サービス・コーポレーション・インターナショナル(Service Corporation International、以下SCI)は米国およびカナダで事業を展開するアメリカの葬儀会社であり、世界最大の葬儀会社として知られています。
本記事では、SCIの事業概要や、米国において現在課題となっている土葬から火葬への移行へのニーズに対する施策まで幅広く紹介いたします。
アメリカの葬儀社|サービス・コーポレーション・インターナショナル(SCI)とは?
SCIは、1,435の葬儀場、374の墓地を運営している米国における最大の葬儀社です。この規模により、SCIは、世界最大の葬儀会社として知られています。
参考までに、米国における業界第2位の規模を誇るStoneMor Partners(ストーンモル・パートナーズ)と比べると、ストーンモルが保有する葬儀場はそれぞれ69であるため(2023年2月現在)、SCIは20倍以上の葬儀場を運営していることになり、SCIがいかに巨大な葬儀会社であるかがわかります。
アメリカの葬儀社|サービス・コーポレーション・インターナショナルは、どのようにして世界最大手の葬儀会社となったか?
なぜSCI(SCI)はこのように巨大になったのでしょうか?それは、SCIが葬儀業界を統合してきたという歴史的経緯が関係しています。
はじまり
SCIは、1962年にロバート・L・ウォルトリップにより設立されました。
ウォルトリップは1931年に葬儀屋の家に生まれ、20才のときに父親の死を受けて家業を継ぎました。
1962年までに、ウォルトリップはヒューストンにある3つの葬儀会社を運営するようになっていましたが、同年にSCIを設立しました。
SCI設立の目的は、飲食業界におけるマクドナルドのように、規格化されたプランを提供する葬儀屋のより大きなチェーンを形成することにあったようです。
60年代:買収とクラスター化による効率的経営戦略
ウォルトリップは、その後主要都市の有力な葬儀社を買収し、1970年までには米国およびカナダにて30もの葬儀社を買収するなど、積極的な買収戦略を推し進めます。
この拡大の過程において、SCIは「クラスター戦略」を採用しました。
ここでいう「クラスター戦略」とは、SCIのチェーンに属する葬儀社は、霊柩車やエンバーミング工程(遺体に防腐処理や修復等を施すこと)や人員を「クラスター」で共有することにより、非稼働時間を減らすという効率化戦略を意味します。
これにより、以前はあった、葬儀の合間には何もすることがないという非稼働時間がほぼなくなり、従来の家族経営ではまねすることができない、効率的な経営が実現されました。
70年代:連邦取引委員会との闘い
1970年代においても、SCIは買収による急激な成長を続けましたが、他方で70年代はSCIにとって連邦取引委員会から繰り返し捜査を受けた試練の時期でもありました。
顧客への不当な価格提示などの問題があるとして、1973年に連邦取引委員会がSCIの葬儀サービスや墓地に関する捜査を開始し、結果的に提訴されることとなりました。
これに対して、SCIは反論したものの、訴訟回避のために命令に従いました。
また、1979年には、不満を持った株主がSCIを訴えたのをきっかけに調査が行われ、疑わしい経費や会社資金の立替が発覚しました。
80年代から90年代:さらなる拡大と世界進出、そして縮小
1981年、SCIは業界で2番目に大きい会社を買収し、業界最大手となりました。
同社の収益は上昇し、系列に属する平均的な葬儀会社の売上高は、業界平均の4倍になりました。
またSCIは、80年代には不動産取引でも収益を得るようになり、これにより好条件な場所に葬儀社をかまえるようになる一方、生花販売事業にも進出するなどしています。
90年代において、SCIはさらに拡大し、海外進出を行いました。
90年代の初頭に、11億ドルもの資金を投じて、フランス、イングランド、オーストラリアの葬儀会社を買収しつつ、イタリア、シンガポール、チェコのマーケットにも進出しました。
ウォルトリップは、米国におけるSCIの方法論が海外においても妥当すると考えており、米国ほど葬儀費用がかからない英国やフランスにおいても、さらに安価な値段でサービスを提供しました。
これにより、SCIの売り上げは96年の第一四半期には75%上昇しました。
しかしながら、90年代後半になると、SCIは以前のように収益を挙げられなくなっていました。
以前は死亡率が年々上昇していましたが、医療の発展により死亡率は徐々に低下した結果、市場が縮小傾向にある状態になっていました。
また、葬儀業界では長期における統合のあとで買収価格が上がっていたため、経済的に効率的な手法とは言えなくなっていました。
2000年から現在に至るまで
90年代後半の状況を受けて、2002年にSCIは大幅な縮小を行い、一時期には20カ国に展開していた事業を8カ国に絞り、運営する葬儀会社の数も多かった時期の約半分の2,500にまで減らしました。
とはいえ、その後も大きな買収・統合を行い、相変わらず世界最大の葬儀会社としての地位を保っています。
アメリカの葬儀社|サービス・コーポレーション・インターナショナルの事業概要・基本情報
SCIの事業概要
以上の歴史の記述からも明らかなように、SCIは葬儀、火葬、墓地等、葬儀関連のサービスを展開しています。SCIの特徴の一つとしては、もともと多くの葬儀会社を統合してきたという経緯もあり、幅広いブランドを保有しており、さまざまなニーズに対応できるという点が挙げられます。
これにより、シンプルな葬儀や火葬から、緻密なプランニングを経たうえでのハイエンドな葬儀の演出まで、幅広く対応しています。
SCIの基本情報
創業:1962年
本部:アメリカ合衆国テキサス州ヒューストン
従業員数:25,139人 (2022年)
収益:41億ドル(約5,585億円、2022年)
SCIが運営する各ブランド(事業)について
葬儀に関する多様なニーズに応えるために、SCIはさまざまなブランド(事業)を展開しています。公式ウェブサイトで公開されている限りでも、SCIには12のブランドがあります。これらのブランドはそれぞれ異なったターゲットセグメントの固有のニーズに応えるサービスを展開しています。分類の仕方は一様ではありませんが、次のように理解することが可能です。
ハイエンドサービスを提供するブランド
- ディグニティ・メモリアル・プレミアーコレクション(Dignity Memorial® Premier Collection )
全米の厳選された葬儀社から構成されており、高級感のあるカスタマイズされた葬儀を演出 - ローズヒルズ(Rose Hills®)
カリフォルニア州で広大な敷地と美しい景色の中でメモリアルを提供 - LHTコンサルティンググループ(LHT Consulting Group, LLC)
著名な人物のために、葬儀や記念行事の実施のための包括的な計画、プロトコル、ロジスティクスを設計・提案
リーズナブルな価格でサービスを提供するブランド
- ディグニティ・メモリアル(Dignity Memorial®)
北米における葬儀・火葬・墓地の最も包括的なサービス - アドバンテージ・葬儀&火葬サービス(Advantage® Funeral & Cremation Services)
品質を損なうことなく、簡素化された葬儀や火葬を手配
火葬にフォーカスしたブランド
- ナショナル・クリメーション(National Cremation®)
早急な場合でも、計画的な場合でもエキスパートが火葬サービスを提供 - ネプチューン・ソサイエティおよびトリデント・ソサイエティ(Neptune Society® and Trident Society®)
リーズナブルな火葬サービスを提供する最大のブランド - ノースカロライナ・ネプチューン・ソサイエティ(Neptune Society of Northern California)
ノースカロライナのあらゆる信仰や背景を考慮した総合的な火葬サービス - ネプチューンメモリアルリーフ(Neptune Memorial Reef®)
火葬を選択した家族のために、マイアミビーチの海岸から約5キロ離れた海中にある、アトランティスをイメージした海中墓地を提供
個々のコミュニティや地域に即したサービスを提供するブランド
- ディグニテ(Dignité)
カナダ・ケベック州のフランス語圏の家族にあわせた葬儀、火葬、墓地サービス - フネラリア・デル・アンヘル(Funeraria Del Angel®)
ヒスパニック系家族の文化への理解と尊重に重点をおいた葬儀・墓地サービス - カバレッロ・リヴェロ(Caballero Rivero®)
マイアミ地域の葬儀・墓地ニーズに対応したサービス
アメリカの葬儀社|サービス・コーポレーション・インターナショナルの今後と展望
以上までで、SCIについて概観してきましたが、最後に今後の同社の展望について考えてみましょう。
北米業界のトレンドは?
まずSCIが展開している北米市場の状況について確認しておきましょう。
端的にいうと、現在の北米の葬儀業界は成熟しており、低成長市場に属します。
しかしながら、たとえば、米国における葬儀社業界の市場規模は、2018年から2023年にかけて年平均で1.5%成長しています。
また、PE(プライベート・エクイティ)ファンドも葬儀業界に投資しており、このことも葬儀業界が依然として収益性のある業界であることを示唆しています。
このため、北米の葬儀業界は低成長といえども、手堅い成長率をキープしているため、収益性の高い市場であると言えます。
*PEファンド
主に未公開株(プライベート・エクイティ)の運用を取り扱うファンドで、経営支援などで企業価値を高め、株価上昇により利益を確保することを目的とする。
こういった状況を鑑みると、業界最大手のSCIも業界の成長に合わせて、今後も成長を続けていくと考えられるでしょう。
埋葬から火葬への転換への対応
業界の大枠の動きとして、葬儀業界は成熟市場でありながらも、手堅い成長率をキープしていくと考えられます。
ここからは、より具体的・個別的なトレンドについても考えてみましょう。
近年の北米葬儀業界のトレンド一つには、埋葬から火葬への転換があります。
2006年には、アメリカ合衆国における火葬率は33.8%でしたが、15年後にあたる2021年には57.5%にまで上昇しています。また、2025年には火葬率は約64%程に達すると推計されており、2006年と比較すると火葬率は約2倍に増えるものと予測されています。
この背後には、高額な埋葬費用に対して火葬は比較的安価で済むことや、埋葬では有害物質が土壌汚染をしてしまうという環境上の懸念といった要因があります。
こうした要因は今後も変わらず、むしろ埋葬から火葬への転換を推進していくと予測されるため、全米葬儀社境界(National Funeral Directors Association, NFDA)は2040年までには火葬率は78.4%になると推計しています。
これに対して、2040年の埋葬率は16%と見積もられています。
伝統的な埋葬から火葬への転換は、SCIにとって大きな課題となっています。
火葬は伝統的な埋葬と異なり、エンバーミング(遺体に修復や防腐処理などを施すこと)や遺体の墓地への輸送といったことを必要としないため、葬儀会社の側からすると利益率が少なくなります。
このため、伝統的な埋葬から火葬へのシフトは、SCIのような葬儀会社にとっては利益率の減少を意味することになります。
埋葬から火葬へのシフトは今後加速すると予想されることから、北米の葬儀業界において大きな問題と捉えられており、SCI自身も2018年の年次報告書においてリスクファクターとして言及しています。
SCIはこのような傾向に対して、葬儀会社のもつリソースを適切に配置し、必要であれば規模を縮小するなどして対応しているようです。
この結果として、SCIは葬儀用のリムジンや霊柩車、人員ならびに施設の規模を小さくしていくことになります。
つまり、このように葬儀会社としてのオペレーションをより効率的・効果的に管理することで、埋葬から火葬への需要の変化に対応しているとまとめることができます。
まとめ
以上、本記事では世界最大の葬儀会社であるSCIについて、その歴史や最近のトレンドに対する対応を中心に見てまいりました。
SCIのキーポイントをまとめると、次のように言えるでしょう。
- SCIは合併・買収により「葬儀業界のマクドナルド」と呼べるような効率的経営を行うことで拡大を行い、世界最大の葬儀会社となり、世界各国に進出した。
- 90年代後半には業界のトレンドの変化により、行き過ぎた拡大を縮小して、経営のスリム化・効率化を図り、その後も世界最大の葬儀会社会社としての地位を保持した。
- 現在においては、北米の葬儀業界自体は、成熟市場であり、伝統的埋葬から火葬への転換による利益率の減少という懸念事項はあるものの、経営・オペレーションの効率化により市場のトレンドの変化に対応している。