在来仏教13宗56派まとめ|真言宗9派の特徴を解説

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国内で営まれる葬儀の8割前後が仏式で執り行われているようですが、宗派ごとに葬送に対する考え方や葬儀の内容も異なります。
しかし、それぞれの違いについて詳しく把握している方は、葬儀社に勤務されている方であっても、少ないのではないでしょうか。

葬儀関連事業に従事する関係者の皆様におかれましては、日本の宗教文化を理解することで、宗教・宗派ごとの葬祭に関する専門知識を高める一助となるでしょう。

そこでこの記事では、その多様な宗派の中でも、真言宗9宗派に焦点を当ててご紹介いたします。
ぜひ最後までご覧ください。

目次

真言宗9派の概要と傾向

真言宗のイメージ画像

真言宗は密教(みっきょう)の一派で、教義や儀礼が公開される「顕教(けんぎょう)」ではなく、師匠から弟子へと口伝で伝授されるのが特徴です。

真言宗仏教は古代インド・サンスクリット語に深いつながりがあります。
宗教名にもなっている「真言」という言葉は「マントラ」を意味し、「真実の言葉」「秘密の言葉」と訳されます。
弘法大師によって平安時代初期に確立された真言宗は、以降さまざまな宗派を生み出しており、それぞれが独自の実践と教義を持っています。

なお真言宗の葬儀では、他宗派にはない「灌頂(かんちょう)」「土砂加持(どしゃかじ)」という儀式が執り行われることが一般的です。

真言宗の開祖 空海について

真言宗の開祖、弘法大使・空海のイラスト

真言宗は主に9つの宗派を抱えていますが、その起源をたどると高野山を開いた弘法大師・空海(こうぼうだいし・くうかい)にたどり着きます。

空海は平安初期の僧侶であり、真言宗の開祖です。平安時代を代表する「三筆」の1人とされているため、名前を聞いたことがある方も多いかもしれません。
若いころから詩や漢詩、儒教などを学んだ空海は、9世紀初めに唐へ渡り密教を学びます。

806年(大同元年)に帰国すると、空海は朝廷の許可を得て、京都の教王護国寺(きょうおうごこくじ、別名:東寺)と、和歌山県高野山に金剛峯寺(こんごうぶじ)を建立。密教の修行道場を創設しました。

空海の教えは「今の身のままで仏となり、悟りを開き、疑念のない心で極楽浄土に至る」、「即身成仏(そくしんじょうぶつ)」が特徴です。
空海は単に一宗の開祖に留まらず、中唐後期の大陸の文化を広め、平安初期の日本文化にも多大な影響を与えました。
また、彼と天台宗の開祖・最澄(さいちょう)との交流も深いことで知られています。

真言宗に宗派が多い理由

真言宗の宗派が多い理由がわからずにいる葬儀社の社員のイメージ画像

真言宗が多様性ある宗派である理由として、まず考えられるのが教義です。
真言宗が師から弟子への教義を伝承する「師資相承:ししそうしょう、ししそうじょ)」を重視していることや、修法の実践方法(事相:じそう)に違いがあるなどで分派に至ったと考えられています。
空海は修行中に住んでいた寺院を弟子に託しているほか、それぞれの寺院で年分度者(国家公認の僧侶の養成)を許可することで、各寺院は独立性を保ちながらそれぞれの教義や修法を発展させました。

もう1つ考えられるのが、時代の変化です。
明治時代になると、政府の宗教政策により真言宗は「大真言宗」として統一されましたが、後に再び各宗派が独立しました。
この歴史的な背景から、現在に至るまで真言宗は多くの宗派に分かれることとなりました。

真言宗9派の紹介

真言宗には現在18派が存在します。
真言宗は以下の通り古義真言宗系と新義真言宗系、真言律宗に分けられますが、在来仏教13宗56派に含まれているのは9派のみです。

古義真言宗系新義真言宗系真言律宗
・高野山真言宗
・真言宗 東寺派
・真言宗 山階派
・真言宗 泉涌寺派
・真言宗 醍醐派
・真言宗 善通寺派
・真言宗 智山派
・真言宗 豊山派
・真言律宗

ここからは、真言宗9派についてご紹介いたします。
それぞれの宗教の特徴や概要を簡単にご紹介いたしますので、概要が分かります。
気になる宗教があれば、リンクをクリックいただけると詳しい内容の閲覧が可能です。

古義真言宗系6派

古義真言宗、高野山の標識

まずは、高野山に残った真言宗の一派「古義真言宗」についてご紹介いたします。

高野山真言宗

高野山真言宗の総本山金剛峯寺のイメージ画像
開祖弘法大師・空海(こうぼうだいし・くうかい)
ご本尊大日如来
代表的な寺院高野山金剛峯寺(和歌山県)

高野山真言宗は弘法大師・空海によってもたらされた中国密教の教えを体系化し、特有の実践法をたてた宗派です。
生きたまま仏となる考え「即身成仏(そくしんじょうぶつ)」を広めるほか、宇宙のすべてが大日如来の「いのち」の表れであり、生命の尊厳と平等を認識することで仏の世界を実現すると教えました。

高野山真言宗では理論だけでなく実践を強調しており、「南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)」というお題目が特徴です。

総本山の高野山金剛峰寺(こんごうぶじ)は幾度となく火災に見舞われながらも、平清盛(たいらのきよもり)や北条政子(ほうじょうまさこ)など歴史の主要人物らの支援を受け、幾度となく困難を乗り越えました。

詳しくは、以下の記事でご紹介しております。

真言宗 東寺派

真言宗東寺派の総本山教王護国寺
開祖・弘法大師 空海
・道興大師 実慧(派祖)
ご本尊寺院によって異なる
※特定のご本尊を定めていない様子
代表的な寺院・教王護国寺(東寺、和歌山県)
・勝福寺(神奈川県)

真言宗東寺派は弘法大師空海の十大弟子の1人、実慧(じちえ/じつえ)によって創始されました。
本山である教王護国寺(きょうおうごこくじ)は別名「東寺」とも呼ばれており、国宝「五重塔」でも知られる有名な寺院です。

真言宗東寺派の歴史は、弘仁14年(823年)に嵯峨天皇から空海に授けられ、真言密教の根本道場となった時にまで遡ります。
以降、東寺は江戸時代まで、真言宗の長者寺としてその役割を果たしました。
明治以降は分裂と統合が続きましたが、第二次世界戦後の1946年に真言宗東寺派として独立し、現在に至ります。

真言宗東寺派の最大の特徴は、「三密」と呼ばれる密教の修行法です。
「三密」を通じて、人々は生きたまま仏になれるという考えを追求しています。

なお「真言宗東寺派」「東寺真言宗」は異なる宗派ですので、注意が必要です。

真言宗 山階派

真言宗山階派の大本山、勧修寺のイメージ画像
開祖弘法大師 空海
ご本尊千手観音
代表的な寺院勧修寺(京都府)

真言宗山階(さんかい)派は、大本山である勧修寺(かじゅうじ)と強く結びついています。
勧修寺は900年頃、醍醐天皇の時代に建立。
以降は皇室からの庇護を受け、多くの著名な僧侶を育てた真言宗の修業道場として知られるようになりました。

歴史を紡ぐ中でさまざまな災害に見舞われるものの、江戸時代になると朝廷の支援のもとで伽藍をはじめとする寺院の再建が行われました。

真言宗山階派の詳細は、以下の記事よりご覧いただけます。

真言宗 泉涌寺派

真言宗泉涌寺派の総本山、泉涌寺のイメージ画像
開祖(派祖)弘法大師 空海月輪大師 俊芿(派祖)
ご本尊「阿弥陀如来」「釈迦如来」「弥勒如来」
代表的な寺院泉涌寺(京都府)

古義真言宗に属す宗派のひとつである真言宗泉涌寺(せんにゅうじ)派は、月輪大師・俊芿(がちりんだいし・しゅんじょう)を派祖とした真言宗の一派です。

俊芿は、空海から直接真言宗の教えを受けなかったと伝えられており、当時仏教界でないがしろにされていた「戒律」を求めて中国に渡る決意をしたそうです。
「戒律」を重んじていたことから、当時の皇族たちが俊芿から授戒するという縁もあり、泉涌寺は四宗兼学(しそうけんがく)の道場として設立され皇室の保護を受けていました。
その後も泉涌寺は皇室との関係を保ちながら、「御寺(みてら)」として皇族の菩提寺として存在するなど、歴史上重要な役割を果たしていたようです。

真言宗泉涌寺派についてより深く知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。

真言宗 醍醐派

真言宗醍醐派の醍醐寺のイメージ画像
開祖(派祖)・弘法大師 空海
・理源大師 聖宝(派祖)
ご本尊薬師如来
代表的な寺院・醍醐寺(京都、総本山)
・三宝院(京都、大本山)
・転法輪寺(奈良、大本山)
・西国寺(広島県、大本山)
・道隆寺(香川県、大本山)
・観音寺(香川県、大本山)
・龍泉寺(奈良県、大本山)

真言宗醍醐派は古義真言宗の一派ですが、真言宗派の中でも少数派です。
醍醐寺を総本山としており、弘法大師・空海の実弟の弟子である理源大師・聖宝(りげんだいし・しょうぼう)を派祖とします。

聖宝が如意輪観音(にょいりんかんのん)准胝観音(じゅんでいかんのん)を自身で彫り、雪山山上に祀ったことが、醍醐寺の起源とされています。
ご本尊である薬師如来像は、醍醐天皇の要望で制作されたそうです。

真言宗醍醐派の最大の特徴は、日本古来より存在する山岳信仰を取り入れた宗教「修験道」を取り入れている点です。
厳しい山中修行を通じて、自己の悟りを追求します。

真言宗醍醐派については、以下の記事より詳しくご覧いただけます。

真言宗 善通寺派

真言宗善通寺派の総本山、善通寺のイメージ画像
開祖・弘法大師 空海
・仁海(小野僧正、雨僧正、派祖)
ご本尊薬師如来
※寺院によって異なるようです
代表的な寺院善通寺(香川県、総本山)

真言宗善通寺(ぜんつうじ)派は、平安時代には真言宗の中でも大きな存在だった真言宗小野流から発展しました。

派祖として真言宗小野流の流祖とされる仁海(にんがい)が考えられていますが、諸説あるようです。
仁海は真言宗醍醐派の開祖である聖宝に師事したとされており、雨を降らせる修法を行うたびに雨が降ったことから別名「雨僧正(あめそうじょう)」としても知られています。

香川県善通寺市にある総本山の善通寺は空海の誕生の地であり、霊場の1つでもあります。

新義真言宗2派

新義真言宗のふるさと根来山の紅葉のイメージ

智山派の覚鑁(かくばん)が和歌山県の根来山(ねごろやま)に本山を構えた一派を「新義真言宗」と呼びます。
ここでは、在来仏教として数えられる新義真言宗2派についてご紹介いたします。

真言宗 智山派

真言宗智山派の総本山、智積院のイメージ画像
開祖・弘法大師 空海
・興教大師 覚鑁(派祖)
・玄宥僧正(復興の祖)
ご本尊大日如来
代表的な寺院智積院(京都府、総本山)

真言宗智山派も元をたどれば空海が開祖となりますが、派祖の興教大師・覚鑁(こうきょうだいし・かくばん)と復興の祖、玄宥僧正(げんゆうそうじょう)によって独自の宗派を創り上げました。

真言宗智山派最大の特徴は、「新義真言宗」と呼ばれる改革です。
高野山の衰退に危機感を抱いた覚鑁が、極楽浄土の実現を現世で追求した「密厳(みつげん)浄土思想」を提唱したことに由来します。
しかし、「新義真言宗」改革は高野山保守派との対立を招き、覚鑁は高野山を追われる結果となりました。

その後、根来山での火災により多くの寺院が焼失しますが、復興の祖とされる玄宥僧正は京都の東山に智積院を再建、智山派の総本山として現在に至ります。

真言宗智山派については、以下で詳しく解説しています。

真言宗 豊山派

真言宗豊山派の総本山、長谷寺のイメージ画像
開祖・弘法大師 空海
・専誉僧正(派祖)
ご本尊十一面観音
代表的な寺院・長谷寺(奈良県)
・護国寺(ごこくじ、東京都)

新儀真言宗に属する真言宗豊山派は、中興の祖と呼ばれる「覚鑁」から派生し、専誉僧正(せんよそうじょう)を第一祖として、現代に教えを受け継ぐ宗派です。
専誉僧正は若い頃から奈良県の東大寺で修行し、授戒後は南都や醍醐、三井、比叡など、他宗派を修めたとされています。

豊臣秀吉の弟・豊臣秀長(とよとみひでなが)から長谷寺に招かれた専誉僧正が、豊山派を興したことが始まりのようです。
豊山派の成立までには保守派と宗派再建派との確執や豊臣秀吉による紀州攻め(安土桃山時代)など、歴史的な紆余曲折がありました。
しかし、これらの試練を乗り越えたことにより、豊山派の総本山である長谷寺は新儀真言宗の根本道場としての立ち位置に至ります。

「豊山」の名前は長谷寺(はせでら)の山号が由来とされており、長谷寺のある初瀬山は牡丹の名所で、現在では観光名所の1つとして親しまれています。

真言宗豊山派について知りたい方は、以下の記事をご参照ください。

真言律宗

真言律宗の総本山、西大寺のイメージ画像
開祖(派祖)・弘法大師 空海
・興正菩薩 叡尊(派祖)
ご本尊・釈迦如来(西大寺)
・総徳 大日如来
※別徳として、それぞれの寺院により、お祀りしているご本尊様が異なります
代表的な寺院西大寺(奈良県、総本山)

真言宗の中でも、空海の流れをくむ真言宗と、奈良仏教に属する律宗が融合して生まれた独特の宗派が「真言律宗」です。

仏教の再興に尽力した興正菩薩・叡尊(こうしょうぼさつ・えいそん)が真言律宗の成立に貢献し、西大寺(さいだいじ)を拠点に教義を発展させました。

真言律宗の特徴的な教えは、密教と戒律をひとつとして修行する「密律不二(みつりつふじ)」です。
また、大日如来を「全ての仏徳を備えた仏」として捉える「総徳・別徳」という思想も重要とされています。

そして、真言律宗の根本理念である「興法利生(こうぼうりしょう)」のもとに行われる、社会的弱者への救済活動が挙げられます。

・興法利生……「興隆仏法(こうりゅうぶっぽう:仏教を盛んにすること)」と「利益衆生(りやくしゅじょう:民衆を救済すること)」を合わせた言葉

西大寺復興に尽力しただけでなく、貧しい人々や病人、差別を受けている人々の支援に力を注いだ叡尊の思いが反映されているといえます。

真言律宗についてより深く知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。

最後に

真言宗の祖、空海の銅像

本記事では真言宗9派についてご紹介しました。

それぞれの宗派は似て非なる価値観や教えを持っているため、真言宗の多様さと歴史的な背景を理解することは、信者の葬儀や宗教行事を理解する一助となります。

葬送に対する各宗派の考え方や、葬儀の中で執り行われる種々の儀式が持つ意味を、きちんと理解しているのといないのでは、喪主様やご遺族からの信頼感にも、雲泥の差があるものと思われます。

『葬研』には他の宗教宗派に関する記事がありますので、さらに深く学びたい方は、ぜひ他の記事もご覧いただけましたら幸いです。

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