葬儀社の業績・利益を調べる場合、帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、葬儀社の業績・利益の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。
今回は株式会社 東冠の現状について、貸借対照表をもとに分析いたします。
決算公告は上場企業の決算資料ほど詳細ではありませんが、事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。
株式会社 東冠の概要
株式会社 東冠は、1965年(昭和40年)10月に任意団体として「東京冠婚葬祭互助会」を設立したことに始まります。
1973年8月「株式会社 東冠新生活互助会」として法人化した後、2002年に法人名を現在の「株式会社 東冠」としています。
2016年(平成28年)1月にアルファクラブグループに加入し、冠婚葬祭施行の業務提携を開始しました。
埼玉県東部をおもな営業エリアとし、越谷市、草加市、春日部市、三郷市で7か所の斎場を直営し、3か所の公営斎場と1か所の民営斎場での葬儀にも対応しています。
また、冠婚葬祭互助会事業、婚礼、貸衣装業、仏壇・墓石販売、遺体衛生保全業務、仕出し料理業、保険事業、不動産賃貸業など幅広い事業展開をおこなっています。
【名称】株式会社 東冠
【設立】1973年(昭和48年)8月
【代表取締役】会長 和田 浩明
社長 増渕 隆治
【所在地】東京都足立区本木1丁目13番7号
【公式サイト】https://tokangroup.co.jp
【事業内容】・互助会の運営並びに互助会員の募集及び管理
・婚礼、披露宴、宴集会の施行及び斡旋
・葬儀式典の施行及び斡旋
・仏壇、仏具の販売及び斡旋
・墓地、墓石の販売及び斡旋
・遺体衛生保全業務
・一般貨物自動車運送事業
・一般酒類小売業及び通信販売酒類小売業
・損害保険代理及び生命保険の募集に関する業務
・少額短期保険代理業
・貸衣裳業
・仕出料理業
・寝具、家具、貴金属、家庭用電気製品、日用雑貨品の販売
リース業及び輸出入業務
・インターネット、その他電子商取引システムを利用した互助会会員募集
及び互助会会員との契約締結並びに物品販売業務
・不動産賃貸業
・前各号の事業を達成するために必要な事業
出典:株式会社 東冠 会社概要
葬儀社の決算公告とは
決算公告資料はその会社が健全な経営を行っているかを確認できる計算書類となります。株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告といいます。
公告の方法は全部で3つあります。
- 官報に掲載
- 日刊新聞紙に掲載
- 電子公告(会社のウェブサイトに掲載)
決算公告は義務的な側面が強いですが、取引先や銀行に情報の開示を行うことで、自社の透明性や健全性を見せることができるという重要な側面も持ち合わせております。
なぜ葬儀社は決算公告をおこなうのか?
大手葬儀社、あるいは葬儀・葬祭事業を長きにわたって営んでいる会社は、冠婚葬祭互助会を運営するケースが少なくありません。
冠婚葬祭互助会とは、冠婚葬祭などの行事に備えるために、毎月一定の掛金を複数回の支払いで積み立てるサービスです。
冠婚葬祭互助会の会員になることで、葬儀や婚礼といったライフイベントの際に会員割引を受けられるなど、さまざまな面で優遇されます。
一般的な専門葬儀社は、開業にあたって特に許認可は必要ありませんが、冠婚葬祭互助会は経済産業大臣の認可を受けた企業のみ行える事業です。
会員から掛金として支払われた前受金は割賦販売法によって積み立てられた前受金の2分の1を次の何らかの方法で保全することが義務付けられています。
- 法務局に供託する
- 経済産業省の指定する保証会社と供託委託契約を結ぶ
- 銀行や信託会社などの金融機関と供託委託契約を結ぶ
上記のいずれかの方法を選択する必要があります。
また、経済産業省は割賦販売法に基づき互助会事業の経営指導や立入検査等を行っています。
なお現在、冠婚葬祭互助会事業者として登録されている事業者は以下より確認することができます。
経済産業省 前払式特定取引業者(冠婚葬祭互助会)許可事業者一覧
上記のように、冠婚葬祭互助会では政府・行政の認可団体として運営している側面があり、義務である決算公告を発表する事業者が多い状況です。
株式会社 東冠の貸借対照表
決算期 | 46期 | 47期 | 48期 | 49期 | 50期 | 51期 | |
会計年度 | 2018年6月期 | 2019年6月期 | 2020年6月期 | 2021年6月期 | 2022年6月期 | 2023年6月期 | |
利益剰余金 | 13億7千9百万円 | 13億0千0百万円 | 11億3千8百万円 | 11億8千3百万円 | 13億1千3百万円 | 15億1千7百万円 | |
資 産 の 部 | 流動資産 | 38億3千9百万円 | 38億4千4百万円 | 19億1千3百万円 | 19億7千1百万円 | 20億9千7百万円 | 25億9千1百万円 |
固定資産 | 41億8千6百万円 | 39億0千9百万円 | 36億9千4百万円 | 36億2千5百万円 | 35億8千4百万円 | 31億8千7百万円 | |
有形固定資産 | |||||||
無形固定資産 | |||||||
投資その他の資産 | |||||||
繰延資産 | |||||||
資産合計 | 80億2千5百万円 | 77億5千2百万円 | 56億0千7百万円 | 55億9千6百万円 | 56億8千1百万円 | 57億7千7百万円 | |
負 債 の 部 | 流動負債 | 6億5千4百万円 | 6億1千8百万円 | 4億0千2百万円 | 4億0千3百万円 | 4億1千8百万円 | 4億2千3百万円 |
役員賞与引当金 | |||||||
賞与引当金 | |||||||
その他 | |||||||
固定負債 | 59億4千2百万円 | 57億8千5百万円 | 40億1千6百万円 | 39億6千0百万円 | 39億0千1百万円 | 37億8千7百万円 | |
退職給付引当金 | |||||||
雑収入復活引当金 | 2千3百万円 | 1千9百万円 | 1千0百万円 | 9百万円 | 1千1百万円 | 千5百万円 | |
役員退職慰労引当金 | |||||||
その他 | 59億1千9百万円 | 57億6千7百万円 | 40億0千6百万円 | 39億5千1百万円 | 38億9千0百万円 | 37億8千3百万円 | |
負債の部計 | 65億9千6百万円 | 64億0千3百万円 | 44億1千9百万円 | 43億6千2百万円 | 43億1千8百万円 | 42億1千0百万円 | |
純 資 産 の 部 | 株主資本 | 14億2千9百万円 | 13億5千0百万円 | 11億8千8百万円 | 12億3千3百万円 | 13億6千3百万円 | 15億6千7百万円 |
資本金 | 5千0百万円 | 5千0百万円 | 5千0百万円 | 5千0百万円 | 5千0百万円 | 5千0百万円 | |
資本余剰金 | 千0百万円 | ||||||
資本準備金 | 千0百万円 | ||||||
その他資本余剰金 | |||||||
利益剰余金 | 13億7千9百万円 | 13億0千0百万円 | 11億3千8百万円 | 11億8千3百万円 | 13億1千3百万円 | 15億1千7百万円 | |
利益準備金 | 1千3百万円 | 1千3百万円 | 1千3百万円 | 1千3百万円 | 1千3百万円 | 1千3百万円 | |
特別償却準備金 | |||||||
その他利益剰余金 | 13億6千6百万円 | 12億8千7百万円 | 11億2千6百万円 | 11億7千1百万円 | 13億0千0百万円 | 15億0千4百万円 | |
評価・換算差額等 | |||||||
その他有価証券評価差額金 | |||||||
(うち当期純損失) | -69億6千7百万円 | -7千9百万円 | -1億6千1百万円 | 4千5百万円 | 1億2千9百万円 | 2億0千4百万円 | |
新株予約権 | |||||||
自己資本 | |||||||
評価・換算差額等 | |||||||
その他有価証券評価差額金 | |||||||
純資産の部計 | 14億2千9百万円 | 13億5千0百万円 | 11億8千9百万円 | 12億3千3百万円 | 13億6千3百万円 | 15億6千7百万円 | |
負債・純資産合計 | 80億2千5百万円 | 77億5千2百万円 | 56億0千7百万円 | 55億9千6百万円 | 56億8千1百万円 | 57億7千7百万円 |
貸借対照表でまずチェックしたい箇所は純資産の部です。総資産に対する純資産の比率である「自己資本比率」が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
例えば自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされています。自己資本比率が10%を下回っている場合は経営状態は良いとは言えません。
自己資本比率が低い場合は借入金などの負債が多いので資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で、自己資本比率が高い場合は返済義務を有しない資金を大量に抱えているので倒産リスクは低くなると考えられます。
自己資本比率は中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、最適とされる自己資本比率は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は最低でも20%程度はあると安心です。
逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は最低でも15%程度は欲しいところです。
貸借対照表の左右(運用状況と調達状況)の合計額は必ず一致する
「資産」=「負債」+「純資産」という計算式が成り立つことから、
貸借対照表のことをバランスシート(Balance Sheet)またはビーエス (B/S) と呼ぶこともあります。
株式会社 東冠の自己資本比率は27.12%
自己資本比率は「自己資本比率(%)=純資産÷総資産×100」で求めることができます。
株式会社 東冠の場合は以下のとおりです。
15億6千7百万円(純資産)÷ 57億7千7百万円(総資産)×100=27.12%
株式会社 東冠の2023年6月期の自己資本比率は27.12%(前年対比3.13%増)となっています。
株式会社 東冠の資産と負債について
自己資本比率の次に確認したいのは、資産と負債の額になります。
貸借対照表でいうところの資産は左側に、負債は右側上段に記載があります。
この赤い円の箇所を確認することで、その会社の資産と借金の額を確認できます。
資産合計の推移
貸借対照表の左側に記載されており、「会社の所有する資産」を表します。
資産は下記の3つに構成されています。
・流動資産 = 1年以内に現金化もしくは費用化できる資産
例) 現金、有価証券、商品、製品など
・固定資産 = 長期にわたって会社が保有するものや1年を超えて現金もしくは費用となる資産で有形固定資産や無形固定資産がある。
例)・有形固定資産:建物、土地、車など
・無形固定資産:ソフトウェアなど
・繰延(くりのべ)資産 = 会社設立にかかった費用や社債発行にかかった費用を一括して費用として計上せずに資産として計上し期間内(数年など)に分けて償却するものとなります。
例) 創立費、開業費、開発費など
株式会社 東冠の資産合計の推移は以下のようになっています。
東冠の2023年6月期の資産合計は、57億7千7百万円(前年同期比1.69%増)となっています。
2020年6月期には新型コロナの影響を受けたとみられ大幅に減少し、その後はほぼ横ばいの状況が続いていますが、自己資本比率も向上しており、財務状況に不安は感じられません。
負債合計の推移
貸借対照表の右側上段に記載されており、「返す必要のある他人からの借金」を表します。
負債は下記の2つで構成されています。
・流動負債 = 1年以内に支払い期日を迎える負債となります。
例) 家賃、従業員の給与や賞与、買掛金(サービスや商品の金額を後払いするもの)など
・固定負債 = 1年以内に支払い期日を迎えない負債となりますので、流動負債以外の負債は固定負債になるということです。
例) 従業員の退職金、社債、長期借入金など
株式会社 東冠の負債合計の推移は以下のようになっています。
東冠の2023年6月期における負債合計は、42億1千0百万円(前年同期比2.50%減)となりました。
東冠の資産合計のグラフと負債合計のグラフを見比べると、同時期に減少しているのがわかります。
資産合計と負債合計が同時に減少するのは、借入金の返済が行われたケースでみられる現象です。
貸借対照表から得られる情報は限られていますので、株式会社 東冠がこのケースに当てはまると明言はできませんが、可能性は高いと考えられます。
2020年6月期以降は、ほぼ横ばいの状況が続いており、経営状態は安定しているようです。
株式会社 東冠の純資産について
自己資本比率、資産合計、そして負債合計をみてきましたが、最後に確認したいのは「純資産」となります。
純資産は貸借対照表でいうところの右側下段に記載があります。
純資産は資産(現金、土地、建物など)から負債(借金)を差し引いたものです。
この赤い丸の箇所を確認することでその会社の純資産を確認できます。
株式会社 東冠の純資産合計、当期純利益、利益剰余金の推移はそれぞれ以下のようになっています。(各用語についても分かりやすく解説しています)
純資産合計の推移
会社の所有する現金や建物などの資産から負債(借金)を差し引いたものとなります。
純資産の割合が高ければ財務健全性が高いと考えます。一方で、純資産がマイナスの状態を債務超過といい、2期連続で債務超過の状態が続いた場合、東証上場の廃止基準に抵触することがあります。
東冠の2023年6月期の純資産合計は、15億6千7百万円(前年同期比15.0%増)となりました。
2019年から2020年まで緩やかに減少していましたが、2021年からは増加に転じ、その後順調に増加を続けており、新型コロナの影響から脱却し、回復に向かっている様子がうかがえます。
当期純利益の推移
会社が1年間で得た全収益から法人税や住民税そして費用を差し引いたものが当期純利益となります。
この当期純利益がマイナスとなると当期純損失となります。
当期純利益の額をみることで、その会社の収益性がどのくらいなのか判断できる指標になります。
東冠の2023年6月期の当期純利益は、2億0千4百万円(前年同期比57.63%増)となりました。
2018年6月期には、70億円近くの当期純損失が発生していましたが、
2019年には損失が7千9百万円まで減少し、2021年からは黒字に転じその後は年々増加しています。
利益剰余金の推移
利益剰余金とは簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずにコツコツと社内で貯めたお金です。正確な会計用語ではないですが利益剰余金のことを内部留保とも言います。
内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。利益剰余金は貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。
内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で収益状況が悪化した際にも、従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため、企業が生き残るための重要な資金源となります。
株式会社 東冠の場合は以下のように推移しております。
東冠の2023年6月期の利益剰余金は、15億1千7百万円(前年同期比15.54%増)となっています。
2020年6月期まで減少傾向にありましたが、2021年6月期には増加に転じ、以降は毎年増加を続けています。
新型コロナの影響が最も大きかったとおもわれる2020年・2021年には、11億円台だった東冠の利益剰余金ですが、2022年6月期にはコロナ発生前の2019年の水準を上回り、2023年にはさらに増加しています。
株式会社 東冠のまとめ
今回は株式会社 東冠の決算公告を参考に、同社の財務状況や業績の推移を分析しました。
2023年6月期の決算公告をみる限りでは、新型コロナの影響からはすでに脱却し、経営状態は回復しているようです。
経営状態の短期的な安全指標とされる流動比率(流動資産÷流動負債×100)も612.5%と、安全レベルとされる200%を大きく上回っており、特に不安な点は見受けられませんでした。
新型コロナにより葬儀業界は打撃を被り、株式会社 東冠も同様だったようですが、影響は最小限に抑えられた印象です。
株式会社 東冠では、火葬のみおこなう「お別れ葬」から一般葬までさまざまな葬儀プランを扱っており、今後の動向が注目されます。