地域で長く営業されてきた葬儀社様の中には、行政との協定を締結した区民葬儀取扱指定店となっている葬儀社様も多いことでしょう。
「区民葬」は、葬儀の小規模化・簡素化が進む現代こそ活用されるべき制度ですが、一般消費者の認知度は決して高いとはいえないのが現状です。
「区民葬」は、葬儀社様にとって高収益が期待できるような葬儀形態ではありませんが、葬儀の費用負担を減らしたい消費者にとっては、希望に適う制度といえるでしょう。
「区民葬」制度の一般認知度向上が図れれば、地域密着型の葬儀社様にとって有利に働く可能性もあります。
そこで本記事では「区民葬」の内容や利用方法を紹介しつつ、葬儀社様にとってのメリット・デメリットについて解説します。
区民葬とは
「区民葬」は、戦後に東京都と全東京都葬祭業連合会が協議して発足した「都民葬儀」が始まりとされています。
その後、昭和40年(1965年)に都から区に事務移管されて、現在の「区民葬」となったようです。
「区民葬」という名称から、区が資金を拠出しているような印象を受けますが、実際には行政からの補助金などはありません。
あくまでも区民葬儀取扱指定店となっている葬儀社様が、奉仕の精神により提供している仕組みです。
区民葬を利用できる方
「区民葬」は、東京23区内に居住されている方が亡くなった場合、あるいは東京23区内の住民が喪主を務める際に利用できる制度です。
同じ東京都でも23区外の市部にお住まいの方については、「区民葬」ではなく居住地域の「市民葬」制度を利用することになりますので注意が必要です。
区民葬での葬儀内容
「区民葬」では、葬儀内容を必要最小限に抑えることで低価格を維持しているため、使用される祭壇や葬具も質素なものとなります。
とはいえ、祭壇については数種類が用意されていますので、予算に応じた選択が可能です。
選択可能な祭壇の料金
「区民葬」で利用できる祭壇は以下の通りです。
祭壇を利用しないケースの料金
さらに費用を抑えたい場合は、棺のみを安置した形式(祭壇の利用無し)での葬儀も用意されています。
霊柩車運送料金
火葬に必要となる費用
・火葬料金
・遺骨収納容器代
*2号:7寸 3号:6寸
区民葬のサポート範囲
「区民葬」に含まれるのは、主に「祭壇」「霊柩車運送料金」「火葬料金」「遺骨収納容器代」の4つで、これ以外は別途費用が必要となります。
一般的な葬儀プランに含まれている費用についても、オプション扱いとなる部分があるため注意が必要です。
「区民葬」に含まれない費用としては、以下のようなものがあります。
- ドライアイス
- 遺影写真
- 会葬礼状
- 返礼品
- 飲食費
- 生花
- 花輪
- 御供物
- テント
- ハイヤー
- マイクロバス
- 斎場使用料など
上記以外に、宗教者への謝礼(例:仏式葬儀におけるお布施)も、別途用意する必要があります。
また病院で亡くなった場合の「ご遺体搬送費用」や、自宅安置が困難なケースでの「ご遺体安置施設利用料」も別料金となります。
区民葬の利用方法
「区民葬」を利用するためには、自治体から発行された「葬儀券」が必要です。
居住地の区役所で死亡届を提出する際に、窓口で「区民葬」を希望する旨を伝えると「葬儀券」が発行されます。
利用方法については、区民葬儀取扱指定店に「区民葬」を希望する旨を伝え、必要事項を記入した「葬儀券」を渡すのが一般的な流れです。
ただ実際には、ご遺体の搬送や火葬場の予約などの都合上、死亡届提出前に区民葬儀取扱指定店となっている葬儀社への申し入れを行うケースも多いようです。
・葬儀券
市民葬との違い
「区民葬」は東京都の特別区(23区)すべてに適用される一方、「市民葬」制度については用意されていない市も少なくありません。
利用率が低いことを理由に「市民葬」事業を終了している自治体もあり、国分寺市では2012年4月1日、町田市では2022年3月31日をもって終了しています。
また「区民葬」の葬儀内容や費用は23区共通ですが、「市民葬」は自治体によって内容が大幅に異なります。
さらに地域によって火葬料金にも差があることもあり、各自治体で「市民葬」費用にも違いがみられます。
生活保護葬との違い
「区民葬」と混同されやすい制度に「生活保護葬(せいかつほごそう)」がありますが、両者は目的も内容も全くの別物です。
身寄りがなく生活保護を受給している方が亡くなったケースや、遺族が生活保護を受給している場合などは、葬儀費用を自治体が支給する「葬祭扶助制度(そうさいふじょせいど)」を利用できます。
「葬祭扶助制度」でおこなわれる葬儀は「生活保護葬」や「福祉葬」「民生葬」などと呼ばれますが、その内容は必要最低限となるケースがほとんどです。
故人の尊厳を保つことを目的とし、行政が全額を負担する「生活保護葬」では、基本的に宗教儀式を伴わない直葬(火葬式)となります。
遺族が費用を追加して、オプションサービスを利用することはできません。
一方、区民の葬祭費用負担軽減を目的とした「区民葬」では、基本プランは決められているものの、遺族の希望によりプラン外のサービスを追加しても問題ありません。
区民葬・市民葬制度のある自治体
東京都には62の自治体(23区・26市・5町・8村)があり、23区については「区民葬」が利用できます。
また23区外でも「市民葬」制度を設けている自治体が少なくありません。
しかし全国的にみると、政令指定都市であっても「市民葬」制度が設けられているケースはわずかです。
東京都23区外で市民葬制度が設けられている自治体
東京都で市民葬制度が設けられている市は以下の通りです。
八王子市・武蔵野市・三鷹市・府中市・昭島市・調布市・小金井市・小平市・日野市・東村山市・国立市・福生市・狛江市・東大和市清瀬市・東久留米市・武蔵村山市・多摩市・稲城市・西東京市
区民葬とは違い、市民葬は名称・葬儀内容・費用が各自治体で大きく異なります。
市民制度が設けられている政令指定都市
東京都以外で市民葬制度を設けている自治体は以下の通りです。
調べた限りでは、全国に20ある政令指定都市でも、市民葬制度があるのは上記の3都市のみでした。
区民葬のメリット・デメリット
「区民葬」は、葬儀社様にとって決して高収益が期待できるような事業ではありませんが、葬儀費用を抑えたい方にとっては有益な制度です。
利用者にとってのメリット・デメリットを把握しておけば、区民葬儀指定取扱店だからこそ有利になる点も見つかる可能性があります。
利用者にとってのメリット
「区民葬」における最大のメリットは葬儀費用を抑えられる点ですが、火葬費用が通常より安価なのもポイントです。
東京23区内は、他の地域に比べて火葬費用が極端に高額なため、葬儀費用全体を押し上げています。
その原因としては、東京都23区内に存在する火葬場9ヵ所のうち、公営火葬場は瑞江葬儀所と臨海斎場の2カ所のみで、それ以外の7か所は民営火葬場である点があげられます。
特に民営斎場6か所を運営する東京博善では、火葬料金の値上がりが続いており、最も低額な火葬炉でも75,000円+燃料サーチャージ(2023年1月は14,600円)となっています。
また臨海斎場を運営している臨海部広域斎場組合は、港区・品川区・目黒区・大田区・世田谷区の共同事業となっているため、組織区住民は火葬費用が40,000円となっていますが、組織区外の住民は80,000円です。
しかし「区民葬」であれば、火葬料金も59,600円で固定されており、費用負担が軽減されます。
ただし、港区・品川区・目黒区・大田区・世田谷区の住民が「区民葬」を利用した場合は、火葬料金が通常より高くなってしまうため、別の方法を考えるべきかもしれません。
さらに葬儀社選びについても、行政が推奨する区民葬儀取扱指定店であれば、利用するうえで安心感があります。
葬儀社様にとってのメリット
「区民葬」を扱えるのは区民葬儀取扱指定店のみですので、冠婚葬祭互助会や大手葬儀社と競合関係にはなりません。
さらに葬儀ポータルサイトからの紹介とは異なり、高率の仲介手数料も不要ですので、一定の利益は確保できるでしょう。
「区民葬」の利用者様が満足されれば、親族や友人・知人などにご縁が広がる可能性もありますので、将来的なメリットは多いはずです。
デメリット
「区民葬」のデメリットは多くありませんが、利用者にとっては選択肢の幅が狭いのはデメリットといえるかもしれません。
前述したように「区民葬」を扱えるのは区民葬儀取扱指定店のみですが、選択可能な葬儀社は各区とも10社程度です。
また「区民葬」での葬儀内容は共通ですが、葬儀を施行する葬儀社のサービスレベルについては一定ではないので、限られた時間の中で自分に合った葬儀社をしっかり見極める必要があります。
葬儀費用についても「区民葬」では安価に設定されていますが、プランに含まれているのは「祭壇」「霊柩車運送料金」「火葬料金」「遺骨収納容器代」のみですので、必要に応じてサービスを追加する必要があります。
追加サービスについては別途費用が加算されますので、場合によっては費用総額がかさむ可能性もあります。
まとめ
今回は「区民葬」の内容や利用方法、メリット・デメリットについて解説しました。
近年では葬儀業界への新規参入が相次いだことから競争が激化し、地域密着型の葬儀社様では集客に悩まれているところも少なくないようです。
やむを得ず葬儀ポータルサイトからの紹介を受けている葬儀社様では、葬儀を施行しても利益がほとんど残らないようなケースも散見されます。
「区民葬」は収益性の高い案件ではありませんが、少なくとも葬儀ポータルからの紹介案件に比べれば、正直な商売ができるはずです。
また「区民葬」1件あたりの利益は少なくとも、地域住民との信頼関係が構築できれば、将来的な利益につながる可能性は高いでしょう。
「区民葬」を扱えるのは区民葬儀取扱指定店のみですので、これまで以上に「区民葬」に対して積極的に取り組んでみてはいかがでしょうか。