全国の自治体において「おくやみコーナー」の設置、および「おくやみハンドブック」導入が加速しています。
さまざまな死後手続きを一元化する「おくやみコーナー」と、1人ひとりに必要な手続きを1冊にまとめた「おくやみハンドブック」は、死後手続きの効率化を推進するための両輪を成す取り組みとなります。
少子高齢化が進行し多死社会を迎えた日本において、死後手続きの効率化は喫緊の課題ですが、職員だけで対応するのが難しい自治体の中には、民間企業との連携を選択するケースも多いようです。
民間企業の強みを活かした官民連携は、市民サービスの向上や地域の活性化に有効とされていますが、公共事業である以上、公平性は確保されるべきでしょう。
本記事では、東京23区における死後手続きの動向を解説しつつ「おくやみコーナー」「おくやみハンドブック」導入状況について紹介します。
後半では市町村部の状況にも触れていますので、ぜひ最後までご覧ください。
死後手続き簡略化の動きについて
「おくやみコーナー」の設置、および「おくやみハンドブック」導入は、死亡者数の増加が予想されているにも関わらず、労働者人口が減少に向かっている日本の社会環境に対応するために、行政が打ち出した「死亡・相続ワンストップサービス推進」に関連した動きの一部です。
死後手続き簡略化が急がれる背景
死亡後に必要となる手続きは多岐にわたりますが、これまでの市役所や区役所といった自治体庁舎では、対応部署が数か所に分かれているのが一般的でした。
こうした状況は、ご遺族様にとって利便性に欠けるだけでなく、申請や手続きを受け付ける職員の負担も大きかったようです。
こうした問題を解消するため、死後に必要となる行政手続きを集約し、利用者と職員の負担を軽減するためのシステムとして「おくやみコーナー」の設置が推進されていると考えられます。
また「おくやみコーナー」をより効率的に運用するための手段として「おくやみハンドブック」の配布がおこなわれているようです。
おくやみコーナー・おくやみハンドブック導入に向けた行政の動き
日本で初めて「おくやみコーナー」が設置されたのは、大分県の別府市とされており、その後も三重県松坂市や神奈川県大和市などが続きました。
上記の自治体では、独自にシステムを構築したようですが、すべての自治体が同様の仕組みを自前で準備できるわけではありません。
そのため政府は内閣官房内に設置されたIT総合戦略室(現在はデジタル庁に移管)において「おくやみコーナー設置ガイドライン」を策定し、システムとして「おくやみコーナー設置自治体支援ナビ(利用マニュアル)(インストールマニュアル)」も作成しています。
ただ、IT人材の不足などの理由から、「おくやみコーナー」を自前で設置できる自治体ばかりではないため、業務委託を前提とした「おくやみコーナー設置自治体支援ナビ導入等業務委託仕様書」も用意されています。
自治体支援事業を展開する民間企業
前述したように、すべての自治体が「おくやみコーナー」の設置や「おくやみハンドブック」の作成に対応できるわけではないため、民間企業に業務委託する際の条件や委託範囲を定めた「おくやみコーナー設置自治体支援ナビ導入等業務委託仕様書」が用意されています。
こうした行政の動きに呼応する形で、自治体支援事業に乗り出す企業も増えつつあるようです。
株式会社 鎌倉新書
自治体による「おくやみコーナー」の設置、および「おくやみハンドブック」の作成・配布の動きが加速している点にに着目し、積極的に自治体支援事業に取り組んでいるのが、「いい葬儀」や「いいお墓」などのポータルサイトを運営する鎌倉新書です。
同社では自治体支援事業の専門部署を立ち上げ、各自治体によるおくやみコーナーの開設・運営、およびおくやみハンドブックの作成の両方をサポートしています。
IT企業としての印象が強い鎌倉新書ですが、もともとは仏壇仏具業界向け書籍の出版社として設立された企業であり、葬儀社・仏壇店向けにパンフレットの制作などもおこなっています。
ライフエンディング領域に関する知見もあるうえ、出版ノウハウも持つ鎌倉新書では、提携先の自治体がすでに300以上となっているようです。
株式会社グラファー
東京23区のうち、千代田区・港区・文京区・目黒区・世田谷区・荒川区の6区では、株式会社グラファーが提供している自治体・官公庁向けの「Graffer 手続きガイド」を導入して、手続き負担の軽減に取り組んでいます。
同プラットフォームが対応している手続きの中には「死亡」が含まれており、簡単な質問に回答するだけで、1人ひとりに必要な手続きが抽出されます。
デジタル庁では、すでに「死亡届及び死亡診断書(死体検案書)提出のオンライン化」について検討を始めているため、将来的にはこうしたプラットフォームから直接手続きできるようになる可能性もあります。
株式会社ジチタイアド
株式会社ジチタイアドの「おくやみハンドブック」を導入しているのは、23区では江東区、杉並区と市町村部では、立川市、国立市、東大和市です。同社は、自治体向けのサービスを提供している株式会社ホープのグループ企業で、自治体の広告事業をおこなっています。
同じくグループ企業の株式会社ジチタイワークス HA×SH(ハッシュ)も、官民連携プラットフォームの運営をおこない、会員登録をすれば自治体向けサービスを検索し、資料請求まで無料でおこなえるようになっており「おくやみハンドブック」にも対応しています。
同社は、自治体の各部署におけるさまざまな問題解決に役立つサービス情報を掲載しており、官民連携を推進しています。
東京23区における死後手続き案内の現状
東京都の区部を構成する23の特別区は、市に準じた地方自治に関する権能を有するため、独自の条例を制定するなどの施策が可能です。
そのため「死亡・相続ワンストップサービス推進」への対応状況も、区ごとに異なります。
東京23区のおくやみコーナー設置状況
東京23区では、すでに過半数となる12の区には「おくやみコーナー」が設置されています。
また現時点で未対応の千代田区でも「おくやみコーナー」の設置について検討されているようです。
現時点で設置されている「おくやみコーナー」については、以下の表を参照ください。
東京23区のお悔やみハンドブック作成・配布状況
東京23区では、すでに23区のうち21区で「おくやみハンドブック」の作成・配布が開始されています。
また現時点で未対応の千代田区でも、「おくやみハンドブック」の作成・配布について準備が進められているようです。
東京23区におけるおくやみハンドブックの作成・配布状況は以下をご確認ください。
■東京23区のおくやみハンドブック一覧
自治体名 | ブックタイトル | 担当企業名 |
千代田区 | 未対応 | |
中央区 | おくやみハンドブック | 鎌倉新書 |
港区 | ご遺族の方へ | 内製 |
新宿区 | おくやみガイドブック | 内製 |
文京区 | おくやみハンドブック | 内製 |
台東区 | ご遺族の方へ | 内製 |
墨田区 | おくやみハンドブック | 内製 |
江東区 | おくやみ手続きガイド | ジチタイアド |
品川区 | ご遺族の方へ | 株式会社リンク |
目黒区 | おくやみハンドブック | 鎌倉新書 |
大田区 | ご遺族の方へ | 内製 |
渋谷区 | 未対応 | |
世田谷区 | ご遺族の方へ | 内製 |
中野区 | ご遺族の方へ | 鎌倉新書 |
杉並区 | お悔みハンドブック | ジチタイアド |
豊島区 | おくやみ手続きガイド | 内製 |
北区 | おくやみのしおり | 内製 |
荒川区 | 死亡届を出された後の手続きハンドブック | 内製 |
板橋区 | おくやみハンドブック | 鎌倉新書 |
練馬区 | おくやみハンドブック | 鎌倉新書 |
足立区 | ご遺族の方へ | 内製 |
葛飾区 | おくやみハンドブック | 内製 |
江戸川区 | おくやみガイド | 鎌倉新書 |
なお「おくやみハンドブック」については、各区で独自に作成しているケースがある一方、民間企業に委託しているケースも目立ちます。
以下のグラフは「おくやみハンドブック」製作元の割合を示しています。
上記は2024年2月現在の状況ですが、現時点における各区の「おくやみハンドブック」の充実度には差異があるため、情報更新時に製作元が変化する可能性もあります。
また死後手続きを案内する冊子の呼称も区ごとに異なりますが、東京23区においては『ご遺族の方へ』『おくやみハンドブック』が多くを占めています。
東京23区における『おくやみハンドブック』広告掲載企業
「おくやみハンドブック」の制作を受託している鎌倉新書・ジチタイアドでは、自治体に対して無償提供しているのが特徴です。
冊子内に企業や団体の広告を掲載することで、制作費用を広告収入によって賄うという手法を取っているようで、相続に関連する各種士業事務所や遺品整理業者・墓石店・仏壇店・葬儀社などを対象に、掲載事業者を募集しています。
■中央区
■江東区
東京都市町村部のおくやみコーナー・おくやみハンドブック
東京都は23の特別区と26市・5町・8村で構成されています。
市町村部におけるおくやみコーナーの設置、およびおくやみハンドブックの作成・配布状況は以下の通りです。
■市町村部のおくやみコーナー・おくやみハンドブック一覧
市町村名 | おくやみコーナー設置状況 | ブックタイトル | 担当企業 |
八王子市 | おくやみコーナー | おくやみハンドブック | 内製 |
立川市 | おくやみコーナー | おくやみハンドブック | ジチタイアド |
武蔵野市 | 未設置 | ご遺族のみなさまへ | 内製 |
三鷹市 | おくやみ窓口 | おくやみハンドブック | 鎌倉新書 |
青梅市 | おくやみ支援窓口 | おくやみガイドブック | 鎌倉新書 |
府中市 | おくやみコーナー | おくやみハンドブック | 内製 |
昭島市 | 未設置 | 未対応 | |
調布市 | おくやみコーナー | おくやみハンドブック | 鎌倉新書 |
町田市 | 未設置 | 大切な方を亡くされた時の主な手続きのチェックリスト | 内製 |
小金井市 | おくやみ手続き窓口 | おくやみガイドブック | 鎌倉新書 |
小平市 | 未設置 | おくやみハンドブック | 鎌倉新書 |
日野市 | 未設置 | おくやみハンドブック | 鎌倉新書 |
東村山市 | 未設置 | おくやみガイドブック | 鎌倉新書 |
国分寺市 | 未設置 | 未対応 | |
国立市 | 未設置 | おくやみハンドブック | ジチタイアド |
福生市 | 未設置 | おくやみハンドブック | 鎌倉新書 |
狛江市 | おくやみコーナー | おくやみハンドブック | 鎌倉新書 |
東大和市 | 未設置 | おくやみ手続きガイド | ジチタイアド |
清瀬市 | 未設置 | おくやみガイドブック | 内製 |
東久留米市 | 未設置 | 未対応 | |
武蔵村山市 | おくやみコーナー | おくやみハンドブック | 鎌倉新書 |
多摩市 | 未設置 | おくやみハンドブック | 鎌倉新書 |
稲城市 | 未設置 | ご遺族(相続人)の方へ | 内製 |
羽村市 | 未設置 | おくやみハンドブック | 鎌倉新書 |
あきる野市 | 未設置 | ご遺族のための手続きガイド | 内製 |
西東京市 | おくやみ窓口 | おくやみ手続き案内 | 内製 |
瑞穂町 | 未設置 | お悔みガイドブック | 鎌倉新書 |
日の出町 | 未設置 | 未対応 | |
檜原村 | 未設置 | 未対応 | |
奥多摩町 | 未設置 | 作成中 | 鎌倉新書 |
大島町 | 未設置 | 未対応 | |
利島村 | 未設置 | 未対応 | |
新島村 | 未設置 | 未対応 | |
神津島村 | 未設置 | 未対応 | |
三宅村 | 未設置 | 未対応 | |
御蔵島村 | 未設置 | 未対応 | |
八丈町 | 未設置 | 未対応 | |
青ヶ島村 | 未設置 | 未対応 | |
小笠原村 | 未設置 | 未対応 |
下のグラフは『おくやみハンドブック』の内製・外注割合を示したものですが、市町村部では、23区にくらべて鎌倉新書が担当する割合が高くなっているのが分かります。
また人口の少ない町や村では、未対応のケースが大半を占めているようです。
おわりに
この記事では、死後手続き簡略化の動きについて解説するとともに、東京23区と市町村部における「おくやみコーナー」の設置、および「おくやみハンドブック」導入の状況をご紹介しました。
また自治体支援事業を展開する企業情報、ならびに「おくやみハンドブック」広告媒体化の現状についても触れています。
現時点で「おくやみコーナー」と「おくやみハンドブック」が導入されていない区や市でも、すでに導入に向けて検討が進んでいますが、人口が少なく役場の職員数も限られる町村部では、同じ東京都であっても対応に遅れがみられます。
とはいえ瑞穂町では官民連携により「おくやみハンドブック」が導入されていますし、奥多摩町でも広告掲載事業者の募集が始まっていますので、他の町村にも広がる可能性が高そうです。
死亡者数の増加、および労働人口の減少は東京都に限った現象ではありませんので、当然ながら他府県でも対応を迫られています。
日本には1,718の市町村(792市・743町・183村)が存在しますが、情報技術の活用やITツールの運用・保守を担うIT人材が不足している自治体も多いことから、官民連携の動きは今後も拡大が予想されます。
ただし、官民連携は公平性の確保が大前提ですので、地域の葬儀社様でも、地元自治体の動向に留意しておくことをおすすめします。