葬祭サービスを提供する企業は、日本全国に7,000社以上存在するといわれていますが、株式を公開している上場企業は7社(2024年7月29日現在)のみです。
潤沢な資金を保有する大手冠婚葬祭互助会や、全国的に事業を展開するような大手葬儀社であっても、そのほとんどは「非上場企業」のため、詳しい内部事情についての情報は開示されていません。
しかし上場企業では、株主や投資家に対して投資判断に資する情報を提供するために、業績や財務状況に関する詳細な情報を開示する義務を負っています。
インターネットが普及した現在では、上場企業の情報開示も自社ホームページ上でおこなわれているため、基本的には誰でも閲覧可能です。
上場葬儀社の決算資料には、葬儀業界に身を置く方にとって有益な情報が多数掲載されているため、できればすべて目を通しておきたいところです。
とはいえ葬儀の現場に立たれている方の多くは、日々の業務に邁進されているため、なかなか時間を取るのが難しいのが現状でしょう。
そこで本記事では、葬儀業界における上場企業のうちの1社「 こころネット 株式会社」の業績や財務状況について、決算資料を参考に詳しく解説いたします。
上場企業の決算とは
株式の上場には、資金調達が容易になる、社会的信頼性や知名度が向上するなどのメリットがある反面、業績や財務状況などの内部情報について詳細に開示する義務が生じるなど、デメリットも少なくありません。
上場企業と非上場企業の決算に関する主な違いについて、以下にまとめました。
項目 | 上場企業 | 非上場企業 |
---|---|---|
情報開示 | 厳格な情報開示義務あり | 比較的緩やかな情報開示 |
決算発表 | 四半期ごとに決算発表 | 年1回または年2回の決算発表 |
監査 | 会計監査人(公認会計士・監査法人)による監査が義務付けられている | 会計監査人の監査が不要なケースも多い *会社法上の大会社(資本額が5億円以上または期末の負債額が200億円以上の株式会社)は、会計監査人による監査が義務付けられている |
非上場企業の場合、決算資料として貸借対照表(資本額が5億円以上または期末の負債額が200億円以上の大会社は、貸借対照表および損益計算書)を、定時株主総会(毎事業年度の終了後)の終結後遅滞なく公告するよう会社法で定められています。
しかし上場企業では毎事業年度の終了後だけでなく、四半期(3か月)ごとに決算をおこない、その結果を発表する必要があるため、主に以下の決算資料を開示します。
- 有価証券報告書(年1回:事業年度終了後3カ月以内)
- 半期報告書(年1回:半期経過後45 日以内)
- 決算短信(年4回:四半期決算後45日以内)
以前は上記のほかに「四半期報告書(年4回:四半期決算後45日以内)」の提出も義務付けられていましたが、2024年4月から廃止となりました。
有価証券報告書(ゆうかしょうけんほうこくしょ)とは
有価証券報告書(ゆうかしょうけんほうこくしょ)は、上場企業が投資家や株主に対して、企業の経営状況や財務情報を詳しく報告するための書類で、すべての上場企業に提出が義務付けられています。
有価証券報告書は、投資家に対して企業の現状と将来の見通しを、透明かつ正確に伝えることを目的に開示されます。
有価証券報告書には、主に以下のような情報が記載されます。
情報の種類 | 具体的な内容 |
企業情報 | 企業の概要、沿革、事業内容、主要な製品やサービスについての説明 |
経営方針・戦略 | 経営陣のビジョンや中長期的な経営戦略、事業計画など |
財務情報 | 損益計算・貸借対照表・キャッシュフロー計算書などの財務諸表など |
経営成績 | 直近の業績や過去数年間の業績推移、セグメント別の業績など |
リスク情報 | 経営に影響を与える可能性のあるリスク要因についての説明、および対応策 |
役員報酬 | 取締役や監査役の報酬に関する情報 |
決算短信(けっさんたんしん)とは
決算短信(けっさんたんしん)は、上場企業が四半期ごとに業績を迅速に報告するための書類です。
決算短信は、株主や投資家などに対して企業の最新の業績情報をタイムリーに提供し、適切な投資判断を支援することを目的に開示されます。
決算短信は速報性が重視されるため、通常は有価証券報告書にくらべ、簡潔かつ要約された形式で提供されます。
決算短信には、主に以下のような情報が記載されます。
- 経営成績の概要:売上高、営業利益、経常利益、当期純利益などの主要な財務指標が記載されます。これにより、企業の業績の概要を迅速に把握することができます。
- セグメント情報:企業の主要な事業部門ごとの業績が報告されます。これにより、どの部門が収益を上げているか、または損失を出しているかを確認できます。
- 財務状況の概要:貸借対照表の主要な項目(資産、負債、純資産)やキャッシュフローの状況が簡潔に示されます。
- 業績予想:企業が将来の業績見通しを示す場合もあります。これは、投資家が企業の将来性を評価する際の重要な参考情報となります。
四半期報告書の廃止について
2023年11月20日に成立した「金融商品取引法等の一部を改正する法律」により、これまで上場企業に提出が義務付けられていた「四半期報告書」が廃止されました。
この改正は、企業の報告負担の軽減と経営の柔軟性向上を目的としています。
四半期報告書は、上場企業が3か月ごとに業績を報告するための書類ですが、四半期決算短信(以下「決算短信」)と内容も類似していることにくわえ、作成時期も重なっていることから、企業における業務負担の大きさが課題となっていました。
また、短期的な業績に焦点が当たりすぎることで、長期的な経営戦略の妨げになるという批判もありました。
そこで今回の法改正では、3か月ごとの情報開示を決算短信に1本化するとともに、これまでの四半期報告書にくらべて閲覧期間が長く(3年から5年に延長)設定された「半期報告書」の提出が新たに義務付けることで、上記のような課題の解消が図られています。
こころネット 株式会社の概要
こころネット 株式会社は、福島県を中心に冠婚葬祭互助会事業と生花事業、石材事業をおこなう事業者です。
福島県内が主な営業エリアですが、関東甲信越地方にも営業所があり、中国やベトナムにも営業拠点を展開しています。
こころネットの沿革
こころネット 株式会社は、1892年(明治25年)に創業した冠婚葬祭事業「アイトゥアイ・グループ」と、1929年(昭和4年)創業の石材事業「カンノ・グループ」が2005年11月に経営統合し「こころネットグループ」が設立されました。
こころネットグループの主な沿革は次のとおりです。
1892年(明治25年)
福島県福島市に玉野屋の屋号で葬具取扱店を創業
1929年10月
福島県伊達郡掛田町(現 福島県伊達市)に菅野石材店を創業
2006年4月
こころネットグループ発足
2012年4月
こころネット株式会社が株式会社大阪証券取引所JASDAQ(スタンダード)に株式を上場(現 株式会社東京証券取引所スタンダード市場)
2013年4月
介護事業に新規参入のため連結子会社こころガーデン株式会社(福島県福島市)を設立
2022年4月
株式会社東京証券取引所の市場区分の見直しにより、株式会社東京証券取引所JASDAQ(スタンダード)からスタンダード市場に移行
2023年11月
「ぶつだんプラザ会津・石のカンノ 会津支店(福島県 会津若松市)」を開設
出典:こころネット 株式会社 沿革
こころネットの事業展開
こころネットグループは、以下の8社の連結子会社と、3社の関連会社から成り立っています。
*連結子会社
・株式会社 たまのや:葬祭事業
・カンノ・トレーディング 株式会社・石のカンノ:石材卸売・小売事業
・株式会社 With Wedding:婚礼事業
・株式会社フルール:生花事業・装販事業
・株式会社 ハートライン:互助会事業
・株式会社 北関東互助センター:栃木県内での葬祭事業・互助会事業
・カンノ・トレーディング・ベトナム有限会社:石材事業
・株式会社 喜月堂セレオ:山梨県内での葬祭事業・仏壇・仏具販売事業
*関連会社
・天津中建万里石石材 有限公司:石材加工
・日本エンディングパートナーズ 株式会社:インターネットサービス、システム開発
・カンノ合同会社:投資事業
こころネットグループの自社葬祭会館は、2024年3月31日現在以下のとおりです。
・福島県:27施設(株式会社 たまのや)
・栃木県:6施設(株式会社 北関東互助センター)
・茨城県:3施設(株式会社 たまのや)
・山梨県:3施設(株式会社 喜月堂セレオ)
株式会社 たまのやは、こころネットグループの中核企業で、福島県福島市に本社を構え「たまのや こころ斎苑」名義で、福島県と茨城県を中心に葬祭会館を運営し、年間4,000件を超える葬儀施行実績があります。
1892年(明治25年)の創業以来、120年以上にわたり地域に根ざした葬儀社として、変化する消費者ニーズに応える葬儀を施行しています。
自社による葬儀施行だけではなく、JAライフクリエイト福島と業務委託契約を締結し、JA組合より受託した葬儀施行の一部業務を担っており、自社会館がない地域での事業をおこなえるようです。
カンノ・トレーディング 株式会社は、中国・ベトナムなどから墓石を輸入し、石材店へ販売しているほか「石のカンノ」の屋号で、福島県に5店舗、長野県に1店舗を展開し、東京と関東甲信越地方において墓石販売や霊園紹介、屋内納骨堂の販売をおこなっています。
株式会社 With Weddingは、福島県郡山市において婚礼式場を2施設、福島市にケータリング施設を1施設運営し、披露宴・宴会などのサービスを提供しています。
福島県内の一部で、株式会社 たまのやに仕出し料理などの、ケータリングをおこなっているほか、2024年10月には福島市内の公共施設において、バンケットサービス・ケータリングサービスを提供する予定です。
株式会社フルールは、24時間利用可能のネットショップ「フルールオンラインショップ」を運営し、葬儀用の生花や生花祭壇にも対応しているほか、棺や葬祭用品の卸売もおこないます。
株式会社 ハートラインは、福島県に本社を置いて冠婚葬祭互助会事業をおこない、会報誌の発行や割引特典など会員のサポートに努めているほか「株式会社 メモリードライフ」を引受保険会社とする、少額短期保険の案内をおこなっています。
株式会社 北関東互助センターは、栃木県内で6施設の葬祭会館を運営し、家族葬などの小規模葬から大規模葬まで対応可能で、冠婚葬祭互助会事業と少額短期保険を取り扱う企業です。
カンノ・トレーディング・ベトナム有限会社は、本社をベトナム社会主義共和国 ホーチミン市に置き、家族やご先祖様を大切にする国民性を見込んで墓石販売事業を展開しています。
株式会社 喜月堂セレオは、山梨県韮崎市に本社を構え「セレオホール」名義で山梨県内に3施設の葬祭会館を運営し、また「お仏壇の喜月堂」では仏壇・仏具の販売をおこなっています。
こころネットの吸収合併と経営統合
こころネットは、1892年(明治25年)の創業以来、数々の会社吸収合併と経営統合を繰り返して現在に至っています。
近年の主なものは以下のとおりです。
2015年7月
有限会社牛久葬儀社(茨城県牛久市)がこころネット株式会社へ全株式を譲渡し、グループに加わる
2016年7月
株式会社ハートラインが株式会社互助システムサークルを吸収合併
2017年4月
カンノ・トレーディング株式会社が石材卸売事業を吸収分割、石のカンノ株式会社へ承継。吸収分割後、カンノ・トレーディング株式会社は株式会社フルールに、石のカンノ株式会社はカンノ・トレーディング株式会社に商号を変更
2017年6月
再生可能エネルギー事業に新規参入のため連結子会社こころeパワー株式会社(福島県福島市)を設立
2017年9月
株式会社たまのやが有限会社牛久葬儀社を吸収合併
2017年12月
有限会社玉橋(福島県本宮市)がこころネット株式会社へ全株式を譲渡し、グループに加わる
2018年12月
株式会社北関東互助センター(栃木県宇都宮市)がこころネット株式会社へ全株式を譲渡し、グループに加わる
2019年4月
株式会社たまのやが有限会社玉橋を吸収合併
2020年2月
カンノ・トレーディング・ベトナム有限会社(ベトナム・ホーチミン市)がこころネット株式会社へ出資持分を譲渡し、グループに加わる
2021年1月
こころガーデン株式会社が介護事業の全部を事業譲渡
2021年7月
こころネット株式会社がこころガーデン株式会社を吸収合併
2021年10月
こころネット株式会社がこころeパワー株式会社を吸収合併
2023年9月
喜月堂ホールディングス株式会社(山梨県韮崎市)がこころネット株式会社へ全株式を譲渡し、同社とその子会社3社(株式会社セレオ、株式会社四季、有限会社喜月堂)がグループに加わる
2024年2月
喜月堂ホールディングス株式会社が株式会社セレオ、株式会社四季、有限会社喜月堂を吸収合併。吸収合併後、喜月堂ホールディングス株式会社は株式会社喜月堂セレオに商号を変更
2024年3月
株式会社 北関東互助センターが「こころ館 西川田」の運営を譲受
株式会社 With Weddingが、福島県福島市にケータリング施設「フーズワークサンパレス」を開設
商号 | こころネット 株式会社 |
---|---|
所在地 | 福島県福島市鎌田字舟戸前15-1 |
設立年月日 | 2005年11月(創業 1892年(明治25年)) |
代表者 | 代表取締役会長 齋藤 高紀 代表取締役社長 菅野 孝太郎 |
資本金 | 5億65万円 |
社員数 | 520名 |
事業内容 | ・葬祭事業 ・石材事業 ・婚礼事業 ・生花事業・装販部門 ・互助会事業 |
上場区分 | 東京証券取引所 スタンダード市場 |
公式ホームページ | https://cocolonet.jp/ |
こころネットの貸借対照表
決算期 | 53期 | 54期 | 55期 | 56期 | 57期 | 58期 | |
会計年度 | 2019年3月期 | 2020年3月期 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | |
利益剰余金 | 63億3千7百万円 | 64億4千4百万円 | 54億6千4百万円 | 54億8千0百万円 | 55億1千7百万円 | 59億8千3百万円 | |
資 産 の 部 | 流動資産 | 42億7千3百万円 | 49億2千0百万円 | 45億7千6百万円 | 46億1千7百万円 | 55億7千4百万円 | 45億4千6百万円 |
固定資産 | 165億8千6百万円 | 154億9千2百万円 | 141億2千9百万円 | 139億1千8百万円 | 130億7千3百万円 | 147億2千1百万円 | |
有形固定資産 | 104億2千1百万円 | 101億2千5百万円 | 86億9千1百万円 | 85億5千4百万円 | 80億0千7百万円 | 88億6千7百万円 | |
無形固定資産 | 5億0千7百万円 | 4億6千8百万円 | 4億2千6百万円 | 3億5千1百万円 | 2億7千6百万円 | 7億9千9百万円 | |
投資その他の資産 | 56億5千8百万円 | 48億9千8百万円 | 50億1千2百万円 | 50億1千4百万円 | 47億8千9百万円 | 50億5千5百万円 | |
繰延資産 | 4億5千6百万円 | 2億6千4百万円 | 4億0千5百万円 | 3億7千6百万円 | 5億4千9百万円 | 6億3千4百万円 | |
資産合計 | 208億6千0百万円 | 204億1千2百万円 | 187億0千5百万円 | 185億3千5百万円 | 186億4千7百万円 | 192億6千7百万円 | |
負 債 の 部 | 流動負債 | 18億5千1百万円 | 16億5千2百万円 | 12億7千5百万円 | 12億3千8百万円 | 13億8千7百万円 | 15億1千2百万円 |
役員賞与引当金 | |||||||
賞与引当金 | |||||||
その他 | |||||||
固定負債 | 100億5千6百万円 | 97億1千6百万円 | 93億5千5百万円 | 92億6千5百万円 | 91億8千8百万円 | 91億8千3百万円 | |
退職給付引当金 | |||||||
雑収入復活引当金 | |||||||
役員退職慰労引当金 | |||||||
(うち雑収入復活引当金) | |||||||
負債の部計 | 119億0千7百万円 | 113億6千8百万円 | 106億3千0百万円 | 105億0千3百万円 | 105億7千5百万円 | 106億9千4百万円 | |
純 資 産 の 部 | 株主資本 | 88億7千0百万円 | 89億7千7百万円 | 79億9千7百万円 | 79億2千8百万円 | 79億7千2百万円 | 84億5千2百万円 |
資本金 | 5億0千1百万円 | 5億0千1百万円 | 5億0千1百万円 | 5億0千1百万円 | 5億0千1百万円 | 5億0千1百万円 | |
資本余剰金 | 20億3千2百万円 | 20億3千2百万円 | 20億3千2百万円 | 20億3千2百万円 | 20億2千7百万円 | 20億2千9百万円 | |
資本準備金 | |||||||
その他資本余剰金 | |||||||
利益剰余金 | 63億3千7百万円 | 64億4千4百万円 | 54億6千4百万円 | 54億8千0百万円 | 55億1千7百万円 | 59億8千3百万円 | |
利益準備金 | |||||||
特別償却準備金 | |||||||
その他利益剰余金 | |||||||
自己株式 | 0百万円 | 0百万円 | 0百万円 | -8千5百万円 | -7千3百万円 | -6千1百万円 | |
その他有価証券評価差額金 | 2千0百万円 | 1千1百万円 | 4千1百万円 | 2千2百万円 | 2百万円 | 1千1百万円 | |
(うち当期純損失) | |||||||
新株予約権 | |||||||
評価・換算差額等 | |||||||
為替換算調整勘定 | 6千3百万円 | 4千6百万円 | 5千7百万円 | 8千2百万円 | 9千8百万円 | 1億1千0百万円 | |
非支配株主持分 | 9百万円 | -2千0百万円 | |||||
純資産の部計 | 89億5千3百万円 | 90億4千3百万円 | 80億7千5百万円 | 80億3千2百万円 | 80億7千1百万円 | 85億7千3百万円 | |
負債・純資産合計 | 208億6千0百万円 | 204億1千2百万円 | 187億0千5百万円 | 185億3千5百万円 | 186億4千7百万円 | 192億6千7百万円 |
貸借対照表は、企業の財政状態をスナップ写真のように捉えたもの。いわば、企業の「健康診断書」です。この診断書を読み解くことで、企業の安定性や成長性、さらにはリスクなどを評価することができます。
貸借対照表は資産・負債・純資産の3つの主要部分に分かれています。
資産は企業が所有するすべての価値あるものを示し、流動資産と固定資産に分類されます。流動資産には現金や売掛金、在庫などが含まれ、短期間で現金化できるものです。
一方、固定資産には土地や建物、機械設備など長期間使用されるものが含まれます。
次に、負債は企業が返済義務を負う全ての債務を示し、流動負債と固定負債に分類されます。
- 流動負債:1年以内に返済義務のある借入金や買掛金
- 固定負債:1年以上の返済期間がある長期借入金など
最後に資本金・資本剰余金・利益剰余金などで構成される純資産は、資産から負債を差し引いたもので、企業の自己資本と考えられます。
■貸借対照表で重視すべきポイント
自己資本比率 | 企業が自己資金でどれだけ経営しているかを示す指標です。この比率が高いほど、外部からの借入に頼らず、安定した経営を行っていると評価されます。 |
---|---|
流動比率 | 短期的な支払能力を示す指標です。手持ちの現金やすぐに現金化できる資産が、短期の借入金をどれだけカバーできるかを示します。流動比率は以下の計算式で算出できます。 「流動比率(%)=流動資産 ÷ 流動負債 × 100(単位%)」 |
利益剰余金 | 過去に生み出した利益のうち、配当やその他の用途に回されずに残っているお金です。企業の内部留保を示し、将来の投資や債務返済に利用できる資金源となります。 |
こころネットの自己資本比率は44.49%
自己資本比率は、一般的に30%以上:安定企業・50%以上:優良企業・70%以上:超優良企業といわれているものの、企業規模や事業内容によって目安となる数値は異なります。
ちなみに、葬儀業界における自己資本比率の中央値は10.5%、黒字かつ自己資本プラス企業の平均は27.7%とされています。(参照:日本政策金融公庫『業種別経営指標』)
自己資本比率は「自己資本比率(%)=純資産÷総資産(資産合計)×100」の計算式で算出可能です。
株式会社 こころネットにおける2024年3月期の自己資本比率は、以下のように算出されました。
85億7千3百万円(純資産の部計)÷ 192億6千7百万円(資産合計)×100=44.49%上記の式から同社の自己資本比率は44.49%(前年比で1.2ポイント増加)となりました。
こころネットの利益剰余金
利益剰余金は、企業が過去の利益を蓄積したもので、企業の内部留保として再投資や事業拡大、設備投資、借入金の返済などに使われます。
利益剰余金は、企業が持続的な成長を図り、財務の安定性を高めるうえで、重要な役割を果たします。
こころネットの2024年3月期における利益剰余金は、59億8千3百万円(前年同期比8.46%増加)となりました。
利益剰余金の推移を見ると、2021年3月期に減少したものの、翌年からは順調に回復し、2024年3月期はコロナ禍前の水準に近くなっています。
こころネットの損益計算書
■損益計算書の要旨 | 2019年5月13日 | 2020年5月13日 | 2021年5月13日 | 2022年5月12日 | 2023年5月11日 | 2024年5月13日 |
会計年度 | 2019年3月期 | 2020年3月期 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 |
売上高 | 107億1千7百万円 | 104億7千3百万円 | 79億8千6百万円 | 86億7千5百万円 | 95億6千2百万円 | 100億3千6百万円 |
売上原価 | 73億1千2百万円 | 70億6千8百万円 | 54億8千3百万円 | 59億4千7百万円 | 65億1千2百万円 | 66億5千6百万円 |
売上総利益 | 34億0千5百万円 | 34億0千5百万円 | 25億0千3百万円 | 27億2千9百万円 | 30億5千0百万円 | 33億8千0百万円 |
販売費及び一般管理費 | 28億9千5百万円 | 28億2千3百万円 | 24億1千6百万円 | 24億3千1百万円 | 24億2千6百万円 | 27億2千1百万円 |
営業利益 | 5億1千0百万円 | 5億8千3百万円 | 8千7百万円 | 2億9千8百万円 | 6億2千4百万円 | 6億5千8百万円 |
営業外収益 | 1億7千1百万円 | 1億8千1百万円 | 1億4千4百万円 | 1億2千4百万円 | 1億1千6百万円 | 2億1千5百万円 |
営業外費用 | 1億7千5百万円 | 2千1百万円 | 7千7百万円 | 8千1百万円 | 7千2百万円 | 4千3百万円 |
経常利益 | 5億0千6百万円 | 7億4千3百万円 | 1億5千4百万円 | 3億4千1百万円 | 6億6千8百万円 | 8億3千0百万円 |
特別利益 | 5千7百万円 | 4千6百万円 | 8千1百万円 | 1億4千4百万円 | 3千9百万円 | 8百万円 |
特別損失 | 1億5千9百万円 | 2億4千4百万円 | 12億8千0百万円 | 1億8千5百万円 | 5億6千0百万円 | 4千8百万円 |
税引前当期純利益 | 4億0千4百万円 | 5億4千5百万円 | -10億4千5百万円 | 3億0千0百万円 | 1億4千7百万円 | 7億9千0百万円 |
法人税、住民税及び事業税 | 1億3千6百万円 | 1億2千3百万円 | 6百万円 | 1億1千7百万円 | 1億7千5百万円 | 2億2千4百万円 |
法人等調整額 | -1千3百万円 | 1億9千8百万円 | -1億5千6百万円 | 3千4百万円 | -1億7千7百万円 | -1千3百万円 |
当期純利益 | 2億8千1百万円 | 2億2千4百万円 | -8億9千5百万円 | 1億5千0百万円 | 1億4千9百万円 | 5億8千0百万円 |
損益計算書は、企業の一定期間における収益と費用を対比し、最終的な利益または損失を明らかにする財務諸表です。
いわば企業の「成績表」のようなものとなりますが、中でも特に注目したい項目は、売上高・営業利益・経常利益となります。
売上金額の推移
こころネットの2024年3月期における売上高は、100億3千6百万円(前年同期比5.0%増加)となりました。
こころネットの売上高は、2021年3月期にコロナの影響を受けたとみられ大幅に減少しましたが、2022年以降は続けて増加し、2024年3月期には再び100億円を超えました。
2023年9月に喜月堂グループとのM&Aにより、営業エリアの拡大をおこなった結果が表れ、前期より増加したとしています。
なお、こころネットにおける葬祭セグメントの売上高は、以下のように推移しています。
こころネットの2024年3月期における、葬祭セグメント業績は以下のとおりです。
セグメント売上高:61億3千8百万円(前年同期比10.1%増加)
セグメント利益 :6億9千2百万円(前年同期比12.0%増加)
営業利益の推移
こころネットの2024年3月期における営業利益は、6億5千8百万円(前年同期比5.5%増加)となりました。
こころネットの営業利益は、2021年3月期に大幅に減少しましたが、2022年3月期には一気に増加に転じ、2024年3月期には6億円を超えて過去6年間で最高額となりました。
売上高に占める売上原価の割合を示す、売上原価率は次の計算式で算出されます。
売上原価率(%)= 売上原価 ÷ 売上高 × 100
こころネットの2023年3月期と、2024年3月期の売上原価率は以下のとおりです。
- 2023年3月期:65億1千2百万円 ÷ 95億6千2百万円 × 100=68.1%
- 2024年3月期:66億5千6百万円 ÷ 100億3千6百万円 × 100=66.3%
2023年3月期よりも2024年3月期の売上原価率は、1.8%低くなって改善しています。
経常利益の推移
経常利益とは、企業の本業だけでなく、本業以外の活動からも得られた利益を合計したものです。
営業利益に、受取利息や配当金などの営業外収益を加え、支払利息や有価証券の売却損などの営業外費用を差し引いて計算されます。
本業だけでなく、投資活動や財務活動からも得られる利益を考慮することで、企業の安定的な収益力を評価することができます。
こころネットの2024年3月期における経常利益は、8億3千0百万円(前年同期比24.2%増加)となりました。
こころネットの経常利益は、営業利益と同様に2021年3月期に大きく減少したものの、2022年3月期には一気に回復しました。
その後も毎年順調に増加し続けて、2024年3月期には8億円に達しています。
まとめ
本記事では、 こころネット 株式会社の決算資料(決算短信・有価証券報告書・決算説明)を参考に、同社の業績や財務状況について解説いたしました。
上場企業である同社も、新型コロナの影響が大きかったとみられますが、2022年以降は一気に回復し、業績を伸ばし続けています。
今期、こころネットは「第4次中期経営計画」(2023年3月期~2025年3月期)の重点施策に取り組み、Webマネジメント体制の再構築や葬祭事業のコンタクトセンターの開設などを進めました。
葬祭事業では、新規葬祭会館2施設の開設と、仏壇・仏具と墓石を販売するコラボレーション店舗の開設、M&Aによる営業エリアの拡大を実施しました。
また、広告宣伝やアフターフォロー営業などを強化した結果、葬儀施行単価や法事施行件数が前年より増加したとしています。
石材事業は、広告宣伝を強化した結果、成約率と墓石のリフォーム・メンテナンス、石材小売単価が前年同期よりも増加しました。
同社では、変化の激しい事業環境の中で引き続き「第4次中期経営計画」に取り組み、2025年3月期も事業拡大に伴う増収を見込んでいます。
葬祭関連の上場企業の業績・動向を把握しておくことは、今後の葬儀業界と自社の経営方針を見定めるうえで、重要な指標となることでしょう。
葬研では、今後もこころネットをはじめ、上場企業の決算情報に注目したいと思います。