葬儀社の業績・利益を調べる場合、帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、葬儀社の業績・利益の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。
今回は株式会社 117の現状について、貸借対照表をもとに分析いたします。
上場企業の決算資料ほど詳細ではありませんが、事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。
株式会社 117の概要
「株式会社 117」は兵庫県姫路市に本社を置き、兵庫県内で婚礼・葬祭サービス事業や貸衣装事業を運営する冠婚葬祭互助会事業者です。
1974年2月に設立された「株式会社東播冠婚葬祭互助会」を母体としており、1978年4月に社名を「株式会社 大和殿大和互助センター」に変更、さらに1993年7月には現在の社名である「株式会社 117」としました。
なお、「株式会社東播冠婚葬祭互助会」時代の1978年3月に通産大臣(現経産大臣)許可を受けています。
グループ会社として「株式会社 117メンバーズ」と「株式会社 大和生研」を設立し、兵庫県のほか大阪・和歌山で冠婚葬祭互助会事業を展開しています。
またグループ企業の「株式会社 あっぷる」では、介護事業の運営もおこなっている状況です。
「株式会社 117」では、兵庫県内に31カ所の葬祭ホールを「大和会館」「やわらぎホール」名義で運営しています。
葬儀社の決算公告とは
決算公告資料はその会社が健全な経営を行っているかを確認できる計算書類となります。株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告といいます。
ただし、大会社については貸借対照表と合わせて損益計算書も公告することが義務付けられています。
次の2つの条件のうちいずれか1つが該当する株式会社は「大会社」という定義になります。
1つ目は資本金が5億円以上、2つ目は負債額が200億円以上の株式会社のいずれかとなります。
公告の方法は全部で3つあります。
- 官報に掲載
- 日刊新聞紙に掲載
- 電子公告(会社のウェブサイトに掲載)
決算公告は義務的な側面が強いですが、取引先や銀行に情報の開示を行うことで、自社の透明性や健全性を見せることができるという重要な側面も持ち合わせております。
なぜ葬儀社は決算公告をおこなうのか?
大手葬儀社、あるいは葬儀・葬祭事業を長きにわたって営んでいる会社は、冠婚葬祭互助会を運営するケースが少なくありません。
冠婚葬祭互助会とは、冠婚葬祭などの行事に備えるために、毎月一定の掛金を複数回の支払いで積み立てるサービスです。
冠婚葬祭互助会の会員になることで、葬儀や婚礼といったライフイベントの際に会員割引を受けられるなど、さまざまな面で優遇されます。
一般的な専門葬儀社は、開業にあたって特に許認可は必要ありませんが、冠婚葬祭互助会は経済産業大臣の認可を受けた企業のみ行える事業です。
一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)「互助会のしくみ」
会員から掛金として支払われた前受金の1/2を、以下のいずれかの方法で保全することが、割賦販売法によって義務付けられています。
- 法務局に供託する
- 経済産業省の指定する保証会社と供託委託契約を結ぶ
- 銀行や信託会社などの金融機関と供託委託契約を結ぶ
なお現在、冠婚葬祭互助会事業者として登録されている事業者は以下より確認することができます。
また、経済産業省は割賦販売法に基づき互助会事業の経営指導や立入検査等を行っています。
経済産業省 前払式特定取引業者(冠婚葬祭互助会)許可事業者一覧
上記のように、冠婚葬祭互助会では政府・行政の認可団体として運営している側面があり、義務である決算公告を発表する事業者が多い状況です。
117の貸借対照表
貸借対照表でまずチェックしたい箇所は純資産の部です。総資産に対する純資産の比率である自己資本比率が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
例えば自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされています。
自己資本比率が低い場合は、借入金などの負債が多い状況と考えられますので、資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で自己資本比率が高い場合は、返済義務を有しない資金を大量に抱えているので、倒産リスクは低くなると考えられます。
自己資本比率は中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、自己資本比率は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は最低でも20%程度はあると安心です。
逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は最低でも15%程度は欲しいところです。
貸借対照表の左右(運用状況と調達状況)の合計額は必ず一致する
「資産」=「負債」+「純資産」という計算式が成り立つことから、貸借対照表のことをバランスシート(Balance Sheet)またはビーエス (B/S) と呼ぶこともあります。
117の自己資本比率は27.56%
自己資本比率は以下の式で計算します。
「自己資本比率(%)= 純資産 ÷ 総資産 × 100」
したがって、117の自己資本比率は次の通り算出されます。
251億1千5百万円÷928億2千7百万円× 100 = 27.56%
117の202年6月期における自己資本比率は27.56%(前年同期比3.73%減)となっています。
117の利益剰余金の推移
利益剰余金とは簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずにコツコツと社内で貯めたお金です。正確な会計用語ではないですが利益剰余金のことを内部留保とも言います。
内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。利益剰余金は貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。
内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で収益状況が悪化した際にも、従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため、企業が生き残るための重要な資金源となります。
117の場合は以下のように推移しております。
117の2023年6月期における利益剰余金は、250億4千3百万円(前年同期比1.45%増)となりました。2018年6月期以降、年々増加していることがわかります。
この利益剰余金は突発的な損失に備える資金でもあるため、種々の財務的な脅威に対する資金源として安心材料となるでしょう。
株式会社 117の損益計算書
損益計算書とは、企業が1年間の経営状況を把握するために作成される資料で、P/L(profit and loss statement)とも呼ばれます。
企業に入ってくるお金(収益)と、出ていくお金(経費)をまとめたもので、最終的な利益が確認できる資料です。
損益計算書
2023年6月期における全体的な数値は、前年同期を上回る、あるいは横這いといった状況です
コロナ禍以前の水準まで戻るには少し時間が必要かもしれませんが、状況が上向きつつあることは今後の経営にとって好材料といえるでしょう。
売上金額の推移
117の2023年6月期における売上高は、37億6千0百万円(前年同期比3.64%増)となりました。
新型コロナの規制が緩和され始めた2021年以降は、売上高も順調に回復している印象で、2024年6月期には2019年の水準を上回る可能性もありそうです。
営業利益の推移
営業利益とは、主な営業活動で得られた「売上総利益」から「販売費および一般管理費」を差し引いたもので、1年間の本業における利益を表す数字です。
葬儀業界でいえば、葬儀施行や葬儀付帯業務などによる利益が、営業利益にあたります。
117の2023年6月期における営業利益は、3億7千1百万円(前年同期比94.24%増)と、大幅な増加となりました。
この数値は、新型コロナ発生前である2019年を大きく上回っており、過去6年間で最高額となっています。
経常利益の推移
経常利益は、企業が1年間で得たすべての利益を表す数字で、「営業利益」+「営業外収益」-「営業外費用」で算出されます。
ここでいう「営業外収益」とは、主な業務以外の収益(金融商品・株・為替などの取引で発生した利益)を指します。
117の2023年6月期における経常利益は9億0千0百万円(前年同期比1.42%減)となりました。
若干の減少となったものの、損益計算書を確認する限りでは「営業外損失」によるものと考えられますので、経営健全性に影響はなさそうです。
株式会社 117のまとめ
今回は株式会社117の決算公告をもとに分析をおこないました。
資料を確認する限りでは、コロナ禍の影響からの脱却は順調に進んでいるようで、経営安定性に不安は感じられませんでした。
2023年5月には新型コロナも5類相当に移行し、葬儀業界も全体的に回復基調にあるといわれていますので、117の2024年6月期決算公告が待たれるところです。
葬研では、今後も引き続き117の動向を注視していきたいと思います。