葬儀後のご遺族様のケアとして、相続関連の相談に応じる葬儀社様が増えています。これは、葬儀業界が単なる葬儀の執行にとどまらず、ご遺族様に寄り添うトータルサポートへとサービスの幅を広げている表れといえるでしょう。
ご遺族様が直面する相続の問題の中でも、「自分は相続税を払わなければならないのか」という疑問は、多くの方が抱える共通の不安です。結論から言うと、故人様の財産を取得した人は全員相続税の課税対象となるのですが、相続する財産の金額によっては相続税の支払いを免除されることもあります。
ご遺族様と接する機会がある方は、このような相続税に関する基礎的な知識を持っておくことが望ましいと考えられます。しかし、専門的で複雑な印象が強い相続税分野について、どこから学びはじめればよいのか戸惑われる方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、「相続税は誰が対象になるのか」という疑問について、分かりやすく解説いたします。ご遺族様との信頼関係を築く上で、また専門家への橋渡しをスムーズに行う上でも、必ず役立つはずです。
相続税の課税対象になる2つの条件

まずは、相続税の課税対象者となる条件を整理しましょう。
相続税の課税対象者になるのは、以下の2点を両方満たしている方です。
それぞれ詳しく解説していきます。
条件1:故人様の財産を受け取った
相続税が課税される条件の1つ目は、故人様の財産を受け取ったことです。これは一見当たり前のように思えますが、様々なケースがあるので以下で解説します。
相続や遺贈により財産を受け取った人は、原則として全員が相続税の対象となる可能性があります。ここでいう「財産を受け取った人」には、民法で決められている法定相続人だけでなく、遺言により財産を受け取る受遺者や、相続人ではないけれど様々な理由で財産を受け取った人も含まれます。
財産を受け取った人の種類については、のちほど詳しく解説するためそのまま読み進めてください。
一方で、注意しなければならないのは、法定相続人であっても、実際に財産を受け取らなければ、相続税の対象とはならないという点です。例えば、相続放棄をした場合や、相続人同士で話し合った結果財産を受け取らないことになった場合は、たとえ法定相続人であっても、相続税を課されることはありません。
このように、相続税の対象となるかどうかを判断するためには、その人が実際に財産を受け取ったかどうかを確認することがポイントです。
条件2:相続財産の総額が基礎控除額を超えている
相続税が課税される条件の2つ目は、相続財産の総額が基礎控除額を超えていることです。つまり、財産を受け取った人であっても、相続財産の総額が基礎控除額以下であれば、相続税を支払う必要はありません。
基礎控除とは、相続税の非課税枠です。基礎控除は相続人の生活基盤を守る目的で設けられています。例えば、故人様が住んでいた自宅を相続したときに相続税がかかってしまうと、相続人の生活が困難になる可能性があります。そのため、一定額までは相続税を課さない仕組みが作られているのです。
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という計算式で算出します。ここで注意していただきたいのは、法定相続人の数には相続放棄をした人も含まれるということです。また、相続放棄をした人がいても基礎控除額は減少しません。これは、誰かが相続放棄をしたことで、他の相続人の税負担が増えることを防ぐための配慮です。
具体例を見てみましょう。例えば、配偶者と子供2人が相続人の場合、基礎控除額は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」となります。この場合、相続財産の総額が4,800万円を超えていれば相続税の課税対象となる可能性があります。
相続で財産を受け取る人の種類

「故人様の財産を受け取った人」と一口に言っても、故人様との関係や取得方法によって以下の5種類に分けられます。
それぞれ詳しく解説していきます。
1. 法定相続人
法定相続人とは、民法によって定められた相続権を持つ人のことです。故人様の親族の中から、一定の順序に従って決まります。
| 相続人 | 相続順位 |
|---|---|
| 配偶者 | 常に法定相続人 |
| 子ども | 第1順位 |
| 父母、祖父母 | 第2順位 |
| 兄弟姉妹 | 第3順位 |
まず、故人様に配偶者がいる場合は、必ず法定相続人となります。次に、その他の親族については第1順位から第3順位までの順序が定められています。
第1順位は故人様の子どもです。子どもが既に亡くなっている場合は、その子(故人様からみた孫)が法定相続人となります。
第2順位は故人様の直系尊属、つまり両親や祖父母です。
第3順位は故人様の兄弟姉妹であり、兄弟姉妹が既に亡くなっている場合は、その子(故人様からみた甥や姪)が相続人となります。
この順位については、上位の順位の相続人がいる場合、下位の順位の人は相続人とはなりません。例えば、故人様に子どもがいる場合、第2順位の両親や第3順位の兄弟姉妹は法定相続人とはなりません。逆に、第1順位の子がいない場合は、第2順位の両親が法定相続人となり、両親もいない場合は、第3順位の兄弟姉妹が法定相続人となります。
なお、相続人と法定相続人は同じ意味で使用されることが多く、多くの記事や書籍でも「相続人」と表記されています。
2. 代襲相続人
代襲相続人とは、本来法定相続人になるはずだった人が既に亡くなっている場合に、その人に代わって法定相続人となる人のことです。
代わりに法定相続人になる人を代襲相続人というため、「代襲相続人=法定相続人」という認識で間違いありません。
具体的な例で説明すると、故人様の子どもが故人様よりも先に亡くなっていた場合、その子どもに子(故人様からみた孫)がいれば、その孫が代襲相続人として相続権を受け継ぐことになります。
代襲相続は第1順位の子どもだけでなく、第3順位の兄弟姉妹についても適用されます。つまり、故人様の兄弟姉妹が既に亡くなっている場合、その子(故人様からみた甥や姪)も代襲相続人となることができます。ただし、第2順位の父母や祖父母については、代襲相続の制度は適用されません。
なお、本来の法定相続人が相続欠格または相続廃除となった場合も、代襲相続の制度が適用されます。
つまり、故人様の子どもが相続欠格または相続廃除となった場合は、その子(故人様からみた孫)が代襲相続人として相続権を受け継ぎます。あくまでも相続権を失うのは不正行為を行った本人のみというわけです。
3. 受遺者
受遺者とは、遺言書によって財産を受け取る人のことです。遺言書による財産の分与を「遺贈」と呼び、この遺贈を受ける人や法人が受遺者となります。
ここで重要なのは、受遺者という言葉は一般的に、「法定相続人以外の人が遺言によって財産を受け取る場合」に使用されるという点です。例えば、被相続人が生前お世話になった方や、親しい友人、支援したい団体などに財産を遺贈する場合、それらの人や団体が受遺者となります。
なお、法定相続人に対して遺言書で財産を残す場合は、通常「受遺者」とは呼びません。これは同じ遺言書による財産の分与であっても、法定相続人への遺贈は本来の相続の範囲内での財産分与と考えられるためです。受遺者でよくあるケースとしては、故人様が遺言書で孫に財産を譲ることが挙げられます。前述した代襲相続人と間違いやすいので整理しておきましょう。
故人様の孫が財産を取得する場合
| 故人様の子ども | 故人様の孫 |
|---|---|
| 生きていて法定相続人 | 受遺者 |
| 既に死亡している | 代襲相続人 |
| 相続欠格または相続廃除 | 代襲相続人 |
4. 特別縁故者
特別縁故者とは、法定相続人ではないものの、故人様と特別に親しい関係にあった人のことです。例えば、内縁の配偶者や、故人様の生前の介護を長年担当していた人などが該当します。
特別縁故者が財産を受け取れるのは、以下の全ての条件が揃った場合のみです。
- 法定相続人が誰もいない(全員が相続放棄した場合も含む)
- 遺言書がない
- 家庭裁判所に「特別縁故者への財産分与の申し立て」を行い、認められる
つまり、一人でも法定相続人がいる場合、その人が相続放棄をしない限り、特別縁故者は財産を受け取ることができません。もし故人様が特別縁故者に財産を譲ろうと、生前に遺言書を作成していたとすると、その人は特別縁故者ではなく「受遺者」として財産を受け取ることになります。
このように、特別縁故者として財産を取得するシチュエーションは、極めて限定的といえます。
5. 特別寄与者
特別寄与者とは、法定相続人ではないものの、故人様のために大きく貢献した親族のことです。
具体例には、長男の妻が故人様の介護を長年担当していたケースなどです。長男の妻は法定相続人ではありませんが、毎日の介護で故人様を支えてきたという貢献が認められます。このような特別寄与者は、法定相続人に対して「特別寄与料」というお金を請求することができます。長年の介護などの苦労が、金銭という形で報われる仕組みなのです。
この制度は2019年に新しく作られました。それまでは、義理の父母の介護をしていても、その苦労が相続の場面で評価されにくいというような問題がありました。そこで、こうした日々の献身的な努力をきちんと評価できるよう、特別寄与者という制度が設けられたのです。
【注意】受け取った人によっては相続税が加算される
財産を受け取った人によっては、相続税が通常の金額から2割加算される場合があります。
| 相続税が2割加算されない | ・配偶者(法定相続人)・父母(法定相続人)・子ども(法定相続人)・孫(代襲相続人) |
| 相続税が2割加算される | ・兄弟姉妹(法定相続人)・祖父母(法定相続人)・甥・姪(代襲相続人)・受遺者・特別寄与者・特別縁故者 |
一定の相続人の相続税が2割加算になる理由は、相続税の負担のバランスを保つためです。
まず1つ目の理由として、配偶者や子どもなどの近い親族は、故人様の財産形成に協力したり、日々の生活を支えたりした可能性が高いと考えられます。一方、兄弟姉妹などそれ以外の方が財産を受け取るのは、ある意味で「たまたま」という要素が強いため、税負担を重くしているのです。
2つ目の理由は、世代をスキップして財産を渡すことへの対策です。例えば、子供を飛ばして孫に財産を渡すと、本来子供の代で発生するはずだった相続税を免れることができてしまいます。これを防ぐために、代襲相続人以外の孫への相続には2割加算が適用されるのです。
相続税の課税対象者についてご遺族様が迷いやすいポイント

相続税の課税についてご遺族様が迷いやすいポイントを解説していきます。実際に以下のような質問をご遺族様から受ける機会もあるかと思いますので、しっかり確認しておきましょう。
相続税はそれぞれ払う?まとめて払える?
相続税の支払いは基本的に、相続人それぞれが自分の受け取った財産に応じて、個別に相続税を納めることになっています。例えば、父の遺産を母と兄と弟の3人で相続した場合、3人がそれぞれ自分の分の相続税を税務署に納めることが原則です。
ただし、家族間の話し合いで「母の分も弟が立て替えて払う」というように、一人が複数人分をまとめて納税することもできます。なお、まとめて払った場合は、後で必ず精算する必要があります。例えば、弟が母の分を立て替えて払ったまま、母から後で返してもらわないでいると、「弟が母の税金を肩代わりした」つまり「弟が母にお金を贈った」とみなされ、贈与税が課されるおそれがあるためです。
また、相続税には「連帯納付義務」という特別なルールがあります。これは、相続人の誰かが相続税を払っていない場合、他の相続人に対して税務署から納税の請求がくることがある、というルールです。例えば、兄が自分の相続税を払っていない場合、弟や母に対して、税務署から「兄の分の税金も払ってください」と請求が来る可能性があるのです。
ですから、ご遺族様には「自分の分の相続税を払えば終わり」ではないことをお伝えすることが大切です。他の相続人の方々もきちんと納税できているか、家族間でよく確認し合うことをおすすめしましょう。
相続税は相続した遺産の中から払える?
相続した財産を相続税の支払いに充てられるかどうかは、相続した財産や手続きの進行度によって変わります。
まず、故人様の預貯金を相続した場合は、比較的その預貯金から相続税を支払いやすいといえます。そのためには以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 相続人同士で遺産の分け方について話し合いが済んでいること(遺産分割協議の完了)
- 相続する預貯金の名義変更手続きが完了していること
- 相続税の納付期限までに上記2つが終了していること
一方、預貯金以外の財産については、相続税の納付期限までに現金化できるかどうかがポイントになります。例えば不動産の場合、売却して現金化するまでに時間がかかるため、相続税の納付期限に間に合わないことが多いのです。株式や貴金属なども同様で、これらの財産は売却して現金にしない限り、相続税の支払いには使えません。
このように、相続した財産から相続税を支払えるかどうかは、相続した財産の種類や手続きの進み具合によって変わってきます。もしご遺族様が相続税の支払いに不安を感じているのなら、相続した財産から支払うこともできる旨や、預貯金であれば支払いに充てやすい旨をお伝えしましょう。
税理士や弁護士などの専門家に報酬を支払う人は誰?
相続税に関して税理士や弁護士などの専門家に相談した場合、その報酬は誰が払ってもかまいません。相続人の中から一人が代表してまとめて支払っても良いですし、相続人全員で均等に負担しても問題ありません。さらに、相続人以外の人(相続人の配偶者など)が支払うことも可能です。
ご遺族様が専門家への相談を検討している場合は、注意点として以下をお伝えしましょう。
- 事前にだれが負担するかを決めておく
- 初回の相談で、報酬の総額と支払うタイミングを確認する

相続税はいつまでに支払う?
相続税の納付期限は「故人様が亡くなった日の翌日から10か月以内」と決められています。相続税の申告も同じ期限です。
具体的な例で説明しますと、1月1日に故人様が亡くなった場合、その年の11月1日が申告と納付の期限です。なお、期限の日が土曜日や日曜日、祝日と重なった場合は、その次の平日が期限となります。例えば、納付期限の11月1日が土曜日の場合は、11月3日(月曜日)が期限です。
相続税はどこで支払う?
金融機関や税務署の窓口での納付が一般的な方法です。特に税務署の窓口では、不明な点があればその場で質問できるため、初めての方でも安心して手続きができるでしょう。
また、最近では便利な納付方法も増えています。例えば、税額が30万円以下の場合はコンビニエンスストアでの納付が可能です。自宅からの納付を希望される方は、クレジットカード払い(1,000万円未満)も可能です。
さらに、2022年12月からは、スマートフォンの決済アプリを使った納付も可能になりました。ただし、決済アプリでの納付は「国税スマートフォン決済専用サイト」からのみ手続きができます。金融機関や税務署、コンビニの窓口で決済アプリを利用できるわけではないので注意が必要です。
相続税が支払えないときはどうする?
前述したように、現金化に時間がかかる財産を多く相続した場合は、相続税を遺産から支払うことが難しいです。そのため、手持ちのお金だけでは相続税が支払えないという状況になってしまうこともあるでしょう。
そのような場合には、以下のような解決策があります。
- 相続税の延納制度を利用する
- 相続税の物納制度を利用する
- 金融機関などから資金調達する
- 相続放棄する
相続税の延納制度を利用する
まず、分割払い(延納制度)という方法があります。これは、相続税を何回かに分けて支払う制度です。ただし税務署の許可が必要で、納付期限までに申請を行う必要があります。
相続税の物納制度を利用する
次に、物納制度という方法があります。これは、現金の代わりに相続した不動産などで納税する制度です。ただし、こちらも納付期限までに税務署の許可を得る必要があります。物納が認められるのは、延納によっても金銭で納付することが困難な場合に限られます。
金融機関などから資金調達する
さらに、金融機関からの借り入れで対応することも可能です。相続した不動産を担保にして融資を受けるなどの方法があります。
相続放棄する
相続税の支払いが難しい場合の極端な選択として、相続放棄という方法もあります。ただし、これは相続財産を一切受け取れなくなる上、期限(亡くなった日から3か月以内)もありますので、慎重な検討が必要です。ご遺族様の中には、「相続税を支払えないのなら相続放棄するしかない」とお考えの方もいらっしゃるので、上記のような様々な方法があることをお伝えしましょう。
まとめ
相続税の対象となるのは、「故人様の財産を受け取った人」で、かつ「その財産の総額が基礎控除額を超えている」場合です。また、兄弟姉妹や祖父母など、お受け取りになる方によっては通常より2割高い相続税が課されることもあります。
ご遺族様はまず、自分には相続税が課される可能性があるのかを知りたがっていると考えられるので、この記事で解説した2つの条件をお伝えしましょう。
相続税の基礎知識を身につけることで、葬儀社の皆様はご遺族様の不安に寄り添い、より信頼されるアフターサポートを提供することができます。



