相続に関わる専門家|弁護士ができること・できないことや費用体系一般公開

sozoku-bengosi

葬儀後、ご遺族様が直面する重要な課題の一つが「相続手続き」です。特に相続人間でトラブルが発生した場合や、複雑な財産関係がある場合には、法律の専門家である弁護士のサポートが必要になることがあります。

今回は、相続業務を取り扱う専門家のひとつである「弁護士」についてご紹介します。弁護士は法律の専門家として、遺産分割の交渉代理や調停・審判の代理など、他の専門家にはできない独占業務を担っています。また、相続トラブルが発生した場合、特に争いが複雑化すると、法的な専門知識を持つ弁護士のサポートが解決の助けになることがあります。

この記事では葬儀業界で働く皆様に向けて、相続手続きにおいて弁護士がどのような役割を果たしているのか、「できること」と「できないこと」を中心に解説します。こうした知識を持つことで、ご遺族様に対して状況に応じた適切なアドバイスができるようになり、葬儀後のケアの充実につながるでしょう。

葬儀社なら知っておきたい相続に関わる専門家解説

(1)司法書士
(2)不動産鑑定士
(3)税理
(4)弁護士(本記事)
(5)行政書士
(6)ファイナンシャルプランナー
(7)銀行

目次

弁護士とは

弁護士

弁護士は、法律に関する専門知識と代理権を持ち、法律問題の解決や権利保護を行う国家資格を持った専門家です。

弁護士の最大の特徴は、あらゆる法律事務を取り扱う「包括的代理権」を持っていることです。これにより、ご遺族様が故人様の遺産について他の相続人と交渉する際や、トラブルが生じた場合に裁判所での手続きを代理できるのは基本的に弁護士だけとなります。

弁護士になるには、司法試験に合格し、司法修習を修了する必要があります。その後、日本弁護士連合会(日弁連)に登録することで正式に業務を開始できます。

弁護士の業務範囲は非常に広く、相続問題だけでなく、離婚や交通事故などの民事事件、刑事事件の弁護、企業法務など、非常に多くの場面で業務を行っています。

弁護士の役割

なお、弁護士は依頼者の立場に立って活動する「代理人」であり、中立的な立場で複数の当事者の調整を行う専門家ではありません。ご遺族様が弁護士に相続問題を依頼する場合、その弁護士はご遺族様の利益を守るために活動します。

相続業務で弁護士ができること

弁護士丸サイン

弁護士は、ご依頼者様の利益を最大化することを基本に、相続手続きをサポートします。相続手続きの中で主に以下の5つが、弁護士が対応できる業務です。

相続業務で弁護士ができること

弁護士が行うそれぞれの業務について、詳しく見ていきましょう。

(1)遺言書作成と執行サポート

遺言書を書くシニア

弁護士は、故人様自身の意思に従って財産を分配できるよう、生前の遺言書作成をサポートします。弁護士は依頼者の希望を詳しく聞き取り、法的に有効な遺言書の原案を作成します。そして公証人と打ち合わせを行い、将来的な争いが起きにくい明確な内容に仕上げていきます。

遺言書は文言や表現が曖昧だと、故人様が亡くなった後にご遺族様の間でトラブルが発生する可能性があります。そのため、誤解を招かない明確な遺言書作成を弁護士に依頼する方が多いのです。

また、弁護士は遺言執行者として指定されることも多くあります。遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人です。遺言の執行には法律の専門知識が必要な場合や、ご遺族様同士の利害が対立するケースもあるため、特定の相続人に偏らず故人様の意思を実現できる弁護士が執行者になることで、遺言内容をスムーズに実現できます。

さらに、遺言書の検認手続きも弁護士の業務範囲です。公正証書遺言以外の遺言書は、故人様の死後に家庭裁判所での検認手続きが必要ですが、弁護士にはこの手続きに必要な書類の準備、申立ても依頼できます。

弁護士に遺言書の作成を依頼する場合、一般的に手数料として10万〜20万円程度の費用が発生します。また、弁護士に遺言執行者を依頼する場合の費用相場は、相続財産の金額に対して1~3%程度となっています。

(2)相続人調査および相続財産の調査

家系図

相続手続きを進めるためには、まず誰が相続人になるのか、そして相続財産がどれくらいあるのかを正確に把握する必要があります。弁護士にはこの両方の調査を依頼できます。

相続人調査では、法定相続人(民法で定められた相続の権利を持つ方)を正確に把握するために、戸籍謄本の収集や確認を行います。また、思いがけない方から相続人を名乗られた場合の判断も弁護士に相談できます。もし法定相続人の漏れがあると、相続手続きが終わった後でもやり直しが必要になることがありますので、専門家による調査を依頼しておくと安心でしょう。

相続財産の調査では、故人様の残された財産を把握します。現金や預金だけでなく、不動産、有価証券(株式・債券・手形・小切手など)、貴金属など、価値の判断が難しい財産についても調査します。たとえば、銀行の支店名がわかれば弁護士は照会を行えます。

ただし、単純な相続人調査や相続財産調査であれば、司法書士に依頼することも多いでしょう。弁護士に依頼するのは、より複雑なケースや将来的な紛争の可能性が予想される場合が多いと考えられます。例えば、相続人の中に行方不明者がいる場合や、隠れた財産・債務が存在する可能性がある場合などが挙げられます。

相続人調査の費用相場は5万〜10万円程度となっています。ただし、相続人が多数に及ぶ場合や、離婚・養子縁組などで複雑な家族関係がある場合、海外に居住する相続人がいる場合などは、追加で費用が発生することがあります。

また、相続財産の調査の費用相場は10万〜30万円程度ですが、こちらも相続財産の構成や内容によっては費用が高額になることがあります。

(3)依頼者の代理人としての遺産分割交渉

相続争い

遺産分割協議は、故人様の残した財産をどのように分けるかをご遺族様同士で話し合うことをいいます。スムーズに話し合いが進めば理想的ですが、相続という場面では、どんなに仲の良いご家族でも意見の相違が生じることがあります。

弁護士の大きな強みは、依頼者の代理人として遺産分割の交渉を行えることです。ご遺族様が直接他の相続人と向き合って話し合うことなく、弁護士を通じて交渉することができます。これにより、感情的な対立を避け、法的な観点から冷静な交渉が可能になります。

弁護士は依頼者の利益を守ることを第一に考え、相続財産の分け方について法的な根拠に基づいた交渉を行います。例えば、故人様の介護をしていた方には「寄与分」が認められる可能性があることや、生前に贈与を受けていた方がいる場合には「特別受益」として計算する必要があることなど、専門知識を活かした交渉ができます。なお、依頼者の代理人として遺産分割の交渉を行える専門家は原則、弁護士のみとなっています。

また、交渉の結果を「遺産分割協議書」という法的に有効な文書にまとめることも弁護士の重要な役割です。

この協議書に不備があると後々トラブルの原因になりかねないため、続けて弁護士に依頼すると安心でしょう。

弁護士に遺産分割協議の交渉を依頼する場合の費用体系は、多くの法律事務所が旧日弁連報酬基準を参考に設定しています。なお一般的には着手金として30万円程度を設定している事務所が多いです。最終的な報酬金は、交渉によって依頼者が獲得した利益に応じて計算されます。

(4)裁判所での調停・審判の代理

簡易裁判所 家庭裁判所

ご遺族様の間で遺産分割の話し合いがまとまらない場合、次のステップとして家庭裁判所での手続きが必要になることがあります。この場面で弁護士は、依頼者の代理として裁判所での手続きを代行できます。

まず最初に行われるのが「遺産分割調停」です。調停では、裁判所の調停委員が間に入り、当事者間の合意形成を図ります。弁護士はこの調停において依頼者の代理人として出席し、依頼者の主張を整理して伝え、有利な条件での合意を目指します。弁護士が代理人となることで、法的知識を活かした交渉ができ、また依頼者自身が出席する精神的負担も軽減できるでしょう。

調停で合意に至らなかった場合は「遺産分割審判」へと進みます。審判では裁判官が法律に基づいて遺産の分割方法を決定します。この手続きでも弁護士は依頼者の代理人として、法的主張の展開や証拠の提出を行います。

遺産分割調停と遺産分割審判

また、遺言による相続や生前贈与によって「遺留分」が侵害された場合には、弁護士は「遺留分侵害額請求」の手続きを代理することもできます。遺留分とは、一定の相続人に最低限保障されている相続財産の取り分のことです。

さらに、相続財産が勝手に持ち出されたケースでの損害賠償請求や、相続財産であることの確認を求める申立てなど、相続に関連するさまざまな裁判手続きも弁護士が代理します。

このような裁判所での手続きを代理できるのは弁護士だけであり、司法書士や行政書士にはできない業務です。

遺産分割調停や遺産分割審判の費用に関しても、遺産分割協議と同様に着手金の相場は30万円~50万円程度で、報酬金は多くの法律事務所が旧日弁連報酬基準を参考に設定してます。また、調停期日ごとに裁判所への出頭が必要となるため、1回あたり3万円~5万円程度の日当が発生します。調停の回数は案件によって異なりますが、複数回に及ぶことが一般的です。

(5)相続放棄・限定承認の手続き

相続放棄

故人様の借金や債務が資産を上回る場合、相続すると債務までも引き継ぐことになります。このような状況で、ご遺族様を債務から守るために重要な手続きが「相続放棄」と「限定承認」です。

相続放棄とは、相続財産のプラス面(資産)もマイナス面(債務)も一切引き継がないと宣言する手続きです。故人様が亡くなったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述する必要があり、期限を過ぎると原則として相続放棄はできなくなります。

一方、限定承認は資産の範囲内でのみ債務を返済すると宣言する手続きです。つまり、相続財産がプラスになる部分だけを相続することができます。こちらも家庭裁判所への申述が必要です。弁護士はこの2つの手続きについて必要な書類を準備し、家庭裁判所への申述手続きを代行できます。

また、相続財産の調査結果を踏まえて、相続放棄すべきか、限定承認すべきか、それとも単純承認(通常の相続)するべきかを法的な観点からのアドバイスも行います。

相続放棄や限定承認を弁護士に依頼する場合は、10万~15万円程度の費用が発生します。

相続業務で弁護士ができないこと

弁護士バツサイン

弁護士は制度的にいうと、相続業務として取り扱える範囲がほかの専門家と比べて広く、例えば税理士試験に合格しなくても、国税局長に通知することで税理士業務を行うことが可能です。

しかしながら、弁護士がすべての相続業務を担当するわけではありません。より専門的な知識や経験が求められる分野では、適切な専門家に依頼することが一般的です。以下に、弁護士が通常取り扱わない相続業務を紹介します。

弁護士ができない業務対応できる専門家
(1)相続税申告の代行税理士
(2)不動産の名義変更司法書士
(3)自動車など各種財産の名義変更手続き行政書士、司法書士(自動車は不可)

なお、各専門家が相続業務で対応できる内容については、『相続に関わる専門家ガイド|葬儀社のアフターサービス充実に向けた基礎知識』でまとめて解説しています。

(1)相続税申告の代行

相続税申告書と家

前述したように弁護士は税理士試験に合格しなくても、特定の手続きを経れば税理士業務を行うことができる資格を持っています。しかし、多くの弁護士はこの権限を活用せず、相続税申告については税務の専門家である税理士に任せるケースがほとんどです。

相続税の計算や申告には高度な税務知識と経験が必要です。特に大きな財産や事業用資産、複数の不動産などが含まれる複雑な相続では、専門的な知識が必要になるでしょう。また、相続税の申告期限は故人様が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内と決まっているため、この分野に精通した専門家への依頼が望ましいです。

このように、弁護士は相続の法律面でのサポートに集中し、税務については税理士と連携するという形で、それぞれの専門性を活かしたサポートを提供するのが一般的です。相続手続きをスムーズに進めるためには、弁護士と税理士の役割分担を理解しておくことが大切です。

税理士が相続手続きで担当する業務については、関連記事『相続に関わる専門家|税理士ができること・できないことや費用体系』で詳しく解説しています。

(2)不動産の名義変更

不動産登記

弁護士は法律上、不動産登記(相続登記)の申請業務を行う権限を持っていますが、実務としては多くの弁護士がこの業務を自ら行わない傾向にあります。相続税申告と同様に、これは「できない」というよりも「専門外なので通常は行わない」というケースです。

相続によって不動産を取得した場合、その名義を故人様からご遺族様に変更する「相続登記」が必要になります。この登記手続きは、登記業務を専門としている司法書士に依頼するのが一般的です。

弁護士は遺産分割協議書の作成など法律面でのサポートを担当し、実際の登記申請業務は司法書士と連携して行うという役割分担が多く見られます。この連携により、法的な問題と登記実務の両面から、より適切なサポートをご遺族様に提供することができます。弁護士に相続の相談をする際には、不動産の名義変更については司法書士と連携して対応することが多いという点を理解しておくと良いでしょう。

司法書士が相続手続きで担当する業務については、関連記事『相続に関わる専門家|司法書士ができること・できないことや費用体系』で詳しく解説しています。

(3)自動車など各種財産の名義変更手続き

車とスーツの男性

不動産の名義変更と同様に、自動車や有価証券(株式・投資信託など)、預貯金口座などの名義変更手続きについても、弁護士は法的には可能であるものの、実務上はこれらの手続きを直接行うケースは少ないです。

自動車の名義変更(移転登録)は、陸運局や運輸支局で行う行政手続きです。この手続きは行政書士が得意とする分野であり、必要書類の準備から申請までをスムーズに進めることができます。同様に、株式や投資信託などの有価証券の名義変更は、証券会社や信託銀行を通じて行うことが一般的です。

預貯金の払い戻しや名義変更についても、各金融機関によって手続き方法が異なるため、それぞれの機関の窓口で直接手続きを行うか、手続きに慣れた司法書士などに依頼するケースが多いでしょう。弁護士は参考記事①にあるように「銀行預金の払い戻し」を業務内容としているものの、実務上は直接行わないことが一般的です。

弁護士に相続業務を依頼する手順

階段を上るスーツの男性

ここでは、遺産分割でトラブルが発生した際に、弁護士に依頼するときの手順例を紹介します。相続紛争の解決は弁護士の代表的な業務であり、裁判所での代理など弁護士にしか行えない独占業務です。

相続トラブル解決を依頼する弁護士を探すところから、業務終了までの流れは以下の通りです。

弁護士に相続業務を依頼する流れ

(1)ご遺族様が弁護士を探す

遺産分割でトラブルが生じた場合、まず信頼できる弁護士を見つけることが重要です。

弁護士を探す方法としては、インターネットで「相続 弁護士 〇〇市」などと地域名を入れて検索する方法が一般的です。また、家族や知人からの紹介も信頼できる弁護士探しの一手段でしょう。

弁護士選びで最も重要なのは、「相続トラブルに強い」弁護士を見つけることです。弁護士といっても、刑事事件や企業法務を専門としている方もいれば、相続問題に精通している方もいます。そのため、弁護士のホームページで相続問題の解決実績や専門分野を確認し、相続に関する経験が豊富な弁護士を選ぶことが大切です。

また、相性も重要な要素です。相続トラブルは感情的な対立を含むデリケートな問題であり、ご遺族様の気持ちを理解し、寄り添ってくれる弁護士であるかどうかも見極めるポイントになります。多くの弁護士事務所では初回相談を無料または低額で提供していますので、まずは相談してみて、話しやすさや信頼感を確かめることをおすすめします。

さらに、遺産分割の紛争は長期化することも少なくないため、アクセスのよい場所にある弁護士事務所を選ぶと、その後の相談や打ち合わせがスムーズに進みます。電話やオンラインでの相談に対応している事務所も増えていますので、ご遺族様の状況に合わせた選択肢を検討するとよいでしょう。

(2)初回相談の予約と準備

メールと電話

依頼したい弁護士が見つかったら、次は初回相談の予約を取りましょう。多くの弁護士事務所では電話やメール、ウェブサイトのお問い合わせフォームから予約が可能です。予約の際には「相続トラブルの相談がしたい」と伝えるだけで構いません。詳しい説明は相談時に行うことが多いです。

初回面談の前には、相談をスムーズに進めるための準備が必要です。主に次のような書類を可能な範囲で用意しておくと良いでしょう。

  • 故人様の戸籍謄本や除籍謄本
  • 相続関係を示す戸籍の附票
  • 不動産の登記簿謄本
  • 預貯金の通帳
  • 有価証券の明細書

すべてが揃っていなくても構いませんが、持っている資料は初回相談に持参すると話がスムーズに進みます。

また、現在のトラブルの状況や経緯をメモにまとめておくと良いでしょう。「いつ」「誰が」「何を」「どうした」という事実関係を時系列で整理しておくと、弁護士に状況を正確に伝えやすくなります。特に、他の相続人とのやり取りや、これまでの話し合いの内容は詳しく記録しておくことが重要です。

なお、初回相談の時間や費用は事務所によって異なります。多くの法律事務所では初回相談を無料で提供していますが、30分5,000円〜1万円程度の相談料を設定している場合もあります。

(3)弁護士との初回相談

相談するシニア夫婦

初回面談ではまず、故人様がいつ亡くなったのか、法定相続人は誰なのか、相続財産はどのようなものがあるのかといった基本的な質問に回答します。

次に、現在起きているトラブルの内容について詳しく聞かれるでしょう。「他の相続人が遺産を勝手に使っている」「遺言書の内容に納得がいかない」「相続人の中に行方不明者がいる」など、具体的な問題点を説明します。

さらに、ご遺族様自身がどのような解決を望んでいるのかについても話します。「自宅だけは確保したい」「早期解決を望む」など、希望を明確にすることで、弁護士はそれに沿った方針を立てやすくなります。

ひと通り状況を把握すると弁護士は、考えられる解決策をいくつか提示してくれます。「遺産分割協議を行う」「調停を申し立てる」「証拠を集める」など、今後の方針についてアドバイスを受けることができます。

なお、弁護士への相談は「相談=依頼」ではありません。初回面談の段階では、この弁護士に正式に依頼するかどうかを決める必要はありません。面談後に改めて検討し、納得できれば次のステップへ進みましょう。

(4)弁護士との契約締結

依頼を決めるシニア夫婦

初回面談を経て、相続トラブルの解決を弁護士に依頼することを決めた場合、次は正式な契約を締結します。この段階で弁護士と依頼者の関係が正式に始まります。

契約締結では、まず委任契約書を交わします。この書類には、依頼する業務の範囲、弁護士費用、支払条件などが明記されます。また、契約時には、着手金の支払いも行います。弁護士費用は一般的に「着手金」と「報酬金」の二段階で設定されていることが多いです。着手金は依頼時に支払う初期費用で、報酬金は問題が解決した際に支払う成功報酬です。

支払方法は現金、銀行振込、クレジットカードなど、事務所によって異なりますので事前に確認しておくとよいでしょう。

(5)紛争解決に向けた調査と戦略立案

相談するビジネスマン

契約締結後、弁護士は本格的に相続トラブル解決に向けた活動を開始します。まず着手するのが、詳細な調査と戦略立案です。

第一に、弁護士は法定相続人の確定を行います。故人様の戸籍謄本や除籍謄本を取得し、法律上誰が相続権を持つのかを正確に把握します。相続人の中に行方不明者がいる場合や、認知されていない子どもがいる可能性がある場合など、複雑なケースでは専門的な調査が必要となります。

次に、相続財産の詳細調査を行います。初回面談で把握できなかった財産がないか、また負債は存在しないかなどを徹底的に調べます。弁護士は不動産登記簿、金融機関への照会、故人様の確定申告書などを確認し、財産の全体像を明らかにします。特に他の相続人が隠している可能性のある財産については、弁護士の法的権限を活用した調査が重要です。

これらの調査結果をもとに、弁護士はご遺族様にとって最適な解決策を検討し、戦略を立案します。「遺産分割協議による話し合い解決を目指すのか」「調停・審判などの法的手続きに進むのか」など、具体的な方針を決定します。

(6)遺産分割交渉の実施

話し合うビジネスマン

調査と戦略立案が完了すると、いよいよ具体的な交渉段階に入ります。弁護士は依頼者であるご遺族様の代理人として、他の相続人やその代理人との交渉を行います。

依頼者であるご遺族様は、遺産分割協議に同席してもしなくても構いません。協議の場では、各相続人の取り分や不動産の帰属先、預貯金の分配方法などについて具体的に話し合われます。その中で、弁護士は法的観点から適切な助言を行いながら、依頼者の利益を守るために交渉します。

しかし、協議による解決が難しい場合は、弁護士は家庭裁判所への「遺産分割調停」の申立てを行います。さらに調停でも合意に至らない場合は「遺産分割審判」へと移行します。

いずれの段階であっても、合意に至った時点で「遺産分割協議書」を作成して、遺産分割協議が終了します。

(7)手続き完了とその後の対応

青空と矢印

遺産分割協議書が作成され、ご遺族様の間での合意が成立すると、弁護士の主な業務は終了します。この段階で、弁護士への報酬金の支払いが発生します。報酬金は依頼内容や弁護士の交渉によって獲得できた財産価値に応じて計算されるため、最終的な金額は案件ごとに異なります。

相続問題が解決した後も、相続手続きはまだ終わりではありません。相続した財産の名義変更や、相続税の申告など、様々な手続きが残っています。希望すれば弁護士にこうした手続きを依頼できる専門家を紹介してもらえます。

このように、弁護士への依頼が完了した後も、相続手続き全体が終わるまでには他の専門家との連携が重要です。葬儀社の皆様も、ご遺族様に対してこういった流れを説明し、必要に応じて弁護士以外の専門家についても情報提供できると、より良いアフターフォローになるでしょう。

弁護士の費用体系

お金と電卓

弁護士が相続業務を行う際の費用体系は、依頼する内容や相続案件の複雑さによって変動します。各法律事務所が独自に料金設定できるため、依頼前に必ず費用について確認することが重要です。

基本料金体系

相続に関する初回相談は30分5,000円〜1万円程度ですが、多くの法律事務所では初回無料相談を実施しています。具体的な業務依頼時に発生する着手金は、相続財産の規模や案件の複雑さにより20万円〜50万円程度が相場です。完全成功報酬制や分割払いに対応している事務所もあります。

なお、案件解決後に支払う報酬金は「経済的利益」(弁護士に依頼したことで得られた利益)に応じて算出されるのが一般的です。例えば、遺産分割協議により取得した財産の価値や、争いのない部分については相続分の時価の3分の1を経済的利益として計算するケースもあります。

付随費用

弁護士が業務を進める上で必要な実費(交通費、郵便代、コピー代、裁判所への印紙代など)は別途請求されます。また、弁護士が出張する場合には半日で3万円程度、1日で5万円程度の日当が発生します。遺言書作成や相続放棄申立てなどの事務的手続きについては、定型業務として定額制を採用している事務所も多くあります。

以下に各手続きの費用相場をまとめました。

業務内容費用相場備考
遺言書作成10万~20万円・財産が高額、相続人関係が複雑な場合は増額
・公正証書遺言の場合は別途実費が必要
遺言執行相続財産の1~3%・相続財産が少額の場合は30万円程度が一般的
・複雑な内容や多数の不動産がある場合は追加費用発生
相続人調査5万~10万円・法定相続人が多い場合は追加費用発生の可能性あり
相続財産調査10万~30万円・現金や預貯金のみの場合は少額
・不動産、美術品、非公開株式等が含まれる場合は高額になる傾向
相続放棄10万~15万円・事前の相続財産調査を依頼する場合は別途費用発生
遺産分割協議着手金30万円程度+報酬金・調停や審判に発展した場合も弁護士に代理人依頼可能

費用負担と支援制度

相続問題について弁護士に依頼した場合、基本的に依頼者本人が費用を負担します。相手方の主張が不当であっても、原則として弁護士費用は自己負担となります。

経済的に余裕がない方は、国が設立した法的トラブルの総合案内所である日本司法支援センター(通称:法テラス)の民事法律扶助制度を利用できる場合があります。収入や資産が一定条件を満たす方は、無料法律相談や弁護士費用の立替制度を利用できるため、費用面で不安がある場合は一度確認してみるとよいでしょう。

※日本司法支援センター(通称:法テラス)は、総合法律支援法に基づき、独立行政法人の枠組みに従って、日本国政府が設立した法務省所管の法人で、総合法律支援に関する事業を迅速かつ適切に行うことを目的としています。運営は2006年4月10日に設立され、同年10月2日から業務を開始しています。

まとめ

この記事では、弁護士が相続業務でできることとできないこと、そしてその費用体系について解説してきました。

弁護士は相続において、遺言書作成と執行サポート、相続人・財産調査、遺産分割交渉の代理、裁判所での調停・審判の代理、さらには相続放棄や限定承認の手続きまで、法律に関する幅広い業務を担当できます。特に相続人間でトラブルが発生した場合、弁護士は依頼者の代理人として交渉や裁判所での手続きを行うという重要な役割を担っています。

一方で、弁護士が対応しない業務もあります。相続税申告の代行は税理士の専門分野であり、不動産や自動車などの名義変更手続きは司法書士や行政書士が得意とする領域です。弁護士は法律面でのサポートに集中し、これらの専門的な手続きについては他の専門家と連携するのが一般的です。

葬儀業界の皆様がこうした弁護士の業務内容を理解しておくことで、ご遺族様に対してより適切なアドバイスを提供できるようになります。相続トラブルは長期化することも多く、精神的な負担も大きいものです。そのような場合に信頼できる弁護士を紹介できることは、葬儀後のケアとして大きな価値があるでしょう。

カテゴリー最新記事

目次