葬儀社の売上・利益・業績を調べる場合、上場しているなら決算発表情報・有価証券報告書をみれば分かります。非上場になると帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、売上・利益・業績の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。
今回は株式会社サンセルモの現状について、決算公告をもとに分析いたします。
決算公告は上場企業の決算資料ほど詳細ではありませんが、事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。
株式会社サンセルモの概要
株式会社 サンセルモは、関東地方・中国地方を中心に冠婚葬祭事業を展開している企業で、熊本県に本社を置く株式会社 セルモとともに構成されるセルモグループの1社です。
1968年に創業された「株式会社熊本婚礼センター」および「株式会社八代婚礼センター」を源流とするセルモグループでは、葬祭事業を「玉泉院」名義で運営しています。
創業地である熊本県や鹿児島県・大分県に軸足を置く株式会社 セルモ、ならびに東京都・千葉県・広島県を営業エリアとする株式会社 サンセルモの両社では、年間で約8,000件の葬儀を取り扱っています。
またサンセルモでは、海洋散骨などの自然葬もおこなっているほか、エンバーミングや海外搬送、ペット葬儀にも対応しています。
グループ企業の1社である「株式会社 ジェイイーシー」では、セルモグループの斎場に併設するかたちで、全国10か所に「エンバーミングセンター」を設置し、年間6,500件を超えるエンバーミング施術を実施しているようです。
サンセルモ 玉泉院 葬儀会館
・東京都:7会館
・千葉県:11会館
・広島県:12会館
【名称】株式会社 サンセルモ
【設立】1968年5月
【代表取締役】安田 幸史
【所在地】東京都港区芝大門1-1-35 サンセルモ大門ビル2F
【資本金】1億円
【公式サイト】https://suncelmo.co.jp/
【事業内容】・冠婚葬祭互助会
・総合結婚式場(エルセルモ)各種パーティ並びに宴会、貸衣裳、結婚式に付随するもの
・葬儀一式、総合斎場(玉泉院)葬祭造園、霊柩車、生花、造花
・ホテル経営
出典:株式会社 サンセルモ 会社概要
葬儀社の決算公告とは
決算公告資料はその会社が健全な経営を行っているかを確認できる計算書類となります。株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告といいます。
ただし、大会社については貸借対照表と合わせて損益計算書も公告することが義務付けられています。
次の2つの条件のうちいずれか1つが該当する株式会社は「大会社」という定義になります。
1つ目は資本金が5億円以上、2つ目は負債額が200億円以上の株式会社のいずれかとなります。
公告の方法は全部で3つあります。
- 官報に掲載
- 日刊新聞紙に掲載
- 電子公告(会社のウェブサイトに掲載)
決算公告の簡単な概要については以上になります。
なお上場企業の決算報告書(有価証券報告書)はEDINETで公開されており、誰でも閲覧可能です。
なぜ葬儀社は決算公告をおこなうのか?
大手葬儀社、あるいは葬儀・葬祭事業を長きにわたって営んでいる会社は、冠婚葬祭互助会を運営するケースが少なくありません。
冠婚葬祭互助会とは、冠婚葬祭などの行事に備えるために、毎月一定の掛金を複数回の支払いで積み立てるサービスです。
冠婚葬祭互助会の会員になることで、葬儀や婚礼といったライフイベントの際に会員割引を受けられるなど、さまざまな面で優遇されます。
一般的な専門葬儀社は、開業にあたって特に許認可は必要ありませんが、冠婚葬祭互助会は経済産業大臣の認可を受けた企業のみ行える事業です。
会員から掛金として支払われた前受金は割賦販売法によって積み立てられた前受金の2分の1を次の何らかの方法で保全することが義務付けられています。
- 法務局への供託
- 経済産業省の指定する保証会社との供託委託契約締結
- 銀行や信託会社などの金融機関と供託委託契約締結
以上の3つの方法のいずれかを選択する必要があります。
また、経済産業省は割賦販売法に基づき互助会事業の経営指導や立入検査等を行っています。
なお現在、冠婚葬祭互助会事業者として登録されている事業者は以下より確認することができます。
経済産業省 前払式特定取引業者(冠婚葬祭互助会)許可事業者一覧
上記のように、冠婚葬祭互助会では政府・行政の認可団体として運営している側面があり、義務である決算公告を発表する事業者が多い状況です。
サンセルモの貸借対照表
決算期 | 45期 | 46期 | 47期 | 48期 | 49期 | 50期 | 51期 | |
利益剰余金 | 19億2千0百万円 | 26億3千4百万円 | 30億5千0百万円 | 27億9千3百万円 | 23億1千8百万円 | 29億1千5百万円 | 32億2千1百万円 | |
会計年度 | 2017年7月期 | 2018年7月期 | 2019年7月期 | 2020年7月期 | 2021年7月期 | 2022年7月期 | 2023年7月期 | |
資産 | 流動資産 | 81億4千4百万円 | 94億0千5百万円 | 96億1千4百万円 | 82億1千8百万円 | 83億8千7百万円 | 100億1千0百万円 | 104億5千2百万円 |
固定資産 | 253億7千6百万円 | 254億0千6百万円 | 262億9千6百万円 | 277億8千9百万円 | 273億8千3百万円 | 268億8千6百万円 | 270億5千2百万円 | |
有形固定資産 | ||||||||
無形固定資産 | ||||||||
投資その他の資産 | ||||||||
繰延資産 | 1百万円 | 3百万円 | 2百万円 | 2百万円 | 2百万円 | 1百万円 | ||
資産合計 | 335億2千1百万円 | 348億1千1百万円 | 359億1千3百万円 | 360億0千9百万円 | 357億7千2百万円 | 368億9千8百万円 | 375億0千5百万円 | |
負債 | 流動負債 | 310億0千8百万円 | 28億9千3百万円 | 30億5千1百万円 | 28億1千8百万円 | 27億2千8百万円 | 28億7千6百万円 | 31億3千3百万円 |
役員賞与引当金 | ||||||||
賞与引当金 | ||||||||
その他 | ||||||||
固定負債 | 5億0千0百万円 | 291億9千9百万円 | 296億8千3百万円 | 301億6千8百万円 | 305億0千3百万円 | 307億9千0百万円 | 307億7千6百万円 | |
退職給付引当金 | ||||||||
雑収入復活引当金 | ||||||||
役員退職慰労引当金 | ||||||||
その他 | ||||||||
負債の部計 | 315億0千8百万円 | 320億9千2百万円 | 327億3千4百万円 | 329億8千6百万円 | 332億3千1百万円 | 336億6千6百万円 | 339億0千9百万円 | |
純資産 | 株主資本 | 20億2千0百万円 | 27億3千4百万円 | 31億5千0百万円 | 28億9千3百万円 | 24億1千8百万円 | 30億1千5百万円 | 33億2千1百万円 |
資本金 | 1億0千0百万円 | 1億0千0百万円 | 1億0千0百万円 | 1億0千0百万円 | 1億0千0百万円 | 1億0千0百万円 | 1億0千0百万円 | |
資本余剰金 | ||||||||
資本準備金 | ||||||||
その他資本余剰金 | ||||||||
利益剰余金 | 19億2千0百万円 | 26億3千4百万円 | 30億5千0百万円 | 27億9千3百万円 | 23億1千8百万円 | 29億1千5百万円 | 32億2千1百万円 | |
利益準備金 | ||||||||
特別償却準備金 | ||||||||
その他利益剰余金 | 19億2千0百万円 | 26億3千4百万円 | 30億5千0百万円 | 27億9千3百万円 | 23億1千8百万円 | 29億1千5百万円 | 32億2千1百万円 | |
評価・換算差額等 | ||||||||
その他有価証券評価差額金 | ||||||||
(うち当期純損失) | ||||||||
新株予約権 | ||||||||
評価・換算差額等 | -7百万円 | -1千4百万円 | 2千9百万円 | 1億3千0百万円 | 1億2千2百万円 | 2億1千7百万円 | 2億7千5百万円 | |
その他有価証券評価差額金 | -7百万円 | -1千4百万円 | 2千9百万円 | 1億3千0百万円 | 1億2千2百万円 | 2億1千7百万円 | 2億7千5百万円 | |
純資産の部計 | 20億1千3百万円 | 27億2千0百万円 | 31億7千9百万円 | 30億2千3百万円 | 25億4千0百万円 | 32億3千2百万円 | 35億9千6百万円 | |
負債・純資産合計 | 335億2千1百万円 | 348億1千2百万円 | 359億1千3百万円 | 360億0千9百万円 | 357億7千1百万円 | 368億9千8百万円 | 375億0千5百万円 |
貸借対照表でまずチェックしたい箇所は純資産の部です。総資産に対する純資産の比率である自己資本比率が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
例えば自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされています。
自己資本比率が低い場合は、借入金などの負債が多い状況と考えられますので、資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で自己資本比率が高い場合は、返済義務を有しない資金を大量に抱えているので、倒産リスクは低くなると考えられます。
自己資本比率は中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、適切な自己資本比率の目安は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は最低でも20%程度はあると安心です。
逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は最低でも15%程度は欲しいところです。
サンセルモの自己資本比率は9.59%
自己資本比率は「自己資本比率(%)=純資産÷総資産」の計算式で算出可能です。
サンセルモの2023年7月期の自己資本比率を求める式は下記のようになります。
35億9千6百万円(純資産)÷ 375億0千5百万円(総資産)
上記の式から同社の自己資本比率は9.59%(前年比で0.83ポイント上昇)となりました。
サンセルモの2023年7月期決算では、負債合計が前年同期と比べて2億円ほど増加しましたが、資産合計も6億円以上増加したため、自己資本比率も向上しています。
サンセルモ 利益剰余金の推移
利益剰余金とは簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずにコツコツと社内で貯めたお金です。正確な会計用語ではないですが利益剰余金のことを内部留保とも言います。
内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。利益剰余金は貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。
内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で収益状況が悪化した際にも、従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため、企業が生き残るための重要な資金源となります。
株式会社 セルモの2023年7月期における利益剰余金は、32億2千1百万円(前年同期比10.5%増)となりました。
新型コロナの影響が最も大きかったとみられる2020年から2021年にかけては、利益剰余金も減少していましたが、2022年7月期には大幅に回復しました。
2023年7月期には新型コロナ発生前の2019年7月期を上回り、過去7年間で最高の数値となっています。
サンセルモの損益計算書
損益計算書を確認することで、当該企業が「どれだけ売り上げ(=収益)」「費用を何に使って(=費用)」「どれくらいの儲けが出たのか(=利益)」が一目で分かるものです。
特に注目したい項目は、売上高・営業利益・経常利益・当期純利益となります。
損益計算書
決算期 | 45期 | 46期 | 47期 | 48期 | 49期 | 50期 | 51期 |
会計年度 | 2017年7月期 | 2018年7月期 | 2019年7月期 | 2020年7月期 | 2021年7月期 | 2022年7月期 | 2023年7月期 |
売上高 | 81億8千0百万円 | 83億1千3百万円 | 80億4千2百万円 | 67億9千0百万円 | 59億1千0百万円 | 70億2千3百万円 | 73億8千0百万円 |
売上原価 | 54億4千3百万円 | 54億8千9百万円 | 56億1千3百万円 | 50億3千5百万円 | 40億2千4百万円 | 46億3千2百万円 | 51億5千3百万円 |
売上総利益 | 27億3千7百万円 | 28億2千3百万円 | 24億2千9百万円 | 17億5千5百万円 | 18億8千5百万円 | 23億9千1百万円 | 22億2千7百万円 |
販売費及び一般管理費 | 19億3千3百万円 | 20億1千1百万円 | 20億1千7百万円 | 21億6千6百万円 | 20億9千8百万円 | 19億8千2百万円 | 20億5千6百万円 |
営業利益 | 8億0千4百万円 | 8億1千1百万円 | 4億1千2百万円 | -4億1千1百万円 | -2億1千2百万円 | 4億0千9百万円 | 1億7千1百万円 |
営業外収益 | 3億1千3百万円 | 4億0千9百万円 | 3億0千8百万円 | 3億1千6百万円 | 3億6千6百万円 | 3億2千8百万円 | 3億0千7百万円 |
営業外費用 | 3千5百万円 | 9千4百万円 | 6千4百万円 | 3千8百万円 | 5千2百万円 | 6百万円 | 8百万円 |
経常利益 | 10億8千2百万円 | 11億2千6百万円 | 6億5千6百万円 | -1億3千3百万円 | 1億0千0百万円 | 7億3千1百万円 | 4億7千0百万円 |
特別利益 | 9千7百万円 | 2千5百万円 | |||||
特別損失 | 5千9百万円 | 8億4千2百万円 | 3千4百万円 | 2億0千5百万円 | 6億9千3百万円 | 5千7百万円 | 2千8百万円 |
税引前当期純利益 | 10億2千3百万円 | 10億9千9百万円 | 6億2千2百万円 | -3億3千8百万円 | -5億9千2百万円 | 7億7千1百万円 | 4億6千7百万円 |
法人税、住民税及び事業税 | 3億6千9百万円 | 3億4千7百万円 | 2億3千4百万円 | 1百万円 | 0百万円 | 5千8百万円 | 1億7千3百万円 |
法人等調整額 | -6百万円 | 3千9百万円 | 4百万円 | -8千0百万円 | -1億1千8百万円 | 1億1千7百万円 | -億1千2百万円 |
当期純利益 | 6億5千9百万円 | 7億1千3百万円 | 3億8千4百万円 | -2億5千6百万円 | -4億7千5百万円 | 5億9千6百万円 | 3億0千6百万円 |
サンセルモの損益計算書を確認すると、売上高は前年同期を大きく上回る結果となっています。
営業利益・経常利益・当期純利益については若干の減少となったようですが、これは売上原価の上昇が影響しているようです。
近年の日本では、円安の影響による原材料費の高騰が問題となっていますが、葬儀に不可欠な棺などの値上がりが続いていることもあり、葬儀業界でも全体的に売上原価が上昇傾向にあります。
サンセルモの収益も、こうした状況による影響を受けた可能性が高そうです。
売上金額の推移
株式会社サンセルモの2023年7月期における売上高は、73億8千0百万円(前年同期比5.08%増)となりました。
2022年7月期に回復に転じたサンセルモの売上高ですが、2023年7月期には新型コロナ発生前の水準に近付きつつあります。
新型コロナの影響が落ち着きを見せ始めた2022年以降、サンセルモでは既存会館のリニューアルや新規出店を積極的に進めているようです。
こうした取り組みが、2022年7月期・2023年7月期と2期連続の売上高向上に寄与している可能性も高そうです。
営業利益の推移
営業利益とは、売上総利益から販管費(=販売費および一般管理費)を差し引いて算出されます。つまり、どのくらい本業で儲ける能力があるかを表す数字となります。
株式会社サンセルモの2023年7月期における営業利益は、1億7千1百万円(前年同期比58.2%減)となりました。
前述したように、売上原価の上昇が影響しているものと思われますが、新規出店に伴う一時的な現象の可能性もありますので、2024年7月期の決算公告が待たれるところです。
経常利益の推移
経常利益はその会社の実力が一番分かる数字で、本業以外の稼ぎ(金融商品、株、為替などの取引で発生した利益)も含めその会社全体でどれだけ稼ぐ力があるか分かります。
株式会社サンセルモの2023年7月期における経常利益は、4億7千0百万円(前年同期比35.7%減)となりました。
とはいえ、営業利益と同様に新規出店に伴う一時的な現象とも考えられますので、2024年7月期には再び増加に転じる可能性もあります。
株式会社サンセルモのまとめ
今回はサンセルモの決算公告を参考に現状分析をおこないました。
利益剰余金、売上高は増加しておりコロナの影響から回復しているようです。
一方、営業利益、経常利益は減少していますが、新規出店に伴う一時的な現象の可能性もありますので、2024年7月期の決算公告が待たれます。
近年サンセルモは、プロジェクションマッピング技術を用いた『祭壇マッピング』や、インターネットを使用して葬儀をライブ配信する『きずなライブ』をおこなっています。
また散骨や樹木葬に対応するなど、消費者ニーズを取り入れた葬法への取り組みをおこなっており、今後の事業動向が注目されます。