葬儀・葬祭事業運営における適格消費者団体および消費者団体訴訟制度について詳しく解説

葬儀業界と適格消費者団体

近年では、冠婚葬祭互助会の高額な解約手数料に対して、複数の訴訟が提起されています。
こうした訴訟に際し、消費者に代わって事業者に「差止請求」を行っているのが「適格消費者団体」です。

国民生活センターには、葬儀に関する相談が毎年700件ほど寄せられていますが、こういった情報の一部は適格消費者団体にも提供されています。
また国民生活センターでは、消費者の被害拡大や防止に向けて、適格消費者団体に対し支援も行っているようです。

消費者保護に向けた活動は加速傾向にあり、葬儀業界に対しても厳しい目が向けられています。
すでに葬儀社に対して、適格消費者団体からの業務改善「申し入れ」も行われており、各葬儀社様においても他人事ではありません。

そこで本記事では、適格消費者団体および消費者団体訴訟制度について詳しく解説します。
実例もいくつか紹介していますので、参考にしていただけると幸いです。

目次

適格消費者団体とは?

消費者団体

消費者が事業者から不当な勧誘にあったなどの不利益を被った場合、消費者保護の観点から設けられた「消費者団体訴訟制度」を利用できます。
「消費者団体訴訟制度」において、消費者個人に代わって事業者に対する訴訟を提起できるのが、内閣総理大臣が認定した適格消費者団体です。

「適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドライン」を作成しているのは消費者庁であるため、実質的な監督官庁は消費者庁と考えられる

適格消費者団体の活動内容

消費者被害の未然防止や拡大防止に向けて、情報収集や調査・消費者への情報提供を行うのが、適格消費者団体の日常的な活動です。
適格消費者団体が行使できる主な権限は、事業者に対する「差止請求」「被害回復(特定適格消費者団体のみ)」の2つとなっています。

差し止め請求

差し止め

事業者の不当な広告表示・契約条項などの情報が消費者から寄せられた場合、まずは事業者に対して改善の申入れが行われます。
申し入れに対して事業者が是正に応じない場合は、問題解決に向けた「差止請求訴訟」の提起も可能です。

被害回復

適格消費者団体の中でも、より厳格な要件を満たした特定適格消費者団体は、数十人規模の消費者被害が発生した場合に、事業者に対する「集団的被害回復訴訟」の提起も可能です。

「集団的被害回復訴訟」では、裁判所から被害金の返還義務に対する確認判決を得たのちに、被害を受けた消費者に呼びかけを行ない、事業者に対して確定した被害額の返還が請求されます。
1件あたりの賠償額は少なくても、呼びかけに応じた多数の消費者被害が認定されれば、事業者が支払う賠償額は莫大です。

こうした事例が積み上げられることで、悪質な事業者の排除につながるとともに、同様の被害発生の抑止力ともなっています。

全国の適格消費者団体

全国には23の適格消費者団体(2022年10月現在)が存在し、そのうち4団体が特定適格消費者団体に認定されています。

このうち特定適格消費者団体は、消費者機構日本・消費者支援機構関西・埼玉消費者被害をなくす会・消費者支援ネット北海道の4団体となっています。

出典:国民生活センター「消費者団体訴訟制度(団体訴権)の紹介」

消費者団体訴訟制度の概要

団体

民事訴訟では、原則的に被害を受けた消費者個人が原告となり、加害者である事業者に対する訴訟を起こすことになります。
とはいえ、消費者個人での情報収集には限界があり、経験豊富な事業者に対して裁判を優位に進めるのは容易ではありません。

また回復される被害額が少額の場合、裁判に要する費用や労力・時間に見合わないケースも少なくないでしょう。

さらに消費者個人が被害回復を得たとしても、同様の被害が拡大することは止められません。
しかし適格消費者団体が消費者に代わって訴訟を提起することで、より多くの消費者被害を防止し、不特定多数の被害者救済が可能になります。

「差止請求」の対象行為

適格消費者団体が「差止請求訴訟」を提起する場合、対象となるのは「消費者契約法」「景品表示法」「特定商取引法」「食品表示法」への触法行為となります。
事前に事業者に対する是正の申し入れが行われ、事業者側に業務改善がみられない場合は「差止請求訴訟」を起こされるのが一般的な流れです。

差止請求訴訟の流れ

出典:政府広報オンライン「消費者団体訴訟制度不当な勧誘や契約条項などによる消費者トラブルに遭ったら活用を!」

消費者契約法

契約

消費者と事業者との間で行われる物品の売買や、有料サービス利用などに関する契約を「消費者契約」といいます。
契約の締結は双方の当事者合意のもとに行われますが、事業者と消費者では情報量や交渉力に格差があるため、消費者に不利な契約内容になるケースも少なくありません。

こういった状況から消費者を保護するための法律が「消費者契約法」で、消費者・事業者間で交わされたすべての消費者契約に適用されます。

「消費者契約法」は2001年4月に施行されて以降、繰り返し「取消しできる契約の範囲の拡大」「無効となる不当な契約条項の追加」などの改正が行われているのが現状です。

『事業者の不当な勧誘によって契約をしたときは、消費者はその契約の「取消し」が可能』
『消費者の権利を不当に害する契約条項は「無効」』といった内容が盛り込まれており、葬儀業界も無関係ではありません。

参照:政府広報オンライン「消費者契約法これだけは知っておきたい消費者契約のABC」

景品表示法

「景品表示法」は正式名称を「不当景品類及び不当表示防止法」といい、消費者の利益保護を目的として制定されています。
「景品表示法」では「不当表示の禁止」「景品類の制限及び禁止」が定められていますが、葬儀事業に関連するのは主に「不当表示の禁止」と考えられます。

実際の事例としては、過去に葬儀ポータルサイト「小さなお葬式」「よりそうお葬式(現よりそう)」「イオンのお葬式」に対して、有利誤認による不当表示が認められたとして、各社に課徴金納付命令が発出されています。

このあたりの経緯については「競争激化による淘汰が進む葬儀ポータル業界|概要と現況を解説」にて詳述しておりますので、参考にしていただけると幸いです。

特定商取引法

勧誘

「特定商取引法」は消費者利益の保護を目的とし、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止する法律です。 
訪問販売や通信販売等の営業活動を対象にした勧誘規制や、消費者保護のためのクーリング・オフ制度などについて定めています。

冠婚葬祭互助会事業については、別途「割賦販売法」上の前払い式特定取引業者としての規制を受けていますが、訪問営業や電話営業など勧誘行為に対しては「特定商取引法」が適用されています。

食品表示法

「食品表示法」は食の安全性を確保するとともに、消費者が食品を選ぶための適正な表示を定めた法律です。
代表的な「食品表示法」に対する違反行為としては、食品の産地偽装や消費期限改ざんなどがあります。

こういった事情から、葬儀業界で「食品表示法」違反を原因とする「差止請求」が行われる可能性は低いと考えられます。

「被害回復」の対象被害

「被害回復」の対象は以下の通りです。

  • 契約上の債務の履行の請求
  • 不当利得に係る請求
  • 契約上の債務の不履行による損害賠償の請求
  • 不法行為に基づく損害賠償の請求

また「被害回復」の一般的な流れは、下図のようになっています。

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出典:政府広報オンライン「消費者団体訴訟制度不当な勧誘や契約条項などによる消費者トラブルに遭ったら活用を!」

現在のところ、葬儀業界において「被害回復」訴訟事例は確認できていませんが、今後もないとは言い切れません。
また「消費者契約法」自体も、改正されるたびに対象範囲が拡大されているため、現在の営業方法が将来的に触法行為となる可能性もあります。

各自治体で起きていること

オペレーター

前述したように、全国では23の適格消費者団体が活動していることに加え、各自治体には消費者生活センターも設置されています。
消費者生活センターに寄せられた相談情報は、PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)を通じて国民生活センターに蓄積され、適格消費者団体にも情報提供されているようです。

各地の適格消費者団体は提供された情報をもとに、問題のある事業者に対して業務改善の申し入れを行っています。
しかし申し入れを拒否する、あるいは改善がみられない場合は、当該事業者を相手取って「差止請求訴訟」を提起するケースも少なくありません。

葬儀業界でも、適格消費者団体から業務改善の申し入れを受けた、あるいは「差止請求訴訟」を提起された事例が存在します。
以下に紹介するのは、各地で葬儀・葬祭事業者に対して行われた「申し入れ」と「差止請求訴訟」の実例です。

会員規約に関する改善申し入れ事例

消費者

近年では葬儀業界でも会員制度を設けている事業者が増えていますが、各社における会員規約の中には法的に問題となる内容が含まれているケースもあるようです。
そういった状況において、各地の適格消費者団体から事業者に対し、改善の「申し入れ」が行われています。

京都消費者契約ネットワークの事例

京都府の冠婚葬祭事業者「セレマサービス」が提供していた「ダイヤモンドサポート」の規約に対して、京都消費者契約ネットワークが是正の「申し入れ」を行った事例です。
「ダイヤモンドサポート」は、加入者が一定額を「前納」することで「葬祭サービス」費用の「割引」が受けられるというシステムでした。

しかし「ダイヤモンドサポート」規約には、加入者が契約後 11 ヶ月未満で「葬祭サービス」の施行を希望した場合、契約金額の2~3割に及ぶ「早期葬祭施行付加金」の支払い条項がありました。
また加入者が「ダイヤモンドサポート」を解約した場合の返金額は、葬祭式場建設協力金を差し引き、納入金額の1/2とされていたようです。

この規約に対して、京都消費者契約ネットワークから是正の「申し入れ」が行われた結果、業務改善が見られたため解決となっています。

参照:適格消費者団体 NPO法人 京都消費者契約ネットワーク「冠婚葬祭関連ー申し入れ・差止請求」

消費者被害防止ネットワーク東海(旧あいち消費者被害防止ネットワーク)の事例

岐阜県の冠婚葬祭事業者「メモリア」の会員制度「ハートフルメンバーズ」規約について、あいち消費者被害防止ネットワーク(現消費者被害防止ネットワーク東海)より是正の「申し入れ」が行われた事例です。

「ハートフルメンバーズ」規約には、解約した場合に一切返金しない旨の記述があり、この条項の削除が求められました。
この「申し入れ」に対して「メモリア」が一定の改訂を行い、当該事例はいったん終了となっています。

参照:適格消費者団体 NPO法人消費者被害防止ネットワーク東海「旧あいち消費者被害防止ネットワークの申し入れ是正の活動」

冠婚葬祭互助会の解約手数料に関する事例

訴訟

かねてより問題視されていた冠婚葬祭互助会における高額な解約手数料ですが、消費者団体訴訟制度が設けられて以降、各地で「差止請求訴訟」が提起されています。

すでに結審している訴訟もありますが、適格消費者団体側の主張を認める判決と、事業者側の主張を認める判決に分かれている状況です。
今後も同様の訴訟が続くものと想定されますが、裁判所の判断にどちらの判例が影響を及ぼすのか注目されています。

このあたりの詳細に関しては「存在意義が問われる冠婚葬祭互助会|互助会のクレーム・問題に関する口コミ」にて解説していますので、参考にしていただけると幸いです。

京都消費者契約ネットワークの事例

裁判

冠婚葬祭互助会事業者「セレマ」が設定した高額な解約手数料に対し、京都消費者契約ネットワークが「差止請求訴訟」を提起した事例です。
京都消費者契約ネットワークは、消費者契約法第9条1項第10条を根拠として、解約手数料条項は無効と主張していました。

■消費者契約法第9条1項(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
・次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分

■消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

引用元:消費者契約法(平成十二年法律第六十一号)

この訴訟は、京都消費者契約ネットワーク側の主張が、おおむね認められるかたちの大阪高等裁判所の判断が確定しています。
その結果「セレマ」は、訴訟に参加した方については解約手数料を大幅に減額しましたが、それ以外の加入者については従来通りの対応を行っているようです。

そういった動きに対し、京都消費者契約ネットワークは、過去に解約した加入者に対しても返金すべきとの「申し入れ」を行っていますが、「セレマ」からは拒否されています。

消費者支援機構福岡の事例

冠婚葬祭互助会事業者「日本セレモニー」の高額な解約手数料に対し、消費者支援機構福岡が「差止請求訴訟」を提起した事例です。
訴訟内容としては、京都消費者契約ネットワークの事例とおおむね同じですが、福岡高等裁判所の判断は事業者側の主張を認めるもので、大阪高等裁判所の判断とは真逆となっています。

参照:消費者庁「消費者支援機構福岡と株式会社日本セレモニーの控訴審判決について 

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葬儀における問題点

消費者保護に対する機運の高まりに伴い、葬儀業界でもさまざまな改善がなされていますが、残念ながら十分とはいえない状況です。
葬儀・葬祭事業は業務内容が特殊で、一般消費者にとっては理解しづらい面も多いため、他のサービス業以上の配慮が求められます。

冠婚葬祭互助会の解約金問題

積立金

全国各地で複数の訴訟が提起されていることからも分かる通り、冠婚葬祭互助会の高額な解約手数料は、葬儀業界で最も大きな問題といえるでしょう。

冠婚葬祭互助会事業は、前払式特定取引という特殊な契約形態をとっているため、経済産業省の許可事業となっています。
現時点で多くの規制が設けられていますが、複数の「差止請求訴訟」が提起されている現状を考慮に入れると、さらに厳しい規制が設けられることは避けられそうにありません。

現時点では強硬な姿勢を取っている冠婚葬祭互助会もあるようですが、いずれ規制が強化されることは目に見えていますので、対応策を早めに練っておく必要があります。

強引な勧誘や契約

しつこい勧誘

一般消費者に対する強引な勧誘や、無理やり契約させるといった行為は「消費者契約法」で明確に禁じられています。
にもかかわらず、葬儀業界では未だに行われているケースがあるようで、PIO-NETにも複数の相談が登録されているようです。

ほとんどの葬儀社様が業界のイメージアップに取り組んでいる中で、一部の悪質業者が「消費者契約法」を無視している現状は、決して看過できるものではありません。
すでに各葬儀社様でも営業担当者への適切な教育を施されているものと思いますが、今一度の見直しをおすすめします。

葬儀社の説明不足

丁寧な説明

国民生活センターに寄せられた相談の中には、見積書の不提示、または不明瞭な金額提示といった事例が散見されます。

一般消費者にとって、葬儀という非日常の取引に関する費用項目は理解しづらいものです。
そのうえ金額も不明瞭で丁寧な説明もなければ、事業者に対して不信感を抱くのは当然でしょう。

「消費者契約法」でも、不実告知や不利益事実の不告知は、契約取り消しの対象となっています。
こうした状況を作らないよう、より丁寧な説明が求められます。

おわりに

今回は適格消費者団体、および「消費者団体訴訟制度」と葬儀業界の関わりについて解説しました。

消費者保護の推進は、営利企業の営業活動を委縮させるという意見もありますが、関係法令を遵守していれば特に問題は無いはずです。
さらに言えば、消費者保護が推進されることで悪質な事業者は排除されますので、業界の健全化に寄与するという考え方もできるでしょう。

葬儀業界においても、ほとんどの葬儀社様は法律に抵触するような営業を行っておらず、消費者に寄り添った経営をなされているかと思います。
しかし日々の業務において、わずかな気の緩みが消費者に不信感を抱かせるケースも少なくありません。

各葬儀社様におかれましては、常に消費者目線に立った経営が求められます。

葬研では、過去10年にわたって各地の消費者センターや国民生活センターに寄せられた、葬儀やお墓に関する消費者の声をカテゴリー別にまとめました。
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