碑文谷創の葬送基礎講座

碑文谷創の葬送基礎講座5 葬儀市場は分化している

投稿日:2019年6月3日 更新日:

 

葬儀市場の構造

葬儀市場は戦後の高度経済成長期とは平成の30年間で大きく変化した。
(参照)格差社会の葬送https://souken.info/himonya3

 

社会構造が「一億総中流」社会から「格差社会」に大きく変わっている。
それが葬儀市場に影響していることを顕著に示しているのが「家族葬」の流行である。

葬儀市場は、「人並み」「平均」を論じる時代ではすでになく、構造的に大きく分化している。

「格差社会の葬送」で示した葬儀一式費用の分布(日本消費者協会「第11回葬儀についてのアンケート調査」2017【平成29】年1月発表に基づく)を再掲する。

・1~500,000円    21.0%(低)

・500,001~1,000,000円  28.3%(やや低)

・1,000,001~1,500,000円 24.6%(中)

・1,500,001~2,000,000円 14.3%(やや高)

・2,000,001円以上   11.9%(高)

葬儀費用の観点だけで見ると葬儀市場は単一ではなく、「低」「やや低」「中」「やや高」「高」の5つに分かれている、と見るべきだろう。
「中」が多いわけではない。「中」は全体の4分の1にすぎない。

 

高所得は約1割、平均以下が6割の世界

件数的には「低」「やや低」層が増加している。
世帯所得分布においては平均所得金額560万2千円を下回る世帯が61.5%を占めている(2017(平成29)年「国民生活基礎調査」)。
葬儀費用においても同様で、平均額1,214,000円を下回るのが約6割の58%を占めている。

年間所得が1千万円を超えるのはわずか12.6%でしかない。
葬儀でも200万円以上を消費するのは約1割にすぎない。

一般層を対象とした事業者が死亡数の増加により取扱件数は増加しているのに、中以下の層の単価低下を受けて、売上が思うように伸びず、利益を減少させている例は少なくない。

 

市場の分化は当然のこと

葬儀市場は今「市場の分化」という現実に直面しているが、これは言うまでもなく葬儀市場だけの問題ではない。

カメラ、ビール、ホテル、電化商品その他においてもすでに常識化している。
さまざまなターゲット層向けにさまざまな商品、サービスが開発、提供されている。
利用者の経済力、用途、嗜好に応じて異なる商品、サービスが提供されている。

ホテルを例にとれば、リゾートホテル、高級ホテル、シティホテル、ビジネスホテル、低料金ホテルと大きく分化している。
それぞれで料金層は大きく異なる。
利用者もそれを理解しているからカプセルホテルと高級ホテルの料金を比較するなど無謀なことはしない。

 

葬儀料金の誤った比較

ところがマスコミでは、葬儀料金・費用は、業界がオープンにしていないことにも原因があるが、葬儀料金は一律であるかのような乱暴な議論がなされてきた。
10万円台の葬儀料金が良心的で、200万円台の葬儀料金はいかにも悪質でぼったくりであるかのような。

特に2000年代になって低価格をうたう事業者が登場し、彼らがいかにも葬儀料金は不明朗で高額であるかを喧伝し、無知な週刊誌等がこれをもちあげ報道することによって、この風潮が拡大したという経緯がある。

彼らが「一般の葬祭事業者はいわばシティホテルのサービスであるが、自分たちはカプセルホテルなので、サービス内容は貧弱であるが、これだけの低価格で提供します」と言うならわかる。

しかし、消費者の無知につけこんで、自分たちのサービスがカプセルホテル級であるのを隠蔽して、いかにも「低価格でシティホテル級のサービスを提供している」という誤解を与えかねない宣伝を行い、一部の実態理解ができていない「識者」がこれを支持した。

葬儀は非日常で、経験することが少ないということもあって、慌ただしい中で消費者が選択を迫られがちというのも一因である。

 

ターゲットに合ったサービスの開発

90年代に入り不況が深刻化、長期化することによって葬儀市場も分化が明確になってきた。
これは事業者からではなく消費者の消費行動から始まった。

いまでこそ「家族葬」という用語は、概念が明確でないままではあるが、一般化し、件数的には3分の2近くになり、これをメニュにしている事業者が圧倒的であるが、最初からそうであったわけではない。

「家族葬」については改めて書くが、家族葬が葬儀業に「市場の分化」を自覚させるきっかけになり、その後の「葬儀の個人化」の方向性に決定的な役割をはたしたことだけを指摘しておこう。

一部の事業者においては、「ターゲットに合ったサービスの開発・提供」という課題は常識的な取り組みである。しかし、多くの事業者においては不充分であるように思える。
この現状は消費者にとっても不幸である。
現状では、消費者は料金水準でしか選択できないという「貧弱な選択」になっていることが多いからである。

 

  • この記事を書いた人
碑文谷創(ひもんやはじめ)

碑文谷創(ひもんやはじめ)

葬送ジャーナリスト。評論(死、葬送、宗教)

1946年生まれ。東北出身(岩手・一関市、宮城・仙台市)。東京神学大学大学院修士課程中退。出版社に勤務し、44歳で独立、葬送文化専門雑誌『SOGI』編集長(1990~2016)。

葬祭ディレクター技能審査企画委員(1995~2016))、経産省「ライフエンディング・ステージ」研究会委員(2010~2011)、IFSA(一般社団法人日本遺体衛生保全協会)顧問(1993~)等を歴任。

現在、死、葬送、宗教に関する評論・講演活動を展開。著書:『葬儀概論』(現在4訂)『死に方を忘れた日本人』『「お葬式」はなぜするの ?』、『Q&Aでわかる葬儀・お墓で困らない本』ほか多数。

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