葬儀社の売上・利益・業績を調べる場合、上場しているなら決算発表情報・有価証券報告書をみれば分かります。非上場になると帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、売上・利益・業績の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。
今回は株式会社メモリード(長崎)の現状について、決算公告をもとに分析いたします。
決算公告は上場企業の決算資料ほど詳細ではありませんが、事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。
株式会社メモリード(長崎)の概要
株式会社 メモリード(長崎)はメモリードグループの中核企業で、長崎県、佐賀県、福岡県を営業エリアとして各県に事業所を構え、冠婚葬祭互助会事業をおこなっています。
メモリードグループは営業エリアにより、3社に分かれているようです。
- 株式会社メモリード長崎
- 株式会社メモリード宮崎
- 株式会社メモリード関東
メモリードグループの、2024年5月末現在の会員状況及び施行件数は以下のとおりです。
- 互助会口数:997,180口
- 年間挙式件数:3,296件
- 年間葬儀件数:19,419件
メモリード(長崎)は1969年7月に「株式会社 長崎冠婚葬祭互助センター」を設立したことが始まりです。
1981年3月に「株式会社 メモリード」に商号を変更し、1993年1月にグループの総合本部を長崎県西彼杵郡長与町に開設しました。
メモリード(長崎)の葬儀関連施設は、2024年5月末現在以下のとおりです。
- 長崎県:30施設
- 佐賀県:26施設
- 福岡県:24施設
【名称】株式会社 メモリード(長崎)
【設立】1969年(昭和44年)7月
【代表取締役】吉田 昌敬
【所在地】長崎県長崎市稲佐町2-2
【公式サイト】https://www.memolead.co.jp/
【事業内容】・婚礼事業
・貸衣裳事業
・葬祭事業
・ホテル事業
・レストラン事業
・互助会事業
・保険事業
葬儀社の決算公告とは
決算公告資料はその会社が健全な経営を行っているかを確認できる計算書類となります。株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告といいます。
ただし、大会社については貸借対照表と合わせて損益計算書も公告することが義務付けられています。
次の2つの条件のうちいずれか1つが該当する株式会社は「大会社」という定義になります。
1つ目は資本金が5億円以上、2つ目は負債額が200億円以上の株式会社のいずれかとなります。
公告の方法は全部で3つあります。
- 官報に掲載
- 日刊新聞紙に掲載
- 電子公告(会社のウェブサイトに掲載)
決算公告の簡単な概要については以上になります。
なお上場企業の決算報告書(有価証券報告書)はEDINETで公開されており、誰でも閲覧可能で
す。
なぜ葬儀社は決算公告をおこなうのか?
大手葬儀社、あるいは葬儀・葬祭事業を長きにわたって営んでいる会社は、冠婚葬祭互助会を運営するケースが少なくありません。
冠婚葬祭互助会とは、冠婚葬祭などの行事に備えるために、毎月一定の掛金を複数回の支払いで積み立てるサービスです。
冠婚葬祭互助会の会員になることで、葬儀や婚礼といったライフイベントの際に会員割引を受けられるなど、さまざまな面で優遇されます。
一般的な専門葬儀社は、開業にあたって特に許認可は必要ありませんが、冠婚葬祭互助会は経済産業大臣の認可を受けた企業のみ行える事業です。
会員から掛金として支払われた前受金は割賦販売法によって積み立てられた前受金の2分の1を次の何らかの方法で保全することが義務付けられています。
- 法務局への供託
- 経済産業省の指定する保証会社との供託委託契約締結
- 銀行や信託会社などの金融機関と供託委託契約締結
以上の3つの方法のいずれかを選択する必要があります。
また、経済産業省は割賦販売法に基づき互助会事業の経営指導や立入検査等を行っています。
なお現在、冠婚葬祭互助会事業者として登録されている事業者は以下より確認することができます。
経済産業省 前払式特定取引業者(冠婚葬祭互助会)許可事業者一覧
上記のように、冠婚葬祭互助会では政府・行政の認可団体として運営している側面があり、義務である決算公告を発表する事業者が多い状況です。
メモリード(長崎)の貸借対照表
決算期 | 49期 | 50期 | 51期 | 52期 | 53期 | 54期 | |
利益剰余金 | 19億4千4百万円 | 21億0千6百万円 | 3億3千8百万円 | 6億0千4百万円 | 13億6千5百万円 | 19億6千2百万円 | |
会計年度 | 2018年5月期 | 2019年5月期 | 2020年5月期 | 2021年5月期 | 2022年5月期 | 2023年5月期 | |
資産 | 流動資産 | 110億2千0百万円 | 104億2千1百万円 | 98億2千6百万円 | 94億4千3百万円 | 103億5千9百万円 | 105億0千3百万円 |
固定資産 | 371億8千9百万円 | 397億3千6百万円 | 414億1千2百万円 | 439億5千2百万円 | 442億1千2百万円 | 454億7千8百万円 | |
有形固定資産 | |||||||
無形固定資産 | |||||||
投資その他の資産 | |||||||
繰延資産 | 1億6千3百万円 | 5百万円 | 4百万円 | 1億2千8百万円 | 1億0千1百万円 | 7千5百万円 | |
資産合計 | 483億7千2百万円 | 501億6千2百万円 | 512億4千2百万円 | 535億2千3百万円 | 546億7千2百万円 | 560億5千6百万円 | |
負債 | 流動負債 | 409億9千9百万円 | 59億1千4百万円 | 76億3千7百万円 | 66億1千3百万円 | 68億1千8百万円 | 71億1千2百万円 |
役員賞与引当金 | |||||||
賞与引当金 | 2千0百万円 | 2千2百万円 | 2千2百万円 | 1千0百万円 | 1千6百万円 | 4千0百万円 | |
その他 | |||||||
固定負債 | 45億5千2百万円 | 412億8千2百万円 | 424億1千8百万円 | 454億4千6百万円 | 455億8千9百万円 | 461億0千1百万円 | |
退職給付引当金 | 3億6千8百万円 | 3億7千3百万円 | 3億7千8百万円 | 4億0千4百万円 | 3億7千4百万円 | 3億8千5百万円 | |
雑収入復活引当金 | 1億6千6百万円 | 1億8千3百万円 | 1億8千9百万円 | 1億5千6百万円 | 1億7千5百万円 | 1億5千9百万円 | |
役員退職慰労引当金 | 2億2千3百万円 | 2億3千2百万円 | 2億3千1百万円 | 2億3千6百万円 | 2億3千1百万円 | 2億3千9百万円 | |
その他 | |||||||
負債の部計 | 455億5千1百万円 | 471億9千6百万円 | 500億5千5百万円 | 520億5千9百万円 | 524億0千7百万円 | 532億1千3百万円 | |
純資産 | 株主資本 | 28億4千4百万円 | 30億0千6百万円 | 12億3千8百万円 | 15億0千4百万円 | 22億6千5百万円 | 28億6千2百万円 |
資本金 | 6億5千0百万円 | 6億5千0百万円 | 6億5千0百万円 | 6億5千0百万円 | 6億5千0百万円 | 6億5千0百万円 | |
資本余剰金 | 2億5千0百万円 | 2億5千0百万円 | 2億5千0百万円 | 2億5千0百万円 | 2億5千0百万円 | 2億5千0百万円 | |
資本準備金 | 2億5千0百万円 | 2億5千0百万円 | 2億5千0百万円 | 2億5千0百万円 | 2億5千0百万円 | 2億5千0百万円 | |
その他資本余剰金 | |||||||
利益剰余金 | 19億4千4百万円 | 21億0千6百万円 | 3億3千8百万円 | 6億0千4百万円 | 13億6千5百万円 | 19億6千2百万円 | |
利益準備金 | |||||||
特別償却準備金 | |||||||
その他利益剰余金 | 19億4千4百万円 | 21億0千6百万円 | 3億3千8百万円 | 6億0千4百万円 | 13億6千5百万円 | 19億6千2百万円 | |
評価・換算差額等 | |||||||
その他有価証券評価差額金 | |||||||
(うち当期純損失) | |||||||
新株予約権 | |||||||
評価・換算差額等 | -2千3百万円 | -4千0百万円 | -5千1百万円 | -3千9百万円 | 1百万円 | -1千8百万円 | |
その他有価証券評価差額金 | -2千3百万円 | -4千0百万円 | -5千1百万円 | -3千9百万円 | 1百万円 | -1千8百万円 | |
純資産の部計 | 28億2千1百万円 | 29億6千6百万円 | 11億8千7百万円 | 14億6千5百万円 | 22億6千6百万円 | 28億4千4百万円 | |
負債・純資産合計 | 483億7千2百万円 | 501億6千2百万円 | 512億4千2百万円 | 535億2千4百万円 | 546億7千3百万円 | 560億5千7百万円 |
貸借対照表でまずチェックしたい箇所は純資産の部です。総資産に対する純資産の比率である自己資本比率が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
例えば自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされています。
自己資本比率が低い場合は、借入金などの負債が多い状況と考えられますので、資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で自己資本比率が高い場合は、返済義務を有しない資金を大量に抱えているので、倒産リスクは低くなると考えられます。
自己資本比率は中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、最適とされる自己資本比率は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は最低でも20%程度はあると安心です。
逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は最低でも15%程度は欲しいところです。
メモリード(長崎)の自己資本比率は5.07%
自己資本比率は「自己資本比率(%)=純資産÷総資産×100」の計算式で算出可能です。
メモリード(長崎)の2022年5月期の自己資本比率を求める式は下記のようになります。
28億4千4百万円(純資産)÷ 560億5千7百万円(総資産)×100=5.07%
上記の式から同社の自己資本比率は5.07%(前年比0.93%増)となりました。
メモリード(長崎)利益剰余金の推移
利益剰余金とは簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずにコツコツと社内で貯めたお金です。正確な会計用語ではないですが利益剰余金のことを内部留保とも言います。
内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。利益剰余金は貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。
内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で収益状況が悪化した際にも、従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため、企業が生き残るための重要な資金源となります。
メモリード(長崎)の場合は以下のように推移しております。
メモリード(長崎)の2023年5月期の利益剰余金は、19億6千2百万円(前年同期比43.74%増)となっています。
2020年5月期に新型コロナの影響を受けたとみられ、大きく減少しましたが2021年・2022年と2期連続で増加しており、2022年5月期では10億円台を回復し、2023年にはさらに増加しました。
メモリード(長崎)の損益計算書
損益計算書を確認することで、当該企業が「どれだけ売り上げ(=収益)」「費用を何に使って(=費用)」「どれくらいの儲けが出たのか(=利益)」が一目で分かるものです。
特に注目したい項目は、売上高・営業利益・経常利益・当期純利益となります。
損益計算書
決算期 | 49期 | 50期 | 51期 | 52期 | 53期 | 54期 |
会計年度 | 2018年5月期 | 2019年5月期 | 2020年5月期 | 2021年5月期 | 2022年5月期 | 2023年5月期 |
売上高 | 183億5千1百万円 | 185億0千9百万円 | 181億0千8百万円 | 139億8千6百万円 | 170億8千7百万円 | 201億5千4百万円 |
売上原価 | 61億0千1百万円 | 61億0千7百万円 | 58億5千6百万円 | 50億6千9百万円 | 63億8千9百万円 | 76億5千3百万円 |
売上総利益 | 122億4千9百万円 | 124億0千1百万円 | 122億5千2百万円 | 89億1千7百万円 | 106億9千7百万円 | 125億0千0百万円 |
販売費及び一般管理費 | 118億4千6百万円 | 124億0千0百万円 | 126億8千3百万円 | 92億0千8百万円 | 97億6千1百万円 | 112億1千0百万円 |
営業利益 | 4億0千2百万円 | 1百万円 | -4億3千1百万円 | -2億9千1百万円 | 9億3千6百万円 | 12億8千9百万円 |
営業外収益 | 3億2千0百万円 | 4億1千9百万円 | 4億7千3百万円 | 7億6千2百万円 | 6億2千1百万円 | 6億1千4百万円 |
営業外費用 | 2億5千7百万円 | 2億7千7百万円 | 6億9千1百万円 | 3億7千5百万円 | 4億8千7百万円 | 5億8千9百万円 |
経常利益 | 4億6千6百万円 | 1億4千3百万円 | -6億4千9百万円 | 9千5百万円 | 10億6千9百万円 | 13億1千4百万円 |
特別利益 | - | 2億8千7百万円 | 2億0千4百万円 | 4千1百万円 | 3千4百万円 | 2億0千3百万円 |
特別損失 | - | 3億1千3百万円 | 9億3千2百万円 | 3千6百万円 | 2億4千0百万円 | 2億1千6百万円 |
税引前当期純利益 | 4億6千5百万円 | 1億1千6百万円 | -13億7千7百万円 | 1億0千0百万円 | 8億6千3百万円 | 13億0千0百万円 |
法人税、住民税及び事業税 | 1億9千1百万円 | 6千3百万円 | 7百万円 | 1千2百万円 | 3億0千3百万円 | 5億8千9百万円 |
法人等調整額 | -3百万円 | -1億0千8百万円 | 3億8千3百万円 | -1億7千8百万円 | -2億0千0百万円 | 1億1千4百万円 |
当期純利益 | 2億7千7百万円 | 1億6千2百万円 | -17億6千7百万円 | 2億6千6百万円 | 7億6千0百万円 | 5億9千7百万円 |
メモリード長崎の損益計算書を確認すると、営業利益が増加し、売上高・経常利益も前年同期を上回っていることから、新型コロナの影響からの脱却が感じられました。
売上金額の推移
メモリード(長崎)の2023年5月期の売上金額は、201億5千4百万円(前年同期比17.95%増)となりました。
新型コロナの影響が最も大きかったと思われる2021年5月期に大きく減少しましたが、2022年には一気に回復し2023年5月期には200億円を超えて、過去5年間で最高額となっています。
営業利益の推移
営業利益とは、売上総利益から販管費(=販売費および一般管理費)を差し引いて算出されます。つまり、どのくらい本業で儲ける能力があるかを表す数字となります。
メモリード(長崎)の2023年5月期の営業利益は、12億8千9百万円(前年同期比37.71%増)となっています。
新型コロナ関連の行動規制が繰り返し発出されていた2020年・2021年に営業損失が発生していましたが、2022年5月期には過去4年間で最高額となる9億3千6百万円の営業利益をあげています。
2023年5月期には、さらに3億5千万円以上増加して12億円を超えています。
事業活動による純粋な利益を表す営業利益率は「営業利益÷売上高×100」で求められますが、おおむね5%を超えると優良とされています。
12億8千9百万円(営業利益) ÷ 201億5千4百万円(売上高)×100=6.40%
上記の式からメモリード(長崎)の2023年5月期の営業利益率は6.40%となっています。
経常利益の推移
経常利益はその会社の実力が一番分かる数字で、本業以外の稼ぎ(金融商品、株、為替などの取引で発生した利益)も含めその会社全体でどれだけ稼ぐ力があるか分かります。
メモリード(長崎)2023年5月期の経常利益は、13億1千4百万円(前年同期比22.92%増)となりました。
2020年5月期には経常損失が発生し、コロナの影響を受けたとみられますが、2021年には黒字となり2022年は10億円を超え、2023年はさらに2億4千万円以上増加して過去5年間で最高額となっています。
新型コロナ発生前にくらべ「販売費及び一般管理費」が減少していることも、経常利益が増加した理由の1つと考えられます。
株式会社メモリード(長崎)のまとめ
今回は株式会社メモリード(長崎)の決算公告を参考に、同社の財務状況や業績の推移を分析しました。
2020年から2021年にかけて、葬儀業界は新型コロナの影響を受けましたが、メモリード(長崎)も同様だったようです。
しかし、利益剰余金を多く保持していたため債務超過に陥ることはなく、2022年からは大幅な回復をみせています。
メモリード(長崎)は、2024年になってからも長崎県で5施設、佐賀県で3施設の葬祭ホールをオープンさせており、今後もいっそうの事業拡大が予想されます。
引き続き、メモリード(長崎)の2024年5月期の決算にも注目したいと思います。