葬儀社の業績・利益を調べる場合、帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、葬儀社の業績・利益の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。
今回は株式会社 合掌堂の現状について、貸借対照表をもとに分析いたします。
上場企業の決算資料ほど詳細ではありませんが、事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。
株式会社 合掌堂の概要
典礼会館名義で葬儀事業を営む愛グループは、1972年6月に設立された「下関市冠婚葬祭互助会」からスタートしました。
その後、積極的なM&Aにより営業エリアを拡大し、現在では以下の13社で構成される企業グループとなっており、決算公告は各社で別々に出されています。
■愛グループ
- 株式会社 日本セレモニー(広島)
- 株式会社 日本セレモニー(長崎)
- 株式会社 日本セレモニー(山口県)
- 株式会社 へいあん秋田
- 株式会社 サンファミリー
- 株式会社 へいあんファミリー
- 株式会社 愛グループホールディングス
- 株式会社 メイプルシティ
- 株式会社 防長互助センター
- 株式会社 合掌堂←今回分析を行うのはココ
- 株式会社 トレーダー 愛
- 株式会社 せいぜん
- ムスベル株式会社(2023年5月1日に全株式を取得)
上記グループ会社のうち、株式会社 メイプルシティ(イタリアンレストラン事業)と、株式会社 トレーダー愛(料理や生花など冠婚葬祭事業の付帯業務に関わる仕入・製造及び商品開発)は、直接的に冠婚葬祭事業を行っていないようです。
しかし愛グループの組織図は公開されていないため、グループ各社が関与する業務の範囲は明確ではありません。
1980年に設立された「合掌堂」は、仏壇・墓石販売および民間霊園管理を中核事業に全国展開しています。
東北地方から九州地方まで展開されている「合掌堂」の店舗は以下の34ヵ所です。
■青森県
青森店・弘前店
■秋田県
秋田店・横手店・大館店
■岩手県
盛岡店・北上店・釜石店・宮古店
■宮城県
太白店
■大阪府
高槻店・京阪店・八尾店・新大阪店
■岡山県
岡山店・倉敷店
■広島県
福山店・因島店・三原店・広島店
■山口県
岩国店・周南店・防府店・萩店・山口店・下関店・宇部店
■福岡県
戸畑店・古賀店・福岡店・伊都店・小倉湯川店・八幡店
■長崎県
佐世保店
また管理を担当していると想定される民間霊園は、以下の3ヵ所となっています。
- 関門都市霊園(山口県下関市) 経営主体:宗教法人清照寺
- 専光寺墓苑(広島県福山市) 経営主体:宗教法人専光寺
- 周南正光墓苑(山口県周南市)
葬儀社の決算公告とは
決算公告資料はその会社が健全な経営を行っているかを確認できる計算書類となります。株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告といいます。
公告の方法は全部で3つあります。
- 官報に掲載
- 日刊新聞紙に掲載
- 電子公告(会社のウェブサイトに掲載)
決算公告は義務的な側面が強いですが、取引先や銀行に情報の開示を行うことで、自社の透明性や健全性を見せることができるという重要な側面も持ち合わせております。
なぜ葬儀社は決算公告をおこなうのか?
大手葬儀社、あるいは葬儀・葬祭事業を長きにわたって営んでいる会社は、冠婚葬祭互助会を運営するケースが少なくありません。
冠婚葬祭互助会とは、冠婚葬祭などの行事に備えるために、毎月一定の掛金を複数回の支払いで積み立てるサービスです。
冠婚葬祭互助会の会員になることで、葬儀や婚礼といったライフイベントの際に会員割引を受けられるなど、さまざまな面で優遇されます。
一般的な専門葬儀社は、開業にあたって特に許認可は必要ありませんが、冠婚葬祭互助会は経済産業大臣の認可を受けた企業のみ行える事業です。
会員から掛金として支払われた前受金は割賦販売法によって積み立てられた前受金の2分の1を次の何らかの方法で保全することが義務付けられています。
- 法務局に供託する
- 経済産業省の指定する保証会社と供託委託契約を結ぶ
- 銀行や信託会社などの金融機関と供託委託契約を結ぶ
上記のいずれかの方法を選択する必要があります。
また、経済産業省は割賦販売法に基づき互助会事業の経営指導や立入検査等を行っています。
なお現在、冠婚葬祭互助会事業者として登録されている事業者は以下より確認することができます。
経済産業省 前払式特定取引業者(冠婚葬祭互助会)許可事業者一覧
上記のように、冠婚葬祭互助会では政府・行政の認可団体として運営している側面があり、義務である決算公告を発表する事業者が多い状況です。
合掌堂の貸借対照表
決算期 | 第40期 | 第41期 | 第42期 | 第43期 | 第44期 | 第45期 | 第46期 | |
会計年度 | 2018年1月期 | 2019年1月期 | 2020年1月期 | 2021年1月期 | 2022年1月期 | 2023年1月期 | 2024年1月期 | |
利益剰余金 | 17億6千0百万円 | 17億8千2百万円 | 17億8千3百万円 | 17億9千3百万円 | 17億9千5百万円 | 18億2千6百万円 | 18億5千1百万円 | |
資 産 の 部 | 流動資産 | 15億6千7百万円 | 12億8千9百万円 | 13億7千7百万円 | 14億1千2百万円 | 14億1千8百万円 | 14億9千9百万円 | 15億7千1百万円 |
固定資産 | 3億6千2百万円 | 6億9千2百万円 | 5億5千9百万円 | 5億3千2百万円 | 5億4千0百万円 | 4億9千5百万円 | 4億6千0百万円 | |
有形固定資産 | ||||||||
無形固定資産 | ||||||||
投資その他の資産 | ||||||||
繰延資産 | ||||||||
資産合計 | 19億2千9百万円 | 19億8千1百万円 | 19億3千6百万円 | 19億4千4百万円 | 19億5千8百万円 | 19億9千4百万円 | 20億3千1百万円 | |
負 債 の 部 | 流動負債 | 1億5千9百万円 | 1億8千9百万円 | 1億4千2百万円 | 1億4千1百万円 | 1億5千2百万円 | 1億5千9百万円 | 1億7千0百万円 |
役員賞与引当金 | ||||||||
賞与引当金 | 4百万円 | 3百万円 | 4百万円 | 2百万円 | 4百万円 | 3百万円 | 4百万円 | |
その他 | ||||||||
固定負債 | ||||||||
退職給付引当金 | ||||||||
雑収入復活引当金 | ||||||||
役員退職慰労引当金 | ||||||||
その他 | ||||||||
負債の部計 | 1億5千9百万円 | 1億8千9百万円 | 1億4千2百万円 | 1億4千1百万円 | 1億5千2百万円 | 1億5千9百万円 | 1億7千0百万円 | |
純 資 産 の 部 | 株主資本 | 17億7千0百万円 | 17億9千2百万円 | 17億9千3百万円 | 18億0千3百万円 | 18億0千5百万円 | 18億3千6百万円 | 18億6千1百万円 |
資本金 | 1千0百万円 | 1千0百万円 | 1千0百万円 | 1千0百万円 | 1千0百万円 | 1千0百万円 | 1千0百万円 | |
資本余剰金 | ||||||||
資本準備金 | ||||||||
その他資本余剰金 | ||||||||
利益剰余金 | 17億6千0百万円 | 17億8千2百万円 | 17億8千1百万円 | 17億9千3百万円 | 17億9千5百万円 | 18億2千6百万円 | 18億5千1百万円 | |
利益準備金 | 2百万円 | 2百万円 | 2百万円 | 2百万円 | 2百万円 | 2百万円 | 2百万円 | |
特別償却準備金 | ||||||||
その他利益剰余金 | 17億5千8百万円 | 17億7千9百万円 | 17億8千1百万円 | 17億9千1百万円 | 17億9千3百万円 | 18億2千3百万円 | 18億4千9百万円 | |
評価・換算差額等 | ||||||||
その他有価証券評価差額金 | ||||||||
当期純利益 | 1億1千3百万円 | 2千4百万円 | 4百万円 | 1千3百万円 | 5百万円 | 3千3百万円 | 2千8百万円 | |
新株予約権 | ||||||||
自己資本 | ||||||||
評価・換算差額等 | ||||||||
その他有価証券評価差額金 | ||||||||
純資産の部計 | 17億7千0百万円 | 17億9千2百万円 | 17億9千1百万円 | 18億0千3百万円 | 18億0千5百万円 | 18億3千6百万円 | 18億6千1百万円 | |
負債・純資産合計 | 19億2千9百万円 | 19億8千1百万円 | 19億3千5百万円 | 19億4千4百万円 | 19億5千7百万円 | 19億9千5百万円 | 20億3千1百万円 |
貸借対照表でまずチェックしたい箇所は純資産の部です。総資産に対する純資産の比率である「自己資本比率」が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされていますが、10%を下回っている場合は改善が必要な状況といえるでしょう。
自己資本比率が低い場合は借入金などの負債が多いので資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で、自己資本比率が高い場合は返済義務を有しない資金を大量に抱えているので倒産リスクは低くなると考えられます。
自己資本比率は中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、最適とされる自己資本比率は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は最低でも20%程度はあると安心です。
逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は最低でも15%程度は欲しいところです。
貸借対照表の左右(運用状況と調達状況)の合計額は必ず一致する
「資産」=「負債」+「純資産」という計算式が成り立つことから、
貸借対照表のことをバランスシート(Balance Sheet)またはビーエス (B/S) と呼ぶこともあります。
合掌堂の自己資本比率は91.63%
自己資本比率は「自己資本比率(%)=純資産÷総資産×100」の計算式で算出可能です。
合掌堂の自己資本比率を求める式は下記のようになります。
18億6千1百万円÷20億3千1万円×100=91.62
合掌堂の2024年1月期における自己資本比率は、91.63%(前年同期比0.45%減)となっています。
合掌堂の資産と負債について
自己資本比率の次に確認したいのは、資産と負債の額になります。
貸借対照表でいうところの資産は左側に、負債は右側上段に記載があります。
この赤い円の箇所を確認することで、その会社の資産と借金の額を確認できます。
資産合計の推移
貸借対照表の左側に記載されており、「会社の所有する資産」を表します。
資産は下記の3つに構成されています。
・流動資産 = 1年以内に現金化もしくは費用化できる資産
例) 現金、有価証券、商品、製品など
・固定資産 = 長期にわたって会社が保有するものや1年を超えて現金もしくは費用となる資産で有形固定資産や無形固定資産がある。
例)・有形固定資産:建物、土地、車など
・無形固定資産:ソフトウェアなど
・繰延(くりのべ)資産 = 会社設立にかかった費用や社債発行にかかった費用を一括して費用として計上せずに資産として計上し期間内(数年など)に分けて償却するものとなります。
例) 創立費、開業費、開発費など
合掌堂の資産合計の推移は以下のようになっています。
合掌堂の2024年1月期における資産合計は20億3千1百万円(前年同期比1.86%増)となっています。
合掌堂の資産合計は少しずつ増加しており、2024年1月期の資産合計は、過去7年間で最高額となっています。
負債合計の推移
貸借対照表の右側上段に記載されており、「返す必要のある他人からの借金」を表します。
負債は下記の2つで構成されています。
・流動負債 = 1年以内に支払い期日を迎える負債となります。
例) 家賃、従業員の給与や賞与、買掛金(サービスや商品の金額を後払いするもの)など
・固定負債 = 1年以内に支払い期日を迎えない負債となりますので、流動負債以外の負債は固定負債になるということです。
例) 従業員の退職金、社債、長期借入金など
合掌堂の負債合計の推移は以下のようになっています。
合掌堂の2024年1月期における負債合計は1億7千0百万円(前年同期比6.92%増)となっています。
過去7年間でみても合掌堂の負債合計に大きな増減はなく、経営安定性指標の一つである負債比率(負債合計÷純資産×100)も9.13%(安全ラインは100%以下)と全く問題ない状況です。
また流動比率(流動資産÷流動負債×100)も、2024年1月期の時点で924.12%(安全ラインは100%以上)となっており、短期的な支払い能力についても不安は感じられません。
合掌堂の純資産について
自己資本比率、資産合計、そして負債合計をみてきましたが、最後に確認したいのは「純資産」となります。
純資産は貸借対照表でいうところの右側下段に記載があります。
純資産は資産(現金、土地、建物など)から負債(借金)を差し引いたものです。
この赤い丸の箇所を確認することでその会社の純資産を確認できます。
合掌堂の純資産合計、当期純利益、利益剰余金の推移はそれぞれ以下のようになっています。(各用語についても分かりやすく解説しています)
純資産合計の推移
会社の所有する現金や建物などの資産から負債(借金)を差し引いたものとなります。
純資産の割合が高ければ財務健全性が高いと考えられます。一方で、純資産がマイナスの状態を債務超過といい、2期連続で債務超過の状態が続いた場合、東証上場の廃止基準に抵触することがあります。
合掌堂の2024年1月期における純資産合計は、18億6千1百万円(前年同期比1.36%増)となっています。
過去7年間における合掌堂の純資産合計は、緩やかな増加を継続しています。
当期純利益の推移
会社が1年間で得た全収益から法人税や住民税そして費用を差し引いたものが当期純利益となります。
この当期純利益がマイナスとなると当期純損失となります。
当期純利益の額をみることで、その会社の収益性がどのくらいなのか判断できる指標になります。
合掌堂の2024年1月期における当期純利益は2千8百万円(前年同期比15.15%減)となっています。
2018年1月期の当期純利益は1億円を超えていますが、これは2019年10月に行われた消費増税前の駆け込み需要の影響による特例と思われます。
全体的に見ると、株式会社合掌堂は2020年と2022年に一時的な業績の落ち込みがあったものの、2023年以降は回復傾向にあると言えそうです。
利益剰余金の推移
利益剰余金とは簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずにコツコツと社内で貯めたお金です。正確な会計用語ではないですが利益剰余金のことを内部留保とも言います。
内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。利益剰余金は貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。
内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で収益状況が悪化した際にも、従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため、企業が生き残るための重要な資金源となります。
合掌堂の場合は以下のように推移しております。
合掌堂の2024年1月期における利益剰余金は、18億5千1百万円(前年同期比1.37%増)となっています。
過去7年間にわたり、合掌堂の利益剰余金は緩やかに増加しており、堅調に推移しています。
合掌堂のまとめ
今回は株式会社 合掌堂の決算公告を参考に、現状分析を行いました。
最盛期にくらべ市場が半減したといわれる仏壇販売業界の中でも、愛グループが運営する「合掌堂」の業績は、莫大な利益を生じさせているわけではないものの、想像以上に安定しているようです。
近年では葬祭事業・仏壇販売事業・墓石販売事業を単体として捉えるのではなく、複合的にライフエンディング領域として扱う企業も増えています。
これは、葬儀施行までに顧客との信頼関係を構築できれば、仏壇・墓石購入や霊園墓地の利用につながりやすくなるためです。
こういった動きに対応するかたちで、愛グループでは冠婚葬祭行事や仏壇やお墓に関する相談の総合受付となる「冠婚葬祭なび」を、集客力のある「イオンモール」や「ゆめタウン」といったショッピングモールに、2018年12月から積極的に出店しています。
2024年10月には、岩国中央典礼会館施設内に完全屋内型の納骨堂「鶴林」がオープンしました。
こうした顧客との接点増加への強化策が、「合掌堂」の業績安定に寄与している可能性もありそうです。
葬研では、今後の合掌堂の決算公告にも引き続き注目していきたいと思います。