葬儀業界は今、大きな転換期にあります。かつての不透明な価格設定を改め、消費者の信頼を勝ち取ろうとする多くの事業者の努力により、業界の透明性は飛躍的に向上しました。
しかしその一方で、インターネットを介した集客手法の高度化に伴い、景品表示法などの法令に抵触する事例や、倫理的な境界線を越えた広告手法が散見されるようになっています。
国民生活センターに寄せられる葬儀サービス関連の相談件数は、2024年度に978件と過去最多を記録し、業界全体でコンプライアンスの再点検が求められる局面を迎えています。
そこで本記事では、直近10年で明らかになった主要な違反事例と倫理的問題事例を整理し、なぜこうした問題が繰り返されるのかという構造的背景を掘り下げたうえで、業界全体で取り組むべき解決策について考察します。
目次
- 1.葬儀業界における広告・表示規制の概観
- 葬儀業界が抱えてきた「不信感」の歴史的背景
- 業界健全化に向けたこれまでの取り組み
- 2.景品表示法・消費者契約法の基本と葬儀業界における適用のポイント
- 3.大手葬儀ポータルサイトへの課徴金納付命令(2017〜2019年)
- 「小さなお葬式」運営会社への措置命令・課徴金命令の概要
- 「イオンのお葬式」運営会社への措置命令・課徴金命令の概要
- 「よりそうお葬式」運営会社への措置命令・課徴金命令の概要
- 3社の事例に共通する「追加料金不要」等の表示問題
- 4.2020年代以降も続く景品表示法違反・差止請求事例
- 株式会社仙和(2022年)の事例
- 株式会社那覇直葬センター(2024年)の事例
- 株式会社市民葬儀(2025年)に対する適格消費者団体の差止請求
- 事例に共通する違反パターンと消費者への影響
- 5.法令違反には至らないものの倫理的に問題のある事例
- 公営火葬場のGoogleビジネスプロフィール不正取得とは
- 自治体による注意喚起事例(千葉県・三重県・東京都など)
- 公営施設を装った広告・検索誘導の具体的手法
- 電話転送・サイト誘導による「受付窓口なりすまし」の実態
- 6.なぜ葬儀業界で違反・不当事例が繰り返されるのか
- 「一度きりの消費」ゆえに比較検討が困難という構造的要因
- インターネット検索依存の加速
- 許認可や資格が不要という参入障壁の低さ
- 火葬待ち需要を背景とした過当競争と集客コスト高騰
- 自治体側のデジタル資産管理意識の低さが生む「隙」
- コンプライアンス意識と集客成果のバランスという経営課題
- 7.葬儀業界全体で取り組むべき解決策
- 事業者レベルで求められる販促物・広告表示のセルフチェック体制
- 業界団体・関連事業者による自主ガイドラインのさらなる浸透
- 自治体と連携した公営施設情報の適正化への働きかけ
- 適格消費者団体・消費者庁の動向を踏まえたリスクマネジメント
- 「選ばれ続ける葬儀社」になるための誠実な情報発信という視点
- まとめ~健全な葬儀業界の未来に向けて事業者ができること~
1.葬儀業界における広告・表示規制の概観

葬儀業界が抱えてきた「不信感」の歴史的背景
昭和から平成にかけての葬儀業界では、一部の事業者による不透明な料金体系や過剰請求が社会問題化し、「葬儀はぼったくりが多い」という不信感が消費者の間に根深く残ることとなりました。
くわえて、ご遺族様は突然の不幸に見舞われた動揺のなかで短時間に意思決定を迫られる立場にあり、冷静に複数社を比較検討する余裕がないまま契約にいたるケースが多いという構造的な事情も、こうしたイメージを助長してきた要因の1つといえるでしょう。