相続税の基本のきVol.7 遺産はどのように分割する?一般公開

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遺産相続においてご遺族様が直面する重要な課題の一つが、「故人様の遺産をどのように分けるか」という問題です。葬儀社の皆様はご遺族様のサポートをする中で、こうした相続に関する基本的な質問を受けることもあるでしょう。

遺産分割の方法は一つではなく、故人様が遺言書を残していたか否か、また財産の種類や状況、ご遺族様の関係性などによって最適な方法が異なります。適切な分割方法を選ぶことで、後々のトラブルを防ぎ、故人様の遺産を有効に活用することができます。

この記事では、遺産分割の基本的な決め方から具体的な分割方法、そして実務で必要となる遺産分割協議書の作成方法まで、葬儀社の皆様がご遺族様からの質問に適切に対応するために必要な知識を解説します。ご遺族様の次のステップをサポートするための基礎知識として、ぜひお役立てください。

葬儀社なら知っておきたい相続税の基本解説

Vol.1_相続税ってどんな財産にかかるの?
Vol.2_相続税の相談は誰にすればよい?
Vol.3_相続税は誰が対象になるのか?
Vol.4_相続を放棄すれば相続税は支払わなくて良い?
Vol.5_相続税額をざっくり把握する方法は?
Vol.6_相続税を安くする方法はある?
・Vol.7_遺産はどのように分割する?(本記事)
Vol.8_相続税が払えない場合はどうする?
Vol.9_相続すると相続税以外の税金もかかる?
Vol.10_生活保護を受給していても相続できる?
Vol.11_単身者の相続はどうなる?
Vol.12_相続でよくあるトラブルとその対策は?
Vol.13_配偶者(夫・妻)が相続すると相続税がかからない?
Vol.14_相続が始まると銀行口座が凍結される?
Vol.15_相続手続きに必要な書類は?
Vol.16_相続と贈与の違いは?
Vol.17_相続税の税務調査とは?
Vol.18_相続税と葬儀費用・祭祀財産との関係は?
Vol.19_遺産は寄付できる?寄付先はどこ?
Vol.20_デジタル遺産の相続や管理は?

目次

遺産分割の基本的な決め方

悩むシニア

故人様の遺産をどのように分けるかは、遺言書の有無によって手続きが大きく異なります。遺言書がある場合は原則としてその内容に従いますが、遺言書がない場合はご遺族様全員での話し合いが必要になります。

ここでは、それぞれのケースと、話し合いが難航した場合の解決方法について解説します。

遺言書がある場合

遺言書

故人様が遺言書を残していた場合は、原則としてその内容に従って遺産分割を行います。これは故人様の最終的な意思を尊重するという考え方に基づいており、民法上も遺言は相続に関する重要な効力を持つものとされています。

遺言書に従って行う遺産分割は「遺言執行」とも呼ばれ、基本的には遺言の内容通りに財産が分配されます。例えば、「自宅不動産は長男に」「預貯金は長女に」といった具体的な指定があれば、それに従うのが原則なのです。

ただし、遺言書で「遺産分割協議(相続人が分割方法を話し合う会議)を禁止する」といった記載がない場合に限り、ご遺族様全員が合意すれば、遺言書とは異なる方法で遺産を分割することも可能です。「お父さんはこう書いたけど、みんなで話し合って別の分け方にしましょう」という場合は、新たな合意に基づいて分割できるわけです。

また、注意点として、遺言書が無効となるケースもあります。法律で定められた方式に従っていない場合や、遺言の内容が不明確な場合、故人様が認知症等で遺言能力がなかったと判断される場合などです。そのような場合は、遺言書がないものとして扱われ、ご遺族様全員による遺産分割協議が必要になります。

遺言書がない場合

墓地

故人様が遺言書を残していなかった場合、法律上は故人様の遺産はご遺族様全員の共有財産となります。しかし、このまま共有状態を続けると将来的にトラブルの原因になりやすいため、ご遺族様全員で話し合いを行い、誰がどの財産を引き継ぐかを決める必要があります。この話し合いのことを「遺産分割協議」と呼びます。

遺産分割協議では、民法で定められた取り分である「法定相続分」を基準にしつつも、ご遺族様それぞれの事情や希望を考慮しながら分割方法を決めていきます。例えば「自宅はお母さんが住み続けられるように」「事業用の土地は事業を継ぐ息子さんに」「預貯金はそれぞれの貢献度に応じて」といった形です。

遺産分割協議が成立したら、その内容を「遺産分割協議書」としてまとめ、ご遺族様全員が署名・押印します。この書類は、不動産の名義変更や預貯金の払い戻しなど、相続手続きを行う際に必要となる重要な書類です。

なお、遺産分割協議はご遺族様全員が参加することが必須条件です。一人でも欠けると協議が無効になるため、行方不明のご遺族様がいる場合や、認知症などで判断能力に問題があるご遺族様、未成年のご遺族様がいる場合は、家庭裁判所で手続きを行い、適した代理人を選定する必要があります。

話し合いでまとまらない場合

相続争い

ご遺族様同士で遺産分割協議を行っても意見がまとまらない場合があります。「実家は自分が住んでいるから全部欲しい」「いや、それは不公平だ」といった主張が対立し、話し合いが平行線をたどることも少なくありません。こうした場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てることができます。

遺産分割調停では、裁判所が選任した調停委員が間に入り、ご遺族様の意見を聞きながら解決策を探ります。第三者が仲介することで、冷静な話し合いが可能になることが多いです。また、調停は基本的に非公開で行われるため、家族の問題を外部に知られずに解決できるというメリットもあります。

調停で話し合った結果、全てのご遺族様が納得できる案が見つかれば、それを「調停調書」という形で文書化します。調停調書は裁判所の公文書となり、遺産分割協議書以上の強い効力を持ちます。

もし調停でも解決しない場合は、自動的に「遺産分割審判」という手続きに移行します。審判では、裁判官が法定相続分を基本としながら、ご遺族様それぞれの事情を考慮して最終的な判断を下します。この審判の内容には、当事者は従わなければなりません。

遺産分割調停と遺産分割審判

なお、調停から審判に移行する場合、改めて申立てを行う必要はありません。ただし、審判では裁判官の判断で決まるため、ご遺族様の希望が全て反映されるとは限りません。できれば調停の段階で話し合いによる解決を目指したほうが、結果的に全員が納得しやすい解決になることが多いでしょう。

遺産の主な分割方法

遺産分割

遺産分割には主に、現物分割、換価分割、代償分割、共有分割の4つがあります。

故人様の残した財産の種類や状況、ご遺族様の希望によって最適な方法が異なるため、それぞれの特徴を理解しておくことが大切です。

現物分割|財産をそのまま分割

お金と電卓

現物分割とは、遺産をそのままの形で分ける方法です。現物分割は最も一般的な遺産分割方法で、特に預貯金や株式など分けやすい財産については、この方法が採用されることが多いでしょう。例えば、1,000万円の預金があれば、500万円ずつ分けるといった単純な分け方も可能です。

土地についても、状況によっては分筆(一つの土地を複数に分ける登記手続き)をして、それぞれのご遺族様が単独で所有することも可能です。ただし、分筆によって土地が細分化されると、それぞれの土地の価値や使い勝手が下がることもありますので、注意が必要です。

現物分割のメリットは、財産をそのまま引き継げるので手続きが比較的簡単であることです。例えば不動産をそのまま相続する場合、売却する必要がないので手間も少なく、思い入れのある実家などを家族の中で維持できるというメリットがあります。

一方でデメリットは、財産の価値のバランスを取るのが難しい場合がある点です。たとえば「不動産と預金ではどちらが得か」といった価値判断で揉めることもあるため、事前に不動産鑑定などで客観的な価値を把握しておくとよいでしょう。

換価分割|財産を売却して現金で分割

家の売却

換価分割とは、遺産を売却して現金化し、その売却代金をご遺族様の間で分配する方法です。主に不動産や自動車、貴金属、美術品など、物理的に分けることが難しい財産を分割する際に用いられます。

例えば、故人様が所有していた実家を売却して、その代金をご遺族様が法定相続分に応じて分け合うといったケースが典型的です。「誰も住む予定のない実家をどうしよう」「兄弟間で誰が取得するか決められない」といった場合には、この方法がスッキリとした解決につながることも多いでしょう。

換価分割の最大のメリットは、金銭的に公平な分割がしやすいことです。不動産などの評価額をめぐって意見が分かれることも少なくありませんが、実際に売却すれば具体的な金額が確定するので、分割に納得感が生まれやすくなります。

一方でデメリットは、売却手続きや費用が発生することです。不動産を売却する場合、仲介手数料や印紙税などの費用がかかるほか、売却までに時間を要することもあります。また、思い入れのある家や先祖代々の土地を手放さなければならないという精神的な負担も考慮すべきでしょう。

代償分割|一人が財産を取得し、他の相続人に現金支払い

お金と家2件

代償分割とは、特定のご遺族様が遺産を取得する代わりに、他のご遺族様に対して金銭(代償金)を支払う方法です。例えば、故人様の自宅を長男が相続する代わりに、長男が他のご遺族様に相応の現金を支払うといったケースが典型的です。

代償分割のメリットは、財産の分散を防げることです。特に不動産などは分筆すると価値が下がることもありますが、代償分割であれば一体のままで引き継ぐことができます。また、思い入れのある財産や使い慣れた財産をそのまま引き継げるというメリットもあります。

一方でデメリットは、代償金を支払うご遺族様にとって、まとまった資金の準備が必要になる点です。相続した財産以外の自己資金から支払わなければならないため、支払い能力があるかどうかが重要なポイントとなります。特に不動産価値が高い場合、代償金額も高額になりがちです。

共有分割|財産を複数人で共同所有

握手

共有分割とは、一つの財産を複数のご遺族様で共同所有する方法です。故人様の所有していた不動産を、ご遺族様全員で共有名義にするといった形態が該当します。

この方法は、主に不動産など高額な財産が相続財産に含まれており、かつ複数のご遺族様がその財産に対して権利を主張している場合に選択されることがあります。また、故人様の自宅や先祖代々の土地について「誰か一人に相続させるのではなく、家族みんなで守っていきたい」という思いがある場合などです。

共有分割のメリットは、財産を分割せずに済むことです。思い入れのある不動産を売却せずに済みますし、将来的な活用の可能性も残せます。また、一時的な解決策として共有にしておき、後日改めて他の分割方法を検討することも可能です。

しかし、デメリットも大きいことを知っておく必要があります。共有状態のままでは、不動産の売却や賃貸などの処分行為をする際に、共有者全員の同意が必要となります。意見が対立した場合、不動産が有効活用できなくなるリスクがあるのです。例えば、「売りたい人」と「売りたくない人」が出てくると、深刻なトラブルに発展することも少なくありません。

こうしたリスクから、専門家は共有分割を避け、他の分割方法を検討するよう推奨する場合が多いです。

遺産分割協議書とは

遺産分割協議書と印鑑

遺産分割協議書とは、故人様の遺産をどのように分けるかについて、ご遺族様全員で話し合った結果を文書にまとめたものです。前述したように、遺言書がない場合の遺産分割は、原則としてご遺族様全員による「遺産分割協議」を経て決定されます。この協議で合意した内容を書面化したものが遺産分割協議書なのです。

遺産分割協議書はなぜ必要?

悩むスーツの男性

実は、法律上は遺産分割協議書を作成する義務はありません。口頭での合意でも有効です。しかし「言った、言わない」のトラブルを避けるため、また後々の証拠として残すために、必ず書面に残しておくことが強く推奨されています。

さらに実務上の理由からも、遺産分割協議書は非常に重要です。例えば、不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の払い戻し、株式の名義変更など、様々な相続手続きにおいて遺産分割協議書の提出が求められます。この協議書がなければ、実質的に進められない相続手続きもあるのです。

公的機関が公開しているひな形リンク集

遺産分割協議書の作成に迷ったときは、各公的機関が公開しているひな形を参考にするという手段もあります。

法務局のひな形|不動産を相続する場合

法務局のホームページでは相続登記(不動産の名義変更)申請用の遺産分割協議書のひな形が公開されています。そのため不動産を相続する場合は参考になるでしょう。

遺産分割協議書 法務局
出典:法務局|17 相続(遺産分割のとき) 記載例

国税庁のひな形|相続税申告が必要な場合

次に、国税庁のホームページでは「相続税の申告のしかた」という資料の中に「遺産分割協議書の記載例」が掲載されています。こちらは相続税申告を前提としたひな形なので、財産の評価額なども含めた記載例となっています。

遺産分割協議書 国税庁
出典:国税庁|相続税の申告書の記載例

運輸支局のひな形|自動車を相続する場合

自動車の相続については、国土交通省の運輸支局のホームページに遺産分割協議書のひな形があります。自動車のみを対象とした簡潔な記載例で、陸運支局での名義変更手続きに最適化されています。

遺産分割協議書 運輸
出典:国土交通省|遺産分割協議書

テンプレートを公開している民間事業者もある

公的機関が提供している遺産分割協議書のひな形は参考になりますが、多くの場合PDFファイル形式での公開が主となっています。実際に作成する際には、Word形式などの編集可能なファイルがあると便利ですが、そういったニーズに応えているのが民間の専門事業者です。

司法書士事務所や税理士事務所のホームページでは、遺産分割協議書のテンプレートをWord形式やExcel形式でダウンロードできるサービスを提供していることがあります。これらのテンプレートは、実務経験に基づいて作成されていることが多いため、ダウンロードしてそのまま入力を行えば、必要な情報を網羅できるようになっています。

このようなテンプレートを探す場合は、インターネット検索で「遺産分割協議書 テンプレート」「遺産分割協議書 ひな形 Word」などのキーワードを使うとよいでしょう。

【記載例つき】遺産分割協議書の書き方

遺産分割協議書に記載すべき基本事項

遺産分割協議書に記載すべき基本事項は以下の通りです。

(1)タイトル「遺産分割協議書」
(2)故人様(被相続人)の情報
 ・氏名
 ・死亡日
 ・最後の本籍地
 ・最後の住所地
(3)ご遺族様(相続人)全員の情報
 ・氏名
 ・続柄
(4)遺産の分割方法(誰がどの財産を取得するか)
(5)遺産分割協議の成立日
(6)ご遺族様全員の署名・押印(実印)

【基本事項の記載例】

遺産分割協議書

令和○年○月○日に死亡した山田太郎(最後の本籍 東京都中央区○○○、最後の住所地 東京都中央区○○○)の遺産について、共同相続人山田花子(妻)、山田一郎(長男)、山田二郎(次男)の全員による遺産分割協議の結果、次に掲げる者がそれぞれに掲げる財産を取得することに合意した。

1. 相続人山田花子が取得する財産
[財産の詳細を記載]

2. 相続人山田一郎が取得する財産
[財産の詳細を記載]

3. 相続人山田二郎が取得する財産
[財産の詳細を記載]

4. 後日、上記以外の遺産が判明した時は、これにつき相続人全員で改めてその分割を協議する。

令和○年○月○日

相続人 山田花子  印
相続人 山田一郎  印
相続人 山田二郎  印

財産ごとの記載方法

不動産の記載例

不動産は高額な財産であることが多く、相続財産の中でも特に重要な位置を占めています。不動産の記載方法は法務局での相続登記手続きを見据えて、正確に行う必要があります。基本的には、登記事項証明書(不動産全部事項証明書・登記簿謄本)の記載に合わせて記入しましょう。

戸建ての場合

戸建て住宅の場合は、土地と建物を別々に記載します。土地については所在地、地番、地目(宅地など)、面積を、建物については所在地、家屋番号、種類(居宅など)、構造、床面積などを登記簿通りに記載します。

【戸建ての記載例】

1 相続人 山田一郎が取得する財産
(1)土地
  所  在:東京都新宿区西新宿一丁目
  地  番:10番5
  地  目:宅地
  面  積:165.32平方メートル

(2)建物
  所  在:東京都新宿区西新宿一丁目10番地5
  家屋番号:10番5
  種  類:居宅
  構  造:木造スレート葺2階建
  床 面 積:1階 78.65平方メートル 2階 58.32平方メートル

マンション・アパートの場合

マンションなどの区分所有建物の場合は、専有部分の表示に加えて、一棟の建物の表示や敷地権(土地の持分)についても記載する必要があります。マンションの名称なども忘れずに記入しましょう。

【マンションの記載例】

1 相続人〇〇 〇〇が取得する財産
(一棟の建物の表示)

所   在  東京都新宿区西新宿二丁目6番地1
建物の名称  サンシャイン西新宿
(専有部分の建物の表示)
家屋番号   二丁目6番1の303
建物の名称  303号室
種   類  居宅
構   造  鉄筋コンクリート造14階建
床 面 積  3階部分 68.75m²
(敷地権の目的たる土地の表示)
符   号  1
所在及び地番 東京都新宿区西新宿二丁目6番1
地   目  宅地
地   積  1,250.45m²
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 1000分の12

田畑の場合

田畑の場合も基本的には土地と同様ですが、地目が「田」や「畑」となります。農地法の制限がある場合もありますので、農業委員会への確認が必要なケースもあります。

【田畑の記載例】

1 相続人 山田二郎が取得する財産
(1)土地
  所  在:長野県安曇野市穂高
  地  番:3256番
  地  目:田
  面  積:985.00平方メートル

分割方法ごとの記載例

分割方法によって、不動産の記載方法にも違いが生じます。前述した現物分割、換価分割、代償分割、共有分割ごとの記載例を紹介します。

1つ目は、特定のご遺族様がそのまま不動産を取得する現物分割の場合の記載です。これは、前述した戸建てやマンションの例が該当します。

2つ目は、不動産を売却して代金を分ける換価分割の場合です。換価分割を行う場合は以下のように記載します。

【換価分割を行う場合の記載例】

相続人 山田一郎は共有持分2分の1、相続人 山田二郎は共有持分2分の1をそれぞれ取得し、これを次の条件で売却した後、その売却代金につき各共有持分で分配する。

また、売却費用は2分の1ずつの割合で負担する。

土地の表示
 次に掲げる土地
 所  在:東京都新宿区西新宿一丁目
 地  番:10番5
 地  目:宅地
 面  積:165.32平方メートル

最低売却価格 金5,000万円
売却期限 令和6年12月31日

3つ目は、特定のご遺族様が不動産を取得し、他のご遺族様に代償金を支払う代償分割の場合です。代償分割を行う場合は以下のように記載します。

【代償分割を行う場合の記載例】

1 相続人 相続一郎は、次の遺産を取得する。
(1)土地
 所  在:東京都新宿区西新宿一丁目
 地  番:10番5
 地  目:宅地
 面  積:165.32平方メートル

2 相続人 相続一郎は、遺産取得の代償として、相続人 相続二郎に対し、金2,500万円を、令和6年12月31日までに、相続二郎の指定する銀行口座に送金して支払う。送金手数料は、相続一郎の負担とする。

4つ目は、複数のご遺族様で共有する共有分割を行う場合は、各自の持分割合を明確に記載します。

【共有分割を行う場合の記載例】

1 相続人 相続一郎が取得する財産
(1)土地
 次に掲げる土地の共有持分2分の1
 所  在:東京都新宿区西新宿一丁目
 地  番:10番5
 地  目:宅地
 面  積:165.32平方メートル

2 相続人 相続二郎が取得する財産
(1)土地
 次に掲げる土地の共有持分2分の1
 所  在:東京都新宿区西新宿一丁目
 地  番:10番5
 地  目:宅地
 面  積:165.32平方メートル

不動産の記載は相続登記に直結する重要な部分ですので、細かい数字や表記に間違いがないよう、登記事項証明書を見ながら正確に記入することが大切です。2024年4月からは相続登記が義務化されましたので、遺産分割協議成立後は速やかに登記手続きを行うことをおすすめします。

預貯金の記載例

預貯金は相続財産の中でも比較的分割しやすい財産ですが、遺産分割協議書への記載には注意点があります。基本的には、金融機関名、支店名、口座の種類、口座番号を記載します。

ただし、預金残高については原則として記載しません。これは、相続時から遺産分割協議、さらに実際の払戻し手続きまでの間に、入出金や利息付与によって残高が変動する可能性があるためです。

【預貯金の記載例】

1 相続人 山田花子が取得する財産
銀行預金
  〇〇銀行新宿支店 口座番号1234567 普通預金
  △△銀行渋谷支店 口座番号7654321 定期預金

預貯金の払戻し手続きについては、全国銀行協会がホームページで「遺産分割協議書の記載に係る留意点」を公開しています。各金融機関によって必要書類や手続きが若干異なる場合がありますので、事前に確認しておくとスムーズに進められるでしょう。

なお、信用金庫や農協などには、出資金が存在する場合があります。これらも預貯金とあわせて記載しましょう。

名義預金の場合

名義預金とは、口座の名義人が故人様ではなく、子どもや孫など別の方になっているものですが、実質的には故人様がお金を出して管理していたとされる預金のことです。子どもや孫の将来のために親や祖父母が貯金しているケースなどが該当します。

相続税対策として作られることもありますが、税務署に指摘されたり、ご遺族様間でトラブルになったりすることもあります。

名義預金を遺産分割の対象とする場合は、まず全員がその預金が実質的に故人様のものであることを確認し、それから誰が取得するかを決めます。また、名義人にも協力してもらう必要があるため、その旨も記載しましょう。

【名義預金の記載例】

1 相続人 山田花子、同山田一郎及び、山田二郎は、下記の預金が被相続人 山田太郎の預金であることを確認する。
相続人 山田花子は、下記(1)の預金の元本及び利息を、相続人 山田一郎は下記(2)の預金の元本及び利息を取得する。

(1)〇〇銀行新宿支店 普通預金 口座番号1234567
 口座名義人 山田太郎

(2)△△銀行渋谷支店 普通預金 口座番号7654321
 口座名義人 山田太郎

2 山田一郎は、相続人 山田太郎が前項(1)の預金の名義変更をするにつき必要な協力をする。

有価証券の記載例

有価証券とは、株式や国債、社債、投資信託などの財産的価値のある権利を表した証券です。

株式の記載

上場株式を記載する場合は、基本的に発行会社名と株式数を明記します。証券会社に口座がある場合は、証券会社名も含めると良いでしょう。ただし、相続時点から遺産分割協議、実際の名義変更手続きまでの間に株式分割などが行われる可能性があるため、最新の残高報告書などで現時点での株式数を確認しておくことをおすすめします。

【株式の記載例】

1 相続人 山田一郎が取得する財産
株式
  〇〇株式会社  普通株式100株
  △△株式会社  普通株式50株

投資信託・債権・MRFの記載

投資信託や債券、MRF(マネー・リザーブ・ファンド)など、証券会社で管理されている金融商品については、証券会社の口座単位で一括して記載することも可能です。特に、複数の金融商品を保有している場合は、この方法が効率的で良いでしょう。

【投資信託・債権・MRFの記載例】

1 相続人 山田二郎が取得する財産
次の証券会社において預託している被相続人 山田太郎の金銭、MRF、投資信託、株式、公社債、投資信託、預け金を含むすべての預託財産及びこれに関する未収配当その他一切の権利。

株式会社〇〇証券△△支店(口座番号123456)

なお、特定の金融商品だけを特定のご遺族様に相続させたい場合は、個別に記載する必要があるので注意しましょう。

未上場株式(非公開会社の株式)の場合は、発行会社に対して相続手続きを行うことになりますので、遺産分割協議書に加えて、会社側が指定する書類も必要になることがあります。未上場株式を相続する場合は、事前に発行会社に手続きについて確認しておくとスムーズです。

自動車の記載例

自動車も重要な相続財産の一つです。自動車の相続による名義変更は、陸運支局(普通自動車の場合)または軽自動車検査協会(軽自動車の場合)でおこなうことになります。

自動車を特定するための主な情報は、自動車登録番号(いわゆるナンバープレートの番号)と車台番号です。これらの情報は車検証に記載されていますので、記入の際には車検証を確認しながら正確に転記しましょう。

【自動車の記載例】

1 相続人 山田花子が取得する財産
自動車
自動車登録番号 品川 501 な 1234
車台番号    ZVW30-1234567

自動車ローンが残っている場合は、ローンの扱いについても遺産分割協議書に記載しておくと安心です。例えば「自動車を相続する〇〇は、自動車ローンも引き継ぐ」といった文言を加えることで、後々のトラブルを防ぐことができます。

ゴルフ会員権の記載例

ゴルフ会員権も相続財産の一つとして遺産分割の対象となります。遺産分割協議書には、会員権の種類、ゴルフ場の名称、会員権証書番号などを記載しましょう。

なお、ゴルフ会員権には、預託金会員権(入会時に預託金を支払い、退会時に返還される形式)と株主会員権(ゴルフ場を経営する会社の株式を取得する形式)があります。特に預託金がある場合は、その記載も忘れないようにしましょう。

【ゴルフ会員権(預託金がある場合)の記載例】

1 相続人 山田一郎が取得する財産
預託金ゴルフ会員権
 株式会社〇〇カントリークラブ
  預託金ゴルフ会員権
  預託金証書番号123456

負債の記載例

相続財産にはプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産(負債)も含まれます。故人様の借金や未払い金なども相続の対象となるため、遺産分割協議書にはこれらの負債についても誰が引き継ぐかを明記することが大切です。

原則として、故人様の負債は法定相続分に応じて各ご遺族様に自動的に引き継がれます。つまり、特に何も取り決めをしなくても、法律の規定に従って負債は分配されることになります。しかし、ご遺族様の間で「誰がどの負債を負担するか」について協議し、その結果を遺産分割協議書に記載することも可能です。例えば、「住宅ローンが残っている不動産を相続する長男が、そのローンも引き継ぐ」といった取り決めをすることが一般的です。

【負債の記載例】

1 被相続人の次の債務につき、相続人 山田一郎が負担する。
令和〇年〇月〇日付 〇〇銀行住宅ローン契約
債権者 株式会社〇〇銀行

祭祀財産の記載例

祭祀財産(さいしざいさん)とは、家系図、位牌、仏像、神棚、墓地、墓石など、祖先の祭祀を主宰するために必要な財産のことを指します。

祭祀財産は相続の対象外とされており、遺産分割協議の対象にもなりません。そのため必ずしも遺産分割協議書に記載する必要はありませんが、ご遺族様間で「誰が先祖のお墓や仏壇を引き継ぐか」を明確にしておくという確認的な意味合いで記載する場合もあります。

【祭祀承継財産の記載例】

1 相続人 山田花子は、被相続人 山田太郎が最後に居住する建物(〇〇県〇〇市〇〇町〇〇丁目〇〇)にある仏壇仏具等について承継する。

遺産分割協議書を作成する際の注意点

注意点

相続人全員の署名・押印が必要

遺産分割協議書はご遺族様全員が参加して作成する必要があります。一人でも欠けると法律上無効となってしまうため、すべてのご遺族様の署名・押印が必須です。行方不明のご遺族様や判断能力に問題のあるご遺族様がいる場合は、事前に家庭裁判所での手続きが必要になることもありますので注意しましょう。

実印を使用し、印鑑証明書の添付する

押印には、できるだけ実印を使用することを強くおすすめします。また、印鑑登録証明書を添付するのが一般的です。なぜなら、金融機関や法務局など相続手続きの窓口では、実印での押印と印鑑登録証明書の添付を求められることが多いためです。なお、海外にお住まいのご遺族様の場合は、在外公館(領事館など)でサイン証明書の交付を受けて添付します。

複数ページの場合は契印や製本を行う

遺産分割協議書が複数ページにわたる場合は、後日の改ざん防止のために、ページの間に契印(割印)を押すか、袋とじにして製本するとよいでしょう。

相続人の人数分の原本を用意する

遺産分割協議書は、相続人の人数分作成することが一般的です。これにより、各ご遺族様がそれぞれに相続手続きを行うことができます。また、1人だけが原本を持っていると、その方が紛失したり改ざんしたりするリスクもあるため、全員が原本を持っていれば相互牽制になるという意味合いもあります。

あとから財産が見つかったときの対応を記載する

相続財産調査を丁寧に行っても、後日に新たな遺産が判明することがあります。そのような事態に備えて、遺産分割協議書に「後日判明した財産の取り扱い」について記載しておくとトラブル防止になります。一般的には「遺産判明時点で再協議する」か「特定の人が承継する」という2つの方法が多く採用されています。

【再協議する場合の記載例】

1 後日、上記以外の遺産が判明した時は、これにつき相続人全員で改めてその分割を協議する。

【特定の相続人が取得する場合の記載例】

1 後日、上記以外の資産、負債が判明した時は、その資産ないし負債は、相続人 山田花子が取得および承継するものとする。

ご遺族様からよくある質問

相談するシニア夫婦

相続手続きを進める中で、多くのご遺族様が同じような疑問や不安を抱えていらっしゃいます。ここでは、葬儀社スタッフとして知っておきたい、遺産分割に関するよくある質問とその回答をQ&A形式でまとめました。

これらの基本的な知識を押さえておくことで、ご遺族様の初期相談にも適切に対応できるようになるでしょう。

Q1. 遺産分割協議はいつまでに行えばよいですか?

遺産分割協議には法律上の期限はありません。

いつまでも協議を続けることは可能です。ただし、実務上は相続税の申告期限である「相続開始を知った日の翌日から10か月以内」までに済ませるのが望ましいでしょう。

Q2. 遺産分割協議書を紛失した場合はどうすればよいですか?

遺産分割協議書を紛失した場合、他のご遺族様が保管している原本を借りて手続きを行うことができます。遺産分割協議書は通常、ご遺族様の人数分作成されるため、誰かが保管しているはずです。

もし全員分が紛失してしまった場合は、再度ご遺族様全員に署名・押印をしてもらい、新たに作成する必要があるので注意してください。

Q3. 遺産分割協議書を作成した後に新たな財産が見つかった場合はどうなりますか?

遺産分割協議書に「後日判明した財産の取り扱い」について記載があれば、その通りに処理します。例えば「後日判明した財産は長男が取得する」と書いてあれば、新たに見つかった財産は長男が相続することになります。

こうした記載がない場合は、改めてご遺族様全員で新たな遺産分割協議を行う必要があります。この際、以前に決めた分割方法とは異なる方法を選択することも可能です

Q4. 遺産分割協議書を守らない相続人がいる場合の対処法は?

まずは話し合いで解決を試みることが大切です。それでも改善しない場合は、家庭裁判所に「遺産分割後の紛争調整調停」を申し立てることができます。これは、一度成立した遺産分割について生じた紛争を解決するための調停手続きです。

この調停でも解決しなければ、義務の履行を求める訴訟に進むことになります。

まとめ

この記事では、遺産分割の基本的な決め方から具体的な分割方法、そして遺産分割協議書の作成方法まで解説してきました。ご遺族様の状況は千差万別ですが、遺産分割の基本的な枠組みを理解することで、初期段階での適切な情報提供が可能になるでしょう。

特に重要なのは、分割方法の選択です。「現物分割」は財産をそのまま個別に分ける方法、「換価分割」は財産を売却して現金で分ける方法、「代償分割」は特定の財産と代償金を交換する方法、「共有分割」は財産を共同所有する方法と、それぞれ特徴があります。ご遺族様の状況に応じた最適な方法を選ぶことが、将来のトラブル防止につながります。

また、遺産分割協議書はご遺族様全員の合意を証明する重要な文書です。法務局や国税庁などの公的機関が公開しているひな形を参考にしながら、財産ごとの正確な記載方法に注意して作成することが大切です。将来の紛争を防ぐためにも、実印の使用や後日判明した財産の取扱いについての記載など、細部まで配慮した協議書作成が望まれます。

葬儀社スタッフとして相続の基礎知識を持つことは、ご遺族様の不安を軽減し、幅広いサービスを提供する一助となるでしょう。複雑な相続問題に直面したご遺族様には、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをお勧めするという情報提供も、葬儀に関わる大切なサポートの一つといえます。

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