葬送に関する基礎用語を整理しておこう。
現代社会と死
多死社会
2017年人口動態統計(確定数)では、出生数が946,065人(1980年は約157万人)、死亡数が1,340,397人(1980年は約約72万人)となり、約39万人の自然減。
17年将来推計では死亡数は30年に160万人台まで増加見込み。
宅死—増える老人施設死
在宅死は1951年には82.5%あったが、2000年以降12-13%にまで減少。
病院・診療所死は75%。政府は高齢者医療費の高騰から終末期の《在宅ケア》に政策転換したが、介護者不在の単独世帯、高齢者同士の《老老介護》、夫婦共に認知症という《認認介護》、仕事を辞めて介護に当たる《介護離職》などが深刻化。
特養や老健等での施設死が10%を超えて顕著に増加傾向に。
近い将来は、病院等医療機関死が70%、老人施設死15%、自宅死15%となるのではないか、と推測される。
自死(自殺)
自死(自殺)者数は、2012年には15年ぶりに年間3万人台を割ったが、18年は2万840人(警察庁)と依然多い(最多は2003年34,427人)。
健康問題、家庭問題、過労、いじめ等のさまざまな事情で精神疾患をともなう《追い込まれた死》であり、自死遺族への偏見のない支援が重要である。
男女比は男性68.6%、女性31.4%と男性が約2倍。月別では3月が最も多く、次いで5月、10月が多い。年齢層では40代、50代、60代が多い。職業的には無職が56.5%を占める。
ひとり死(単独死/×孤独死/×孤立死)
1人世帯の増加により在宅でのだれにも看取られないひとり死が増加している。死後長期間経過し、腐敗が進行して発見される例も。2015年国勢調査では施設等世帯を除く一般世帯では1人世帯が34.5%でトップ(17年国民生活基礎調査では単独世帯は27%)。ひとり死のリスクは高まっている。行政、NPO、団体、組合で声掛け活動も行われている。
他方、一人暮らし世帯で(死亡時にひとり死以外に病院死、施設死を含む)死後に身元は判明しているのに遺体の引き取り手がいない人がこの10年急増している。親子、きょうだいの場合には引き取られることが多く、最も近い親族が甥、姪の場合には引き取りが拒否されるケースが年に5~7万人いると推測される。
死と死後のケア
死
医学的死とは全細胞死ではなく、有機的全体としての個体の生命活動がやんだと判断されることをいう。
心臓死のほか、全脳が機能停止しても人工呼吸器により心臓が拍動している状態の《脳死》がある。
改正臓器移植法により、本人が生前拒否意思を表明していないときは、縁者がいないケースまたは遺族がいても遺族がこれを書面により承諾するときに脳死判定、臓器移植を行うことができるとされた。
尊厳死において治療の見込みがないときの医療行為中止には2人以上の医師による確認本人意思、家族意思の確認が求められる。
いのちにかかわる状態で本人が意思表示できないときに備え、治療の方法、栄養補給の方法、心停止の際の心肺蘇生の希望の有無等の事前指定書(LMD Let me decide=医療の自己決定)もある。
献体
医学部や歯学部の学生の解剖実習に死後の遺体を無償で供すること。
生前に自分の意思で家族の同意を得て大学に登録。死後48時間以内の大学への引渡しが希望されている。
近年はこれに加えて外科医の手技訓練に献体遺体が用いられることが加わった。これに同意する生前の申込みがあった場合に限られ、この場合は24時間以内の引き渡しが希望されている。
解剖実習後は、大学の責任で火葬され、遺骨で返還。引取り手がいない遺骨は大学の責任で合祀墓に納められる。
死後の処置(死後のケア)
病院で死亡判定直後に行われる遺体への清拭、傷口などの処置、衛生的処置、着替え、死化粧などをいう。《エンゼルケア》とも。
費用は健康保険対象外。《納棺》(遺体を消毒液で清拭後、着替え、納棺までの作業)、《湯灌》((ゆかん)習俗としての湯灌とは異なり、専門業者が遺体洗浄を行い納棺)が行われることも。
死後の処置、納棺、湯灌には防腐効果はない。
遺体の変化は死後2時間後から顕著になり、火葬まで遺体の状態を保つ《遺体管理》は葬祭業者の任務となる。
エンバーミング〔embalming〕
《遺体衛生保全》。専門技術者のエンバーマーによる遺体の消毒、防腐、修復、化粧の処置。3時間程度の処置で、14日間程度は腐敗や遺体の死後変化を防止できる。遺体の海外移送には原則必要。刑法190条死体損壊罪に抵触するかとの論議があったが、業界団体であるIFSAが1994年に自主基準を設け、2007年「IFSA自主基準に則り処置される限り正当業務」との判決が確定。
2018年には日本で年間4万8千件に施術。認定登録しているエンバーマーは200人を超えた。
近年の葬儀の特徴
斎場葬(会館葬)
斎場(葬儀会館)で行われる葬儀は約8割。自宅葬は1割未満。2000年以降、病院から斎場あるいは遺体保冷施設への直行が増えている。この遺体保冷施設を《死者のホテル》、《遺体ホテル》と名づける業者もある。
2015年以降、会葬者数の減少に伴い、顕著に小型で住居接近型の会館が増加傾向にある。
直葬
死亡後、いわゆる葬式儀礼をしないで火葬だけで済ます簡素な形態。
2000年以降に急増。全国平均で1割以上、都市部では2割を超える。
一般に通夜、葬式と2日間にわたり行われるが、1日で済ませる《一日葬》も人気を強めている。
直葬の後、火葬で骨上げ(拾骨)をしない、結果として墓不要とする《0(ゼロ)葬》も現れたが、あまり普及はしていない。
但し、直葬後にゆうパックで遺骨を送り、2-3万円程度で永代供養墓(合葬墓)に納骨する《送骨》は増加傾向に。
家族葬
起源は、95年に誕生した、死者本人をよく知る者を中心として、こぢんまりと温かく送る主旨の葬式にある。
転じて死者本人のきょうだい、親しくしていた人を排除して狭義の家族だけで営む事例も。
2000年以降、全国的に市民権を獲得。
定義がないことから、家族数人だけのものから、家族・親戚・友人・知人を加えた60~80人規模のものまで。
葬式は高齢化もあり、個人化、小型化の傾向に。
高齢者の葬儀の会葬者数は20-60人程度が多いが、「現役」世代の葬儀では100人を超えるのが一般的。
お別れの会(偲ぶ会)
1995年前後に現れたもので歴史的には告別式の独立形態。
死亡後2~6週間程度経過してから関係者や知人などが集まり追悼の会をもつこと。
この場合、死亡直後は近親者だけでの密葬が多い。お別れの会では宗教儀礼が省略される傾向にある。
近年は「社葬」等の団体葬、大型葬が「お別れ会」の名で行われることが多い。
無宗教葬(自由葬)
特定の宗教宗派によらない葬儀のこと。「自由葬」ともいう。
1995年前後に一時注目されたが、葬儀は宗教儀礼でという慣習が根強く普及しなかったが、近年では都市部を中心に注目を浴びており漸増傾向にある。団塊世代以降では希望が多い。
生花祭壇
祭壇は告別式用の装飾壇のこと、昭和前期に大都市で現れ、1960年代に全国で展開された。仏式で主として使用される上部が宮型、寺院建築風の装飾物は明治期以降の葬列で用いた輿(柩を運ぶ道具)を模したもの。
現在では葬儀の個性化を反映し生花祭壇が多く、輿型祭壇に取って代わる勢い。生花祭壇はかつてはシラギクが多かったが、近年では色花、洋花がむしろ多く見られる。
僧侶派遣(お坊さん便)
寺と檀家関係を結ぶ世帯が減り、葬儀や法事のときだけインターネットや葬祭業者等経由で一時的な僧侶派遣サービスの利用が増加。
僧侶派遣の場合には、手配料、戒名料、お経料と料金表示制が多い。
背景には存続危機にある地方過疎寺院住職の出稼ぎ志向もある。
葬祭ディレクター
葬祭従事者の知識・技能判定制度。厚生労働省認定技能審査で、民間の葬祭ディレクター技能審査協会が実施。
有資格者数は延べ3万人を超え、10万人と推定される葬祭従事者のほぼ3割。
消費者による葬祭業者選定基準の一つに認知される。国際的には葬儀専門家を《フューネラルディレクター》と称す。
グリーフワーク〔grief work〕
グリーフは英語で喪失による深い嘆き。代表例は《死別の悲嘆》。
グリーフワークは遺族が死別の悲嘆に対処する作業、プロセス。
遺族のグリーフワークの支援が《グリーフケア》、《グリーフサポート》。
犯罪死、事故死、災害死、自死、子どもの死等の遺族の心のケアの充実が求められる。
家具調仏壇
仏壇は、主として家庭内にあって仏や死者を供養する壇のこと。1990年代以降に洋間に合わせた家具調で宗教色のないタイプも登場し、人気が高い。
全体としては仏壇は減少傾向にあるが、欧米と日本人の死別後のグリーフの比較で仏壇があり死者と対話する日本人の供養形態がグリーフに効果的との研究もある。
手元供養
2000年以降に登場した供養形態。遺骨の一部を小型の人形等に埋め込んだり、ペンダント等に加工。机上に置いたり、持ち運びも可能。
仏壇の小型化とも理解される。
デジタル遺品
死後に残されるパソコン内やクラウド、インターネット上にあるデータ、契約しているネットによるサービスのこと。パスワードがわからず開けられないことも。
デジタル遺品を処理する専門業者もいる。
デジタル遺品には著作権等の価値があり(《デジタル遺産》)、法的問題もある。
墓と現代
永代供養墓(《合葬墓》)
承継者が不要の墓のこと。墓が家の祭祀から個人の祭祀へと移行している象徴。
《合葬(がっそう)式墓地》、《合同墓》、《共同墓》ともいう。
結縁以外で将来墓を共にする者の生前交流(墓友)も話題に。
散骨(自然葬、海洋葬)
遺骨を細かくして墓地以外の山や海にまく葬法。
節度を欠く散骨が行われ、散骨禁止・規制条例を設ける市町村も。
「周辺の人々が嫌がる場所にはまかない」「原形を残さないように細かく粉砕する」配慮が必要。
骨を細かく砕くことを《粉骨》(ふんこつ)という。
2014年、海洋葬事業者団体が「海洋散骨ガイドライン」を施行。
樹木葬(樹林葬/里山葬)
1999年の岩手県一関市の祥雲寺(現・知勝院)が最初。自然保護・再生、里山保全等を目的に、山林を墓地として許可を得て始めた。
墓石や納骨室などの人工物は用いず、直接地面を掘り、土中に遺骨を埋め、埋め戻す。
埋蔵位置に花木を植える形態と木の周辺に埋蔵する形態(樹林葬)がある。
既成墓地内の樹林墓地の先駆で、2005年に供用開始されたのが《桜葬》。墓地内の桜の木をシンボルに、その周囲に区画を設け遺骨を埋蔵する。
2010年以降、墓石の代用として樹木とするだけの亜流「樹木葬」も多数現れている。
東京都をはじめ公営墓地でも樹林型墓地が多く供用されている。
改葬
墓の移動のこと。
元の墓地・納骨堂の管理者から埋蔵(収蔵)証明書を得て、その墓地が所在する市区町村役所から改葬許可証を得る。改葬許可証は移動先の墓地等の管理者に提出。既存墓地は原状復帰して戻すのが原則。
地方から都市への《墓の引越し》と現有墓地を整理し、永代供養墓等に納める《墓じまい》がある。
「墓の引越し」「墓じまい」の違いはわからないが、改葬数は2015年以降増加傾向に。
死後への備え
終活
高齢化(寿命中位数84.08年、女性90.63年)、少子化、家族分散を背景に、自身の終末期(医療、介護)、死後(葬儀、墓、死後事務、相続等)について、エンディングノートや遺言等で準備すること。
2009年に週刊朝日が造語。葬祭業者、司法書士、弁護士、NPO、信託銀行等との事前相談、生前契約もある。
団塊世代が65歳以上となり4割程度が「関心あり」との調査結果があるが、実際に着手しているのは1割未満。むしろ世話する人間がいないまま要介護、終末期、死に至る《高齢難民》が増加し、社会がどう支えるかが大きな課題になっている。
※『現代用語の基礎知識』2006年版から2019年版まで葬送関連用語解説を執筆した。同書は2020年版より大幅に編集方針が変更となり、その年度に限った用語に限定したものとなった。本稿は2019年版を基礎に新データを交えて更新したものである。