葬儀社の売上・利益・業績を調べる場合、上場しているなら決算発表情報・有価証券報告書をみれば分かります。非上場になると帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、売上・利益・業績の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。
今回は株式会社クロトの現状について、決算公告をもとに分析いたします。
決算公告は上場企業の決算資料ほど詳細ではありませんが、事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。
株式会社クロトの概要
同社は葬儀をはじめ、結婚式、冠婚葬祭セレモニー事業、ドレス、ビューティ事業、互助会、会員管理事業等を運営する会社です。
- ブライダル事業:結婚式場、フォトウエディング、ブライダルプロデュース「和モダンウエディングカラー」などを展開
- フューネラル事業:平安会館、文十鳳凰殿などの葬儀会館を展開
- 美容健康事業:レンタルコスチューム、ヘアカラー専門店、婚活ネットなどを展開
葬儀会館は愛媛県に51会館あります。平安会館、文十鳳凰殿、家族葬の結家という名で運営しており、家族葬や団体葬など幅広いニーズに対応可能です。
また、愛知県の直葬・火葬式専門葬儀ブランド「愛知直葬センター」も運営しています。
【名称】株式会社 クロト CLOTHO CO.,LTD
【設立】1949年4月
【代表取締役】下田 将之
【所在地】愛知県刈谷市野田町新上納166番地
【公式サイト】https://www.clotho-corp.jp/
【事業内容】・平安会館
・文十鳳凰殿
・家族葬の結家
・愛知直葬センター
出典:株式会社クロト 会社概要
葬儀社の決算公告とは
決算公告はその会社が健全な経営を行っているかを確認できる計算書類となります。以下に、決算公告についての簡単な概要を記載しました。
株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告と言います。
ただし、大会社については貸借対照表と合わせて損益計算書も公告することが義務付けられています。
次の2つの条件のうちいずれか1つが該当する株式会社は「大会社」という定義になります。
1つ目は資本金が5億円以上、2つ目は貸借対照表の負債の部に計上されている合計額が200億円以上の株式会社のいずれかとなります。
公告の方法は全部で3つあります。
- 官報に掲載
- 日刊新聞紙に掲載
- 3つ目は電子公告(会社のウェブサイトに掲載)
決算公告の簡単な概要については以上になります。
なお上場企業の決算報告書(有価証券報告書)はEDINETで公開されており、誰でも閲覧可能です。
なぜ葬儀社は決算公告をおこなうのか?
葬儀社の大手あるいは長年 葬儀・葬祭事業を営む会社は冠婚葬祭互助会を運営するケースが多いです。
冠婚葬祭互助会とは冠婚葬祭などの行事に備えるために毎月一定の掛金を複数回の支払いで積み立てるサービスとなっております。互助会の会員になることで葬儀や婚礼で割引などの優遇があります。
冠婚葬祭互助会は経済産業大臣の認可を受けた事業者となります。
会員から掛金として支払われた前受金は割賦販売法によって積み立てられた前受金の2分の1を次の何らかの方法で保全することが義務付けられています。
- 法務局に供託する
- 経済産業省の指定する保証会社と供託委託契約を結ぶ
- 銀行や信託会社などの金融機関と供託委託契約を結ぶ
以上の3つの方法のいずれかを選択する必要があります。
また、経済産業省は割賦販売法に基づき互助会事業の経営指導や立入検査等を行っています。
なお現在、冠婚葬祭互助会事業者として登録されている事業者は以下より確認することができます。
経済産業省 前払式特定取引業者(冠婚葬祭互助会)許可事業者一覧
上記のように、冠婚葬祭互助会では政府・行政の認可団体として運営している側面があり、義務である決算公告を発表する事業者が多い状況です。
株式会社クロトの貸借対照表
決算期 | 61期 | 62期 | 63期 | 64期 | 65期 | 66期 | 67期 | |
会計年度 | 2018年6月期 | 2019年6月期 | 2020年6月期 | 2021年6月期 | 2022年6月期 | 2023年6月期 | 2023年7月期 | |
利益剰余金 | 19億6千4百万円 | 23億2千5百万円 | 24億8千0百万円 | 27億2千0百万円 | 31億0千8百万円 | 42億1千7百万円 | 42億6千2百万円 | |
資 産 の 部 | 流動資産 | 12億2千8百万円 | 14億6千8百万円 | 24億7千5百万円 | 24億4千6百万円 | 23億7千6百万円 | 33億5千8百万円 | 33億1千7百万円 |
固定資産 | 27億8千0百万円 | 27億0千4百万円 | 29億5千2百万円 | 31億7千0百万円 | 32億2千8百万円 | 39億7千5百万円 | 41億2千2百万円 | |
有形固定資産 | ||||||||
無形固定資産 | ||||||||
投資その他の資産 | ||||||||
繰延資産 | ||||||||
資産合計 | 40億0千8百万円 | 41億7千3百万円 | 54億2千6百万円 | 56億1千6百万円 | 56億0千4百万円 | 73億3千3百万円 | 74億3千9百万円 | |
負 債 の 部 | 流動負債 | 16億0千8百万円 | 14億4千3百万円 | 15億7千1百万円 | 16億7千0百万円 | 16億1千7百万円 | 18億7千5百万円 | 19億8千0百万円 |
役員賞与引当金 | ||||||||
賞与引当金 | ||||||||
その他 | ||||||||
固定負債 | 3億6千9百万円 | 3億3千7百万円 | 13億0千8百万円 | 11億5千8百万円 | 8億1千1百万円 | 11億7千3百万円 | 11億2千9百万円 | |
退職給付引当金 | ||||||||
雑収入復活引当金 | ||||||||
役員退職慰労引当金 | ||||||||
その他 | ||||||||
負債の部計 | 19億7千7百万円 | 17億8千0百万円 | 28億7千9百万円 | 28億2千8百万円 | 24億2千8百万円 | 30億4千8百万円 | 31億0千9百万円 | |
純 資 産 の 部 | 株主資本 | 20億3千2百万円 | 23億9千3百万円 | 25億4千8百万円 | 27億8千8百万円 | 31億7千6百万円 | 42億8千5百万円 | 43億3千0百万円 |
資本金 | 4千5百万円 | 4千5百万円 | 4千5百万円 | 4千5百万円 | 4千5百万円 | 4千5百万円 | 4千5百万円 | |
資本余剰金 | 2千3百万円 | 2千3百万円 | 2千3百万円 | 2千3百万円 | 2千3百万円 | 2千3百万円 | 2千3百万円 | |
資本準備金 | 2千3百万円 | 2千3百万円 | 2千3百万円 | 2千3百万円 | 2千3百万円 | 2千3百万円 | 2千3百万円 | |
その他資本余剰金 | ||||||||
利益剰余金 | 19億6千4百万円 | 23億2千5百万円 | 24億8千0百万円 | 27億2千0百万円 | 31億0千8百万円 | 42億1千7百万円 | 42億6千2百万円 | |
利益準備金 | 5百万円 | 5百万円 | 5百万円 | 5百万円 | 5百万円 | 5百万円 | 5百万円 | |
特別償却準備金 | ||||||||
その他利益剰余金 | 19億5千9百万円 | 23億2千0百万円 | 24億7千5百万円 | 27億1千5百万円 | 31億0千3百万円 | 42億1千2百万円 | 42億5千7百万円 | |
評価・換算差額等 | ||||||||
その他有価証券評価差額金 | ||||||||
(うち当期純利益) | 3億5千7百万円 | 3億6千4百万円 | 1億5千7百万円 | 2億4千3百万円 | 3億9千0百万円 | 11億1千2百万円 | 4千4百万円 | |
新株予約権 | ||||||||
自己資本 | ||||||||
評価・換算差額等 | ||||||||
その他有価証券評価差額金 | ||||||||
純資産の部計 | 20億3千2百万円 | 23億9千3百万円 | 25億4千8百万円 | 27億8千8百万円 | 31億7千6百万円 | 42億8千5百万円 | 43億3千0百万円 | |
負債・純資産合計 | 40億0千8百万円 | 41億7千3百万円 | 54億2千6百万円 | 56億1千6百万円 | 56億0千4百万円 | 73億3千3百万円 | 74億3千9百万円 |
貸借対照表でまずチェックしたい箇所は純資産の部です。総資産に対する純資産の比率である「自己資本比率」が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
例えば自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされています。自己資本比率が10%を下回っている場合は経営状態は良いとは言えません。
自己資本比率が低い場合は借入金などの負債が多いので資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で、自己資本比率が高い場合は返済義務を有しない資金を大量に抱えているので倒産リスクは低くなると考えられます。
自己資本比率は中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、自己資本比率は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は最低でも20%程度はあると安心です。
逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は最低でも15%程度は欲しいところです。
貸借対照表の左右(運用状況と調達状況)の合計額は必ず一致する
「資産」=「負債」+「純資産」という計算式が成り立つことから、
貸借対照表のことをバランスシート(Balance Sheet)またはビーエス (B/S) と呼ぶこともあります。
株式会社クロトの自己資本比率は58.43%
自己資本比率は「自己資本比率(%)=純資産÷総資産×100」で求めることができます。
株式会社クロトの2023年6月期の自己資本比率を求める式は下記のようになります。
42億8千5百万円(純資産)÷ 73億3千3百万円(総資産)× 100
上記の式から同社の自己資本比率は58.43%(前年比で1.76ポイント増加)となりました。
同業界最大手のベルコは21.96%(2019年3月期)でしたので、クロトの自己資本比率は同業他社と比較してもかなり高い数字だということが分かります。
株式会社クロトの資産と負債について
自己資本比率の次に確認したいのは、資産と負債の額になります。
貸借対照表でいうところの資産は左側に、負債は右側上段に記載があります。
この赤い円の箇所を確認することで、その会社の資産と借金の額を確認できます。
資産合計の推移
貸借対照表の左側に記載されており、「会社の所有する資産」を表します。
資産は下記の3つに構成されています。
・流動資産 = 1年以内に現金化もしくは費用化できる資産
例) 現金、有価証券、商品、製品など
・固定資産 = 長期にわたって会社が保有するものや1年を超えて現金もしくは費用となる資産で有形固定資産や無形固定資産がある。
例)・有形固定資産:建物、土地、車など
・無形固定資産:ソフトウェアなど
・繰延(くりのべ)資産 = 会社設立にかかった費用や社債発行にかかった費用を一括して費用として計上せずに資産として計上し期間内(数年など)に分けて償却するものとなります。
例) 創立費、開業費、開発費など
株式会社クロトの資産合計の推移は以下のようになっています。
株式会社クロトの2023年6月期の資産合計は、73億3千3百万円(前年同期比30.9%増)となっています。
2020年から2022年までの資産合計はほぼ横這いでしたが、2023年には17億2千9百万円増加となりました。
負債合計の推移
貸借対照表の右側上段に記載されており、「返す必要のある他人からの借金」を表します。
負債は下記の2つで構成されています。
・流動負債 = 1年以内に支払い期日を迎える負債となります。
例) 家賃、従業員の給与や賞与、買掛金(サービスや商品の金額を後払いするもの)など
・固定負債 = 1年以内に支払い期日を迎えない負債となりますので、流動負債以外の負債は固定負債になるということです。
例) 従業員の退職金、社債、長期借入金など
株式会社クロトの負債合計の推移は以下のようになっています。
株式会社クロトの2023年6月期における負債合計は30億4千8百万円(前年同期比25.5%増)となっています。
負債合計は2020年以降減少傾向でしたが、2023年に増加しています。株式会社クロトは2023年8月に本社を移転しています。そのような影響があるかもしれません。
財務安定性指標の一つである流動比率(流動資産÷流動負債×100)は、2023年6月期の時点で179.09%(安全ラインは100%以上)となっており、当面の支払い能力について不安は感じられません。
株式会社クロトの純資産について
自己資本比率、資産合計、そして負債合計をみてきましたが、最後に確認したいのは「純資産」となります。
純資産は貸借対照表でいうところの右側下段に記載があります。
純資産は資産(現金、土地、建物など)から負債(借金)を差し引いたものです。
この赤い丸の箇所を確認することでその会社の純資産を確認できます。
株式会社クロトの純資産合計、当期純利益、利益剰余金の推移はそれぞれ以下のようになっています。(各用語についても分かりやすく解説しています)
純資産合計の推移
会社の所有する現金や建物などの資産から負債(借金)を差し引いたものとなります。純資産の割合が高ければ財務健全性が高いと考えます。
一方で、純資産がマイナスの状態を債務超過といい、2期連続で債務超過の状態が続いた場合、東証上場の廃止基準に抵触することがあります。
株式会社クロトの2023年6月期における純資産合計は、前年同時期よりも11億9百万円(前年同期比34.9%増)となっています。
過去5年間における株式会社の純資産合計は増加しています。
新型コロナの影響で債務超過に陥る企業も多い中、2020年以降も純資産合計を伸ばしていたといえます。
当期純利益の推移
会社が1年間で得た全収益から法人税や住民税そして費用を差し引いたものが当期純利益となります。
この当期純利益がマイナスとなると当期純損失となります。
当期純利益の額をみることで、その会社の収益性がどのくらいなのか判断できる指標になります。
株式会社クロトの2023年6月期における当期純利益は11億1千2百万円(前年同期比184.8%増)となっています。
新型コロナの影響が大きかったとみられる2020年に当期純利益は減少したものの2021年以降は増加傾向です。
クロトの利益剰余金の推移
利益剰余金とは簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずにコツコツと社内で貯めたお金です。正確な会計用語ではないですが利益剰余金のことを内部留保とも言います。
内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。
利益剰余金は貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。
内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で経営が赤字になった際に従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため企業が生き残るための重要な資金源となります。
株式会社クロトの場合は以下のように推移しております。
株式会社クロトの過去3年間の利益剰余金成長率の推移は2023年6月期は42億1千7百万円(前年比成長率は35.7%)、2022年6月期は31億0千8百万円(前年比成長率は14.3%)、2021年6月期は27億2千万円(前年比成長率は9.7%)となっています。
利益剰余金の成長率は年々確実に積みあがっていることが分かります。
株式会社クロトのまとめ
今回は株式会社クロトの決算公告の分析を行っている中で、純資産合計と当期純利益が同業他社と比較しても高い数字となっていることがわかりました。
新型コロナによる影響が大きかったとされる葬儀業界ですが、貸借対照表をみる限り株式会社クロトの財務状況は安定していたようです。2024年の貸借対照表の内容が更新され次第、また情報を共有させて頂ければと思っています。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。より詳しい情報を知りたい方はお気軽にお問合せ下さい。
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