可能です。

特に自筆証書遺言は、法律で定められた形式要件を満たしていないと無効になってしまうリスクがあります。例えば、日付や署名は必ず手書きでなければならず、財産の記載が曖昧だと後でトラブルになることもあるでしょう。行政書士は、こうした要件を熟知しており、効力のある遺言書の作成をサポートします。
また、遺言が残された場合、その内容を実現するのは「遺言執行者」の役割です。遺言執行者は、遺言書で指定された人、または家庭裁判所が選任した人がなることができます。行政書士も遺言執行者になれるため、遺言者の意思を確実に実現することが可能です。
遺言執行者の仕事は、相続財産の調査・管理から始まり、遺言の内容に沿って遺産を分配するまで多岐にわたります。特定の相続人を排除する内容や、法定相続分と大きく異なる分配を定めた遺言では、ご遺族様の間で感情的な対立が生じることもあります。中立的な立場の行政書士が執行者となることで、遺言者の意思を尊重しつつ、円滑に手続きを進めることができるのです。
なお、遺言書作成のサポートを行政書士に依頼するときの費用相場は、3万〜8万円程度です。遺言執行人まで依頼すると追加で20万〜50万円程度かかります。
相続業務で行政書士ができないこと

相続手続きには多くの専門家がかかわっています。ここからは、行政書士の業務範囲外となる手続きについて解説します。ご遺族様に相談を受けた際、適切な専門家をご紹介できるよう確認しておきましょう。
| 行政書士ができない業務 | 対応できる専門家 |
|---|---|
| (1)不動産の相続登記 | 司法書士 |
| (2)相続放棄の手続き | 弁護士、司法書士(書類作成のみ) |
| (3)相続税申告の代行 | 税理士 |
| (4)裁判所関連の手続き | 弁護士、司法書士 |
なお、各専門家が相続業務で対応できる内容については、『相続に関わる専門家ガイド|葬儀社のアフターサービス充実に向けた基礎知識』でまとめて解説しています。
(1)不動産の相続登記

相続財産の中に不動産(土地や建物)がある場合、「相続登記」という手続きが必要になります。これは法務局で行う手続きで、故人様名義の不動産をご遺族様の名義に変更するものです。この相続登記は、行政書士ではなく司法書士の専門業務となります。
行政書士は遺産分割協議書の作成までは行えますが、その協議書を使って法務局で相続登記を申請する業務は行えません。法律上は弁護士も相続登記が可能ですが、実際には相続登記を専門にしている弁護士はほとんどいないため、一般的には司法書士に依頼することになります。
ご遺族様の中には「とりあえず預貯金だけ解約して、不動産はそのままでいいのでは」と考える方もいるかもしれませんが、相続登記はその不動産を取得したと知った日から3年以内に行わなければならないと決まっています。そのため、葬儀社の皆様が相続の相談を受けた場合、不動産がある場合は行政書士だけでなく司法書士への相談も勧めることが重要です。
司法書士が相続手続きで担当する業務については、関連記事『相続に関わる専門家|司法書士ができること・できないことや費用体系』で詳しく解説しています。
(2)相続放棄の手続き

「相続放棄」とは、相続人が相続に関する権利や義務をすべて放棄する手続きです。故人様に多額の借金があった場合や、相続に関わるトラブルを避けたい場合などに検討されます。
この相続放棄の手続きは、家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出することで行いますが、行政書士はこの手続きを代行することができません。法律で定められているとおり、この手続きを代理できるのは弁護士のみです。司法書士は申述書の作成のみ対応できますが、申述自体の代理はできません。
相続放棄には期限があり、ご遺族様が「自分が相続人であること」と「故人様が亡くなったこと」を知った日から3か月以内に手続きを完了する必要があります。また、「借金があるかもしれないから」という理由だけで安易に相続放棄を決めるのは危険です。そのため、葬儀社の皆様がご遺族様から「故人に借金があるようだが、相続を放棄したい」といった相談を受けた場合は、まず弁護士への相談を勧めることが大切です。
司法書士が相続手続きで担当する業務については、関連記事『相続に関わる専門家|弁護士ができること・できないことや費用体系』で詳しく解説しています。
(3)相続税申告の代行

相続財産の総額が一定額を超える場合、ご遺族様は相続税の申告・納付が必要になります。この相続税申告の代行は税理士の専門分野であり、行政書士が代行することはできません。
行政書士は財産目録の作成など、相続税申告の前段階までのサポートはできますが、実際の申告書類の作成や提出は担当できないのです。
相続税の計算は非常に複雑で、財産の評価方法や各種特例の適用など、専門的な知識が必要です。そのため葬儀社の皆様が相続の相談を受けた際、故人様に不動産や高額な預貯金、有価証券などの財産がある場合は税理士への相談を案内できると良いでしょう。
実際に、相続税申告を行った方の約85%が税理士に依頼しています(令和5事務年度国税庁実績評価書)。
(4)裁判所関連の手続き

相続に関連して家庭裁判所での手続きが必要になるケースは少なくありませんが、これらの手続きについては行政書士が代理人となることはできません。主な例として、遺言書の検認や遺産分割調停などが挙げられます。
遺言書の検認とは、自筆証書遺言などが見つかった場合に、それが本物であることを確認し、相続人に内容を知らせるための手続きです。公正証書遺言以外の遺言書は、原則として家庭裁判所での検認を経なければ執行できません。この検認申立てを相続人に代わって行えるのは弁護士のみで、行政書士は関与できません。
また、遺産分割協議がまとまらない場合、相続人は家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。この調停手続きでも、相続人の代理人になれるのは弁護士だけです。行政書士は遺産分割協議書の作成はできても、調停や審判における代理はできないため、ご遺族様同士で話し合いがつかない場合は弁護士への相談が必要になります。
さらに、相続財産管理人の選任申立てや特別代理人の選任申立てなど、様々な家庭裁判所関連の手続きがありますが、いずれも行政書士の業務範囲外となります。これらの手続きは主に弁護士や司法書士が担当します。
行政書士に相続業務を依頼する手順
ここでは、行政書士に相続業務を依頼するときの手順例を解説します。ご遺族様が依頼する行政書士を探すところから、業務終了までの流れは以下の通りです。

(1)ご遺族様が行政書士を探す
相続手続きを行政書士に依頼する際、まず重要なのは相続業務に強い行政書士を見つけることです。行政書士は同じ資格でも得意分野が大きく異なります。建設業許可や外国人ビザの申請が専門の行政書士もいれば、相続手続きを得意とする行政書士もいます。相続手続きを円滑に進めるためには、相続業務の実績が豊富な行政書士を選ぶことが大切です。
行政書士を探す方法としては、インターネット検索や行政書士会のホームページで地域の行政書士を探す方法が一般的です。「相続 行政書士 〇〇市」などのキーワードで検索すると、地域の相続に強い行政書士事務所が見つかります。また、ご家族や知人からの紹介も信頼性の高い探し方です。
なお、行政書士事務所のホームページをチェックする際には、以下のポイントに注目するとよいでしょう。
- 相続業務の実績や相続関連の情報が充実しているか
- 料金体系が明確に示されているか
- 事務所の雰囲気や行政書士の人柄が伝わるか
- 相談者の声や口コミが掲載されているか
(2)問い合わせと初回相談

行政書士事務所が見つかったら、次は問い合わせと初回相談です。多くの行政書士事務所では、電話やメール、ホームページの問い合わせフォームから予約を受け付けています。この段階では、簡単な相談内容と希望日時を伝えるだけで大丈夫です。
問い合わせ時の対応も行政書士選びの重要なポイントとなります。電話での応対や返信メールの内容から、その行政書士の人柄や対応の丁寧さがうかがえるものです。「分かりやすく説明してくれるか」「質問に的確に答えてくれるか」という点も、安心して依頼できるかどうかの判断材料になるでしょう。
初回相談では、具体的な相続状況や困りごとについて詳しく聞かれます。そして行政書士はその内容をもとによりアドバイスや見積もりを提示します。なお、初回相談時には、以下のような資料があると話がスムーズに進みます。
- 故人様の戸籍謄本
- ご遺族様の戸籍謄本や住民
- 故人様の財産が分かる資料(通帳、不動産の権利証など)
- 遺言書がある場合はその写し
多くの行政書士事務所では初回相談を無料で行っており、この時点では契約の義務はありません。複数の事務所で相談を受けて比較検討することも可能です。
(3)依頼内容の確定と契約締結

初回相談を通じて行政書士との相性や信頼関係が確認できたら、次は具体的な依頼内容の確定と契約締結に進みます。行政書士は初回相談の内容をもとに、必要な業務と費用の見積もりを提示してくれます。
見積書には、相続人調査や財産調査、遺産分割協議書の作成、金融機関での手続きなど、具体的にどのような業務を行うのかが記載されています。また、業務ごとの費用や合計金額、支払い条件なども明記されています。
契約時には、相続手続きに必要な書類の説明や、今後の進め方についての案内も受けます。一般的な相続手続きの場合、依頼内容は大きく以下のようなパターンに分かれます。
| 依頼パターン | 内容 |
|---|---|
| 一括依頼 | 相続手続き全般を一括で依頼 |
| 個別依頼 | 必要な手続きだけを選んで依頼 |
| 相談のみ | 相談とアドバイスのみで自分で手続き |
ご遺族様の状況や希望に合わせて、適切な依頼パターンを選択することが重要です。例えば、遠方にお住まいのご遺族様は一括依頼が便利ですし、時間に余裕がある方は一部の手続きだけを依頼する方法も検討できます。
なお、着手金が必要な場合はこのタイミングで支払うことが多いです。
(4)相続人・相続財産の調査

契約締結後、行政書士は相続人と相続財産の調査に着手します。
まず行政書士は、ご遺族様から提供された情報をもとに、故人様の戸籍謄本を収集します。出生から死亡までの連続した戸籍を集め、法律上の相続人を確定させるのが目的です。同時に、故人様の財産調査も進められます。ご遺族様から預金通帳や不動産関係の書類、生命保険証券などを預かり、必要に応じて金融機関や役所への照会を行います。
調査が完了すると、行政書士から「相続関係説明図」と「財産目録」が提示されます。この資料をもとに、遺産分割協議でどのように財産を分けるかを話し合うことになります。
(5)遺産分割協議書の作成

相続人と相続財産の調査が完了すると、次は「誰がどの財産を引き継ぐか」を決める遺産分割協議を行います。故人様が遺言書を残していない場合、ご遺族様全員で話し合って財産の分け方を決める必要があるのです。
ご遺族様全員で話し合った結果、分割方法がまとまったら、行政書士は決定した内容をもとに遺産分割協議書を作成します。完成した協議書にご遺族様全員が確認と署名・押印をおこなうことで、法的に効力を持った文書となります。
なお前述したように、遺産分割協議で発生した相続人同士のトラブル解決は、行政書士の業務範囲ではありません。
(6)財産の名義変更手続き

遺産分割協議書の作成を終えると、いよいよ最終段階である財産の名義変更手続きに入ります。行政書士は、財産の種類ごとに異なる手続きを代行してくれますが、不動産の名義変更はおこなえないため注意しましょう。
名義変更手続きがすべて完了すると、行政書士から完了報告があり、相続手続き全体が終了します。この時点で、預かっていた原本書類の返却や、手続き完了に関する書類の引き渡し、依頼報酬の支払いが行われます。
相続税の申告が必要な場合は、税理士の業務となります。行政書士は財産目録の作成など基礎資料の準備はできますが、申告書の作成や提出は税理士の担当となります。行政書士によっては税理士とも連携しており、必要に応じて紹介してもらえることもあります。
行政書士の費用体系

基本報酬の相場
行政書士の報酬は法律で一律に定められておらず、各事務所が独自に設定しています。そのため、同じ業務でも事務所によって費用が異なることがあります。ここでは、相続業務における一般的な費用相場をご紹介します。
| 業務内容 | 費用相場 |
|---|---|
| 相続人調査 | 3万~7万円 |
| 相続財産の調査・財産目録作成 | 3万~8万円 |
| 遺産分割協議書の作成 | 5万~10万円 |
| 預貯金の解約手続き | 3万~5万円(1金融機関あたり) |
| 自動車の名義変更 | 3万~5万円(1台あたり) |
| 遺言書の作成サポート | 3万~8万円 |
| 遺言執行業務 | 20万~50万円 |
相続手続きの費用は、相続人の数や相続財産の種類・金額によって大きく変わります。例えば、相続人が多い場合や財産が複雑な場合は、それだけ手続きも複雑になり、費用も高くなる傾向があります。また、地域によっても費用相場は異なり、都市部の事務所では地方に比べて若干高めの設定になっていることが多いようです。
多くの行政書士事務所では初回相談を無料で受け付けており、その際に見積もりを出してもらえます。依頼前に必ず費用の確認をすることをお勧めします。また、見積書や報酬規定を提示してもらうことで、どのような基準で費用が設定されているかを把握できるでしょう。
一括依頼と個別依頼の費用差
相続手続きには様々な業務が含まれており、これらを個別に依頼するか、まとめて一括依頼するかによって総費用が変わってきます。多くの行政書士事務所では、相続手続きをパッケージ化した「相続手続き一括サポート」などのサービスを提供しています。
一括依頼の大きなメリットは、費用が割安になるだけでなく、手続きの漏れを防げる点です。ご遺族様が自分で必要な手続きを判断するのは難しく、重要な手続きを見落としてしまうことがあります。行政書士に一括依頼すれば、専門家が必要な手続きを漏れなく進めてくれるので安心です。
ただし、状況によっては個別依頼の方が経済的な場合もあります。例えば、相続財産が預貯金だけの場合や、相続人が配偶者のみの場合は、必要な業務だけを選んで依頼した方が費用を抑えられるでしょう。
多くの行政書士事務所では、初回相談時に依頼者の状況を確認したうえで、一括依頼と個別依頼のどちらが適しているかをアドバイスしてくれます。葬儀社の皆様がご遺族様に行政書士を紹介する際は、「まずは初回相談で状況を説明し、どのような依頼方法が最適か相談するとよい」とアドバイスしましょう。
まとめ
この記事では、行政書士が相続業務でできることとできないこと、費用体系、そして依頼の流れについて解説してきました。
行政書士は相続において、相続人調査や相続関係図の作成、財産調査と財産目録の作成、遺産分割協議書の作成、預貯金・有価証券の相続手続き、自動車の名義変更、さらには遺言書作成のサポートまで、幅広い業務を担当できます。特に手続きに必要な様々な書類の作成や代行は、行政書士の得意分野です。
一方で、不動産の名義変更や相続税申告、相続放棄の手続きはほかの専門家の領域となります。行政書士はこれらの業務に対応できませんが、事務所によっては他の専門家と連携しており、ワンストップでのサービス提供を行っている場合もあります。
葬儀社の皆様がこうした行政書士の業務内容を理解しておくことで、ご遺族様からの相談に適切に答えられるようになるでしょう。相続手続きは複雑で時間がかかることも多く、ご遺族様の精神的・時間的負担は決して小さくありません。そのような時に信頼できる行政書士を紹介できることは、葬儀後のサポートとして大きな価値になるのではないでしょうか。


