葬儀を無事に終えた後も、ご遺族様はすぐに負担から解放されるわけではありません。
悲しむ間もなくさまざまな手続きに追われるうえ、その多くに期限があるため、プレッシャーを感じるご遺族様も少なくないようです。
その中でも、特に負担を感じるのが「相続」ではないでしょうか。
単純な事務手続きだけでなく、財産の洗い出しから、相続人の確定、相続税の計算に加え、相続税を軽減するための各種税額控除制度や基礎控除額の確認、逆に加算が発生する場合にとるべき対応方法などについても対応が必要となります。
さらに生前の人間関係や相続人の思惑も絡んでくるため、「争族」と呼ばれる状態になり、人間関係が壊れてしまう可能性も否定できません。
最近は、自分で手続きを行うことができる相続プラットフォームも増えていますが、スマホやパソコンの操作になれていない場合や、相続に対する不安、事情を抱えている人にとっては、自分で行うことは難しい場合もあるようです。
そこで本記事では、相続手続きの選択肢のひとつである専門家とマッチングするためのプラットフォームを紹介します。
葬儀業界でも、相続関連サービスを提供する動きが活発化していますので、葬儀社様が相続に関する知識を深める一助になれば幸いです。
葬儀社にとっての相続関連サービスとは?
少子高齢化が進み、超高齢化社会を迎えた日本では、今後も2040年頃まで死亡者数の増加が予想されています。
すでに葬儀の施行数は上昇傾向にありますが、同じように相続の発生数も徐々に増えつつあるようです。
こうした状況の中、葬儀業界でも相続関連サービスの提供に乗り出すケースが増加傾向にあります。
葬儀社様にとって、相続関連事業者はどんな存在といえるのでしょう。
葬儀社にとってのメリット
葬儀社と相続関連事業者は、どちらもライフエンディング領域で事業を展開していますので、提供するサービスの親和性も高く、メインとなるターゲット層も重なります。
そのため、それぞれの顧客を相互に斡旋するような提携関係の構築は、双方にとってメリットが見込める取り組みといえるでしょう。
葬儀社・相続関連事業者のいずれについても、一般の方にとっては日常的に関わることが少ないため、足を運びにくい業種といえるでしょう。
しかし、信頼のおける葬儀社、あるいは相続関連事業者の紹介であれば、心理的なハードルが下がる可能性があります。
消費者にとってのメリット
葬儀社と相続関連事業者の連携は、葬儀社を利用する方にとってもメリットがあります。
一口に相続に関する相談といっても、法律については弁護士、相続税については税理士といったように専門分野が異なるため、相談内容に適した士業を探さなければなりません。
そのため、相談先となる専門家探しも、ご遺族様にとって大きな負担となります。
しかし葬儀社が一元的な窓口としての役割を果たし、相談内容に応じて専門家との橋渡しをおこなえば、ご遺族様の負担は大幅に軽減されるでしょう。
今後の葬儀業界における相続関連事業者との関係性
司法書士事務所や税理士事務所の中には、すでに葬儀社向けに相続サービスを提供しているところも少なくありません。
さらに、消費者が利用しやすい相続マッチングプラットフォームの登場で、こうした動きが加速する可能性も高そうです。
相続の概要
まずは、一般的な相続の手続きについてみていきましょう。
相続の基本
相続とは、亡くなった人(被相続人)の所有財産(資産・負債)を生存している親族(相続人)に引き継ぐための手続きです。
相続を行うためには、相続財産を明確にする必要があるほか、遺産分割協議(相続人全員で財産の分け方を話し合う。全員の合意が必要)後、名義変更などの実際の財産の手続きが必要になります。
基本的には、民法で定められた法定相続人(被相続人の財産を受け取れる人。配偶者と一定の血族)が指定相続分(被相続人が遺言書で各相続人に指定した相続分)もしくは、法定相続分(民法で定められた相続割合)にのっとって相続することが前提となります。
そのほかの相続財産の分割方法として、相続人全員で協議して決める協議分割、家庭裁判所の調停で決める調停分割、家庭裁判所の審判で決める審判分割があります。
しかし、不動産のような分割が難しい財産が含まれていたり、遺言書により「特定受遺者」(指定された財産を受け取る人。法定相続人とは限らない)や「包括受遺者」(指定された割合の財産を受け取る人。相続人と同じ義務を担う)が指定されている場合もあり、簡単に手続きができないことも少なくありません。
さらに遺留分(法定相続人に最低限度認められた遺産取得割合)や寄与分(被相続人に無償で長期に後見した人に対する加算)、特別寄与料(下記「相続に関わる民法改正」参照)、特別受益(被相続人から生前贈与などで受けていた利益)などさまざまな要因が絡むことから、揉めてしまうことも多々あります。
また、相続財産はプラスの遺産に限らず、負債も含むため、被相続人の財産をすべて相続すること(単純承認)がいいとは限りません。
状況によっては、すべてを相続しない相続放棄、プラスの資産内で負債を相続する限定承認などを検討する必要も出てきます。
相続手続の流れ
被相続人の死亡を知った日が「相続開始の日」となります。
相続開始の翌日から10ヵ月後が相続税の申告と納税の期限です。
相続の準備
- 遺言書の有無の確認
被相続人が遺言書を作成しているか確認する。
自筆証書遺言であれば家庭裁判所の検認を受ける。
※自筆証書遺言書保管制度(下記「相続に関わる民法改正」参照)を利用している場合は、検認不要。
- 相続人の確認
法定相続人のほか、遺言書で指定された相続人を確認する。
- 財産(資産と負債)の確認
被相続人が所有していた財産を資産、負債を調べ、一覧表を作成。
預貯金や有価証券、不動産、宝石貴金属だけでなく、知的財産権(著作権、特許権など)や生命保険金、死亡退職金なども含む。
遺産分割協議、名義変更
- 遺産分割協議
相続人全員で遺産の分割方法を協議する。
遺言書で指定されている分割(指定分割)がある場合、基本的に指定分割が優先される。相続人全員の合意を得られれば、遺言書や法定相続分と異なる分割も可能。
- 相続財産の名義変更や相続登記
必要書類は、相続する財産により、多岐にわたる。
税金の計算・納税
遺産分割のとおりに相続税額を計算し、申告と納税を行います。
相続税の計算は、財産から債務や葬式代を控除できるほか、基礎控除、配偶者の税額軽減をはじめとするさまざまな税額控除や小規模宅地等の特例による評価の減額などさまざまな制度があります。
逆に被相続人との関係によっては、相続税が加算されることもあるので注意が必要です。
相続税申告書は被相続人の住所地の税務署に提出します。原則として、相続税は、現金で一括納付となります。
相続に関わる民法改正
ここ数年で相続に関する民法が大きく改正されていることにも注意が必要です。
特に知っておきたい改正についてざっくりと紹介します。
- 配偶者居住権:2020年(令和2年)
夫(妻)名義の自宅の所有権を相続しない場合でも、それまで住んでいた自宅に終身住み続けることができる権利。残された配偶者が死亡後、配偶者居住権は消滅する。相続税はかからない。
第三者に対抗するためには、登記が必要。
- 配偶者短期居住権:2020年(令和2年)
自宅の所有権を相続しない場合でも、それまで住んでいた夫(妻)名義の自宅に遺産分割成立までなどの一定期間、無償・無条件で住み続けることができる自動的に発生する権利。
- 特別受益の持戻し免除:2019年(令和元年)
これまで生前贈与を受けている相続人がいた場合、「特別受益」として遺産にその額を反映した上で各相続分を計算することが規定されていた(特別受益の持ち戻し)。
法改正により、遺言などで被相続人の「特別受益の持ち戻し計算はしない」という意思表示があれば、遺産額に反映する必要がなくなった。
なお、意思表示がなくても婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用の建物やその敷地を贈与(遺贈)した場合は、持ち戻しが免除される。
- 遺留分侵害額請求(旧・遺留分減殺請求):2019年(令和元年)
遺留分を侵害された相続人が最低限分の遺産を相続できるように請求する場合、これまでは、相続した遺産の現物返還が行われた。法改正により、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することが原則となった。
また、これまで無期限だった遺留分額の計算の基礎に含まれる特別受益(生前贈与)は、相続開始前10年間に受けたものに限られるようになった。
- 預貯金の仮払い制度:2019年(令和元年)
遺産分割協議の成立前でも、一定額に限り相続人一人の請求で被相続人の預金の引き出しができるようになった。
- 自筆証書遺言の方式緩和 :2019年(令和元年)
これまで全文自著であることが必要でしたが、財産目録は署名、捺印することで、通帳のコピーやパソコンでの作成も可能に。※2023年10月現在、政府はデジタル遺言書制度の整備を検討している。
- 自筆証書遺言保管制度の創設:2020年(令和2年)
法務局に申請することで自筆証書遺言の保管ができるようになった。
形式審査があるため、方式違反の可能性が低くなる。また、相続発生時に家庭裁判所による検認の必要がない。
- 不動産を相続した場合の対抗要件:2019年(令和元年)
相続により取得した不動産は、これまで遺言書があれば第三者に対抗できたが、法定相続を超える部分に関しては、相続登記が対抗要件となる。
- 特別寄与料請求権の創設:2019年(令和元年)
これまで寄与分は、相続人に限り認められていた。そのため、子の配偶者が被相続人の療養看護を担っていた場合などでも相続財産を取得することができなかった。
特別寄与料の請求権が創設されたことで、相続人に対し、被相続人に行った寄与度に応じた金銭を請求できるようになった。
- 相続開始から10年経過後の遺産未分割の取扱い:2023年(令和5年)
相続開始時から10年経過後の遺産分割については、原則として「法定相続分」または「指定相続分」によることとなった。原則として、特別受益及び寄与分の規定は適用されなくなる。
- 相続登記の義務化:2024年4月予定
不動産の所有権を相続した場合、自己のために相続の開始があったことを知り、不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが必要。
なお、正当な理由がなく3年以内に相続登記を申請をしない場合、10万円以下の過料の対象となる。
※義務化の対象は、不動産の所有権のみ。
- 相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除の追加:2024年4月予定
これまで相続時精算課税制度を利用している場合、少額の贈与でも申告が必要だった。施行後は、年110万円以内であれば、贈与税の申告不要で贈与税も相続税もかからない。
- 暦年課税制度の生前贈与加算が死亡前3年から7年に延長:2024年4月予定
これまで年間110万円の基礎控除内であっても、死亡日以前3年間に贈与した財産は、相続財産に加算されてきた。
施行後は、生前贈与の相続財産への加算が3年から7年間に延長となる。
亡くなる前3年間の贈与は全額、4~7年前に贈与された額については、緩和措置として総額から100万円を引いた額が加算される。
相続マッチングポータルサイトのメリット・デメリット
相続マッチングプラットフォームは、手軽に利用できるもののさまざまなメリット、デメリットがあります。
メリット
- 相続を得意分野とする専門家を簡単に探すことができる
- 自分の状況に応じた専門家を紹介してもらえる
- 状況によっては手数料を軽減できる
- 専門家に相続手続きを依頼することで、時間の短縮、手間の軽減になる
代表的な相続の専門家は、司法書士、行政書士、弁護士、税理士です。
業務内容が異なるため、状況に合わせて選択し、依頼することが必要になります。マッチングプラットフォームでは、それぞれの状況に合わせて必要な専門家につないでもらうことが可能です。
デメリット
- 費用がかかる
- インターネットになれていないと不安
- 専門家との相性がわからない
相続手続きを専門家に依頼するため、相応の費用がかかります。
一方で、法律などを熟知している専門家のサポートを受けられるため、相続税などの軽減ができる可能性もあります。また、必要な部分だけをサポートしてもらえるサービスもあるようです。
ただし、ポータルサイトは、基本的にはインターネットを利用しているため、なれていない人にとっては不安に感じるかもしれません。
相続マッチングプラットフォームを提供する会社5社の特徴
相続マッチングポータルサイトを運営している企業様を紹介します。
それぞれ特徴のあるサービスを提供しているようです。
いい相続|株式会社鎌倉新書様
「いい葬儀」をはじめとする葬儀サービス、仏壇仏具販売、墓地墓石販売などライフエンディング業界に関するポータルサイトの運営を行っているのが鎌倉新書様です。
鎌倉新書様が提供している相続マッチングプラットフォームが「いい相続」です。
インターネットサイトから専門家を選択できるほか、相続手続き診断や相談内容により最適な専門家の紹介を受けることも可能です。
会社概要 | ・〒104-0031 東京都中央区京橋2丁目14-1 兼松ビルディング3階 ・創業 1984年(昭和59年)4月17日 |
事業内容 | ・終活関連サービス事業マッチングプラットフォームとなるポータルサイト運営を中⼼とした、 終活に関わる情報サービスの提供 |
特徴・強み | ・全国対応で、相談内容に沿った相続に強い専門家を探せる。 ・最短で当日面談が可能。 ・できるだけ総額費用をおさえられる提案をする。 ・一部をのぞき、オンライン面談が可能。 |
公式サイト | https://www.i-sozoku.com/ |
タイトル | 遺産相続の無料相談・専門家探しならいい相続 |
スマホde相続|トリニティ・テクノロジー株式会社様
電話やメールで相続アドバイザーに相談できるのがトリニティ・テクノロジー様が提供する「スマホde相続」です。
それぞれの状況に合わせて必要な手続きなどのアドバイスや必要に応じて全国にいる各専門家を紹介してくれます。
会社概要 | ・東京都港区新橋2-1-1 ⼭⼝ビルディング5階 ・2009年7月1日(グループ創業) |
事業内容 | 認知症による資産凍結から家族を守る「スマート家族信託」、家族信託・相続などの専門家コミュニ ティ「TRINITY LABO.」、相続手続きサービス「スマホde相続」、おひとりの高齢者に家族の代わり にずっと寄り添う「おひさぽ」 |
特徴・強み | ・相続アドバイザーによるサポート ・相続手続きの専門家(行政書士・司法書士・税理士など)によるサポートが可能 ・お墓・仏壇・法要・後返しなどの供養関連や遺品整理などの相談もできる |
公式サイト | https://trinity-tech.co.jp/souzoku/ |
タイトル | あなたに必要な相続手続きをご案内しますスマホ1つでカンタン解決 |
そうぞくドットコム預貯金|株式会社AGE technologies様
AGE technologies様が提供する「そうぞくドットコム預貯金」は、相続で発生する預金の払い戻し手続きをネットで簡単に、ワンストップでサポートするサービスです。
遺産分割協議書などを専用システムによる作成のほか、自治体発行の書類の収集を任せることができます。
会社概要 | ・東京都豊島区東池袋1-18-1 Hareza Tower 20階 ・設立日 2018年3月20日 |
特徴・強み | ・預貯金の払い戻しに関する銀行対応を任せられる ・自治体発行の書類収集も対応・専用システムにより、簡単に遺産分割協議書などの書類の作成できる ・定額料金である |
公式サイト | https://so-zo-ku.com/bank |
タイトル | 手間いらずは当たり前、ネットで簡単に、どこよりも低価格で。 |
やさしい相続|LDT株式会社様
「超高齢社会に適した情報インフラとサービスインフラを構築することにより、人々のQOLの向上に寄与し、社会に貢献し続ける」をミッションに掲げるLDT様が提供するのが「やさしい相続」です。
相続に強い専門家を無料で紹介するサービスで、相続人調査から相続税の申告、不動産などさまざまな相続手続きに対応しています。
会社概要 | ・〒105-0004 東京都港区新橋5丁目23-10片山ビル6階 ・設立 2019年9月20日 |
事業内容 | ・AgeTech(エイジテック)プラットフォーム事業 ・AgeTech(エイジテック)関連のソフトウェア開発・提供事業 ・AgeTech(エイジテック)関連のコンサルティング事業 |
特徴・強み | ・依頼時の着手金0円 ・費用の支払いは、遺産から精算可能 ・必要な手続きだけ依頼できるので、無駄な出費がない |
公式サイト | https://y-osohshiki.com/sozoku |
タイトル | 相続の総合サイト 相続の基礎知識から価格まで一気にわかります。 |
相続シェルパ®・相続AI®|株式会社エベレストコンサルティング様
相続の手続きをワンストップで代行するエベレストコンサルティング様が運営するのが「相続シェルパ®」です。
相続手続きの専門家を探せるほか、登録することでオンライン相続手続き相談ができます。
会社概要 | ・名古屋市東区葵三丁目22番8号 ニューザックビル7階 ・会社設立日 2015年5月29日 |
特徴・強み | ・相続手続きの専門家を探すことができる ・ホームページでは、相続知識をスラベルことができる ・専門家に無料オンライン相続手続き相談ができる(要登録) ・他の人の相談に対する回答を閲覧することができる(要登録) |
公式サイト | https://www.souzoku-sherpa.jp/ |
タイトル | 面倒な全ての相続手続きをワンストップで代行します! |
まとめ
本記事では、相続の概要とともに相続のマッチングを行っているポータルサイトの特徴をまとめました。
ここで紹介したもの以外にも、この数年で相続に関する法律は大きく変わっています。
専門家に相続手続きを依頼すると費用がかかる一方で、法律を熟知しているため、相続税対策や時間の短縮、手間の軽減、相続人同士の間に入ってもらえるなど、さまざまなメリットがあります。
相続のマッチングポータルサイトを利用することで、効率よく、自分の状況に沿った専門家と出会えるかもしれません。
葬儀社を利用された方の中に、相続手続きに悩むご遺族様がいらした場合の参考になるのではないでしょうか。