グリーフケアの業界団体|自死・自殺に向き合う僧侶の会について解説

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死別によって近親者を失ったご遺族様の悲しみや痛みに寄り添い、回復までサポートすることを、グリーフケアと呼びます。
グリーフケアは、自殺や依存症防止に繋がる取り組みでもあり、高齢化や核家族化が進む近年においては、ますます注目される支援のひとつです。

日本国内においても、グリーフケアに関連する協会や団体はいくつか存在しており、ご遺族様の支援や人材養成・学術研究など、さまざまな活動をおこなっています。

本記事では、主に自死遺族の支援に取り組む『自死・自殺に向き合う僧侶の会』について紹介します。

目次

日本における自殺の状況

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厚生労働省のデータによると日本では1998年から自殺者が急増し、14年間にわたって3万人を超える状態が続いていました。
その後、政府の自殺対策や景気の回復に従い、令和5年は21,000人台と減少傾向にあります。

自殺者数年次推移
出典:厚生労働省『自殺者数の年次推移』をもとにグラフを作成

ただし、先進国において日本の自殺率は非常に高い水準にあり、さらなる対策が必要になっています。

日本の死因順位と自殺

下の表をご覧いただければ分かるとおり、10〜39歳までの死因の1位は自殺で、40歳代では2位、50〜54歳でも3位となっています。
10〜20代の若年層はいじめや学業のプレッシャー、そして壮年期の方は職場のストレスや経済的問題、またうつや精神疾患など、自殺のリスクを高める要因が多く、社会的な問題といえるでしょう。

また55歳以上でも自殺者の割合は高く、高齢層でも自殺問題は深刻です。健康面や経済的な不安に加え、家族やパートナーを失うケースも増えるため、悲しみや苦しみに対するサポートが必要になっています。
グリーフケアなどメンタル面での支援や、社会的な繋がりの強化といった取り組みが今後も求められています。

年齢階級別の死因順位(令和3年)

年齢階級1位2位3
10〜14歳自殺悪性新生物(腫瘍)不慮の事故
15〜19歳自殺不慮の事故悪性新生物(腫瘍)
20〜24歳自殺不慮の事故悪性新生物(腫瘍)
25〜29歳自殺悪性新生物(腫瘍)不慮の事故
30〜34歳自殺悪性新生物(腫瘍)不慮の事故
35〜39歳自殺悪性新生物(腫瘍)心疾患(高血圧性を除く)
40〜44歳悪性新生物(腫瘍)自殺心疾患(高血圧性を除く)
45〜49歳悪性新生物(腫瘍)自殺心疾患(高血圧性を除く)
50〜54歳悪性新生物(腫瘍)心疾患(高血圧性を除く)自殺
55〜59歳悪性新生物(腫瘍)心疾患脳血管疾患
出典:厚生労働省|令和5年版自殺対策白書 第1章自殺の現状 人口動態統計でみた自殺者の年次推移より

葬祭業界からみた自殺者やそのご家族

葬祭業従事者にとって、自殺された故人様やそのご家族へは非常に慎重かつデリケートな配慮が必要となります。
特殊な死因のケースではご家族が抱える精神的な負担や社会的な偏見もあり、一般的な葬儀とは異なる対応やサービスを求められることも多いでしょう。

一方で警察で検死が行われたご遺体の取り扱いなど、業務内容だけでなくメンタル面でも葬儀社のスタッフは重圧を感じやすくなっています。
自殺者やご家族に対するサポートに加え、スタッフへのケアや教育も課題といえるでしょう。

命の大切さを確認し、悲しみや不安を取り除くことで自殺者の減少へと繋がる活動は、葬祭業界にとって重要な意味があります。
また宗教家であり、葬儀では重要なポジションを担っている僧侶による自殺への取り組みは、ご遺族や関係者だけでなく、葬祭業従事者へのサポートという点からも大きく貢献することでしょう。

自死・自殺に向き合う僧侶の会の概要

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「一人ひとりが生き生きと暮らし、安心して悩むことのできる社会」を目指し、自殺問題へと取り組む僧侶が集まり発足したのが『自死・自殺に向き合う僧侶の会』です。
会員は僧侶の資格が必要となり、現在、浄土真宗・曹洞宗・日蓮宗・浄土宗・臨済宗・真言宗・天台宗等の僧侶が正会員として所属しています。

自殺対策について僧侶だからできる役割を担ったうえで、僧侶以外の方とも積極的に繋がり、連携しながら活動を行っています。
「研鑽」するだけでなく、さまざまな活動内容を通じて具体的に「行動」することで自殺問題に取り組むことを目的にしています。

同じエリアの仲間との連携で具体的な実務を行っているため、会員は東京近郊の僧侶限定です。各地域に関連団体がありますので、他エリアの方はコチラをご参照ください。
任意団体で法人格はないため、物理的な事務局は存在していません。お問い合わせや活動などに関しては、事務担当者がメールにて対応しています。

【公式HP】https://bouzsanga.org/
【お問い合わせ】https://bouzsanga.org/contact/

自死・自殺に向き合う僧侶の会の役員一覧

役職名前宗派
共同代表
増田 俊康真言宗
前田 宥全曹洞宗
吉田 尚英日蓮宗
藤尾 聡允臨済宗
浦上 哲也浄土真宗
伊藤 顕翁浄土宗
事務局長松本 智量浄土真宗
出典:自死・自殺に向き合う僧侶の会『役員』

自死・自殺に向き合う僧侶の会の活動内容

自死・自殺に向き合う僧侶の会では「一人ひとりが生き生きと暮らし、安心して悩むことのできる社会」の実現に向けて、さまざまな活動に取り組んでいるようです。

自死問題の啓発活動(無関心・偏見の払拭)

シンポジウムや講演会、研修会等での講師活動のほか、新聞雑誌等への寄稿、リーフレットや小冊子の発行、機関誌の発行(予定)を行っています。

自死に関する相談活動

手紙による相談窓口「自死の問い・お坊さんとの往復書簡」を運営しています。今後、電話相談や個別面談、付き添い支援に取り組む予定です。

手紙(書簡)の宛先

〒108-0073
東京都港区三田4-8-20 往復書簡事務局
※返信の差出人は、返信する僧侶個人の名前になります。
※差出人住所と氏名をご明記頂かないと返信出来ません。 投函する前にお確かめください。

自死遺族の分かち合い「いのちの集い」

大切な方を自殺で亡くされたご遺族のために分かち合いの会「いのちの集い」を定期的に開催しています。

開催要領

【日程】第4木曜日 ※変更の場合あり
【時間】13時~15時
【会場】泉岳寺(都営浅草線または京浜急行・泉岳寺駅A2出口より徒歩3分)
【参加者】家族・親戚・恋人・友人など大切な人を自死で亡くされた方
【参加費】無料
※定員制・事前予約制
詳細は https://bouzsanga.org/share/

自死者追悼法要の勤修

毎年12月1日の「いのちの日」に自死者の追悼法要「いのちの日 いのちの時間」 を行っています。

虹のポスト

故人様へ宛てた手紙を「虹のポスト」では受け付けています。手紙は開封せず、お経をお勤めした後にお焚き上げしています。 

送り先

〒270-0137  千葉県流山市 市野谷563-1
「虹のポスト」係

10代の若者向けの場作り

「10代とお坊さんのオンライントーク」を基本的に毎月第2日曜日に開催。ご両親や学校では話せない悩みや辛さを安心して話せる場を提供しています。

開催要領

【日程】第2日曜日 
【時間】20時~
【開催方法】オンライン(Zoom)
詳細は https://bouzsanga.org/online/

自死・自殺対策に取り組む僧侶有志の支援

東京近郊以外での僧侶が行う有志活動の運営を支援しています。東海、関西、広島、九州には関連団体があり、連携しながら活動を行っています。

寄付受付

自死の問題に取り組みたいけれど、地理的な問題や時間的な制約で活動が難しい方からは寄付を受け付けています。

口座情報

【銀行名】ゆうちょ銀行 028(ゼロ二ハチ)支店
【口座番号】普通 1482453
【口座名義】ジシ・ジサツニムキアウソウリョノカイ (自死・自殺に向き合う僧侶の会)
※ゆうちょ銀行からの場合は 記号10250 番号14824531

東京以外の各エリアで関連団体が活動しています。それぞれの地域でも自死遺族の分かち合い「いのちの集い」や自死者追悼法要などを行っていますので、下記サイトからご参照ください。

まとめ

今回は、自殺問題へと取り組む僧侶の団体『自死・自殺に向き合う僧侶の会』の概要や活動内容を紹介しました。
ご家族や親しい方にとって自殺は悲しみや喪失感に加え、罪悪感などの複雑な感情を伴うため、心理的なサポートが必要となります。

葬祭業界でもグリーフケアの専門士や心理カウンセラーと連携し、ご遺族の心を癒やすための支援に力を入れていますが、サポートを行う専門家がまだ足りていないのが現状でしょう。
そんな状況にあって自殺問題へ取り組み、一定の宗教観にもとづいて〝生き方〟〝命のあり方〟を解きほぐす僧侶の支援団体は私たちの強い味方といえます。

葬祭業界では今後、行政や医療機関、NPO等の支援団体と協力し、自殺防止やご遺族が求めるサポートを包括的に提供することがさらに重要となってくるでしょう。

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