葬儀業界におけるDX推進と課題まとめ|情報セキュリティリスクへの対策を解説

葬儀DXと情報セキュリティ-min

葬儀業界はデジタル化が遅れているとされる業種の1つで、日常業務や顧客情報の管理などの多くを、書類やホワイトボードを中心におこなっている葬儀社様も少なくないようです。
しかし、日本における少子高齢化は今後ますます深刻化すると予想されているため、業務の効率化は喫緊の課題となっています。

そんな状況に対応すべく、葬儀業界でも少しずつDX(デジタルトランスフォーメーション)化に取り組む企業も出始めていますが、何から手を付けてよいか分からないという葬儀社様も多いようです。
そこで本記事では、葬儀社のDX化において優先的に取り組むべき事柄について解説するとともに、DX推進に不可欠な情報セキュリティ対策にも触れていきます。

目次

葬儀業界にDX化が必要な理由

DX (3)-min

DX化を推進することで得られるメリットは数多く存在しますが、葬儀業界において最も重要なのは業務効率の改善でしょう。

葬儀業界は、人の「死」を取り扱うという業務の特殊性や、24時間365日対応を求められる労働環境などから、離職率の高い業種となっていました。
その結果、少ない人数で業務を遂行することになるため、従業員一人ひとりの負担が増大し、さらに離職が相次ぐという悪循環に陥ることも少なくなかったようです。

これまでは、残った従業員の頑張りで人手不足を何とか補えたかもしれませんが、現在の日本を取り巻く状況を考えると、将来的には事業の継続すら困難になるかもしれません。

多死社会の到来

超高齢化社会を迎えた日本では、年間死亡者数が右肩上がりに増加を続けており、ピークとなる2040年には16万7千9百人に達すると予想されています。
当然ながら、葬儀の施行数も増加の一途をたどることとなりますので、スケジュールが隙間なく埋まっているような状況が、これまでより長く続く可能性もあります。

死亡者数推移と予測値-min-min
出典:厚生労働省 統計白書『死亡数の推移』を元に作成

こうした状況になった場合、ギリギリの人員で業務を遂行している葬儀社様では、従業員に休みを取らせることも難しくなるでしょう。
加えて、中小規模の葬儀社様では宿直業務を担当するのも従業員というケースが多くを占めるため、従業員の負担はさらに増大します。

疲労の蓄積が一定のレベルに達すると、集中力や判断力の低下によるミスが発生しやすくなるため、当然ながらサービス品質を維持することも難しくなるでしょう。
上記のようなリスクを回避するためには、従業員の負担軽減や労働環境の改善に向けた業務の効率化が不可欠となります。

少子高齢化と労働人口の減少

葬儀業界は、これまでも慢性的な人手不足に悩まされてきましたが、今後は人材確保がさらに難しくなる可能性が高いでしょう。

生産年齢人口推移-min
出典:厚生労働省「我が国の生産年齢人口の推移と将来推計」

少子高齢化の影響で、すでに総人口が減少に転じている日本では、15歳から64歳の生産年齢人口が今後も減り続けると予想されています。
そのような状況下では、採用活動もこれまで以上に厳しくなるため、十分な人員を確保できることを前提とした経営戦略は現実的ではありません。

しかし、無駄を徹底的に排除し、効率性を重視した業務システムを構築することができれば、これまでより少ない人員での業務遂行が可能となります。
これからの葬儀業界で生き残るためには、労働人口の減少という事実を直視し、実効性のある対策に取り組むことが求められます。

葬儀規模の縮小

少人数で営む「家族葬」の普及に伴い、葬儀の小規模化・簡素化が進んだ影響で、葬儀の施行単価は減少傾向にあります。
下記グラフは、近年の葬儀施行数、および売上高の推移をまとめたものですが、取扱件数は以前より増加しているにもかかわらず、売上高が増加していないのは明らかです。

葬儀業界-売上件数の推移-min
出典:「特定サービス産業動態統計調査」対個人サービス業「葬儀業」(経済産業省)をもとにグラフを作成

葬儀1件当たりの売上高が減少している状態で、従来通りの人員を配置していては、労働生産性は大幅に低下してしまいます。
とはいえ、参列者が少なくとも葬儀の流れ自体は従来通りとなるため、1人の担当者で葬儀施行の全てを担うのは困難でしょう。

また、極端に低価格な火葬のみの直葬であっても担当者は必要ですし、葬儀の施行がない日であっても、ご遺体を安置している会館には待機人員を割り当てなければなりません。
こうした状況の中で収益を確保するためには、これまでとは違う仕組みが必要となります。

葬儀社のDX化に向けてやっておくべき5項目

優先順位 (2)-min

アナログといわれる葬儀業界の中でも、大手冠婚葬祭互助会や大手葬儀社では、すでにDX化に取り組んでいるケースもみられます。
しかし葬儀事業を営む企業の多くは従業員10名以下の中小企業ですので、DX化に取り組むといっても、一気に進めるのは難しいでしょう。

またDX化を進めるためには、社内データなどのデジタル化が前提となりますが、葬儀業界では紙で管理しているケースも少なくありません。
こうした現状を踏まえたうえで、優先的に対応すべき内容について解説します。

①顧客情報管理

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葬儀業界では、葬儀の際に提供された喪主様やご遺族様の個人情報を顧客名簿などにまとめ、後日の営業活動に活用することも多いかと思います。
しかし顧客名簿を紙で作成している場合、汚損のリスクが高いため長期保管は難しくなりますし、物理的に持ち出される可能性もゼロではありません。

加えて、職位ごとに閲覧権限を細かく設定することも難しいため、実質的にはすべての従業員が、名簿に記載されている顧客の個人情報に触れられる状況も発生しやすくなります。
こうした状況を放置した場合、情報漏洩を完全に防止するのはほぼ不可能です。

また顧客名簿を厳重に管理している葬儀社様では、原則的に持ち出し禁止となっているケースが多いため、閲覧できるのは事務所のみということになります。
この場合、外回り中の営業担当者が顧客情報を確認するためには、事務所に一旦もどらなければなりません。
これは、顧客情報がデジタル化されていても、クローズドな社内システムのみで運用されているケースでも同様ですが、業務を遂行するうえで非効率的な状態です。

情報漏洩防止と、効率的な顧客情報の管理・運用の両方に有効なのが、顧客情報管理システムの導入です。
現在では、葬儀社業務に最適化された顧客情報管理システムも複数社からリリースされています。
さらに、葬儀社業務を包括的にサポートする葬儀施行管理システムを導入すれば、顧客情報を各種業務と連携して活用できるため、従業員の負担軽減にもつながります。

葬儀社向けの管理システムは多くの企業からリリースされていますが、それぞれ一長一短がありますので、自社に適したシステムを選定するためにも、各システムがもつ特徴の把握をおすすめします。

②DXに対応可能な人材の確保

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葬儀業界で、デジタル化が遅れている要因の1つに、従業員の高齢化があげられます。
これまでの葬儀社従業員は、葬儀の施行経験が豊富で知識・技能を有し、伝統的な葬送文化を守ることに重きをおくような職人的な人材が多かったようです。

こうしたベテラン社員がいれば、葬儀社運営に支障をきたさない時代が長く続いたため、葬儀業界では新しい技術の導入にも、積極的に取り組むことは少なかったといわれています。
しかし少子高齢化や多死社会の到来など、ビジネス環境が大きく変化した以上、葬儀業界も対応しなければなりません。

その対応方法の一つがDX化の推進となりますが、当然ながら一定のITスキルを持った人材が不可欠となりますので、新規に採用する、あるいは在籍している従業員に技術を習得させるといった対策が必要です。
DX化の推進には、これまでの業務フローを大幅に変更する必要が出てくるため、リーダーシップを発揮できる人材が担当するのが好ましいでしょう。
その点を重視すれば、経営者層がスキルアップするのが最も効率的ですが、難しい場合は経営幹部とIT担当者が両輪となって推進するのも選択肢の1つといえるでしょう。

③人材育成

人材育成 (1)-min

これまでの葬儀業界では、葬儀終了後におこなわれる法要や納骨・仏壇準備といったアフターや顧客フォローなどの営業活動は、一部のベテラン社員が担うケースが多くみられました。
そのため、顧客へのアフター営業ノウハウを持つのは限られたベテランのみで、顧客情報が全従業員に共有されることも少なかったようです。

しかし現在では、葬儀の小規模化や簡素化の影響で葬儀単価が下落傾向にあるため、葬儀のみで収益を確保するのが困難になりつつあります。
こうした状況を打開するため、各葬儀社様では葬儀に付随する多種多様なサービスを用意しているケースも多く、その範囲は供養に関連する墓石や霊園・仏壇から、遺品整理や相続相談までライフエンディング全般に及んでいます。

幅広いサービスをより多くの顧客に対し、効率的に営業活動をおこなうためには、営業を担当できるスキルを持った人材を増やすのが一番の近道でしょう。
それを実現するためには、営業ノウハウを共有するとともに、職位に適合した範囲で全従業員が顧客情報にアクセスできる環境が必要となりますが、同時に情報セキュリティー教育も強化しなければなりません。
こうした人材育成についても、情報共有が重要となりますので、DX化による効果は大きいと考えられます。

とはいえ、業務に必要となる顧客情報は職位によって異なりますので、付与する権限の範囲についても、あらかじめ検討しておく必要があります。

④集客に向けたDX活用方法の把握

事例でわかるDX初めの一歩-min
出典:日本政策金融公庫「出版物」

情報化社会を迎えた現在では、葬儀ポータルサイトの台頭などもあり、葬儀業界はその姿を大きく変容させています。
過去の葬儀業界では例がないほど競争が激化したため、積極的な集客に乗り出さざるを得ない状況です。

ネットでの情報収集が主流となった現在では、集客についてもWebを活用するのはもちろんのこと、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)での情報発信が効果を発揮し始めています。
とはいえ、これまでの葬儀業界では積極的な広報活動を良しとしない風潮があったため、何から手を付けてよいのか分からないという葬儀社様も多いのではないでしょうか。

そういった中小企業様の悩みに応えるべく、日本政策金融公庫からWeb・SNS活用方法のガイドブック『事例でわかる!DX始めの一歩 Web・SNS編』が発行されています。
それぞれのSNSがもつ特性や、目的別の活用方法などについて、事例をあげながらわかりやすく解説されています。

集客に課題を持つ葬儀社様は、葬儀ポータルサイトと連携することも多いですが、依存度が高まると紹介手数料が収益を圧迫しかねません。
収益悪化を回避するためには、チラシや自社ホームページからの直接問い合わせを増やすのが最も確実な方法ですが、SNSはこうした課題の解消にも効果的です。

現在ではさまざまなSNSがリリースされていますが、葬儀社様が直接問い合わせの増加を目的として取り組む場合、高い効果が期待できるのはLINE公式アカウントの開設です。
LINE公式は情報を広く拡散することよりも、各ユーザーに情報を確実に届けてコミュニケーションにつなげることを強味としているSNSですので、顧客との関係性構築に効果的と考えられます。

集客に向けたDXの活用については、ネット上に数多くの解説記事が公開されていますので、実際にDX化を進める前に知識を蓄積しておいたほうがよいでしょう。

⑤個人情報保護体制の構築

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個人情報を適正かつ効果的に活用しつつも、個人の権利利益を保護することを目的とした「個人情報保護法」が2005年に施行されました。
個人情報保護法に違反した場合、違反行為をした個人には1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。

こうした事態を避けるためには、企業側で個人情報保護体制の構築が有効ですが、その参考になるのが、個人情報保護マネジメントシステム(通称PMS)を定めた規格「JISQ15001」です。
JISQ15001の正式名称は「個人情報保護に関するコンプライアンス・プログラムの要求事項」で、一般財団法人日本規格協会によって1999年3月に策定されました。

JISQ15001には、個人情報保護法を踏まえて、組織が個人情報を適切に管理するためのルールや運用方法について記載されています。
またJISQ15001は、後述するプライバシーマークの認定基準にもなっています。

葬儀業界のDX化推進に不可欠な情報セキュリティ強化

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葬儀社様がDX化を推進する場合、葬儀施行管理システムなどの導入が想定されますので、業務フローも従来とは大きく変わる可能性が高いでしょう。
当然ながら顧客情報もデジタル化されるため、情報セキュリティに関する知識を習得したうえで、適切な手順を踏んで強化する必要があります。

情報セキュリティ3大要素CIAとは

葬儀社では、葬送儀式の円滑な執行を担うという業務の特殊性から、氏名や住所といった一般的な個人情報だけでなく、家族構成や交友関係など顧客のより深い部分に触れることも少なくありません。
そのため顧客情報の取り扱いについては、他業種以上に細心の注意を払う必要があります。

大切な顧客情報を安全に管理し、情報漏洩を防止するうえで欠かせないのが、情報セキュリティーの3大要素とされるCIAです。
CIAは、機密性(confidentiality)・完全性(integrity)・可用性(availability)の頭文字をとった略語ですが、それぞれの要素は相互に影響を及ぼします。

機密性(confidentiality)

情報セキュリティの3要素の1つである機密性とは、情報へのアクセス権限を設定し保護することです。
機密性を保つ方法としては、情報に接触する機会や人物を可能な限り減らすことが最善となりますが、あまり厳格に運用してしまうと可用性が損なわれてしまうため、どこで折り合いをつけるか慎重な判断が求められます。

完全性(integrity)

情報セキュリティの完全性とは、情報が改ざんや破壊されず、最新の状態で正しく保管されていることを意味します。
葬儀社では顧客情報をもとに営業活動などをおこなうため、情報に誤りがある、あるいは氏名や住所地などの情報が更新されていない場合、記載されている情報は意味をなしません。

情報の完全性を損なう要因は、外部からの侵入などもありますが、実際には単純な書き間違いや操作手順の誤りといった人的ミスが多くを占めるようです。
こうしたトラブルを防止する方法には、以下のようなものがあげられます。

  • 情報への接触や操作に制限を設ける
  • データを暗号化したうえで、定期的にバックアップをとる
  • 情報へのアクセスや変更の履歴を残す
  • バックアップ方法などについて社内ルールを定める
  • データの入力・編集・削除に関する権限を、職位などに合わせて適切に設定する

可用性(availability)

情報セキュリティの3要素の1つである可用性とは、情報への接触を許された人物が、業務遂行にあたり必要に応じて情報にアクセスできる状況を保つことです。
可用性が維持されることで、適切な情報共有が可能となるため、業務効率の改善が期待できます。

しかし自社所有のサーバーに情報を保管しているケースでは、地震や台風などの災害によってサーバーが物理的な損傷を受けた場合はもちろん、落雷による停電などで電源が喪失しただけでも可用性は失われてしまいます。
可用性を保つためには、24時間365日データやシステムにアクセス可能なクラウドストレージの利用が有効とされています。

情報セキュリティ教育の重要性

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ここまで技術的な面から情報セキュリティについて解説してきましたが、どんなに優れたシステムを導入しても、適切に運用されなければ意味がありません。
そういった点では、情報セキュリティを強化するうえで目を向けるべきは、個人情報保護に対する理解と、社内意識を向上させるための教育かもしれません。

個人情報の保護体制に対する第三者認証制度にプライバシーマークがあります。
プライバシーマークを取得するためには、さまざまな要件を満たす必要があり、全社をあげて個人情報保護に取り組まなければ、申請すらできません。

またプライバシーマークは2年ごとに更新が必要ですが、更新するためには審査機関による更新審査を受けたうえで付与適格と判断されなければならないため、継続的な情報セキュリティに関する社内教育の実施が求められます。
プライバシーマークを取得するメリットは、社会的信頼性の向上など対外的な部分に目が行きがちですが、情報セキュリティに対する社内の意識を高いレベルに保つという意味でも有効と考えられます。

葬儀業界のDX推進実例

すでに葬儀業界でも、複数の企業がさまざまなかたちでDX化推進に取り組んでいます。
ここでは、これまでに葬研でとりあげた事例をいくつか紹介します。

「さがみ典礼」が安心・安全な品質を保証する『葬儀 DX』を導入 ~アルファクラブ武蔵野~

アルファクラブ武蔵野葬儀DX

冠婚葬祭事業を幅広く展開するアルファクラブ武蔵野は、同社の「さがみ典礼」において、安心・安全な葬儀を保証する『葬儀DX』の導入を発表しました。
同システムの導入により業務の効率化が進むだけでなく、ご遺体の取り違えといったトラブルの防止にもつながるようです。

【さがみ典礼】葬斎施設の受付・見学・体験が無人化に~アルファクラブ武蔵野~

さがみ典礼見学無人化 (5)

新型コロナへの対応として非接触型サービスが広まりをみせていますが、アルファクラブ武蔵野の小規模斎場「ソライエ上尾原市」では、非接触での受付・見学・体験を開始しました。

家族葬のファミーユ 葬儀ディレクター育成にClipLineを導入

ClipLine (1)

これまでは組織が大きくなるにつれて、本部と現場との価値観の乖離(かいり)が発生しがちでしたが、DXにより問題解決が可能になっているようです。
葬儀社様の中でも複数ホールを運営されている企業では、ClipLineのようなツールの導入が顧客満足度の向上に寄与するかもしれません。

おわりに

本記事では、葬儀業界におけるDX推進の必要性や解決すべき課題、DX化と同時に進めるべき情報セキュリティ強化について解説いたしました。
将来的に葬儀業界が直面するビジネス環境の変化に対応し、事業を継続・拡大させるためには、何らかの形で改革が必要である点はご理解いただけたかと存じます。

世間的にDXを話題にする際は、AIやビッグデータの活用などを中心に語られることも多いですが、葬儀業界の現状は残念ながらそのレベルに達していません。
まずはDX化の前段階である、社内データのデジタル化・IT化や、情報共有システムの構築に取り組む必要があります。

とはいえ、IT分野に精通している人材を確保している葬儀社様は限られるため、現実的な選択肢としては、クラウド型の葬儀施行管理システム導入が第一候補となるかもしれません。
しかし、葬儀に対する考え方や強みなどは葬儀社様ごと異なるため、自社の特性にマッチする葬儀施行管理システムを選択しなければ、逆効果となる可能性もありますので、慎重に判断されることをおすすめします。

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