葬儀社の業績・利益を調べる場合、帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、葬儀社の業績・利益の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。
今回は株式会社 ビップの現状について、貸借対照表をもとに分析いたします。
上場企業の決算資料ほど詳細ではありませんが、事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。
株式会社 ビップの概要
「株式会社 ビップ」は新潟県新潟市に本社を置き、新潟県内で婚礼・葬祭サービス事業や貸衣装事業を運営する冠婚葬祭互助会事業者です。
「株式会社 ビップ」は主に機械部品などを取り扱う新潟県の金属加工会社「北陸工業株式会社」の子会社として設立されました。
1979年5月の創業時は「株式会社玉姫グループ」名義でしたが、同年10月には商号を「株式会社ブイアイピー互助センター」に変更、さらに翌年1月に三条市旭町で「VIP葬祭センター」として葬祭事業の営業を開始しています。
1987年10月に本社を新潟市中央区に移転し、社名も現在の「株式会社 ビップ」に変更しました。
1988年には葬祭事業を分離独立し「株式会社ジャクセン」を設立しましたが、2000年7月に葬祭部として統合し現体制に至っています。
「株式会社 ビップ」は、新潟県内に結婚式場4カ所、コスチュームサロン(貸衣装)4カ所、および葬祭ホール30カ所を展開しています。
1997年から1999年にかけて、葬祭ホールを「典礼会館」名義で展開していましたが、現在では「シティホール」名義で統一されているようです。
葬儀社の決算公告とは
決算公告はその会社が健全な経営を行っているかを確認できる計算書類となります。以下に、決算公告についての簡単な概要を記載しました。
株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告と言います。
公告の方法は全部で3つあります。
- 官報に掲載
- 日刊新聞紙に掲載
- 電子公告(会社のウェブサイトに掲載)
決算公告は義務的な側面が強いですが、取引先や銀行に情報の開示を行うことで、自社の透明性や健全性を見せることができるという重要な側面も持ち合わせております。
なぜ葬儀社は決算公告をおこなうのか?
葬儀社の大手あるいは長年 葬儀・葬祭事業を営む会社は冠婚葬祭互助会を運営するケースが多いです。
冠婚葬祭互助会とは冠婚葬祭などの行事に備えるために毎月一定の掛金を複数回の支払いで積み立てるサービスとなっております。互助会の会員になることで葬儀や婚礼で割引などの優遇があります。
冠婚葬祭互助会は経済産業大臣の認可を受けた事業者となります。
会員から掛金として支払われた前受金は割賦販売法によって積み立てられた前受金の2分の1を次の何らかの方法で保全することが義務付けられています。
- 法務局に供託する
- 経済産業省の指定する保証会社と供託委託契約を結ぶ
- 銀行や信託会社などの金融機関と供託委託契約を結ぶ
上記のいずれかの方法を選択する必要があります。
また、経済産業省は割賦販売法に基づき互助会事業の経営指導や立入検査等を行っています。
なお現在、冠婚葬祭互助会事業者として登録されている事業者は以下より確認することができます。
経済産業省 前払式特定取引業者(冠婚葬祭互助会)許可事業者一覧
上記のように、冠婚葬祭互助会では政府・行政の認可団体として運営している側面があり、義務である決算公告を発表する事業者が多い状況です。
ビップの貸借対照表

貸借対照表でまずチェックしたい箇所は純資産の部です。総資産に対する純資産の比率である「自己資本比率」が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
例えば自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされています。自己資本比率が10%を下回っている場合は経営状態は良いとは言えません。
自己資本比率が低い場合は借入金などの負債が多いので資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で、自己資本比率が高い場合は返済義務を有しない資金を大量に抱えているので倒産リスクは低くなると考えられます。
自己資本比率は中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、自己資本比率は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は最低でも20%程度はあると安心です。
逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は最低でも15%程度は欲しいところです。
のれん:その会社が持つ技術やブランドで、目には見えない価値の高い資産のこと
貸借対照表の左右(運用状況と調達状況)の合計額は必ず一致する
「資産」=「負債」+「純資産」という計算式が成り立つことから、
貸借対照表のことをバランスシート(Balance Sheet)またはビーエス (B/S) と呼ぶこともあります。
ビップの自己資本比率は16.91%
自己資本比率は「自己資本比率(%)=純資産÷総資産×100」で求めることができます。
55億5千9百万円÷328億7千8百万円×100=16.91
ビップの2021年6月期における自己資本比率は、16.91%(前年同期比1.41%減)となっています。
ビップの資産と負債について
自己資本比率の次に確認したいのは、資産と負債の額になります。
貸借対照表でいうところの資産は左側に、負債は右側上段に記載があります。
この赤い円の箇所を確認することで、その会社の資産と借金の額を確認できます。
資産合計の推移
貸借対照表の左側に記載されており、「会社の所有する資産」を表します。
資産は下記の3つに構成されています。
・流動資産 = 1年以内に現金化もしくは費用化できる資産
例) 現金、有価証券、商品、製品など
・固定資産 = 長期にわたって会社が保有するものや1年を超えて現金もしくは費用となる資産で有形固定資産や無形固定資産がある。
例)・有形固定資産:建物、土地、車など
・無形固定資産:ソフトウェアなど
・繰延(くりのべ)資産 = 会社設立にかかった費用や社債発行にかかった費用を一括して費用として計上せずに資産として計上し期間内(数年など)に分けて償却するものとなります。
例) 創立費、開業費、開発費など
ビップの資産合計の推移は以下のようになっています。

ビップの2021年6月期における資産合計は、328億7千8百万円(前年同期比1.20%減)と4億1百万円減少しています。
とはいえ、もともとの資産合計額が300億円以上と莫大なため、財務状況に大きな影響を与えることは無さそうです。
負債合計の推移
貸借対照表の右側上段に記載されており、「返す必要のある他人からの借金」を表します。
負債は下記の2つで構成されています。
・流動負債 = 1年以内に支払い期日を迎える負債となります。
例) 家賃、従業員の給与や賞与、買掛金(サービスや商品の金額を後払いするもの)など
・固定負債 = 1年以内に支払い期日を迎えない負債となりますので、流動負債以外の負債は固定負債になるということです。
例) 従業員の退職金、社債、長期借入金など
ビップの負債合計の推移は以下のようになっています。

ビップの2021年6月期における負債合計は273億4千0百万円(前年同期比0.51%増)となっています。
過去4年間にわたり、ビップの負債合計は大きな変動なく推移しています。
財務安定性指標の一つである流動比率(流動資産÷流動負債×100)も、2021年6月期の時点で254.95%(安全ラインは100%以上)となっており、支払い能力について不安は感じられません。
ビップの純資産について
自己資本比率、資産合計、そして負債合計をみてきましたが、最後に確認したいのは「純資産」となります。
純資産は貸借対照表でいうところの右側下段に記載があります。
純資産は資産(現金、土地、建物など)から負債(借金)を差し引いたものです。
この赤い丸の箇所を確認することでその会社の純資産を確認できます。
ビップの純資産合計、当期純利益、利益剰余金の推移はそれぞれ以下のようになっています。(各用語についても分かりやすく解説しています)
純資産合計の推移
会社の所有する現金や建物などの資産から負債(借金)を差し引いたものとなります。
純資産の割合が高ければ財務健全性が高いと考えます。一方で、純資産がマイナスの状態を債務超過といい、2期連続で債務超過の状態が続いた場合、東証上場の廃止基準に抵触することがあります。

ビップの2022年1月期における純資産合計は、55億5千9百万円(前年同期比8.82%減)となっています。
2020年から2021年にかけて繰り返し発出された新型コロナ関連の行動規制により、葬儀業界も大きな打撃を受けました。
この2年間で収益状況を大幅に悪化させ債務超過に陥る葬儀社様も多い中、ビップでは影響を最小限に抑えている印象です。
当期純利益の推移
会社が1年間で得た全収益から法人税や住民税そして費用を差し引いたものが当期純利益となります。
この当期純利益がマイナスとなると当期純損失となります。
当期純利益の額をみることで、その会社の収益性がどのくらいなのか判断できる指標になります。

ビップでは2021年6月期において-5億3千8百万円の当期純損失が発生しています。
全国的な葬儀の小規模化や簡素化の影響で、葬儀施行単価の減少に苦戦していた葬儀業界に、新型コロナの発生が追い打ちを掛けました。
2020年初頭に発生した新型コロナは、すでに2020年6月期時点でビップの業績に影響を与えはじめ、2021年6月期に影響が最大化したと考えられます。
しかし2022年に入ってからの規制緩和で葬儀業界も回復傾向にあるようですので、2022年6月期にはビップの業績も回復している可能性があります。
利益剰余金の推移
利益剰余金とは簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずにコツコツと社内で貯めたお金です。正確な会計用語ではないですが利益剰余金のことを内部留保とも言います。
内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。利益剰余金は貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。
内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で経営が赤字になった際に従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため企業が生き残るための重要な資金源となります。
ビップの場合は以下のように推移しております。

ビップの2021年6月期における利益剰余金は、55億0千9百万円(前年同期比8.90%減)となりました。
2018年以降、ビップの利益剰余金は堅調に推移していましたが、2021年6月期には当期純損失と同規模で減少しています。
新型コロナの発生は、多数の企業に想定外の損失を与えましたが、利益剰余金は突発的な損失に備えるためのものでもあります。
そういった意味では、創業からコツコツと積み上げたビップの利益剰余金は、新型コロナの財務的な脅威への対応に大きく貢献しているといえるでしょう。
株式会社 ビップの損益計算書
損益計算書とは、企業が1年間の経営状況を把握するために作成される資料で、P/L(profit and loss statement)とも呼ばれます。
企業に入ってくるお金(収益)と、出ていくお金(経費)をまとめたもので、最終的な利益が確認できる資料です。
損益計算書

新型コロナ発生前の2019年6月期までと、2020年6月期以降では、状況が全く変わってしまっています。
ビップの損益計算書を確認すると、新型コロナが葬儀業界に与えた影響をまざまざと感じさせられます。
売上金額の推移

ビップにおける2021年6月期の売上高は、49億5千9百万円(前年同期比15.75%減)となっています。
新型コロナ発生前の2019年6月期までは73億円台で推移していた点からみると、2020年6月期から2021年6月期にかけての売上高減少の主な要因は、新型コロナの影響と考えてよいでしょう。
2022年に入って以降、新型コロナ関連の規制も緩和されつつあり、葬儀業界全体の業績も回復傾向にあるといわれていますので、2022年6月期の決算公告が待たれるところです。
営業利益の推移
営業利益とは、主な営業活動で得られた「売上総利益」から「販売費および一般管理費」を差し引いたもので、1年間の本業における利益を表す数字です。
葬儀業界でいえば、葬儀施行や葬儀付帯業務(会食・返礼品など)による利益が、営業利益にあたります。

2021年6月期において、ビップでは3億7千9百万円の営業損失が発生しています。
新型コロナ発生前の2019年6月期までは、4~5億円の営業利益を出していた点を考慮すると、新型コロナの影響による売上高減少が主な原因と考えられます。
経常利益の推移
経常利益は、企業が1年間で得たすべての利益を表す数字で、「営業利益」+「営業外収益」-「営業外費用」で算出されます。
ここでいう「営業外収益」とは、主な業務以外の収益(金融商品・株・為替などの取引で発生した利益)を指します。

ビップでは2021年6月期において、1億6千3百万円の経常損失が発生しています。
とはいえ、新型コロナ発生前の2019年6月期に比べて売上高が20億円以上減少している点を考慮すれば、この程度の経常損失発生はやむを得ないのかもしれません。
株式会社 ビップのまとめ
今回は株式会社 ビップの決算公告を参考に、現状分析を行いました。
新型コロナの蔓延は日本の経済全体に大きな影を落としましたが、ビップも例外ではなかったようです。
日本における今後の新型コロナへの対応としては、主要先進国と同様にアフターコロナに向けて、規制から経済活動の正常化に舵を切りつつあると思われます。
葬儀規模の縮小を強いられてきた葬儀業界も、徐々に回復傾向にあるといわれていることから、ビップの業績も2019年以前の状態を取り戻す可能性は少なくないでしょう。
しかし2022年7月時点では新型コロナの感染が再拡大しつつあり、まだまだ日本経済の先行きは不透明な状況ですので、今後のビップの決算公告にも引き続き注目していきたいと思います。
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