葬儀社の業績・利益を調べる場合、帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、葬儀社の業績・利益の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。
今回は株式会社 コムウェルの現状について、貸借対照表をもとに分析いたします。
上場企業の決算資料ほど詳細ではありませんが、事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。
株式会社 コムウェルの概要
株式会社 コムウェルは1972年6月に「中央互助センター」として誕生し、都内を中心に冠婚葬祭互助会事業等を展開、2002年7月に現社名に変更しています。
コムウェルの主な運営事業は以下の通りです。
- 冠婚葬祭互助会事業
- ブライダル事業(貸衣装・ブライダルフォトなど)
- セレモニー事業
- メモリアル事業(墓地・霊園紹介、散骨事業など)
- トランスポート事業(貸切バス・ジャンボハイヤー・介護タクシーなど)
メモリアル事業の一環として行っている海洋散骨サービスでは、国内だけでなくハワイでの海洋散骨を企画するなど、海外での事業にも力を入れているようです。
またセレモニー事業では、都内に9か所の葬祭ホールを展開しています。
- コムウェルホール高円寺
- 家族と寄り添う温泉付き葬祭場 四季風 松庵
- コムウェルホール板橋
- コムウェルホール町田駅前会堂けやき
- コムウェルホール小平
- コムウェルホール西東京
- 四季風 八王子
- 邸宅型葬祭場 四季風 東大和
- 東京江戸川直葬センター
上記のうち「四季風 松庵」では、邸宅型貸切ホールに湯河原からお湯を運び込んでいるようです。
またコムウェルは冠婚葬祭互助会事業を営んでいるものの、自社直営の結婚式場を所有していないという特徴をもちます。
葬儀社の決算公告とは
決算公告資料はその会社が健全な経営を行っているかを確認できる計算書類となります。株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告といいます。
公告の方法は全部で3つあります。
- 官報に掲載
- 日刊新聞紙に掲載
- 電子公告(会社のウェブサイトに掲載)
決算公告は義務的な側面が強いですが、取引先や銀行に情報の開示を行うことで、自社の透明性や健全性を見せることができるという重要な側面も持ち合わせております。
なぜ葬儀社は決算公告をおこなうのか?
大手葬儀社、あるいは葬儀・葬祭事業を長きにわたって営んでいる会社は、冠婚葬祭互助会を運営するケースが少なくありません。
冠婚葬祭互助会とは、冠婚葬祭などの行事に備えるために、毎月一定の掛金を複数回の支払いで積み立てるサービスです。
冠婚葬祭互助会の会員になることで、葬儀や婚礼といったライフイベントの際に会員割引を受けられるなど、さまざまな面で優遇されます。
一般的な専門葬儀社は、開業にあたって特に許認可は必要ありませんが、冠婚葬祭互助会は経済産業大臣の認可を受けた企業のみ行える事業です。
会員から掛金として支払われた前受金は割賦販売法によって積み立てられた前受金の2分の1を次の何らかの方法で保全することが義務付けられています。
- 法務局に供託する
- 経済産業省の指定する保証会社と供託委託契約を結ぶ
- 銀行や信託会社などの金融機関と供託委託契約を結ぶ
上記のいずれかの方法を選択する必要があります。
また、経済産業省は割賦販売法に基づき互助会事業の経営指導や立入検査等を行っています。
なお現在、冠婚葬祭互助会事業者として登録されている事業者は以下より確認することができます。
経済産業省 前払式特定取引業者(冠婚葬祭互助会)許可事業者一覧
上記のように、冠婚葬祭互助会では政府・行政の認可団体として運営している側面があり、義務である決算公告を発表する事業者が多い状況です。
コムウェルの貸借対照表

貸借対照表でまずチェックしたい箇所は純資産の部です。総資産に対する純資産の比率である「自己資本比率」が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされていますが、10%を下回っている場合は改善が必要な状況といえるでしょう。
自己資本比率が低い場合は借入金などの負債が多いので資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で、自己資本比率が高い場合は返済義務を有しない資金を大量に抱えているので倒産リスクは低くなると考えられます。
自己資本比率は中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、自己資本比率は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は最低でも20%程度はあると安心です。
逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は最低でも15%程度は欲しいところです。
貸借対照表の左右(運用状況と調達状況)の合計額は必ず一致する
「資産」=「負債」+「純資産」という計算式が成り立つことから、
貸借対照表のことをバランスシート(Balance Sheet)またはビーエス (B/S) と呼ぶこともあります。
コムウェルの自己資本比率は5.62%
自己資本比率は「自己資本比率(%)=純資産÷総資産×100」の計算式で算出可能です。
コムウェルの自己資本比率を求める式は下記のようになります。
8億4千3百万円÷149億9千4百万円×100=5.62
コムウェルの2022年6月期における自己資本比率は、5.62%(前年同期比0.16%減)となっています。
コムウェルの資産と負債について
自己資本比率の次に確認したいのは、資産と負債の額になります。
貸借対照表でいうところの資産は左側に、負債は右側上段に記載があります。
この赤い円の箇所を確認することで、その会社の資産と借金の額を確認できます。
資産合計の推移
貸借対照表の左側に記載されており、「会社の所有する資産」を表します。
資産は下記の3つに構成されています。
・流動資産 = 1年以内に現金化もしくは費用化できる資産
例) 現金、有価証券、商品、製品など
・固定資産 = 長期にわたって会社が保有するものや1年を超えて現金もしくは費用となる資産で有形固定資産や無形固定資産がある。
例)・有形固定資産:建物、土地、車など
・無形固定資産:ソフトウェアなど
・繰延(くりのべ)資産 = 会社設立にかかった費用や社債発行にかかった費用を一括して費用として計上せずに資産として計上し期間内(数年など)に分けて償却するものとなります。
例) 創立費、開業費、開発費など
コムウェルの資産合計の推移は以下のようになっています。

コムウェルの2022年6月期における資産合計は、149億9千4百万円(前年同期比2.20%減)となっています。
過去5年間にわたって、コムウェルの資産合計はほぼ横ばいといった状況で、大幅な変動はみられません。
ホームページの沿革を確認しても、コムウェルでは2018年以降の新規出店は行っていないようです。
負債合計の推移
貸借対照表の右側上段に記載されており、「返す必要のある他人からの借金」を表します。
負債は下記の2つで構成されています。
・流動負債 = 1年以内に支払い期日を迎える負債となります。
例) 家賃、従業員の給与や賞与、買掛金(サービスや商品の金額を後払いするもの)など
・固定負債 = 1年以内に支払い期日を迎えない負債となりますので、流動負債以外の負債は固定負債になるということです。
例) 従業員の退職金、社債、長期借入金など
コムウェルの負債合計の推移は以下のようになっています。

コムウェルの2022年6月期における負債合計は141億9千1百万円(前年同期比2.37%減)となっています。
資産合計に対して負債合計の占める割合が大きい点が気になりますが、負債の98.47%は固定負債ですので、短期的な安全性は確保されている状況です。
財務安定性指標の一つである流動比率(流動資産÷流動負債×100)も、2022年6月期の時点で1631.34%(安全ラインは100%以上)となっており、当面の支払い能力について不安は感じられません。
コムウェルの純資産について
自己資本比率、資産合計、そして負債合計をみてきましたが、最後に確認したいのは「純資産」となります。
純資産は貸借対照表でいうところの右側下段に記載があります。
純資産は資産(現金、土地、建物など)から負債(借金)を差し引いたものです。
この赤い丸の箇所を確認することでその会社の純資産を確認できます。
コムウェルの純資産合計、当期純利益、利益剰余金の推移はそれぞれ以下のようになっています。(各用語についても分かりやすく解説しています)
純資産合計の推移
会社の所有する現金や建物などの資産から負債(借金)を差し引いたものとなります。
純資産の割合が高ければ財務健全性が高いと考えます。一方で、純資産がマイナスの状態を債務超過といい、2期連続で債務超過の状態が続いた場合、東証上場の廃止基準に抵触することがあります。

コムウェルの2022年1月期における純資産合計は、8億4千3百万円(前年同期比0.72%増)となっています。
過去5年間におけるコムウェルの純資産合計は約8億4千万円前後で推移しており、ほとんど変動がない状況です。
新型コロナの影響で債務超過に陥る企業も多い中、2020年以降も純資産合計を安定した状態で維持している点は、高く評価されるべきでしょう。
当期純利益の推移
会社が1年間で得た全収益から法人税や住民税そして費用を差し引いたものが当期純利益となります。
この当期純利益がマイナスとなると当期純損失となります。
当期純利益の額をみることで、その会社の収益性がどのくらいなのか判断できる指標になります。

コムウェルの2022年6月期における当期純利益は600万円(前年同期比200%増)となっています。
2018年・2019年と当期純損失が続いていましたが、2020年6月期以降は当期純利益が発生しており、コムウェルの業績は回復傾向にあるようです。
新型コロナの影響が大きい状況下での業績向上ですので、2023年6月期の決算公告が待たれるところです。
利益剰余金の推移
利益剰余金とは簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずにコツコツと社内で貯めたお金です。正確な会計用語ではないですが利益剰余金のことを内部留保とも言います。
内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。利益剰余金は貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。
内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で収益状況が悪化した際にも、従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため、企業が生き残るための重要な資金源となります。
コムウェルの場合は以下のように推移しております。

コムウェルの2022年6月期における利益剰余金は、7億3千5百万円(前年同期比0.82%増)とわずかに増加しました。
利益剰余金の増加は営業利益の発生を意味していますので、コムウェルは2022年6月期も黒字経営であったと思われます。
新型コロナ関連の行動規制が繰り返し発出された2020年から2021年には、葬儀業界でも多くの企業が収益を大幅に悪化させましたが、コムウェルの経営状態は安定していたようです。
株式会社 コムウェルのまとめ
今回は株式会社 コムウェルの決算公告を参考に、現状分析を行いました。
新型コロナによる影響が大きかったとされる葬儀業界ですが、貸借対照表をみる限りコムウェルの財務状況は安定していたようです。
過去4年間におけるコムウェルの財務状況には、ほとんど変化がみられませんが、2020年6月期以降は当期純利益が発生している点をみると、業績は回復傾向にあると思われます。
今後のコムウェルの決算公告にも引き続き注目していきたいと思います。