かつて葬儀が盛大に営まれていた頃の日本では葬儀費用も非常に高額だったため、冠婚葬祭互助会に加入している方も大勢いました。
しかし葬儀の小規模化・簡素化が進んだ現在では、冠婚葬祭互助会に加入するメリットも少なくなっています。
さらに、冠婚葬祭互助会が設定している高額な解約手数料についても批判が高まるなど、逆風の中での営業となっているのが現状です。
これまで葬儀業界で大きな影響力を保ってきた冠婚葬祭互助会ですが、今後はどうなっていくのでしょうか。
そこで今回は、冠婚葬祭互助会の現状や問題点について、公開されている情報をもとに分析します。
葬儀業界の今後を占ううえで有益な情報となりますので、ぜひ最後までご覧ください。
冠婚葬祭互助会とは
日本で最初の冠婚葬祭互助会は、現在の「株式会社 横須賀冠婚葬祭互助会」を運営する西村グループの創業者 西村熊彦氏によって立ち上げられました。
当初は相互扶助的な目的で設立された互助会ですが、徐々に営利目的の要素が強まっていったようです。
意味と目的
冠婚葬祭互助会事業は、非常に経済的な負担が大きい冠婚葬祭行事の費用を、前もって少しずつ積み立てておくことで将来的な出費に備えるのが本来の目的です。
会員から預かった積立金の一部を利用して、結婚式場や葬儀場の建設、冠婚葬祭にまつわる着物やドレスを購入して、会員の冠婚葬祭行事の際にサービスを提供します。
戦後間もない頃に地域住民が少しずつ資金を出し合って、1着の花嫁衣裳を共同購入し結婚式の際に使いまわしたのが始まりとされる冠婚葬祭互助会。
しかし現在の大手冠婚葬祭互助会の振る舞いを考えると、設立当初の高尚な目的が見失われているように思えてなりません。
経済産業省の許可事業
会員から結婚式や葬儀の費用に充当する資金を、前もって受け取る冠婚葬祭互助会は、消費者保護の観点から経済産業大臣の許可が必要な事業となっています。
そのため葬祭事業に携わる企業の中でも、経済基盤の安定性(資本金2,000万円以上)などの条件を満たした企業でなければ冠婚葬祭互助会事業を営むことはできません。
また万が一経営破綻した場合に備えて、会員から集めた資金の1/2を供託する義務を負います。
供託方法は
- 法務局への供託
- 経済産業大臣の指定受託機関(保証会社)との供託委託契約の締結
- 銀行や信託会社などの金融機関との供託委託契約の締結
の3つがあります。
また冠婚葬祭互助会事業開業後も、経済産業省による監査、指導・立ち入り検査を受け、問題を指摘された場合は、改善計画報告書などの提出を求められます。
その他にも勧誘方法や契約解除などの適正な実施が求められていますが、昨今の解約トラブル発生などの例をみると、あまり徹底されていないようです。
会員が積み立てた資金のうち1/2を供託する義務があるという点を逆にみると、残りの1/2は運転資金として使えるともいえます。
もし冠婚葬祭互助会が自転車操業状態に陥っているとすれば、解約を渋る背景にキャッシュ不足があるのかもしれません。
割賦販売法(前払式特定取引)について
冠婚葬祭互助会事業では「積立金(つみたてきん)」と呼ばれていますが、実際には冠婚葬祭行事の際に受けるサービス料金の前払いとして扱われています。
商品の代金を2回以上に分けて支払う方法は、割賦販売法(かっぷはんばいほう)の規制対象となります。
割賦販売という言葉は聞きなじみがないかもしれませんが、通信販売の分割払いやクレジットカードのリボ払いを想像していただくと分かりやすいでしょう。
冠婚葬祭互助会事業の「積立金」は、少額の掛け金を長期間にわたって支払う形式(月々2,000円を100回など)が一般的なため、もちろん割賦販売法の規制対象です。
さらに割賦販売の中でも、利用者がサービスを受ける前に支払いを行うことから、冠婚葬祭互助会の積立金は「前払式特定取引(まえばらいしきとくていとりひき)」として扱われています。
冠婚葬祭互助会の会費の合計金額について
互助会の会費のことは、加入者から月々お預かりしているので『預り金』と呼ぶのではなく、『前受金』と呼びます。
気になる『前受金』の金額と、契約者数・冠婚葬祭互助会事業を営む企業数の推移をグラフにまとめてみました。
冠婚葬祭互助会事業は各地で次々と設立され、日本の経済成長の波に乗り全国的な広がりをみせました。
現在では各地の互助会を統括する業界団体も複数立ち上げられています。
- 全日本冠婚葬祭互助協会(208社)
- 全日本冠婚葬祭互助協同組合(64社)
- 全日本冠婚葬祭互助支援協会(55社)
- 全国冠婚葬祭互助会連盟(54社)
- 全中協協同組合(20社)
2022年3月現在、国内で240社が冠婚葬祭互助会事業を営んでおり、その多くが全日本冠婚葬祭互助協会に加盟しています。
日本の経済状況が右肩上がりだった頃は、結婚式や葬儀も数百人が参加する大規模なケースも多く、大きな式場を所有する冠婚葬祭互助会は便利な存在でした。
葬儀の小規模化・簡素化が進むとされる現在でも、大切な家族を豪華な葬儀で送り出したいという方は一定数存在し、経験豊富な冠婚葬祭互助会の利用を希望する方もいます。
しかしバブル崩壊を皮切りに日本経済が失速し、高額な費用負担が発生するような大規模な結婚式や葬儀が減少するに従い、冠婚葬祭互助会の存在意義も薄れてきているようです。
また冠婚葬祭互助会事業者同士のM&Aも活発化しており、冠婚葬祭互助会事業者数は年々減少を続けています。
現在までのところ冠婚葬祭互助会の破綻による消費者への損害は発生していないとされていますが、実際は経営が傾いた冠婚葬祭互助会の会員を、大手が吸収合併するかたちで引き受けているだけともいわれています。
そういった状況下でも『前受金』の残高は増加を続けていましたが、近年ではほぼ横ばいといった状況です。
冠婚葬祭互助会の課題
経済産業省の発表によると、毎年PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に寄せられる、冠婚葬祭互助会関連の相談件数は3,500件前後と高い水準で推移しています。
相談の多くは解約や解約手数料・返金など契約関係で、経済産業省では割賦販売法施行規則の一部改正に向けた動きもあるようです。
出典:経済産業省 割賦販売法施行規則の一部を改正する省令案に係る事前評価書
かねてより、冠婚葬祭互助会の高額な解約手数料についてはトラブルが多発しており、近年では裁判にも発展しています。
近年の事例としては、解約手数料に関する契約条項の差し止めを求めた「日本セレモニー訴訟」「セレマ訴訟」が注目を集めました。
しかし、冠婚葬祭互助会の解約手数料に関する契約条項は各社で異なることから、司法の判断も個別事案で分かれています。
「日本セレモニー訴訟」では解約手数料に関する契約条項の差し止めが認められなかった一方、「セレマ訴訟」では差し止め請求が認められています。
以下はPIO-NETに寄せられた相談事例の一部です。
冠婚葬祭互助会事業自体は適法な事業形態ですが、各社の事業運営に関しては問題点が多いこともあり、会員数も2014年を境に減少に転じています。
前受金残高は今のところ横ばいですが、今後は徐々に減少に転じるのが自然な流れといえるでしょう。
こうした事態を受け冠婚葬祭互助会事業を所管する経済産業省も「冠婚葬祭互助会の解約手数料のあり方等に係る研究会」を開催し、報告書にまとめています。
参照:経済産業省 「冠婚葬祭互助会の解約手数料のあり方等に係る研究会報告書」
また全互協でも本部事務局内に「契約者相談室」を常設し、相談や問い合わせに対応しています。
参照:一般社団法人 全日本冠婚葬祭互助協会(全互協) 安心・安全への取り組み
まとめ
現在の葬儀業界は、核家族化・少子高齢化の影響や新規参入業者の増加、葬儀ポータルサイトの台頭などにより、変化への対応を余儀なくされています。
葬儀の小規模化・簡素化の流れは今後も続くと予想され、葬儀に携わる企業の中でも高額な葬儀を前提としてきた冠婚葬祭互助会が大きな影響を受けるのは確実でしょう。
これまで豊富な資金力を背景に、葬儀業界で大きな影響力を発揮してきた冠婚葬祭互助会ですが、小規模な葬儀が主流となった現在では加入メリットは減少する一方で、これまでと同様の経営手法では事業の継続さえ困難になることが予想されます。
こういった状況に対応すべく、すでに賢い葬儀社様は「互助会の解約手数料分を葬儀に利用可能な商品券として補填します」といったサービスを打ち出して、冠婚葬祭互助会からの顧客奪回に動き始めています。
またインターネットが普及した現在では情報伝達速度も過去の比ではなく、強引な勧誘や消費者の権利を侵すような振る舞いがあれば、瞬く間に拡散されます。
今後も冠婚葬祭互助会事業を継続するためには、利用者目線に立った経営に向けて、大幅な方針転換が不可欠でしょう。
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