葬儀社の業績・利益を調べる場合、帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、葬儀社の業績・利益の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。
今回は株式会社 メモリード東京の現状について、貸借対照表をもとに分析いたします。
決算公告は上場企業の決算資料ほど詳細ではありませんが、事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。
株式会社メモリード東京の概要
「株式会社メモリード東京」は長崎県に総合本部を置く「メモリードグループ」のグループ会社です。
株式会社メモリード(関東)の東京事業本部が分社化され、2013年に設立されました。
株式会社メモリード(関東)傘下の「ぐんかん(旧・群馬冠婚葬祭株式会社)」も、「株式会社メモリード東京」設立と同時に「(株)メモリード東京・ぐんかん事業部」としてスタートしています。
そんな株式会社メモリード東京ですが、2022年12月1日に群馬県を中心に事業展開している株式会社メモリードと合併することとなりました。
今回、分析に使用した貸借対照表は合併以前の株式会社メモリード東京を基に分析を行っております。
葬儀社の決算公告とは
決算公告資料はその会社が健全な経営を行っているかを確認できる計算書類となります。株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告といいます。
公告の方法は全部で3つあります。
- 官報に掲載
- 日刊新聞紙に掲載
- 電子公告(会社のウェブサイトに掲載)
決算公告は義務的な側面が強いですが、取引先や銀行に情報の開示を行うことで、自社の透明性や健全性を見せることができるという重要な側面も持ち合わせております。
なぜ葬儀社は決算公告をおこなうのか?
大手葬儀社、あるいは葬儀・葬祭事業を長きにわたって営んでいる会社は、冠婚葬祭互助会を運営するケースが少なくありません。
冠婚葬祭互助会とは、冠婚葬祭などの行事に備えるために、毎月一定の掛金を複数回の支払いで積み立てるサービスです。
冠婚葬祭互助会の会員になることで、葬儀や婚礼といったライフイベントの際に会員割引を受けられるなど、さまざまな面で優遇されます。
一般的な専門葬儀社は、開業にあたって特に許認可は必要ありませんが、冠婚葬祭互助会は経済産業大臣の認可を受けた企業のみ行える事業です。
会員から掛金として支払われた前受金は割賦販売法によって積み立てられた前受金の2分の1を次の何らかの方法で保全することが義務付けられています。
- 法務局に供託する
- 経済産業省の指定する保証会社と供託委託契約を結ぶ
- 銀行や信託会社などの金融機関と供託委託契約を結ぶ
上記のいずれかの方法を選択する必要があります。
また、経済産業省は割賦販売法に基づき互助会事業の経営指導や立入検査等を行っています。
なお現在、冠婚葬祭互助会事業者として登録されている事業者は以下より確認することができます。
経済産業省 前払式特定取引業者(冠婚葬祭互助会)許可事業者一覧
上記のように、冠婚葬祭互助会では政府・行政の認可団体として運営している側面があり、義務である決算公告を発表する事業者が多い状況です。
メモリード東京の貸借対照表
貸借対照表でまずチェックしたい箇所は純資産の部です。総資産に対する純資産の比率である自己資本比率が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
例えば自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされています。
自己資本比率が低い場合は借入金などの負債が多いので資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で、自己資本比率が高い場合は返済義務を有しない資金を大量に抱えているので倒産リスクは低くなると考えられます。
自己資本比率は中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、最適とされる自己資本比率は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は最低でも20%程度はあると安心です。
逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は最低でも15%程度は欲しいところです。
貸借対照表の左右(運用状況と調達状況)の合計額は必ず一致する
「資産」=「負債」+「純資産」という計算式が成り立つことから、
貸借対照表のことをバランスシート(Balance Sheet)またはビーエス (B/S) と呼ぶこともあります。
メモリード東京の自己資本比率
自己資本比率は「自己資本比率(%)=純資産÷総資産×100」で求めることができます。
メモリード東京の2022年5月期における純資産は-1億5千6百万円で、債務超過の状態となっています。
メモリード東京の資産と負債について
自己資本比率の次に確認したいのは、資産と負債の額になります。
貸借対照表でいうところの資産は左側に、負債は右側上段に記載があります。
この赤い円の箇所を確認することで、その会社の資産と借金の額を確認できます。
資産合計の推移
貸借対照表の左側に記載されており、「会社の所有する資産」を表します。
資産は下記の3つに構成されています。
・流動資産 = 1年以内に現金化もしくは費用化できる資産
例) 現金、有価証券、商品、製品など
・固定資産 = 長期にわたって会社が保有するものや1年を超えて現金もしくは費用となる資産で有形固定資産や無形固定資産がある。
例)・有形固定資産:建物、土地、車など
・無形固定資産:ソフトウェアなど
・繰延(くりのべ)資産 = 会社設立にかかった費用や社債発行にかかった費用を一括して費用として計上せずに資産として計上し期間内(数年など)に分けて償却するものとなります。
例) 創立費、開業費、開発費など
メモリード東京の資産合計の推移は以下のようになっています。
メモリード東京の資産合計は過去5年間にわたってほぼ横這いといった状況で、大きな変動はみられません。
2022年5月期の資産合計は65億6千7百万円(前年同期比0.40%増)と、2千6百万円の増加となっています。
負債合計の推移
貸借対照表の右側上段に記載されており、「返す必要のある他人からの借金」を表します。
負債は下記の2つで構成されています。
・流動負債 = 1年以内に支払い期日を迎える負債となります。
例) 家賃、従業員の給与や賞与、買掛金(サービスや商品の金額を後払いするもの)など
・固定負債 = 1年以内に支払い期日を迎えない負債となりますので、流動負債以外の負債は固定負債になるということです。
例) 従業員の退職金、社債、長期借入金など
メモリード東京の負債合計の推移は以下のようになっています。
メモリード東京の負債合計は過去5年間にわたって緩やかに増加しており、2022年5月期では67億2千2百万円(前年同期比2.36%増)となっています。
メモリード東京の貸借対照表における注目点は、2018年5月期から2019年5月期にかけて流動負債が大幅に減少し、固定負債が同規模で増加している点でしょう。
これは短期借入から長期借入への変更、もしくは借り換えを行った場合に起きることの多い現象です。
長期借入は短期借入にくらべ審査が厳しく、融資を受けられるのは継続的に利益を出す見込みのある企業に限られます。
そういった観点に立つと、メモリード東京の2018年5月期までの業績、借入先から高い評価を受けるレベルを保っていたと考えられます。
その結果、2018年5月期には29.96%と苦しい状況だった流動比率(流動資産÷流動負債×100)は、2022年5月期の時点でも210.10と短期的な支払に不安のない状況を維持しています。
メモリード東京の純資産について
自己資本比率、資産合計、そして負債合計をみてきましたが、最後に確認したいのは「純資産」となります。
純資産は貸借対照表でいうところの右側下段に記載があります。
純資産は資産(現金、土地、建物など)から負債(借金)を差し引いたものです。
この赤い丸の箇所を確認することでその会社の純資産を確認できます。
メモリード東京の純資産合計、当期純利益、利益剰余金の推移はそれぞれ以下のようになっています。(各用語についても分かりやすく解説しています)
純資産合計の推移
会社の所有する現金や建物などの資産から負債(借金)を差し引いたものとなります。
純資産の割合が高ければ財務健全性が高いと考えます。一方で、純資産がマイナスの状態を債務超過といい、2期連続で債務超過の状態が続いた場合、東証上場の廃止基準に抵触することがあります。
メモリード東京の2022年5月期の純資産合計は-1億5千6百万円と債務超過に陥っていますが、新型コロナ発生前の2019年5月期時点では増加傾向でしたので、新型コロナの影響による一時的な収益悪化とも考えられます。
当期純利益の推移
会社が1年間で得た全収益から法人税や住民税そして費用を差し引いたものが当期純利益となります。
この当期純利益がマイナスとなると当期純損失となります。
当期純利益の額をみることで、その会社の収益性がどのくらいなのか判断できる指標になります。
メモリード東京の当期純利益は、2020年5月期以降3期連続でマイナスとなっていますが、2022年5月期ではマイナス金額が大きく圧縮されており、回復に向かっている様子がうかがえます。
2020年から2021年にかけて、新型コロナ関連の行動規制が繰り返し発出されたことから、葬儀業界は大打撃を被りました。
特に葬儀の小規模化・簡素化が進む東京都などの大都市圏では、ダブルパンチとなって業界を襲ったため、収益が悪化した葬儀社様も少なくありませんでした。
しかし2022年に入って規制緩和が行われたことから、葬儀業界の状態も回復傾向にあるようです。
こういった事情から、メモリード東京の収益も回復に向かっている様子が伺えますので、2023年5月期の決算公告が待たれるところです。
利益剰余金の推移
利益剰余金とは簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずにコツコツと社内で貯めたお金です。
正確な会計用語ではないですが利益剰余金のことを内部留保とも言います。
内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。利益剰余金は貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。
内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で収益状況が悪化した際にも、従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため、企業が生き残るための重要な資金源となります。
メモリード東京の場合は以下のように推移しております。
メモリード東京の2022年5月期における利益剰余金は-4億0千6百万となっていますが、そのうち1億3千0百万円は当期純損失が占めています。
新型コロナの影響による短期的な収益悪化であれば、2023年以降徐々に回復する可能性もありますので、長期的な視点で見守る必要があるでしょう。
株式会社メモリード東京のまとめ
今回は株式会社メモリード東京の決算公告を参考に、現状分析を行いました。
貸借対照表を分析することで、外部からでは見えない企業の内部状況も、ある程度まで把握可能であることがお判りいただけたかと思います。
今回の分析を通して、特に都市部の葬儀業界に新型コロナが与えた影響の大きさを、まざまざと感じさせられました。
2023年5月には新型コロナも5類相当に移行し、葬儀業界も全般的に回復傾向にあるといわれていますので、今後の株式会社メモリード(株式会社メモリード東京)の決算公告にも注目していきたいと思います。