相続登記には費用がかかるうえ、さまざまな手続きも必要となるため、不動産を相続した場合でも、これまでは相続登記をしない方が少なくありませんでした。
しかし、令和6年4月1日から相続登記が義務化されることになり、いよいよ相続登記をせずに放置することができなくなります。
相続した不動産の登記申請については、すべてを相続人自身がおこなうことも可能ですが、手続きの進め方が分からない場合は司法書士に依頼する方法が一般的です。
とはいえ、さほど複雑でない案件であっても一定に費用負担が発生しますので、依頼をためらう方も多いようです。
「相続不動産の状況が、司法書士に依頼するほど複雑でない」
「相続登記をしなければならないなら、安く簡単に済ませたい。」
そういったニーズに応えるべく、近時、相続登記オンラインサービスが登場してきました。
ここでは相続登記の手続きについて概要を解説した上で、相続登記オンラインサービスの費用、内容などについて比較・解説していきます。
近年の葬儀業界では、利用者様へのアフターサービスとして、相続関連サービスを取り扱うケースが増加傾向にあるようです。
中でも相続不動産の登記に関する知識は、今後の業務に役立つ可能性もありますので、ぜひ最後までご覧ください。
相続登記オンラインサービスが誕生した背景
相続登記の義務化
近時、相続登記をしないまま放置され、登記簿をみても所有者が不明な土地が増加し、深刻な社会問題になっています。
そこで、所有者が不明な土地を減らそうと、令和6年4月1日より、相続登記が義務づけられることになりました。
具体的には、相続により不動産を取得したことを知ったときから3年内に相続登記をしないと10万円以下の過料の対象になります。
また、令和6年4月1日以前に相続した不動産も、登記が義務づけられます。
相続登記手続の流れ
では、どのような流れで相続登記をするのかを見てみましょう。ざっと見ても、かなりの工程があることがわかります。
相続登記を司法書士に依頼すると・・・
相続登記をするには、専門知識がいるほか、煩雑なことが少なくないことから、司法書士に依頼するのが一般的です。
しかし、当然ながら一定の費用負担が求められます。
【司法書士の報酬例】
土地1筆及び建物1棟(固定資産評価額の合計1,000万円)の所有権移転登記手続をする場合
また、司法書士の報酬以外にも、次のような費用が必要になります。
- 登録免許税 4万円(固定資産税評価額1,000万円の場合)
- 戸籍謄本等の取得費用 1万円~2万円程度
※送料・定額小為替手数料を含む。
全ての費用を合計すると、相続登記には、比較的単純なケースでも10万円以上かかるといったところでしょうか。
相続人の人数や不動産の数が増えれば、さらに費用がかかりますし、不動産価格に応じて司法書士報酬が設定されている場合もあります。
相続登記オンラインサービスとは
そこで、相続登記を安く簡単にできるようにしたのが相続登記オンラインサービスです。
相続登記に必要な手続きのうち、定型的な申請書をオンラインで自動作成するなどの合理化により、コスト低減を実現しています。
ただし、必要な全ての手続きを、スマホ1台で完結できるというわけではありません。また、サービスの具体的な内容や対応範囲もさまざまです。
相続登記オンラインサービス一覧
では、実際に相続登記オンラインサービスをいくつか見てみましょう。
料金体系 | 必要書類の代行取得 | 相談 | 不動産の調査 | 法務局への申請 | |
better 相続登記 | 定額制19,800円(税込) | ✖ | ✖ | ✖ | ✖ |
相続登記ラボ | 定額制54,780円(税込) | 〇実費必要 | 〇 | 不明 | 〇 |
相続登記あんしんネット | 35,800円~ | 不足分の代行取得あり(別料金) | 〇 | 〇 | 〇 |
ネットでかんたん相続登記 | 定額制50,000円(税込) | 〇実費必要 | △ | 〇 | ✖ |
そうぞくドットコム不動産 | 定額制通常価格102,000円特別価格93,500円(税込)※2023年12月現在 | 〇実費不要 | 不明 | 不明 | 〇 |
better相続登記
https://jp-better.com/lp/touki/
定額 19,800円(税込)
〇サービスのポイント
- 相続する不動産の名義変更をかんたん、格安にできるWebサービス
- 相続人の人数、不動産の数にかかわらない定額制
- 相続不動産の登記申請を自分でおこないたい方向けのサポートサービス
〇サービス内容
- 必要書類のリストアップ
- 遺産分割協議書の自動作成
- 登記申請書の自動作成
- 登録免許税の自動計算
- 申請書提出時の委任状の自動作成
〇注意点
- 自分で戸籍謄本等の必要書類を取得する必要がある。
- 自分で申請書と必要書類を綴じるなどして申請書を完成させて、法務局に申請する必要がある。
- 法務局からの問合せがあった場合は、自分で対応する必要がある。
- 預貯金など不動産以外の相続財産については、別に遺産分割協議書を作成する必要がある。
- 自動作成できる不動産の分割の仕方は、単純なケースに限定されている。
- 相続開始後に、さらに相続人が亡くなっている数次相続については、一部対応している。
- 最初にサービスの利用が可能かどうかの無料診断がある。
〇提供者
【名称】辻・本郷ITコンサルティング株式会社
【設立】2002年4月1日
【所在地】東京都渋谷区代々木1-36-4 全理連ビル5F
【事業内容】ITに係るコンサルティング、ソフトウェア・ハードウェア販売、経理労務アウトソーシング、相続及び会計事務所向けWEBサービス開発・運営
【公式HP】https://ht-itc.jp/
相続登記ラボ
https://legalestate-kazokushintaku.com/labo-registration/
定額制 49,800円(税込54,780円)
〇サービスのポイント
- 相続で発生した自宅や土地などの不動産の名義変更(相続登記)を自宅からできるサービス
- 相続人の人数にかかわらない定額制
〇サービス内容
- 行政書士や司法書士による無料相談
- 必要な書類の代行取得
- 遺産分割協議書などの自動作成
- 登記申請を司法書士にやってもらえる。
〇注意点
- 亡くなった方が曾祖父、曾祖母、兄弟の場合は、対象外
- 複数の不動産を、別々の法務局に申請する場合は、申請する法務局ごとに54,780円(税込)必要。
- 定額制でどこまで複雑な案件まで対応しているかは、不明
- 戸籍謄本、郵送代などの必要書類の取得費用などの実費は、別途必要
- 預貯金など不動産以外の相続財産については、別に遺産分割協議書を作成する必要がある。
〇提供者
【名称】司法書士・行政書士事務所リーガルエステート
【所在地(横浜本店)】横浜市西区南幸1-1-1 JR横浜タワー12階STATION SWITCH
【公式HP】https://legalestate-kazokushintaku.com/
相続登記あんしんネット
https://www.souzokutouki-anshin.net/
35,800円~
〇サービスのポイント
不動産の相続登記(相続による名義変更)のお手続を《 ネットならではの低料金で・簡単に・安心して 》ご自宅からお申し込みが出来るサービス
〇サービス内容
- 手続に関する無料相談
- 相続不動産(土地建物)の事前調査
- 相続関係説明図・遺産分割協議書の作成
- 登記申請に必要な書類をすべて司法書士が作成
〇注意点
- 戸籍謄本等については、原則として、自分で収集する必要がある。
- 親子間の相続に限定している。
- 代襲相続、数次相続が発生していない、相続人が海外にいないなどの条件がある。
- 定額制ではない。
- 遺産分割協議書が、不動産以外も対象としているかは不明
〇提供者
【名称】たぐち司法書士・行政書士事務所
【所在地】北海道余市郡余市町黒川町620番地23
【公式HP】https://www.taguchi-office.info/
ネットでかんたん相続登記
一律50,000円(税込)
〇サービスのポイント
自宅からインターネットでお申込み、Webシステム不動産の名義変更に必要な書類を自動作成するサービス
〇サービス内容
- 必要書類の収集・委任状等の作成の代行(行政書士)
- 申請書の自動作成
- 法定相続情報一覧図の作成
- 申請書類を押印すれば完成する状態にして、自宅などに郵送してもらえる。
〇注意点
- 登記の申請書類は、自分で法務局に提出する必要がある。
- 法務局から問い合わせがあった場合は、自分で対応する必要がある。
- 所有者が亡くなって5年以上経過している場合、相続人に未成年者・認知症の方がいる場合、自筆の遺言書が見つかった場合などは、対象外
〇提供者
【名称】一般社団法人法務アシスト
【所在地】大分県大分市長浜町2-12-10昭栄ビル2階
【公式HP】https://legal-assist.jp/lp/
そうぞくドットコム不動産
通常価格102,000円のところ
特別価格85,000 円(税込93,500円)
〇サービスのポイント
一律料金でオンライン完結する不動産の名義変更 サービス
〇サービス内容
- 不動産の件数・価格、相続人の人数を問わない定額料金
- 戸籍謄本などの代行取得
- 必要書類の取得費・郵送費も不要
- 質問に回答することで申請書を自動生成
- 法定相続情報一覧図の作成
- 法務局に対する申請書の提出
- 遺言、数次相続、海外在住の相続人、共有名義の登記なども幅広く対応
〇注意点
- ケースによっては、司法書士に依頼する方が安価になる可能性がある
- 不動産の分割方法などについて、相続人間ですでに合意ができていることが必要
- 取得した書類から、知らない相続人が判明するなど新たな事情が生じた場合の対応は不明
〇提供者
【名称】株式会社AGE technologies
【設立】2018年3月20日
【所在地】東京都新宿区大久保1-2-1 天翔東新宿ビル901
【公式HP】https://age-technologies.co.jp/
相続登記のオンラインサービスの限界
いずれのサービスも対応に幅はあるものの、すべてのケースに対応しているわけではありません。
また、サービスの対象は相続登記に限定していることから、相続登記とともに氏名変更登記、抵当権抹消登記、配偶者居住権設定登記が必要になった場合は、別途、対応が必要になります。
遺産分割協議書についても、不動産に関するものに限定されるため、預貯金等については、別途、遺産分割協議書を作成する必要があります。
相続登記のオンライン申請と勘違い?
最後に「相続登記のオンライン申請」について触れておきましょう。
言葉は似ていますが、これは法務局に「登記申請」をオンラインでするというもので、「相続登記オンラインサービス」ではありません。
相続登記オンラインサービスを利用しようと思っていたのに、誤って「相続登記のオンライン申請」のサイトにいってしまうと、専用ソフトのインストール、電子証明書の取得、ネットバンキングによる電子納付など、多数の作業が必要になってしまいます。
おわりに
ここでは5つの相続登記オンラインサービスについて見てきました。
サービス内容は、提供者によって様々であり、相続人の状況も千差万別です。提供されているサービスに当てはまる方にとっては、便利でお得なサービスといえるでしょう。
今後、さらにサービスの幅が広がることで、利用者が増えることも予想されます。
ただし、1つ言えることは、相続登記オンラインサービスを利用するには、相続人が誰であるかが明確で、相続人全員が手続きに協力できることが大前提になります。
葬儀関連事業に従事される方におかれましては、相続登記オンラインサービスの概要を知っておくことで、ご遺族様や参列される方から寄せられるご相続の相談にも、スムーズ対応できることでしょう。
葬研には相続について解説した記事が多数ありますので、ぜひご覧になって業務にお役立ていただければ幸いです。