葬儀社の業績・利益を調べる場合、帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、葬儀社の業績・利益の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。
今回は株式会社レクスト岐阜の現状について、貸借対照表をもとに分析いたします。
事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。
レクスト岐阜の概要
株式会社レクスト岐阜はアルファクラブグループに属する冠葬祭互助会事業者で、岐阜県内で葬祭ホール10ヵ所とウエディングホール1か所を運営していました。
しかし2024年7月1日に、同じアルファクラブグループに属する「株式会社 レクストワン」「株式会社 岐阜冠婚葬祭互助会」の2社と統合され、屋号も「岐阜葬祭」に変更されています。
また、これまでの株式会社レクスト岐阜は「アルファクラブ東北 株式会社」の代表取締役社長 神田 貢典氏と「株式会社レクスト」代表取締役社長 金森 茂明氏の複数代表体制で運営されていましたが、今回の統合にともない新会社「アルファクラブ 株式会社」が設立され、代表取締役社長には神田 貢典氏が就任しています。
くわえて会館名からも「レクスト岐阜」の表記が消され、名義が「岐阜葬祭」「小さなお葬式」に統一されています。
ただし今回の記事は、2023年6月期の決算公告をもとに分析をおこなっているため、社名も合併前の「株式会社 レクスト岐阜」のまま作成しています。
葬儀社の決算公告とは
決算公告資料はその会社が健全な経営を行っているかを確認できる計算書類となります。株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告といいます。
公告の方法は全部で3つあります。
- 官報に掲載
- 日刊新聞紙に掲載
- 電子公告(会社のウェブサイトに掲載)
決算公告は義務的な側面が強いですが、取引先や銀行に情報の開示を行うことで、自社の透明性や健全性を見せることができるという重要な側面も持ち合わせております。
なぜ葬儀社は決算公告をおこなうのか?
大手葬儀社、あるいは葬儀・葬祭事業を長きにわたって営んでいる会社は、冠婚葬祭互助会を運営するケースが少なくありません。
冠婚葬祭互助会とは、冠婚葬祭などの行事に備えるために、毎月一定の掛金を複数回の支払いで積み立てるサービスです。
冠婚葬祭互助会の会員になることで、葬儀や婚礼といったライフイベントの際に会員割引を受けられるなど、さまざまな面で優遇されます。
一般的な専門葬儀社は、開業にあたって特に許認可は必要ありませんが、冠婚葬祭互助会は経済産業大臣の認可を受けた企業のみ行える事業です。
会員から掛金として支払われた前受金は割賦販売法によって積み立てられた前受金の2分の1を次の何らかの方法で保全することが義務付けられています。
- 法務局に供託する
- 経済産業省の指定する保証会社と供託委託契約を結ぶ
- 銀行や信託会社などの金融機関と供託委託契約を結ぶ
上記のいずれかの方法を選択する必要があります。
また、経済産業省は割賦販売法に基づき互助会事業の経営指導や立入検査等を行っています。
なお現在、冠婚葬祭互助会事業者として登録されている事業者は以下より確認することができます。
経済産業省 前払式特定取引業者(冠婚葬祭互助会)許可事業者一覧
上記のように、冠婚葬祭互助会では政府・行政の認可団体として運営している側面があり、義務である決算公告を発表する事業者が多い状況です。
レクスト岐阜の貸借対照表
決算期 | 40期 | 41期 | 42期 | 43期 | 44期 | 45期 | |
会計年度 | 2018年06月期 | 2019年06月期 | 2020年06月期 | 2021年06月期 | 2022年06月期 | 2023年06月期 | |
利益剰余金 | -1億8千7百万円 | -2億3千1百万円 | -3億1千1百万円 | -5億2千8百万円 | -6億6千0百万円 | -7億2千5百万円 | |
資 産 の 部 | 流動資産 | 5千8百万円 | 6千2百万円 | 3億2千3百万円 | 1億5千6百万円 | 1億9千3百万円 | 2億4千8百万円 |
固定資産 | 8億4千8百万円 | 8億3千3百万円 | 17億7千3百万円 | 18億2千5百万円 | 17億8千2百万円 | 18億8千5百万円 | |
有形固定資産 | |||||||
無形固定資産 | |||||||
投資その他の資産 | |||||||
繰延資産 | 0.1百万円 | 0.1百万円 | |||||
資産合計 | 9億0千6百万円 | 8億9千5百万円 | 20億9千6百万円 | 19億8千1百万円 | 19億7千5百万円 | 21億3千3百万円 | |
負 債 の 部 | 流動負債 | 7千3百万円 | 3千1百万円 | 4千4百万円 | 2億8千0百万円 | 2億6千9百万円 | 3億2千3百万円 |
役員賞与引当金 | |||||||
賞与引当金 | |||||||
その他 | |||||||
固定負債 | 9億5千3百万円 | 10億2千7百万円 | 22億9千6百万円 | 21億6千1百万円 | 22億9千9百万円 | 24億6千6百万円 | |
退職給付引当金 | |||||||
雑収入復活引当金 | |||||||
役員退職慰労引当金 | |||||||
その他 | |||||||
負債の部計 | 10億2千5百万円 | 10億5千8百万円 | 23億4千0百万円 | 24億4千1百万円 | 25億6千8百万円 | 27億9千0百万円 | |
純 資 産 の 部 | 株主資本 | -1億1千9百万円 | -1億6千3百万円 | -2億4千3百万円 | -4億6千0百万円 | -5億9千2百万円 | -6億5千7百万円 |
資本金 | 6千8百万円 | 6千8百万円 | 6千8百万円 | 6千8百万円 | 6千8百万円 | 6千8百万円 | |
資本余剰金 | |||||||
資本準備金 | |||||||
その他資本余剰金 | |||||||
利益剰余金 | -1億8千7百万円 | -2億3千1百万円 | -3億1千1百万円 | -5億2千8百万円 | -6億6千0百万円 | -7億2千5百万円 | |
利益準備金 | |||||||
特別償却準備金 | |||||||
その他利益剰余金 | -1億8千7百万円 | -2億3千1百万円 | -3億1千1百万円 | -5億2千8百万円 | -6億6千0百万円 | -7億2千5百万円 | |
評価・換算差額等 | |||||||
その他有価証券評価差額金 | |||||||
(うち当期純損失) | -5千2百万円 | -4千5百万円 | -8千0百万円 | -2億1千7百万円 | -1億3千2百万円 | -6千5百万円 | |
新株予約権 | |||||||
自己資本 | |||||||
評価・換算差額等 | |||||||
その他有価証券評価差額金 | |||||||
純資産の部計 | -1億1千9百万円 | -1億6千3百万円 | -2億4千3百万円 | -4億6千0百万円 | -5億9千2百万円 | -6億5千7百万円 | |
負債・純資産合計 | 9億0千6百万円 | 8億9千5百万円 | 20億9千6百万円 | 19億8千1百万円 | 19億7千5百万円 | 21億3千3百万円 |
貸借対照表でまずチェックしたい箇所は純資産の部です。総資産に対する純資産の比率である「自己資本比率」が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
例えば自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされています。自己資本比率が10%を下回っている場合は経営状態は良いとは言えません。
自己資本比率が低い場合は借入金などの負債が多いので資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で、自己資本比率が高い場合は返済義務を有しない資金を大量に抱えているので倒産リスクは低くなると考えられます。
自己資本比率は中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、最適とされる自己資本比率は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は最低でも20%程度はあると安心です。
逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は最低でも15%程度は欲しいところです。
貸借対照表の左右(運用状況と調達状況)の合計額は必ず一致する
「資産」=「負債」+「純資産」という計算式が成り立つことから、
貸借対照表のことをバランスシート(Balance Sheet)またはビーエス (B/S) と呼ぶこともあります。
レクスト岐阜の自己資本比率
自己資本比率は「自己資本比率(%)=純資産÷総資産×100」で求めることができます。
しかしレクスト岐阜の場合は、少なくとも過去5年間にわたって純資産がマイナスになっており、債務超過の状態が継続しています。
新型コロナは2020年以降、日本経済に大きな打撃を与えました。
葬儀業界はもっとも影響が大きい業界の1つとされ、市場規模も15%前後縮小したといわれていますので、レクスト岐阜においても、新型コロナの影響は非常に大きかったと考えられます。
レクスト岐阜の資産と負債について
自己資本比率の次に確認したいのは、資産と負債の額になります。
貸借対照表でいうところの資産は左側に、負債は右側上段に記載があります。
この赤い円の箇所を確認することで、その会社の資産と借金の額を確認できます。
資産合計の推移
貸借対照表の左側に記載されており、「会社の所有する資産」を表します。
資産は下記の3つに構成されています。
・流動資産 = 1年以内に現金化もしくは費用化できる資産
例) 現金、有価証券、商品、製品など
・固定資産 = 長期にわたって会社が保有するものや1年を超えて現金もしくは費用となる資産で有形固定資産や無形固定資産がある。
例)・有形固定資産:建物、土地、車など
・無形固定資産:ソフトウェアなど
・繰延(くりのべ)資産 = 会社設立にかかった費用や社債発行にかかった費用を一括して費用として計上せずに資産として計上し期間内(数年など)に分けて償却するものとなります。
例) 創立費、開業費、開発費など
レクスト岐阜の資産合計の推移は以下のようになっています。
レクスト岐阜の2023年6月期における資産合計は、21億3千3百万円(前年同期比8.0%増)となっています。
レクスト岐阜の資産合計の推移をみると、2020年6月期に約12億円増加していますが、新規借り入れによるものであれば、同時期に同規模の負債が発生していることになりますので、次に負債合計の推移を確認してみましょう。
負債合計の推移
貸借対照表の右側上段に記載されており、「返す必要のある他人からの借金」を表します。
負債は下記の2つで構成されています。
・流動負債 = 1年以内に支払い期日を迎える負債となります。
例) 家賃、従業員の給与や賞与、買掛金(サービスや商品の金額を後払いするもの)など
・固定負債 = 1年以内に支払い期日を迎えない負債となりますので、流動負債以外の負債は固定負債になるということです。
例) 従業員の退職金、社債、長期借入金など
レクスト岐阜の負債合計の推移は以下のようになっています。
レクスト岐阜の2023年6月期における負債合計は、27億9千0百万円(前年同期比8.65%増)となっています。
負債合計の推移をグラフで確認すると、レクスト岐阜の負債合計は2020年6月期に12億8千2百万円増加しています。
同時期に資産合計が約12億円増加していることから、2020年6月期に12億円前後の新規借り入れを行った可能性が高いでしょう。
レクスト岐阜の純資産について
自己資本比率、資産合計、そして負債合計をみてきましたが、最後に確認したいのは「純資産」となります。
純資産は貸借対照表でいうところの右側下段に記載があります。
純資産は資産(現金、土地、建物など)から負債(借金)を差し引いたものです。
この赤い丸の箇所を確認することでその会社の純資産を確認できます。
レクスト岐阜の純資産合計、当期純利益、利益剰余金の推移はそれぞれ以下のようになっています。(各用語についても分かりやすく解説しています)
純資産合計の推移
会社の所有する現金や建物などの資産から負債(借金)を差し引いたものとなります。
純資産の割合が高ければ財務健全性が高いと考えます。一方で、純資産がマイナスの状態を債務超過といい、2期連続で債務超過の状態が続いた場合、東証上場の廃止基準に抵触することがあります。
レクスト岐阜の純資産は2018年から債務超過の状態が継続しており、2022年6月期から2023年6月期にかけてもマイナス分が増加しています。
当期純利益の推移
会社が1年間で得た全収益から法人税や住民税そして費用を差し引いたものが当期純利益となります。
この当期純利益がマイナスとなると当期純損失となります。
当期純利益の額をみることで、その会社の収益性がどのくらいなのか判断できる指標になります。
2023年6月期のレクスト岐阜の当期純損失は、-6千5百万円となりました。
2021年には2億円以上あった当期純損失ですが、以降は年々マイナス分が圧縮されています。
利益剰余金の推移
利益剰余金とは簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずにコツコツと社内で貯めたお金です。正確な会計用語ではないですが利益剰余金のことを内部留保とも言います。
内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。利益剰余金は貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。
内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で経営が赤字になった際に従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため企業が生き残るための重要な資金源となります。
レクスト岐阜の場合は以下のように推移しております。
レクスト岐阜の利益剰余金は、少なくとも2018年6月期時点でマイナスとなっており、2023年6期までマイナス分の金額も増え続けています。
しかし貸借対照表を確認すると、当期純損失の額は前年同期にくらべて大幅に圧縮されています。
コロナの影響を受けた葬儀業界も回復傾向にあり、レクスト岐阜の業績も2024年6月期には黒字転換している可能性もあります。
株式会社レクスト岐阜のまとめ
今回は株式会社レクスト岐阜の決算公告を参考に、現状分析をおこないました。
貸借対照表とWeb上に公開された情報を組み合わせて分析することで、外部から見えない企業の内部状況を、ある程度まで把握できることがおわかりいただけたかと思います。
レクスト岐阜も、新型コロナの影響を受けたことは間違いありませんが、今回の決算公告分析からは回復傾向にあるように感じられました。
株式会社 レクスト岐阜は、合併により2024年7月1日から「株式会社 アルファクラブ」として生まれ変わりました。
新会社になる前の最後の業績となる、2024年6月期の決算公告に注目したいと思います。