2024年8月5日、株式会社はせがわは、株式会社八木研の保有する仏壇仏具事業を会社分割(吸収分割)により、分割承継会社となる株式会社現代仏壇の株式を取得することを発表しました。
仏壇・仏具業界の最大手であり、唯一の上場企業であるはせがわは、仏壇・仏具業界全体の売り上げが減少傾向にあるなか、売上を伸ばしている、稀有な存在と言えるでしょう。
保守的になりがちな仏壇・仏具業界において、斬新な新商品や公式アプリの導入など新たな施策を次々に打ち出している「お仏壇のはせがわ」について、最近の動きや業績などについて解説していきます。
仏壇・仏具業界の動向
東京商工リサーチの「全国仏具店の業績調査」によると、仏具小売152社の売上高合計は、2017年度の536億2600万円、2018年度の539億6100万円と推移しました。しかし、2019年度(2019年9月期~2020年8月期)には515億6600万円(前期比4.4%減)と減少しています。
2019年度には、新型コロナウイルス感染拡大により、緊急事態宣言が発出された2020年4~5月も含まれ、人が集まる機会を控える状況にありました。その後も引き続き、葬儀や法要などの規模の縮小による影響が大きかったことが考えられます。
しかし、コロナウイルス感染症の影響ばかりとは言えないようです。
それ以前から仏具の小売事業者数や商品販売額が減少傾向にあり、市場規模は縮小し続けていました。
その原因として、仏壇・仏具業界を取り巻く環境が大きく変化していることが考えられます。
まず、「供養離れ」と言われ、最近は供養への関心が希薄になりつつあります。
それに加え、昨今の住宅事情や生活スタイルの変化から、昔ながらの重厚な仏壇よりも、お客様がシンプルでスタイリッシュなものを求める傾向もあるようです。
また、仏壇・仏具におけるネット通販の台頭や、ニトリなどの知名度があり、比較的安価に購入できる他業種から仏壇業界への参入も大きな影響を与えています。
伝統的な仏壇・仏具を取り扱う小売り店は、今後の在り方を検討せざるを得ない展開と言えるでしょう。
はせがわが、株式会社八木研の仏壇仏具事業「現代仏壇」を継承
冒頭でも言及していますが、2024年8月5日にはせがわから、株式会社八木研の保有する仏壇仏具事業を会社分割(吸収分割)し、分割承継会社となる株式会社現代仏壇の株式を取得することが発表されました。
はせがわは、株式会社八木研の仏壇仏具事業とそれに付随するストアブランド、商品ブランド等を継承することになります。
これにより、ブランド力の強化と販売数量の拡大、販売エリアの拡大を見据えているようです。
はせがわが、さらなる事業の拡大を狙っていることがわかります。
株式会社八木研の概要
八木研は、現代仏壇ブランドの仏壇をはじめ、供養品、インテリアなど、さまざまなオリジナルの商品の開発、制作、販売を行っています。
全国に100店舗以上の「ギャラリーメモリア」を展開して、販売・営業をおこなっていますが、そこから得られたお客様の声や要望、ニーズから、オリジナルの商品を生み出しています。
会社名 | 株式会社 八木研 |
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所在地 | 大阪本社 〒537-0011 大阪市東成区東今里2-7-37 |
代表者 | 代表取締役社長 八木龍一 |
設立 | 1948年7月 |
事業内容 | 商品企画・販売(インテリア用品、メモリアルファニチャー) |
公式HP | https://yagiken.co.jp/ |
株式会社はせがわの概要
仏壇・仏具業界が厳しい状況にあるにもかかわらず、はせがわの業績が回復傾向にあるのはなぜなのでしょうか。
まず、はせがわの企業概要を見てみましょう。
会社名 | 株式会社はせがわ |
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所在地 | 東京本社:〒112-0004 東京都文京区後楽1-5-3 後楽国際ビルディング7階 福岡本社:〒812-0026 福岡県福岡市博多区上川端町12-192 はせがわビル |
代表者 | 新貝 三四郎 |
創業 | 1929年9月 |
会社設立 | 1966年12月 |
従業員数 | 1,202名(2024年3月期) |
店舗数 | 西日本地区:25店舗 関東地区:97店舗 東海地区:13店舗 田ノ実(飲食・食品・雑貨)関東地区:1店舗 計:136店舗(2024年5月現在) |
グループ会社 | 株式会社はせがわ美術工芸 |
事業内容 | 仏壇仏具事業 墓石事業 屋内墓苑事業 飲食・食品・雑貨事業 |
公式HP | https://corp.hasegawa.jp/ |
これまでのはせがわの歴史
はせがわは、仏壇仏具の専門店「長谷川仏具店」として創業しました。
その後、事業を拡大し、現在は、墓石事業や屋内墓苑事業なども行っています。
はせがわのこれまでの主な歩みを振り返ってみます。
- 1929年9月 創業社長 長谷川才蔵が福岡県直方市古町に「長谷川仏具店」を創業し仏壇仏具の販売を開始。
- 1966年12月 社名を「株式会社長谷川仏壇店」とし、法人化する。
- 1970年9月 オリジナル金仏壇「明日香」の販売を開始。
- 1976年4月 社名を「株式会社はせがわ」に商号変更。
- 1988年11月 宗教用具関連業界として初となる、福岡証券取引所に株式上場。
- 1997年4月 墓石事業に本格参入。
- 2009年9月 屋内墓苑事業を開始。
- 2015年2月 リビングスタイル1号店としてヴィナシス金町店開店。
6月 カリモク家具株式会社との協同開発仏壇「SOLID BOARD JUST」を本格展開。 - 2017年1月 ショッピングセンター内リビングスタイル型1号店としてイオンタウン黒崎店開店。
3月 こころのアトリエ1号店としてトレッサ横浜店開店。 - 2021年12月 公式ホームページをリニューアル。併せて自社ECサイトをオープン
- 2022年6月 公式アプリをリリース。
- 2024年8月 株式会社現代仏壇の株式を取得
はせがわ・八木研が運営する店舗数
はせがわと八木研(直営店)の店舗数を合算すると、以下のようになります。
2024年8月現在で確認できているはせがわの店舗は、137店舗、八木研は直営店として16店舗となっています。
それぞれの店舗の分布は、次の通りです。
今回の現代仏壇の子会社化の目的のひとつとして、未進出地域に新たな販売拠点を設けることがあげられていました。
これまではせがわが店舗を持っていなかった、東北・北海道、関西圏に進出することがわかります。
なお、八木研は、直営店以外にも、「現代仏壇専門店制度」を採用しており、専門店を合わせると全国に100を超える店舗が存在してます。
近年のはせがわの施策
はせがわが取り入れた施策で、特に注目したいのが、インターネットやDX化でしょう。
仏壇・仏具業界は、比較的高齢のお客様が多いことから、販売方法や広告など保守的になりやすい傾向があります。
そんななか、はせがわが取り入れている大胆な施策は、功を奏しているようです。
インターネット通販とDX化
はせがわは、2021年12月のウェブサイトをリニューアルとともにECサイトをオープンしました。
これにより、お客様は実店舗に赴くことなく、WEBサイトでゆっくりと商品を選び、自宅にいながら購入することが可能になりました。
また、2022年6月には「はせがわ公式アプリ」をリリースしています。
それまで、広告は新聞折込、商品の購入は実店舗が当たり前だった仏壇仏具の購入がアプリで完結できるようになったのは、革新的と言えるでしょう。
アプリ会員になると割引があるほか、供養に関する情報の発信、セールやクーポンが届くなどの特典があります。
アプリは、公開後1年半で14万ダウンロードと堅調な伸びを見せており、お客様ニーズに沿った施策だといえるのではないでしょうか。
最近は、「リアル店舗とECサイトの融合」を目指した店舗を増やしています。店舗に陳列している商品の二次元コードを読み込むことで、「お仏壇のはせがわ ECサイト」で購入が可能です。お客様は、買った商品を持ち帰る必要がなく、家に届けられる仕組みになっています。
はせがわの仏壇ブランドの展開
はせがわは、4つの仏壇ブランドを展開しています。
「LIVE-ing(リビング)コレクション」
最近、はせがわが力を入れていると思われるのが、リビング仏壇です。
2017年に「LIVE-ing(リビング)コレクション」としてブランド化以降、シリーズ総販売累計基数 43,000基を超えています(2024年5月現在)。
カリモク家具などの家具メーカーと共同開発した商品で、リビングに置いて使うことを想定して作られており、クオリティやデザイン性にこだわったスタイリッシュな仏壇になっています。
部屋のインテリアと馴染むデザインで、従来の物よりも小型になっているものが多いようです。
また最近は、サステナブルな取り組みにも注力しています。
一部店舗では、飛騨産業株式会社とはせがわが共同開発したお仏壇「kinoe」(きのえ)を取り扱っています。これまで廃材とされてきた木材を利用した、日本の森林資源を有効活用した商品です。
はせがわのコンセプト店
はせがわが運営する実店舗には、さまざまなテーマを持ったものもあります。
- リビングスタイル店
2015年にリビングスタイル店1号店となる「お仏壇のはせがわヴィナシス金町店」(葛飾区金町)をオープンしました。
「ともに生きる。いつも近くで。」をテーマに日々の暮らしの中で自然と手を合わせることができる、祈りの空間づくりに適した品揃えになっています。
- こころのアトリエ
2017年に1号店をトレッサ横浜(神奈川県横浜市)にオープンした新ブランドがこころのアトリエです。
「祈りのライフスタイルショップ」で、「アイラブユーは、かたちにできる」をテーマとしています。供養のほか、日常のなかに「祈りや願い」取り入れるライフスタイルを提案しています。
話題の新商品「推し壇」
2023年10月に発売し、話題となったのが「推し壇」です。
好きなキャラクターやアイドルなど「推し」のための祈りのステージでありながら、国産ヒノキ材を用い、本格的な神棚や祭壇さながらの仕様となっています。
推し壇の商品としての話題性はもちろん、はせがわの社内で行われたチャレンジ企画の公募によるもので、発案者が入社3年目の若手社員であったことも注目されました。
はせがわの売上高の推移
仏壇・仏具業界が苦戦を強いられるなか、はせがわの売上はどう変化しているのでしょうか。過去7年間を比較してみました。
※2020年~2022年は連結決算
2021年3月期は、コロナウイルス感染症拡大の緊急事態宣言の発出により、およそ1か月間の店舗の休業や葬儀や法事などの規模の縮小化などの影響もあったようです。
一方、2022年3月期以降は、コロナ禍前を超える売り上げを維持し、2023年の売上高は、2014年に出した過去最高の売上高に迫る勢いでした。
今回の現代仏壇の業務譲受により、さらなる売上の向上が予想されます。
まとめ
今回は、仏壇・業界で注目を集めるはせがわの動きについてまとめました。
保守的になりがちな仏壇・仏具業界ですが、お客様のニーズに応え、顧客拡大や売上の向上を目指すためには、新たな一歩を踏み出すことが不可欠だといえるでしょう。
次々と斬新なアイデアを実行していくはせがわは、仏壇・仏具業界のみならず、ビジネス面において多方面から注目されています。
今後も葬研は、はせがわの動きに注目していきたいと思います。