現在では全国的な知名度を誇る葬祭事業者様も少なくありませんが、上場企業は想像以上に少なく、葬儀事業においては現在のところ7社のみとなっています。
TVCMでよく見かけるような大手葬祭事業者のほとんどは、純資産額や売上高など上場条件を満たしている企業でも、株式上場を行っていません
これまでの葬儀業界では、大きな資金力をもつ冠婚葬祭互助会事業者様が勢力を拡大してきましたが、近年では専門葬儀社様の台頭が目立ちます。
急成長中の専門葬儀社様の中には、勢いそのままに株式上場を目指す企業が出てくる可能性もあるため、迎え撃つかたちとなる上場葬儀社様の経営状況も気になるところです。
上場企業では大きく分けて以下3種類の定期的な発表・公表が義務づけられています。
- 決算説明資料(1年に1回)
- 有価証券報告書(1年に1回)
- 決算短信(3ヶ月に1回) ※第●四半期など
そこで本記事では、公開資料のいずれかより『葬儀・葬祭事業』のカテゴリ情報を抽出し、葬儀・葬祭事業運営の現状や今後について詳しく解説します。
葬儀業界における株式上場のメリット・デメリットについても触れていますので、ぜひ最後までご覧ください。
上場葬儀社における直近の決算数字の推移
株式上場を果たしている葬祭事業7社の、売上・営業利益・経常利益の推移をグラフにまとめてみました。
なお7社の決算時期については下図の通りです。
屋号 | 葬祭事業における屋号 | 発表日 | 回次 | 種類 |
平安レイサービス㈱ | 湘和会堂 | 2022年11月07日 | 54期 | 第2四半期 |
㈱サン・ライフHD | ファミリーホール | 2022年11月09日 | 5期 | 第2四半期 |
㈱ティア | ティア | 2022年11月11日 | 26期 | 決算期 |
燦HD㈱ | 公益社・葬仙・タルイ | 2022年11月11日 | 94期 | 第2四半期 |
㈱ニチリョク | ラステル | 2022年11月11日 | 57期 | 第2四半期 |
㈱きずなHD | ファミーユ | 2022年10月14日 | 6期 | 第1四半期 |
こころネット㈱ | たまのや | 2022年11月04日 | 57期 | 第2四半期 |
※各社様のIR情報より、葬儀・葬祭・式典事業の事業業績結果を抽出させていただきました。
上場7社の売上
まず各社の売り上げですが、新型コロナ関連の行動制限が緩和されたこともあってか、伸び率には差があるものの全社とも前年同期を上回っている状況です。
売上金額については、企業ごとに決算時期が異なるため単純比較はできませんが、専門葬儀社の売り上げ数字をみると、葬儀業界の変化が感じられます。
上場7社の営業利益
つづいて営業利益についてですが、全体的には増加傾向にあるようです。
葬儀の小規模化・簡素化による葬儀単価の低下に対し、各社とも対応した結果と考えられます。
また葬儀業界全体が、新型コロナによる影響から脱却しつつあるといえるかもしれません。
上場7社の経常利益
最後に経常利益ですが、やはり全体的には増加傾向にあり、各社のコストに対する意識の高さがうかがえます。
葬儀業界に大きな影響を与えた新型コロナ感染症ですが、業務効率化を加速させる結果となった印象です。
ここからは各社の詳細な事業内容について、決算資料をもとに紹介します。
平安レイ様 2023年3月期 第2四半期 報告書における葬儀・葬祭事業の内容
決算数字(売上高・営業利益・経常利益)
- 売上高:39億2千5百万円(前年同期比9.8%増加)
- 営業利益:6億1千1百万円(前年同期比28.6%増加)
- 経常利益:6億7千8百万円(前年同期比22.8%増加)
- 当期純利益:4億3千5百万円(前年同期比18.9%増加)
葬儀・葬祭セグメントの振返りと今後
- 新型コロナ第7波の影響により、少人数での葬儀施行や会食の自粛が継続し、平常時レベルへの回復にはいたらず
- 引き続き感染症対策を徹底しつつ、貸切型安置室「貴殯室」などの優位性を活かし、顧客満足度の向上に注力
- 結果的に、葬儀施行数・葬儀施行単価・売上高・営業利益・経常利益の全てにおいて増加
- 今後は大規模対応から個別ニーズ対応型へのシフトを推進しつつ、コスト削減に向けた葬儀付帯サービスの内製化による収益向上を目指す
現状の葬儀事業における数字
- 葬儀会館数
- フランチャイズ(FC):1
- 直営:47(2022年12月に湘和会館 広野台を開業予定)
- 総数:48
- 葬儀施行(概算)
- 件数:3,206件
- 増減率:+9.7%
- 単価:122万4,267円
- 単価増減率:+9.0%
サン・ライフHD様 2023年3月期 第2四半期 報告書における葬儀・葬祭事業の内容
決算数字(売上高・営業利益・経常利益)
- 売上高:42億5千4百万円(前年同期比15.8%増加)
- 営業利益:3億1百万円(前年同期比5016.7%増加)
- 経常利益:3億4千2百万円(前年同期比442.2%増加)
- 当期純利益:-1億2千6百万円
葬儀・葬祭セグメントの振返りと今後
- アフターフォローの強化
- 集客イベントの開催増加
- 認知度向上施策
- ご相談体制の充実
- 社内の人材教育の強化によるサービス品質の向上
- 新規斎場の継続出店(ファミリーホール茅ケ崎)
- 既存斎場のリニューアル等による利便性・好感度の向上
- ネットワーク利用によるサービスの充実・利便性の向上
- デジタル化による業務の効率化
- 今後も既存斎場のリニューアルを継続し、顧客満足度の向上を目指す
現状の葬儀事業における数字
- 葬儀会館数
- 直営:34
- 葬儀施行
- 件数:具体的な件数は記載されていませんが、前年同期より増加となっています。
ティア様 2022年9月期 決算期 報告書における葬儀・葬祭事業の内容
決算数字(売上高・営業利益・経常利益)
- 売上高:128億5千8百万円(前年同期比8.9%増加)
- 営業利益:10億5千7百万円(前年同期比19.2%増加)
- 経常利益:10億4千8百万円(前年同期比19.5%増加)
- 当期純利益:5億6千8百万円(前年同期比4.8%増加)
葬儀・葬祭セグメントの振返りと今後
当期の振り返り
- 新規出店は直営 7店、FC 3店の合計 10店、リロケーションにより 1店閉鎖、FCから営への切替 1店
- 期末会館数は直営 83店、FC 57店、前期末⽐ 8店の純増
- ティアブランドによる葬儀件数は前期⽐ 11.8%増の 20,262件
- 「ティアの会」会員数は前期末⽐28,553⼈増加の 47万⼈
- ティアの会と同等のサービスが受けられる提携団体は、前期末⽐ 139団体増加の 1,269団体
今後について
- 直営・FC会館の計画的な出店と既存会館の持続的な成長
- 中核エリアのシェア向上にこだわった営業促進の実施とマーケティング力の向上
- 葬儀付帯業務の内製化拡大と行動力と分析能力を高めたM&A
- 計画に則した人材確保・育成と次世代基幹システムの構築
現状の葬儀事業における数字
- 葬儀会館数
- フランチャイズ(FC):57
- 直営:83
- 総数:140
- 葬儀施行
- 件数:14,189件
- 増減率:+12.6%
- 単価:81万3,000円
- 単価増減率:-2.9%
燦HD様 2023年3月期 第2四半期 報告書における葬儀・葬祭事業の内容
決算数字(売上高・営業利益・経常利益)
- 売上高:98億9千6百万円(前年同期比6.1%増加)
- 公益社:83億3千7百万円(前年同期比5.5%増加)
- 葬仙 : 6億8千9百万円(前年同期比9.9%増加)
- タルイ: 8億6千9百万円(前年同期比9.5%減少)
- 営業利益:17億8千2百万円(前年同期比11.1%増加)
- 経常利益:17億6千3百万円(前年同期比9.9%増加)
- 当期純利益:12億1千8百万円(前年同期比17.3%増加)
葬儀・葬祭セグメントの振返りと今後
- 公益社グループ
- 一般葬儀(金額5百万円以下の葬儀)の施行件数が前年同期比2.3%減少
- 葬儀施行単価は、簡素な低価格帯葬儀の件数構成比が低下したことにより上昇
- 大規模葬儀(金額5百万円超の葬儀)は、主に施行件数の伸びにより前年同期比増収
- セグメント利益は10億1千3百万円(前年同期比11.7%増)
- 葬仙グループ
- 鳥取エリアのほか、新規出店効果のあった米子、松江の各エリアを中心に葬儀施行件数が増加し、全体では前年同期比10.8%増加
- 葬儀施行収入は前年同期比12.8%の増収
- セグメント利益は4千5百万円(前年同期比576.2%増)
- タルイグループ
- 半数以上の会館で葬儀施行件数が前年を上回り、全体で前年同期比8.0%増加
- 葬儀施行単価は低価格帯の葬儀の割合が減少し1.7%上昇
- 葬儀施行収入は前年同期比9.9%の増収
- セグメント利益は1億6千8百万円(前年同期比52.4%増)
今後については「葬儀会館の全国展開」「ライフエンディングサポート事業の拡大」を軸に、経営基盤の強化を図るようです。
現状の葬儀事業における数字
- 葬儀会館数
- 直営:77
- 葬儀施行
- 件数:7,511件
- 増減率:-0.3%
- 単価:108万8271円
- 単価増減率:+5.5%
ニチリョク様 2023年3月期 第2四半期 報告書における葬儀・葬祭事業の内容
決算数字(売上高・営業利益・経常利益)
- 売上高:7億5千6百万円(前年同期比2.9%増加)
- 営業利益:-8百万円
- 経常利益:-5千6百万円
- 当期純利益:-5千9百万円
葬儀・葬祭セグメントの振返りと今後
- 葬祭事業については、春夏秋冬に発行する会報の配布やコロナ禍を踏まえ少人数に限定した終活セミナーの開催等、潜在顧客を受注に繋げる施策を継続
- 魅力的な葬儀プランの開発、葬儀専門のポータルサイトとの連携等を通じ受注件数の増大に注力
- さくら・あおい倶楽部会員に対して、終活や葬儀後の諸手続きを総合的にサポートするコンサルティング企業として発展を目指す
- 2021年9月にデジタルマーケティングを得意とする「サイブリッジグループ株式会社」との業務提携ことにより、今後はDX化の推進が見込まれる
現状の葬儀事業における数字
- 葬儀会館数
- 直営:4
- ラステル新横浜:6式場
- ラステル久保山:2式場
- ラステル久保山別館:法要ホール
- セレハウス久保山:1式場
- 直営:4
きずなHD様 2022年5月期 第1四半期 報告書における葬儀・葬祭事業の内容
決算数字(売上高・営業利益・経常利益)
- 売上高:22億8千6百万円(前年同期比11.2%増加)
- 営業利益:1億9千8百万円(前年同期比5.3%減少)
- 経常利益:9千9百万円(前年同期比7.5%減少)
- 当期純利益:9千9百万円(前年同期比7.5%減少)
葬儀・葬祭セグメントの振返りと今後
- 通期出店計画20に対して4ホールの新規出店を果たし、今期20ホールの用地は確定
- 葬儀件数は2,746件(前年同期比425件の増加)、仲介件数も含めた葬儀取扱件数は3,007件(前年同期比392件の増加)
- オリジナルプラン(高付加価値・高単価なオーダーメイド型葬儀プラン)件数は618件(前年同期比83件の増加)、葬儀件数に占めるオリジナルプラン件数の比率は22.5%
今後の成長戦略については
- 既存出店エリア内でのドミナント高密度化により、マーケティングコストの低下、および労働生産性の向上
- 既存出店エリア外縁地域へのドミナント拡大
- M&Aによる新規エリア進出、および当該地域でのドミナント形成
の3点を軸に出店ペースを加速し、全国展開を目指す
現状の葬儀事業における数字
- 葬儀会館数
- 直営:113
- 葬儀施行
- 件数:2,746件
- 増減率:+18.3%
- 単価:77万円
- 単価増減率:-5.7%
こころネットグループ様 2023年3月期 第2四半期 報告書における葬儀・葬祭事業の内容
決算数字(売上高・営業利益・経常利益)
- 売上高:25億8千1百万円(前年同期比9.6%増加)
- 営業利益:3億3千2百万円(前年同期比83.4%増加)
- 経常利益:3億4千9百万円(前年同期比57.9%増加)
- 当期純利益:1億6千9百万円(前年同期比35.2%増加)
葬儀・葬祭セグメントの振返りと今後
- 新型コロナの影響による参列の自粛や会食利用の減少等は、コロナ禍前の水準まで回復せず、葬儀の小規模化が継続
- 2022年7月「こころ斎苑 黒岩」地内に安置施設「とわノイエ 黒岩(個室4部屋)」を開設
- 2022年10月のリニューアルオープンに向けて、葬祭会館「こころ斎苑 きずな」を小規模葬儀へのニーズに対応すべく改築
- 葬儀事業セグメントの売上高は25億8千万円(前年同期比9.5%増)、営業利益は2億5千3百万円(同41.8%増)
葬祭事業の今後については、以下の3点を軸に展開する模様
- 商品・サービスの抜本的再構築や、葬祭会館の計画的リノベーションによる競争力の強化
- 葬祭会館の戦略的新規出店、および同業M&Aの推進等による営業規模の拡大
- LTVの最大化、およびライフエンディング領域におけるアライアンス(業務提携など)強化による事業領域の拡充
*LVT(ライフタイムバリュー:顧客生涯価値)
→1度限りの取引ではなく、繰り返し取引を重ねることで継続的に顧客から得られる利益
現状の葬儀事業における数字
- 葬儀会館数
- 直営:31
- 葬儀施行
葬儀施行数・葬儀施行単価ともに前年同期に比べ増加したようですが、詳細な数値の記載はありませんでした。
こころネットグループ 第4次中期経営計画(2023年3月期~2025年3月期)
葬儀業界に上場企業が少ない理由
葬儀業界では近年まで上場企業が存在せず、公益社などを傘下に持つ「燦HD」様が1994年に上場したのが業界初のケースとなります。
株式上場のメリット・デメリットや葬儀業界ならではの事情などから、豊富な資金力をもちながらも上場しない葬儀社様も少なくありません。
株式上場のメリット・デメリット
株式上場には多くのメリットがある反面、企業にとってデメリットとなる部分も存在します。
実のところ葬儀業界以外でも未上場の国内有名企業は多く、飲料大手の「サントリーホールディングス株式会社」や、旅行事業者の「株式会社ジェイティービー」などが代表格です。
メリット
- 不特定多数からの資金調達になる
- 社会的な認知度・信用度が向上する
- 副次的に優秀な人材確保が容易になる
- 創業者利益の増大が期待できる
デメリット
- 上場に必要な体制づくりに時間と費用がかかる
- 株主への配慮から企業運営の自由度が低下する
- 情報開示の義務が生じる
- 敵対的買収リスクが高まる
葬儀業界特有の事情
以前までの葬儀業界で多店舗展開を行う企業としては、冠婚葬祭互助会が筆頭に上がる状態だったのも、上場企業が少ない理由の一つでしょう。
冠婚葬祭互助会では、あらかじめ加入者から積立金を預かる「前払式取引」という形式をとっています。
冠婚葬祭互助会事業者には預り金の1/2を供託する義務が課されていますが、残りの1/2については事業資金として利用可能です。
「前払式取引」という資金調達方法が用意されていたため、企業運営の自由度を低下させてまで株式上場する必要はなかったと考えられます。
また専門葬儀社については地域密着型の小規模事業者が多く、複数店舗を運営する企業自体が少ない状態でした。
しかし少人数で営む「家族葬」が主流となりつつある現在では、多数の小規模ホールを集中出店する専門葬儀社も増加しています。
かつて葬儀業界の売上高上位は、冠婚葬祭互助会が独占していましたが、現在ではきずなHD様やティア様といった上場企業に加え、金宝堂様も上位に食い込んでいます。
こういった状況を考えると、今後は株式上場を目指す専門葬儀社が台頭する可能性も高そうです。
まとめ
今回は上場葬儀社様が公開されている決算資料をもとに、葬儀施行状況や収益について紹介しました。
各社ともウィズコロナ時代への対応を進めているようで、売上高については7社すべてが前年同期を上回っています。
営業利益や経常利益については、企業ごとに差が出る結果となっていますが、ひときわ目を引くのがサン・ライフHD様でしょう。
人事部や式場など複数インスタグラムアカウント運用や、LINE公式アカウントを開設などデジタル化・ネットワーク化への対応を強化しているようです。
全体としては、やはり各社様ともに葬儀の小規模化・簡素化への対応を急がれている点は共通していますが、アプローチの方法は企業ごとに異なります。
葬儀単価の回復に向けた施策に注力する企業、出店ペースの加速による成長戦略をとる企業、事業範囲の拡大を目指す企業などさまざまです。
上場葬儀社様の決算報告資料や説明会資料には、実際に取り組んでいる施策や今後に向けた計画など、各社の動向が想像以上の詳細さで記載されています。
企業の規模を問わず、業績改善のヒントとなる情報が見つかる可能性もありますので、各社の決算資料に目を通してみてはいかがでしょうか。