株式会社 アステップ信州~法祥苑~┃冠婚葬祭互助会の業績・利益をまとめて分析

アステップ信州社法祥苑の業績と利益について

葬儀社の業績・利益を調べる場合、帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、葬儀社の業績・利益の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。

今回は株式会社アステップ信州の現状について、貸借対照表をもとに分析いたします。
決算公告は上場企業の決算資料ほど詳細ではありませんが、事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。

目次

株式会社アステップ信州の概要

株式会社 アステップ信州は、1898年(明治31年)9月に長野県松本市に「池田六衛三六呉服店」を創業し、1976年(昭和51年)10月に「株式会社 信州生活互助会」を設立したところから始まりました。
その後、2011年(平成13年)7月に現在の社名「株式会社 アステップ信州」に変更しています。
社名は英語の「a step」と「明日(あす)」を組み合わせたことばから名づけられました。

アステップ信州「法祥苑」名義で事業展開しており、長野県松本市、安曇野市、塩尻市、大町市、北安曇郡、東筑摩郡をおもな営業エリアとし、12か所の葬祭ホールを運営しています。
また、松本市では結婚式場「レ アール ド セゾン・セージ」の運営と「染・織 三六」の名称で呉服販売、レンタル事業もおこなっています。

【名称】株式会社 アステップ信州
【設立】昭和51年10月
【代表取締役】池田 良之
【所在地】長野県松本市埋橋2-6-1
【公式サイト】https://www.astep-s.com/
【事業内容】・冠婚葬祭に関し、割賦販売法に規定する、前払式特定      
      ・取引の方法による役務の提供・商品の売渡
      ・冠婚葬祭の会場・宴会場・貸会議場の経営
      ・貸衣裳業及び引出物・みやげ品の販売・斡旋
      ・葬儀に関する役務の提供・商品の販売
      ・料理・飲食・喫茶店の経営
      ・損害保険代理店及び生命保険の募集に関する業務
      ・呉服類・宝石類・毛皮・寝具・インテリアの販売
      ・一般写真業の経営
      ・前各号に附帯する一切の業務

出典:株式会社 アステップ信州 会社概要

葬儀社の決算公告とは

決算公告資料はその会社が健全な経営を行っているかを確認できる計算書類となります。株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告といいます。

公告の方法は全部で3つあります。

  • 官報に掲載
  • 日刊新聞紙に掲載
  • 電子公告(会社のウェブサイトに掲載)

決算公告は義務的な側面が強いですが、取引先や銀行に情報の開示を行うことで、自社の透明性や健全性を見せることができるという重要な側面も持ち合わせております。

なぜ葬儀社は決算公告をおこなうのか?

大手葬儀社、あるいは葬儀・葬祭事業を長きにわたって営んでいる会社は、冠婚葬祭互助会を運営するケースが少なくありません。

冠婚葬祭互助会とは、冠婚葬祭などの行事に備えるために、毎月一定の掛金を複数回の支払いで積み立てるサービスです。
冠婚葬祭互助会の会員になることで、葬儀や婚礼といったライフイベントの際に会員割引を受けられるなど、さまざまな面で優遇されます。

一般的な専門葬儀社は、開業にあたって特に許認可は必要ありませんが、冠婚葬祭互助会は経済産業大臣の認可を受けた企業のみ行える事業です。

冠婚葬祭互助会の仕組み
出典:一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会ホームページより
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会員から掛金として支払われた前受金は割賦販売法によって積み立てられた前受金の2分の1を次の何らかの方法で保全することが義務付けられています。

  • 法務局に供託する
  • 経済産業省の指定する保証会社と供託委託契約を結ぶ
  • 銀行や信託会社などの金融機関と供託委託契約を結ぶ

上記のいずれかの方法を選択する必要があります。

また、経済産業省は割賦販売法に基づき互助会事業の経営指導や立入検査等を行っています。
なお現在、冠婚葬祭互助会事業者として登録されている事業者は以下より確認することができます。

経済産業省 前払式特定取引業者(冠婚葬祭互助会)許可事業者一覧

上記のように、冠婚葬祭互助会では政府・行政の認可団体として運営している側面があり、義務である決算公告を発表する事業者が多い状況です。

アステップ信州の貸借対照表 

決算期42期43期44期45期46期47期
会計年度2018年6月期2019年6月期2020年6月期2021年6月期2022年6月期2023年6月期
利益剰余金15億4千0百万円18億0千0百万円18億1千6百万円11億2千5百万円12億8千4百万円16億4千5百万円



流動資産25億9千8百万円29億1千5百万円28億8千0百万円27億2千5百万円28億1千3百万円28億7千9百万円
固定資産78億2千2百万円77億0千5百万円78億7千6百万円74億4千9百万円79億1千7百万円78億2千6百万円
有形固定資産
無形固定資産
投資その他の資産
繰延資産
資産合計104億2千0百万円106億2千0百万円107億5千6百万円101億7千4百万円107億3千0百万円107億0千5百万円



流動負債9億8千7百万円9億6千4百万円8億5千4百万円9億1千6百万円9億0千0百万円9億3千4百万円
役員賞与引当金
賞与引当金
その他
固定負債78億5千3百万円78億1千6百万円80億4千8百万円80億9千5百万円85億0千9百万円80億8千9百万円
退職給付引当金
雑収入復活引当金
役員退職慰労引当金
その他
負債の部計88億4千0百万円87億8千0百万円89億0千2百万円90億1千1百万円94億0千9百万円90億2千3百万円




株主資本15億8千0百万円18億4千0百万円18億5千4百万円11億6千2百万円13億2千1百万円16億8千2百万円
資本金4千0百万円4千0百万円4千0百万円4千0百万円4千0百万円4千0百万円
 資本余剰金
資本準備金
その他資本余剰金
 利益剰余金15億4千0百万円18億0千0百万円18億1千6百万円11億2千5百万円12億8千4百万円16億4千5百万円
利益準備金1千0百万円1千0百万円1千0百万円1千0百万円1千0百万円1千0百万円
特別償却準備金
その他利益剰余金15億3千0百万円17億9千0百万円18億0千6百万円11億1千5百万円12億7千4百万円16億3千5百万円
評価・換算差額等
その他有価証券評価差額金
(うち当期純利益)2億1千7百万円2億6千2百万円1千7百万円-6億9千0百万円1億6千1百万円3億6千2百万円
新株予約権
自己資本-2百万円-3百万円-3百万円-3百万円
評価・換算差額等
その他有価証券評価差額金
純資産の部計15億8千0百万円18億4千0百万円18億5千6百万円11億6千5百万円13億2千4百万円16億8千5百万円
負債・純資産合計104億2千0百万円106億2千0百万円107億5千6百万円101億7千3百万円107億3千0百万円107億0千5百万円

貸借対照表でまずチェックしたい箇所は純資産の部です。総資産に対する純資産の比率である「自己資本比率」が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
例えば自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされていますが、自己資本比率が10%を下回るのは好ましくないといわれています。

自己資本比率が低い場合は借入金などの負債が多いので資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で、自己資本比率が高い場合は返済義務を有しない資金を大量に抱えているので倒産リスクは低くなると考えられます。

自己資本比率は中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、自己資本比率は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は最低でも20%程度はあると安心です。

逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は最低でも15%程度は欲しいところです。

のれん:その会社が持つ技術やブランドで、目には見えない価値の高い資産のこと

貸借対照表の左右(運用状況と調達状況)の合計額は必ず一致する
「資産」=「負債」+「純資産」という計算式が成り立つことから、
貸借対照表のことをバランスシート(Balance Sheet)またはビーエス (B/S) と呼ぶこともあります。

アステップ信州の自己資本比率は15.74%

自己資本比率は「自己資本比率(%)=純資産÷総資産×100」の計算式で算出可能です。
アステップ信州の場合は以下のようになります。

16億8千5百万円÷107億0千5百万円×100=15.74%

アステップ信州の2023年6月期の自己資本比率は15.74%(前年同期比3.4%増)となっています。

アステップ信州の資産と負債について

自己資本比率の次に確認したいのは、資産と負債の額になります。
貸借対照表でいうところの資産は左側に、負債は右側上段に記載があります。

この赤い円の箇所を確認することで、その会社の資産と借金の額を確認できます。

資産合計の推移

貸借対照表の左側に記載されており、「会社の所有する資産」を表します。
資産は下記の3つに構成されています。

・流動資産 = 1年以内に現金化もしくは費用化できる資産
例) 現金、有価証券、商品、製品など

・固定資産 = 長期にわたって会社が保有するものや1年を超えて現金もしくは費用となる資産で有形固定資産や無形固定資産がある。
例)・有形固定資産:建物、土地、車など
  ・無形固定資産:ソフトウェアなど

繰延(くりのべ)資産 = 会社設立にかかった費用や社債発行にかかった費用を一括して費用として計上せずに資産として計上し期間内(数年など)に分けて償却するものとなります。
例) 創立費、開業費、開発費など

アステップ信州の資産合計の推移は以下のようになっています。

アステップ信州の2023年6月期の資産合計は、107億0千5百万円(前年同期比0.23%減)となりました。
新型コロナの影響を受けたとみられる、2021年は前年より減少し、2022年には増加に転じていましたが、2023年には少しではありますが再び減少しました。

負債合計の推移

貸借対照表の右側上段に記載されており、「返す必要のある他人からの借金」を表します。
負債は下記の2つで構成されています。

流動負債 = 1年以内に支払い期日を迎える負債となります。
例) 家賃、従業員の給与や賞与、買掛金(サービスや商品の金額を後払いするもの)など

固定負債 = 1年以内に支払い期日を迎えない負債となりますので、流動負債以外の負債は固定負債になるということです。
例) 従業員の退職金、社債、長期借入金など

アステップ信州の負債合計の推移は以下のようになっています。

アステップ信州の2023年6月期の負債合計は、90億2千3百万円(前年同期比4.10%減)となっています。
2020年から緩やかに増加していましたが、2023年には減少に転じました。

資産・負債の状況を確認すると、短期的な安全指標とされる流動比率(流動資産÷流動負債×100)は、2023年6月期の時点で308.24%と安全圏(120%以上)を維持している状況です。

アステップ信州の純資産について

自己資本比率、資産合計、そして負債合計をみてきましたが、最後に確認したいのは「純資産」となります。
純資産は貸借対照表でいうところの右側下段に記載があります。

純資産は資産(現金、土地、建物など)から負債(借金)を差し引いたものです。

この赤い丸の箇所を確認することでその会社の純資産を確認できます。
アステップ信州の純資産合計、当期純利益、利益剰余金の推移はそれぞれ以下のようになっています。(各用語についても分かりやすく解説しています)

純資産合計の推移

会社の所有する現金や建物などの資産から負債(借金)を差し引いたものとなります。

純資産の割合が高ければ財務健全性が高いと考えます。一方で、純資産がマイナスの状態を債務超過といい、2期連続で債務超過の状態が続いた場合、東証上場の廃止基準に抵触することがあります。

アステップ信州の2023年6月期における純資産合計は、16億8千5百万円(前年同期比27.27%増)となっています。

2020年から2021年にかけて新型コロナの影響を受け、葬儀業界の収益も悪化する傾向でした。
アステップ信州も2021年には純資産合計が前年より7億円近くも減少しましたが、2022年には前年より約1億5千万円増加し、2023年にはさらに3億円以上増加しており、順調に回復しています。

当期純利益の推移

会社が1年間で得た全収益から法人税や住民税そして費用を差し引いたものが当期純利益となります。
この当期純利益がマイナスとなると当期純損失となります。

当期純利益の額をみることで、その会社の収益性がどのくらいなのか判断できる指標になります。

2023年6月期のアステップ信州の当期純利益は、3億6千2百万円(前年同期比124.8%増)となりました。
2021年には6億9千万円の当期純損失が発生していましたが、2022年では1億6千1百万円プラスとなり、2023年には大きく回復しています。

新型コロナ発生前の2019年6月期までは、2億円以上の当期純利益を保っていたことを考えると、2020年・2021年のコロナの影響はかなり大きかったと思われます。

利益剰余金の推移

利益剰余金とは簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずにコツコツと社内で貯めたお金です。正確な会計用語ではないですが利益剰余金のことを内部留保とも言います。
内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。利益剰余金は貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。

内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で収益状況が悪化した際にも、従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため、企業が生き残るための重要な資金源となります。

アステップ信州の場合は以下のように推移しております。

アステップ信州の2023年の利益剰余金は、16億4千5百万円(前年同期比28.12%増)となっています。
2020年6月期まで増加を続けていましたが、2021年6月期には当期純損失が発生した影響から、11億2千5百万円(前年同期比38.05%減)となっていました。
しかし、2022年からは増加に転じ、2023年にはさらに大幅に増加しました。

利益剰余金は一時的な収益悪化などに備えるためのものですので、アステップ信州ではコロナの影響下で、しっかりと役割を果たしたようです。

株式会社アステップ信州のまとめ

今回は株式会社アステップ信州の決算公告を参考に、現状分析をおこないました。
今回の決算公告分析を通して、新型コロナが葬儀業界に与えた影響の大きさを、あらためて感じさせられました。
しかしアステップ信州では、地域に根ざした冠婚葬祭事業を続けており、経営状態に不安要素は少ないように感じられます。

アステップ信州は、2022年8月に新ブライダルエリア「レ アール ド セゾン・セージ」をオープンし、2023年7月にはきもの・洋菓子・ギフト各事業をおこなう関連会社として「サン・サント株式会社」を設立しました。
今後も事業の拡大が予想され、コロナの影響が少なくなったこれからの動向に注目したいと思います。

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