葬儀業界に限ったことではありませんが、現在の日本では少子高齢化や多死社会の到来など、各業界とも環境変化への対応を迫られています。
各企業でも課題解決に向けて取り組んでいますが、時には関係各社の連携が必要になるような、大きな問題に直面することもあるでしょう。
業界全体に関わるような大きな問題に対処すべく、関連企業の取りまとめ役を果たすのが業界団体です。
業界団体の多くは、特定業種に属する企業や経営者が参加し、業界全体の発展などを目的として設立されますが、葬儀業界でもいくつかの業界団体が活動しています。
そこで本記事では、現在の葬儀業界における課題や、葬祭関連事業者の業界団体が果たしている役割について解説します。
葬儀業界が抱える課題と必要となる取り組み
葬儀業界は、人口構造の変遷(へんせん)や消費者ニーズの変化、インターネットの普及など、さまざまな要素に起因する問題が山積している状況です。
しかし、従業員10名以下の中小企業が多くを占める葬儀業界では、葬儀社単体で対処できる範囲は限られます。
こうした状況を打開すべく、各業界団体も問題解消に取り組んでいるようです。
葬儀規模の縮小と簡略化
近年では、少人数で営む「家族葬」という言葉も一般化し、冠婚葬祭互助会や大手葬儀社でも、小規模斎場の開設を進めているようです。
さらに、宗教的な葬送儀礼を排し、火葬のみをおこなう直葬を選択する方も、徐々に増えつつあるといわれています。
こうした市場動向の背景には、核家族化による世代間の関係性希薄化や、経済の停滞による生活困窮なども要因にあげられますが、もっとも影響を与えているのは、ネット集客に特化した葬儀ポータルサイトの存在といわれています。
超高齢化社会を迎えた日本では、亡くなる方の友人・知人も高齢化していますので、会葬者が減少するのはやむを得ないことかもしれません。
しかし簡略化された葬儀ばかりになった場合、時代に合わせて変化しつつも長く受け継がれてきた、日本固有の葬送文化が失われてしまう可能性もあります。
こうした事態を防ぐためには、葬送儀礼の持つ意味や、大切な方を弔うことの重要性を、業界一丸となって消費者に訴える必要があるでしょう。
消費者の信頼獲得
業界団体の中には「葬祭サービスガイドライン」を設けているところもあり、加盟社がガイドラインに沿って業務をおこなうことで、消費者の信頼を得られると考えています。
また加盟社への研修やセミナーをおこなっている団体も多く、こうした取り組みが業務の質を向上させ消費者の満足と信頼を得られるでしょう。
葬儀を検討する際、消費者にとって急な場合であったり精神的に辛いこともあり、つい葬儀者側にまかせてしまうこともあるかもしれません。
消費者があとで不満を持つことがないように、明瞭な料金形態やわかりやすいサービス品目の提示が必要です。
また事前の見積金額と、葬儀後の請求金額が異なることのないようにしっかりとした説明と確認も必要になってきます。
こうした取り組みにより、消費者の信頼獲得につながるものと思われます。
人材の確保・育成
近年有効求人倍率が上昇し、いわゆる売り手市場が続くなか、葬儀業界は採用不振で人材不足です。
葬儀業界は24時間対応が普通であり、様々なしきたりや決まりも多く複雑で不人気な職種といえます。
それに加えて求職者のWeb検索が増加し、適応できていない企業は不利な状況です。
コロナ禍が落ち着いたことも後押しをし、葬儀施行件数は増加しています。
人材の確保・育成のためには葬祭業の重要性や、やりがいについて発信し認知されることが必要でしょう。
またどの職業でもいえることですが、働き方改革を推進し社員にとって働きやすい職場にすることも重要です。
葬儀業界の地位向上
全日本葬祭業協同組合連合会(全葬連)、および全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)の2団体によって設立されている「葬祭ディレクター技能審査協会」は、「葬祭ディレクター(1級、2級)」の認定機関であり、葬祭業界に勤務する方々の知識や技能を高めるだけではなく、葬儀業界で働く方の地位向上に役立っています。
葬儀業界は葬儀ポータルサイトの出現で、低価格化による葬儀社間の競争も激しくなっています。
マーケティングをしっかりとおこない、葬儀ポータル経由の葬儀よりも自社集客を増やしていくことが、ひいては葬儀業界の地位向上にもつながるのではないでしょうか。
葬祭関連の業界団体が担う役割
葬儀業界において山積している問題を解決するには、各葬儀社だけでは難しいものがあります。
団体に加盟することで最新の情報を得て、葬祭のサービス品質向上に努め消費者の信頼を得ることで事業拡大につながり、葬儀業界が発展していくことになるでしょう。
また団体では大規模災害などが発生した際の支援や、葬送文化の継承にも力を入れています。
葬儀業界全体の発展
業界団体の中には業界の課題である、環境問題や社員の働き方改革などへの取り組みを進めて、葬儀業界の発展を目的としているところもあります。
葬祭業界の法令整備や改善点をくみとり、政府や関係各所に働きかけて業界の発展をめざします。
業界全体のサービス品質向上
業界団体が加盟社に対し各種の講習会や研修会をおこない、葬祭のサービス品質向上に努めています。
加盟社どうしの交流をおこない、業界のトレンドや消費者ニーズを的確に把握することは、業界全体のサービス品質向上を果たすために必要です。全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)が関連する資格は次のようなものがあり、加盟社がこれらの資格を持つことで業界全体のサービス品質向上につながるでしょう。
また、日本儀礼文化調査協会(JECIA)の安心度格付け認定は、消費者の信頼を得て事業拡大につながっていると思われます。
加盟社の相互扶助と情報共有
加盟社間の広範囲にわたるネットワークを活かして、業界全体の情報を取得して消費者のニーズや法令改正に対応したサービスが提供できます。全中協協同組合(全中協)では加盟社間で会合や交流会を開催し、各加盟社の業務経験を共有することによりお互いに切磋琢磨しています。
大規模災害・事故への緊急対応
大規模災害や事故が発生した場合は、全日本葬祭業協同組合連合会(全葬連)や都道府県の葬祭業協同組合が支援活動をおこなっています。
全国冠婚葬祭互助協会(全互協)では、全国の自治体と災害支援協定を結んで支援をおこなってきました。
また社会貢献基金制度を設置し、社会貢献活動を目的とした団体に助成をおこなっています。
全国霊柩自動車協会(全霊協)は災害や大事故に備えて、全国の自治体と災害緊急遺体搬送協定を結んでいます。
このように多くの業界団体が、災害や事故への支援や対応をおこなっているのです。
葬送文化の継承
少子高齢化や核家族化など家族の形が変化している近年、家族葬や直葬が増加し古来よりおこなわれてきた葬送文化が変化しています。
時代の流れということもあるかもしれませんが、大切な方が亡くなられたときに弔い、供養する気持ちを持ち続けることが必要ではないでしょうか。
日本葬送文化学会では「弔い」の根本の意味を問うべく、消費者に向けて研究・調査結果の発信をおこなっています。
消費者への情報発信
消費者が葬祭に関する知識を身につけて、適切な選択ができるように様々な啓発活動をすることが重要です。
近年ネット集客に特化した葬儀ポータルサイトが出現し、メディアを賑わせています。
この背景にはこれまで葬儀社が消費者に提示してきた、不明瞭な料金形態やサービス品目が原因の一つであるといえます。
こうした業界全体の弱点に着目し、極端な低価格葬儀を前面に打ち出して、ネット集客で台頭してきたのが葬儀ポータルサイトです。
葬儀ポータルサイトでは、料金やサービス内容が明確に示されているので、一見すると消費者にとってわかりやすく、適切な選択ができるように見えます。
しかし実際には、基本プランだけでしっかりとした葬儀を営むことは難しく、結果的に高額な葬儀費用を請求されるといったトラブルも発生しています。
こうした悲しい事例をなくすために、消費者が葬祭の知識を身につけられるようなイベントを開催するなど、葬祭事業者側からの積極的な情報発信の取り組みが必要だと思われます。
葬祭事業関連の主要な業界9団体
現在葬祭事業者の多くが業界団体に加盟しています。
葬祭事業関連の団体は、加盟社に対し情報提供や各種講習会、研修会、人材育成支援などをおこない業界の発展に取り組んでいます。
ここからは、葬祭事業関連業界9団体をご紹介します。
各団体の特徴や役割から、葬祭事業者業界9団体の概要を把握していただけるかと思います。
それぞれリンクを載せておりますので、詳しい内容をご覧いただけます。
1.全日本葬祭業協同組合連合会(全葬連)
全日本葬祭業協同組合連合会は、1956年に創業され2023年6月現在、全国56事業協同組合と1,234社の葬儀社が所属しており、規模は業界随一です。
葬祭に関する啓発活動や、行政との連携を通じた制度改善や政策提言などをおこない、加盟社を支援しています。
全日本葬祭業協同組合連合会(全葬連)では、消費者が安心して葬儀を依頼できるように「葬祭サービスガイドライン」を制定しています。
全日本葬祭業協同組合連合会について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
2.全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)
全日本冠婚葬祭互助協会は、1973年に設立され全国の冠婚葬祭互助事業者の8割以上である205社が加盟しています。
加盟社に対し講習会や研修会を提供したり、葬祭業界における法律や規制の情報を発信したりと、加盟企業が法令遵守に努めることができるよう支援しています。
全日本葬祭業協同組合連合会とともに、「葬祭ディレクター」の認定機関である「葬祭ディレクター技能審査協会」を設立しました。
全日本冠婚葬祭互助協会について詳しくは以下でご紹介しています。
3.全日本冠婚葬祭互助支援協会(全冠協)
全日本冠婚葬祭互助支援協会は、2014年に設立された比較的新しい団体です。
大手から中小企業にわたり幅広い規模の葬祭事業者が加盟し、各事業社の情報が共有されて多様化する消費者ニーズに対応しています。
またイノベーションの推進や、地域社会との連携や加盟社どうしの交流を活発化させるなど、業績とサービスの質の向上に努めています。
全日本冠婚葬祭互助支援協会については以下をご覧ください。
4.日冠連経営者協議会(日冠連)
日冠連経営者協議会は1974年に設立され、約半世紀にわたり業界発展のため様々な取り組みをおこなってきました。
特徴的な取り組みとして、冠婚支配人サミットや衣装サミット、海外・国内視察研修などがあげられます。
日冠連経営者協議会は、加盟社に業界の先進的な知識や、ビジネスの機会拡大の手段を提供しています。
日冠連経営者協議会の詳細は、以下からご覧ください。
5.全中協協同組合(全中協)
全中協協同組合は1982年に設立され、40年近くの長い歴史と実績を持ち、加盟社や消費者から信頼を獲得しています。
ウェブサイトやパンフレットを通じて、業界の動向や法令改正などの情報を発信したり加盟社間での会合や交流イベントを実施したりしています。
また、冠婚葬祭サービス関連の物品や設備などを共同購入することで、加盟社の仕入れ費用軽減をはかっているようです。
全中協協同組合については、以下の記事で詳しくご覧いただけます
6.全国霊柩自動車協会(全霊協)
全国霊柩自動車協会は1975年に設立され、霊柩搬送業界に特化した唯一の全国組織であり、霊柩搬送事業の普及と啓発活動をおこなっている団体です。
霊柩搬送事業運営における運行管理の適正化に取り組んだり、運行管理者資格取得の促進や法令遵守の徹底について加盟事業者に呼びかけたりといった活動を実施しています。
また省エネルギー対策や排ガス規制の遵守を徹底し、環境保護にも配慮しています。
地震や台風などの災害や大事故発生に備えて、全国の自治体と災害時緊急遺体搬送協定を結んでいます。
全国霊柩自動車協会について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
7.KKR特約葬祭業者連絡協議会
KKR特約葬祭業者連絡協議会は、国家公務員共済組合(KKR)においてKKR葬祭サービスを担う特約葬祭業者の業界団体です。
国家公務員共済組合(KKR)と連携し、200以上の企業が加盟しています。
共済組合員向けのイベントを開催したり、生活関連情報の発信に取り組んでいます。
総合窓口「KKR終活・葬祭コールセンター」を開設し、24時間365日迅速に対応できる体制を整えています。
KKR特約葬祭業者連絡協議会については、以下の記事でご紹介しています。
8.日本儀礼文化調査協会(JECIA)
日本儀礼文化調査協会 (JECIA)は、葬儀社を格付けする第三者機関として1986年に設立され、2023年時点で98社の葬儀社が加盟している団体です。
日本儀礼文化調査協会(JECIA)は、全国の葬儀社を格付けして情報を公開しています。
審査・格付をおこなう「評価格付認定委員会」は、業界関係者以外の様々な分野から選ばれます。JECIAの認定を受けた葬儀社は、信頼性と品質の保証を消費者に示すことができます。
自社を客観的に評価するのは難しいため、JECIAのような第三者機関を利用するのも一つの方法といえるでしょう。
日本儀礼文化調査協会(JECIA)については以下の記事をご覧ください。
9.日本葬送文化学会
日本葬送文化学会は2001年に設立され、葬祭事業者だけでなく葬祭具メーカーや火葬場・霊園の運営・管理者から、学者や研究者・学生まで幅広い人材が所属する組織です。
葬儀や火葬、お墓など葬送文化の変遷や歴史、国内外の葬祭ビジネスなどについて、35年以上にわたって調査・研究を続けています。
日本葬送文化学会では、機関紙「葬送文化」を年に1回のペースで発行しています。
またYouTubeチャンネルも開設し、基調講演は一般の方も視聴できます。
日本葬送文化学会については、以下の記事で詳しくご紹介しています。
まとめ
今回は葬祭関連事業者の業界団体9団体をご紹介いたしました。
近年の少子高齢化や核家族化により、葬祭の形も変化の一途をたどっています。
時代に合わせて変化しつつも、日本古来より長く受け継がれてきた葬送文化を大切に、次世代に引き継いでいきたいものです。
葬儀業界が今後も発展を続けていくためには、葬送儀礼の持つ意味や、大切な方を弔い供養する心の大切さを消費者に訴求していく事が重要だと思われます。
そのためには葬祭関連事業者の業界団体が、一致団結して取り組むことが必要です。
業界団体が持つ意味合いと、果たす役割は大きいといえるでしょう。
葬祭関連事業者のみなさまが、少しでもこの記事を業務のお役に立てていただければ幸いです。