葬儀社の業績・利益を調べる場合、帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、葬儀社の業績・利益の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。
今回は株式会社 せいぜんの現状について、貸借対照表をもとに分析いたします。
上場企業の決算資料ほど詳細ではありませんが、事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。
株式会社 せいぜんの概要
典礼会館名義で葬儀事業を営む愛グループは、1972年6月に設立された「下関市冠婚葬祭互助会」からスタートしました。
その後、積極的なM&Aにより営業エリアを拡大し、現在では以下の12社で構成されるグループ企業となっており、決算公告は各社で別々に出されています。
■愛グループ
- 株式会社 日本セレモニー(広島)
- 株式会社 日本セレモニー(長崎)
- 株式会社 日本セレモニー(山口県)
- 株式会社 へいあん秋田
- 株式会社 サンファミリー
- 株式会社 へいあんファミリー
- 株式会社 愛グループホールディングス
- 株式会社 メイプルシティ
- 株式会社 防長互助センター
- 株式会社 合掌堂
- 株式会社 トレーダー 愛
- 株式会社 せいぜん←今回分析を行うのはココ
上記グループ会社のうち、株式会社 メイプルシティ(イタリアンレストラン事業)と、株式会社 トレーダー愛(料理や生花など冠婚葬祭事業の付帯業務に関わる仕入・製造及び商品開発)は、直接的に冠婚葬祭事業を行っていないようです。
残念ながら、愛グループの詳細な組織図は公開されていないため、グループ各社が関与する業務の範囲は明確ではありません。
「株式会社 せいぜん」は福岡県北九州市に本社を置き、福岡県内で冠婚葬祭互助会事業と16カ所の斎場(誠善社名義)を運営していましたが、2018年10月に愛グループに買収される形で傘下に入りました。
福岡県内には46ヵ所の典礼会館が設けられていますが、その内「株式会社 せいぜん」が担当している店舗は定かではありません。
しかし福岡県内の会館のうち、「株式会社 せいぜん」が傘下入りした2018年10月以前に開業された典礼会館を除くと、おそらく以下の16ヵ所と考えられます。
- 陣山典礼会館
- 嘉麻典礼会館
- 八幡陣原典礼会館
- 本城典礼会館
- 木屋瀬典礼会館
- 小倉紫川典礼会館
- 井堀典礼会館
- 守恒典礼会館
- 本城典礼会館
- 曽根典礼会館
- 吉田ファミリアホール
- 門司大里典礼会館
- 門司港典礼会館
- 福津典礼会館
- 福津ファミリアホール
- 東郷ファミリアホール
また令和に入って以降も、福岡県内に新店舗を開業していますので、さらに多い可能性もあります。
葬儀社の決算公告とは
決算公告資料はその会社が健全な経営を行っているかを確認できる計算書類となります。株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告といいます。
公告の方法は全部で3つあります。
- 官報に掲載
- 日刊新聞紙に掲載
- 電子公告(会社のウェブサイトに掲載)
決算公告は義務的な側面が強いですが、取引先や銀行に情報の開示を行うことで、自社の透明性や健全性を見せることができるという重要な側面も持ち合わせております。
なぜ葬儀社は決算公告をおこなうのか?
大手葬儀社、あるいは葬儀・葬祭事業を長きにわたって営んでいる会社は、冠婚葬祭互助会を運営するケースが少なくありません。
冠婚葬祭互助会とは、冠婚葬祭などの行事に備えるために、毎月一定の掛金を複数回の支払いで積み立てるサービスです。
冠婚葬祭互助会の会員になることで、葬儀や婚礼といったライフイベントの際に会員割引を受けられるなど、さまざまな面で優遇されます。
一般的な専門葬儀社は、開業にあたって特に許認可は必要ありませんが、冠婚葬祭互助会は経済産業大臣の認可を受けた企業のみ行える事業です。
会員から掛金として支払われた前受金は割賦販売法によって積み立てられた前受金の2分の1を次の何らかの方法で保全することが義務付けられています。
- 法務局に供託する
- 経済産業省の指定する保証会社と供託委託契約を結ぶ
- 銀行や信託会社などの金融機関と供託委託契約を結ぶ
上記のいずれかの方法を選択する必要があります。
また、経済産業省は割賦販売法に基づき互助会事業の経営指導や立入検査等を行っています。
なお現在、冠婚葬祭互助会事業者として登録されている事業者は以下より確認することができます。
経済産業省 前払式特定取引業者(冠婚葬祭互助会)許可事業者一覧
上記のように、冠婚葬祭互助会では政府・行政の認可団体として運営している側面があり、義務である決算公告を発表する事業者が多い状況です。
せいぜんの貸借対照表
貸借対照表でまずチェックしたい箇所は純資産の部です。総資産に対する純資産の比率である「自己資本比率」が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされていますが、10%を下回っている場合は改善が必要な状況といえるでしょう。
自己資本比率が低い場合は借入金などの負債が多いので資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で、自己資本比率が高い場合は返済義務を有しない資金を大量に抱えているので倒産リスクは低くなると考えられます。
自己資本比率は中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、最適とされる自己資本比率は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は最低でも20%程度はあると安心です。
逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は最低でも15%程度は欲しいところです。
貸借対照表の左右(運用状況と調達状況)の合計額は必ず一致する
「資産」=「負債」+「純資産」という計算式が成り立つことから、貸借対照表のことをバランスシート(Balance Sheet)またはビーエス (B/S) と呼ぶこともあります。
せいぜんの自己資本比率は33.55%
自己資本比率は「自己資本比率(%)=純資産÷総資産×100」の計算式で算出可能です。
せいぜんの自己資本比率を求める式は下記のようになります。
4億6千0百万円÷13億7千1百万円×100=33.55
せいぜんの2023年1月期における自己資本比率は、33.55%(前年同期比1.76%増)となっています。
せいぜんの資産と負債について
自己資本比率の次に確認したいのは、資産と負債の額になります。
貸借対照表でいうところの資産は左側に、負債は右側上段に記載があります。
この赤い円の箇所を確認することで、その会社の資産と借金の額を確認できます。
資産合計の推移
貸借対照表の左側に記載されており、「会社の所有する資産」を表します。
資産は下記の3つに構成されています。
・流動資産 = 1年以内に現金化もしくは費用化できる資産
例) 現金、有価証券、商品、製品など
・固定資産 = 長期にわたって会社が保有するものや1年を超えて現金もしくは費用となる資産で有形固定資産や無形固定資産がある。
例)・有形固定資産:建物、土地、車など
・無形固定資産:ソフトウェアなど
・繰延(くりのべ)資産 = 会社設立にかかった費用や社債発行にかかった費用を一括して費用として計上せずに資産として計上し期間内(数年など)に分けて償却するものとなります。
例) 創立費、開業費、開発費など
せいぜんの資産合計の推移は以下のようになっています。
せいぜんの2023年1月期における資産合計は13億7千1百万円(前年同期比2.14%減)となっています。
貸借対照表をご覧いただくと、2018年1月期が第37期になっているのに気付かれると思います。
せいぜんは愛グループが権利義務の全てを承継するかたちで、2018年12月26日に旧組織の解散と、愛グループ傘下企業としての存続が公告されました。
参照元:官報決算データベース 株式会社せいぜん 第37期決算公告
こういった事情から同日付で各種清算が行われたようで、2018年1月期から2019年1月期にかけて、財務状況が大きく変化したものと考えられます。
2019年1月期以降の資産合計は、ほぼ横ばいといった状況で推移しています。
負債合計の推移
貸借対照表の右側上段に記載されており、「返す必要のある他人からの借金」を表します。
負債は下記の2つで構成されています。
・流動負債 = 1年以内に支払い期日を迎える負債となります。
例) 家賃、従業員の給与や賞与、買掛金(サービスや商品の金額を後払いするもの)など
・固定負債 = 1年以内に支払い期日を迎えない負債となりますので、流動負債以外の負債は固定負債になるということです。
例) 従業員の退職金、社債、長期借入金など
せいぜんの負債合計の推移は以下のようになっています。
せいぜんの2023年1月期における負債合計は9億1千1百万円(前年同期比4.61%減)となっています。
財務安定性指標の一つである流動比率(流動資産÷流動負債×100)も、2023年1月期の時点で771.97%(安全ラインは100%以上)となっており、短期的な支払い能力についても不安は感じられません。
せいぜんの純資産について
自己資本比率、資産合計、そして負債合計をみてきましたが、最後に確認したいのは「純資産」となります。
純資産は貸借対照表でいうところの右側下段に記載があります。
純資産は資産(現金、土地、建物など)から負債(借金)を差し引いたものです。
この赤い丸の箇所を確認することでその会社の純資産を確認できます。
せいぜんの純資産合計、当期純利益、利益剰余金の推移はそれぞれ以下のようになっています。(各用語についても分かりやすく解説しています)
純資産合計の推移
会社の所有する現金や建物などの資産から負債(借金)を差し引いたものとなります。
純資産の割合が高ければ財務健全性が高いと考えます。一方で、純資産がマイナスの状態を債務超過といい、2期連続で債務超過の状態が続いた場合、東証上場の廃止基準に抵触することがあります。
せいぜんの2023年1月期における純資産合計は、4億6千0百万円(前年同期比3.37%増)となっています。
2019年1月期に純資産合計が大幅に減少していますが、これは前述した合併に伴う清算の影響と思われます。
2020年1月期以降は堅調に推移しており、毎年2千万円ほどの増加を続けている状況です。
当期純利益の推移
会社が1年間で得た全収益から法人税や住民税そして費用を差し引いたものが当期純利益となります。
この当期純利益がマイナスとなると当期純損失となります。
当期純利益の額をみることで、その会社の収益性がどのくらいなのか判断できる指標になります。
せいぜんの2023年1月期における当期純利益は1千4百万円(前年同期比26.32%減)となっています。
他の項目にくらべ金額が小さいためグラフからは不安定な印象を受けますが、実際はおおむね1千万円台から2千万円台で推移しており、特別に不安定な状況ではありません。
2020年に新型コロナが発生して以降、葬儀業界は大きな打撃を受けたといわれていますが、せいぜんはそういった環境下でも当期純利益を生み続けています。
利益剰余金の推移
利益剰余金とは簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずにコツコツと社内で貯めたお金です。正確な会計用語ではないですが利益剰余金のことを内部留保とも言います。
内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。利益剰余金は貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。
内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で収益状況が悪化した際にも、従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため、企業が生き残るための重要な資金源となります。
せいぜんの場合は以下のように推移しております。
せいぜんの2023年1月期における利益剰余金は、4億4千0百万円(前年同期比3.53%増)となっています。
グラフを見ていただくと分かる通り、せいぜんの利益剰余金は年々増加しています。
利益剰余金は営業利益が発生することで増加しますので、過去6年間にわたって営業利益を出し続けている状況です。
株式会社 せいぜんのまとめ
今回は株式会社 せいぜんの決算公告を参考に、現状分析を行いました。
M&Aにより愛グループ傘下に入って以降のせいぜんの財務状況は、過去6年間にわたり堅調に推移している印象です。
新型コロナ関連の各種規制により債務超過に陥る企業も少なくない中、せいぜんでは影響を最小限に抑えているようにみえます。
葬研では、今後のせいぜんの決算公告にも引き続き注目していきたいと思います。