2019年8月20日から22日まで、東京ビッグサイトで開催されている「第5回エンディング産業展」。初日に会場を一巡し、特に強く印象に残ったことをまとめてみた。
エンディング産業展とは
エンディング産業展(ENDEX)とは、葬祭業・墓苑・霊園管理者、寺社仏閣の宗教関係者などが約28,000人も集まるという国内最大規模のエンディング産業専門展示会。出展社数は4年連続で増加しており、会期中取材掲載メディア実績も非常に多い。本年からはBtoB商談を対象とした専門展になったため、一般客が入場できないが、それでも非常に多くの来場者でにぎわっていた。
この注目度の高さにはいくつか理由があるが、そのひとつは、一般的な展示会が出版社や新聞社が主催することが多いのに対し、同展示会を主催しているのは国際展示会の専門会社であるTSO Internationlであることだろう。業界に関わる団体や出版社との幅広いネットワークを構築しているため、一つの媒体の色に偏らない情報発信になっていることや、各産業の展示会で培ったノウハウを生かした運営をしていることが、出展社数や来場者数の多さにつながっているようだ。
また聴講料が無料のセミナーが、3日間で100セッション以上開催されることも、関係者にとっては大きな魅力だ。初日はどのセミナーも予約者でほぼ満席で、立ち見も出る盛況。来場者の意欲と関心の高さがうかがえた。
▲20日に行われたセミナーで講演する「終活ネット」代表の岩崎翔太氏。
▲20日に行われた「次世代僧侶オブイヤー 2018-2019年」では、60名の候補者から選ばれた8名のうちの1人、「観音寺」(愛知県津島市)の長谷川優副住職による「御朱印アート」の実演も披露された。
傾向1…「納骨」から「散骨」へ
子供を持たない夫婦や「おひとり様」層の増加で、「葬儀は必要だが、墓は必要ない」と考える人が増えている。そうした人たちのニーズにこたえた「散骨ビジネス」で特に多いのが樹木層。お寺に「樹木葬にしたい」という相談も多いようで、そうしたノウハウを持たないお寺に運営法を伝授するビジネスや、代理業を行うブースもいくつか見られた。
また海に散骨する「海洋葬」ビジネスも増えている。面白いと思ったのは「 沖縄海洋墓標会」のブース。
単に海に散骨するのではなく、海中溶解する漆喰で墓標を作り、その中に遺骨を納めて海に沈めるのだという。やはりただ散骨するのではなく、もう少しだけ、「お墓」に通じる重みをもたせたいという気持ちがあるのだろう。葬儀業者の企画ではなく、異業種のゴルフ仲間の「こんな散骨をしたい」という雑談からスタートした事業、というのも今日的だ。
銀河ステージでは、遺灰を詰めたカプセルをロケットや人工衛星に搭載し、宇宙に打ち上げる「宇宙葬」を提案。宇宙飛行士に憧れた男性や、「死んだら星になりたい」という女性に人気だという。
傾向2…返礼品のバラエティ化
かつて、葬式の返礼品といえばお茶か海苔が定番だった。だが、葬式に参列することの多い親世代の話によると、「最近の返礼品ではそういうものはあまり見ない」という。最近の返礼品の写真を見せてもらうと確かに、調味料の詰め合わせセットや高級缶詰詰め合わせなど、返礼品というよりもお歳暮のよう。ひとり暮らしのシニアには、おいしくて便利だけど自分ではなかなか買えない、高級フリーズドライ味噌汁詰め合わせが返礼品として大人気だという。
最近では日本茶も海苔もそれほど消費されず、結果的に持て余しがちなこともあるのだろう。またかつては葬式にしんみりした「わび・さび」の雰囲気が求められ、お茶や海苔の返礼品がその気分にフィットしていたが、最近は長生きの末の大往生が多いので、葬式が前ほど暗い雰囲気にならないこともあるのかもしれない。
「宮崎アグリライス販売」のブースでは、華やかな50種類のパッケージから選べる「結い米(ゆいまい)」を展示。コンパクトでオシャレ、どの家でも消費しやすい香典返しとして、人気を集めているという。
▲ハーブ専門店「生活の木」のブースでは、ハーブティーを返礼品として提案。
傾向3…葬儀グッズ、納骨スペースの“女性化”
平均年齢は女性のほうが男性よりも10年ほど長い。とすれば多くの場合、夫が亡くなった後の葬送の手配をするのは女性。そこに着眼し、デザインに華やかな女性目線を投影して成功しているのが、アルミ製の納骨檀の出材・製造販売を行っている「コーワ」だ。
確かに暗くて怖い納骨堂に収まっているより、こうしたキラキラした場所にいるほうが故人も幸せそうだ。実際、お孫さんが喜んでお参りに来ることでも歓迎されているとのこと。
同じように、女性好みの大胆な柄の棺を提案しているのが、お棺メーカーの「日本コフィン」。少人数で見送る家族葬が増え、葬儀の規模は全体的に縮小しているが、「小規模だからといって気持ちのこもらない葬儀であってはいけない」という想いから、規模に関係なく親族の気持ちがこめられるよう、提案したとのこと。「棺は故人にとって最後の家。『最後は美しい家で見送ってあげたい』と願うご家族に喜ばれています」(同社・高橋取締役)。
傾向4…ペット葬儀の進化
家族同様に暮らしていたペットだから、亡くなったら家族と同じように弔いたい、と考える人が増えている。そこで急成長しているのが、ペット火葬ビジネスとペット葬儀ビジネス。
「ペットの終活」という言葉の商標登録を持っているライフテーストでは、ペット葬儀ブームの走りといえる6年前から、ペット用の棺を販売。「天使のリボン」ブランドで、豪華な棺カバーや骨壺カバーを販売している。
また、以前はペットの写真を転写した墓石を販売していたが、それでは細かい毛並みがつぶれて本来の可愛さが出ないという声にこたえて、最近はデザイナーがペンタッチで生前の毛並みまで描いて、精密に仕上げている。
▲前述の「 沖縄海洋墓標会」では、ペットの海洋葬プランも販売している。
“本音”のエンディングの時代?
少子高齢化、おひとり様の増加、女性の有職率の増加など、社会構造の変化につれて、人々の金銭感覚、家族観、死生観も大きく変化している。そのことがそのまま、エンディング産業の変革の中に凝縮されている気がした。葬儀や納骨、供養に関して、しきたりにとらわれない多様性が容認されやすくなってきており、そのために「本当はこうしたい」「本来はこうであるべき」という“本音”が反映されるようになってきているのかもしれない。
「次世代僧侶オブイヤー 2018-2019年」のパフォーマンス部門でえらばれた真言宗豊山派 円東寺 増田俊康住職は、「宗教を身近に感じてもらいたい」とジャグリング・大道芸を披露し、人気を集めている。だが同業者の中には「僧侶が道化をするなんて威厳を損ねる」と非難する声も少なくないという。それに対する増田住職の「ともに笑いあえる僧侶だから、苦しみにも寄り添える」という言葉が心に残った。
▲芸術性の高い仏像作品の販売を手掛ける「MORITA」で人気の猫型の仏像「猫ブッダ」。