葬儀社の売上・利益・業績を調べる場合、上場しているなら決算発表情報・有価証券報告書をみれば分かります。非上場になると帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、売上・利益・業績の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。
今回はあいネットサービスの現状について、決算公告をもとに分析いたします。
決算公告は上場企業の決算資料ほど詳細ではありませんが、事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。
あいネットサービスの概要
あいネットサービスはあいネットグループの中核企業で、静岡県を中心に三重県、長野県で冠婚葬祭互助会事業を行っています。
あいネットサービスは、エリアによって「あいネット平安祭典」、「あいネットホール」に分かれているようです。
あいネットサービスの葬儀関連施設は、2024年7月現在以下の通りです。
- 静岡県藤枝市、焼津市、島田市:7施設
- 静岡県駿河区、葵区、清水区:12施設
- 三重県伊勢市、松坂市:5施設
- 長野県飯田地区、伊那地区:16施設
定期的に掛け金を積み立て、結婚式やお葬式を行える「あいネット(互助会)」「平安互助会」などの会員サービスもあります。
【名称】あいネットサービス
【設立】1949年4月
【代表取締役】杉山 茂之
【所在地】静岡県静岡市駿河区宮本町8‐10
【公式サイト】https://www2.ainetgrp.co.jp/
【事業内容】・平安祭典
・あいネットホール
葬儀社の決算公告とは
決算公告はその会社が健全な経営を行っているかを確認できる計算書類となります。以下に、決算公告についての簡単な概要を記載しました。
株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告と言います。
ただし、大会社については貸借対照表と合わせて損益計算書も公告することが義務付けられています。
次の2つの条件のうちいずれか1つが該当する株式会社は「大会社」という定義になります。
1つ目は資本金が5億円以上、2つ目は貸借対照表の負債の部に計上されている合計額が200億円以上の株式会社のいずれかとなります。
公告の方法は全部で3つあります。
- 官報に掲載
- 日刊新聞紙に掲載
- 3つ目は電子公告(会社のウェブサイトに掲載)
決算公告の簡単な概要については以上になります。
なお上場企業の決算報告書(有価証券報告書)はEDINETで公開されており、誰でも閲覧可能です。
なぜ葬儀社は決算公告をおこなうのか?
葬儀社の大手あるいは長年 葬儀・葬祭事業を営む会社は冠婚葬祭互助会を運営するケースが多いです。
冠婚葬祭互助会とは冠婚葬祭などの行事に備えるために毎月一定の掛金を複数回の支払いで積み立てるサービスとなっております。互助会の会員になることで葬儀や婚礼で割引などの優遇があります。
冠婚葬祭互助会は経済産業大臣の認可を受けた事業者となります。
会員から掛金として支払われた前受金は割賦販売法によって積み立てられた前受金の2分の1を次の何らかの方法で保全することが義務付けられています。
- 法務局に供託する
- 経済産業省の指定する保証会社と供託委託契約を結ぶ
- 銀行や信託会社などの金融機関と供託委託契約を結ぶ
以上の3つの方法のいずれかを選択する必要があります。
また、経済産業省は割賦販売法に基づき互助会事業の経営指導や立入検査等を行っています。なお現在、冠婚葬祭互助会事業者として登録されている事業者は以下より確認することができます。
経済産業省 前払式特定取引業者(冠婚葬祭互助会)許可事業者一覧
上記のように、冠婚葬祭互助会では政府・行政の認可団体として運営している側面があり、義務である決算公告を発表する事業者が多い状況です。
あいネットサービスの貸借対照表
決算期 | 61期 | 62期 | 63期 | 64期 | 65期 | |||
会計年度 | 2019年8月期 | 2020年8月期 | 2021年8月期 | 2022年8月期 | 2023年8月期 | |||
利益剰余金 | 70億6千9百万円 | 66億6千9百万円 | 65億3千4百万円 | 64億6千6百万円 | 66億4千5百万円 | |||
資 産 の 部 | 流動資産 | 61億4千9百万円 | 57億1千8百万円 | 45億1千3百万円 | 40億4千8百万円 | 39億3千3百万円 | ||
固定資産 | 130億8千3百万円 | 127億7千9百万円 | 138億3千4百万円 | 148億6千9百万円 | 148億0千5百万円 | |||
有形固定資産 | ||||||||
無形固定資産 | ||||||||
投資その他の資産 | ||||||||
繰延資産 | ||||||||
資産合計 | 192億3千1百万円 | 184億9千7百万円 | 183億4千6百万円 | 189億1千8百万円 | 187億3千9百万円 | |||
負 債 の 部 | 流動負債 | 10億8千1百万円 | 6億9千9百万円 | 8億3千4百万円 | 10億0千1百万円 | 9億9千7百万円 | ||
役員賞与引当金 | ||||||||
賞与引当金 | ||||||||
その他 | ||||||||
固定負債 | 110億0千3百万円 | 110億5千1百万円 | 109億0千0百万円 | 113億7千2百万円 | 110億1千8百万円 | |||
退職給付引当金 | ||||||||
雑収入復活引当金 | ||||||||
役員退職慰労引当金 | ||||||||
その他 | ||||||||
負債の部計 | 120億8千4百万円 | 117億5千0百万円 | 117億3千4百万円 | 123億7千3百万円 | 120億1千5百万円 | |||
純 資 産 の 部 | 株主資本 | 71億4千7百万円 | 67億4千7百万円 | 66億1千2百万円 | 65億4千5百万円 | 67億2千4百万円 | ||
資本金 | 7千9百万円 | 7千9百万円 | 7千9百万円 | 7千9百万円 | 7千9百万円 | |||
資本余剰金 | ||||||||
資本準備金 | ||||||||
その他資本余剰金 | ||||||||
利益剰余金 | 70億6千9百万円 | 66億6千9百万円 | 65億3千4百万円 | 64億6千6百万円 | 66億4千5百万円 | |||
利益準備金 | 2千0百万円 | 2千0百万円 | 2千0百万円 | 2千0百万円 | 2千0百万円 | |||
特別償却準備金 | ||||||||
その他利益剰余金 | 70億4千9百万円 | 66億4千9百万円 | 65億1千4百万円 | 64億4千6百万円 | 66億2千6百万円 | |||
評価・換算差額等 | ||||||||
その他有価証券評価差額金 | ||||||||
(うち当期純利益) | 5億6千8百万円 | -4億0千0百万円 | -1億3千5百万円 | -億6千8百万円 | 1億7千9百万円 | |||
新株予約権 | ||||||||
自己資本 | ||||||||
評価・換算差額等 | ||||||||
その他有価証券評価差額金 | ||||||||
純資産の部計 | 71億4千7百万円 | 67億4千7百万円 | 66億1千2百万円 | 65億4千5百万円 | 67億2千4百万円 | |||
負債・純資産合計 | 192億3千1百万円 | 184億9千7百万円 | 183億4千6百万円 | 189億1千8百万円 | 187億3千9百万円 |
貸借対照表でまずチェックしたい箇所は純資産の部です。総資産に対する純資産の比率である「自己資本比率」が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
例えば自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされています。自己資本比率が10%を下回っている場合は経営状態は良いとは言えません。
自己資本比率が低い場合は借入金などの負債が多いので資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で、自己資本比率が高い場合は返済義務を有しない資金を大量に抱えているので倒産リスクは低くなると考えられます。
自己資本比率は中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、自己資本比率は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は最低でも20%程度はあると安心です。逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は最低でも15%程度は欲しいところです。
貸借対照表の左右(運用状況と調達状況)の合計額は必ず一致する
「資産」=「負債」+「純資産」という計算式が成り立つことから、
貸借対照表のことをバランスシート(Balance Sheet)またはビーエス (B/S) と呼ぶこともあります。
あいネットサービスの自己資本比率は58.43%
自己資本比率は「自己資本比率(%)=純資産÷総資産×100」で求めることができます。
あいネットサービスの2023年8月期の自己資本比率を求める式は下記のようになります。
67億2千4百万円(純資産)÷ 187億3千9百万円(総資産)× 100
上記の式から同社の自己資本比率は35.88%(前年比で1.28ポイント増加)となりました。
同業界最大手のベルコは21.96%(2019年3月期)でしたので、あいネットサービスの自己資本比率は同業他社と比較してもかなり高い数字だということが分かります。
あいネットサービスの資産と負債について
自己資本比率の次に確認したいのは、資産と負債の額になります。
貸借対照表でいうところの資産は左側に、負債は右側上段に記載があります。
この赤い円の箇所を確認することで、その会社の資産と借金の額を確認できます。
資産合計の推移
貸借対照表の左側に記載されており、「会社の所有する資産」を表します。
資産は下記の3つに構成されています。
・流動資産 = 1年以内に現金化もしくは費用化できる資産
例) 現金、有価証券、商品、製品など
・固定資産 = 長期にわたって会社が保有するものや1年を超えて現金もしくは費用となる資産で有形固定資産や無形固定資産がある。
例)・有形固定資産:建物、土地、車など
・無形固定資産:ソフトウェアなど
・繰延(くりのべ)資産 = 会社設立にかかった費用や社債発行にかかった費用を一括して費用として計上せずに資産として計上し期間内(数年など)に分けて償却するものとなります。
例) 創立費、開業費、開発費など
あいネットサービスの資産合計の推移は以下のようになっています。
あいネットサービスの2023年8月期の資産合計は、187億3千9百万円(前年同期比0.9%減)となっています。
2020年から2023年までの資産合計はほぼ横這と言えます。
負債合計の推移
貸借対照表の右側上段に記載されており、「返す必要のある他人からの借金」を表します。
負債は下記の2つで構成されています。
・流動負債 = 1年以内に支払い期日を迎える負債となります。
例) 家賃、従業員の給与や賞与、買掛金(サービスや商品の金額を後払いするもの)など
・固定負債 = 1年以内に支払い期日を迎えない負債となりますので、流動負債以外の負債は固定負債になるということです。
例) 従業員の退職金、社債、長期借入金など
あいネットサービスの負債合計の推移は以下のようになっています。
あいネットサービスの2023年8月期における負債合計は120億1千5百万円(前年同期比2.9%減)となっています。
負債合計は2020年以降増加傾向でしたが、2023年に減少しています。
財務安定性指標の一つである流動比率(流動資産÷流動負債×100)も、2023年8月期の時点で394.49%(安全ラインは100%以上)となっており、当面の支払い能力について不安は感じられません。
あいネットサービスの純資産について
自己資本比率、資産合計、そして負債合計をみてきましたが、最後に確認したいのは「純資産」となります。
純資産は貸借対照表でいうところの右側下段に記載があります。
純資産は資産(現金、土地、建物など)から負債(借金)を差し引いたものです。
この赤い丸の箇所を確認することでその会社の純資産を確認できます。
あいネットサービスの純資産合計、当期純利益、利益剰余金の推移はそれぞれ以下のようになっています。(各用語についても分かりやすく解説しています)
純資産合計の推移
会社の所有する現金や建物などの資産から負債(借金)を差し引いたものとなります。
純資産の割合が高ければ財務健全性が高いと考えます。一方で、純資産がマイナスの状態を債務超過といい、2期連続で債務超過の状態が続いた場合、東証上場の廃止基準に抵触することがあります。
あいネットサービスの2023年8月期における純資産合計は、前年同時期よりも1億7千9百万円(前年同期比2.7%増)となっています。
新型コロナの影響もあってか2020年に減少したものの、その後は横ばいとなっています。
当期純利益の推移
会社が1年間で得た全収益から法人税や住民税そして費用を差し引いたものが当期純利益となります。
この当期純利益がマイナスとなると当期純損失となります。
当期純利益の額をみることで、その会社の収益性がどのくらいなのか判断できる指標になります。
あいネットサービスの2023年8月期における当期純利益は、2022年8月から黒字転換し1億7千9百万円となりました。
新型コロナの影響が大きかったとみられる2020年に当期純利益は減少したものの2021年以降は回復傾向です。
あいネットサービスの利益剰余金の推移
利益剰余金とは簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずにコツコツと社内で貯めたお金です。正確な会計用語ではないですが利益剰余金のことを内部留保とも言います。
内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。利益剰余金は貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。
内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で経営が赤字になった際に従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため企業が生き残るための重要な資金源となります。
あいネットサービスの場合は以下のように推移しております。
過去3年間の利益剰余金の成長率の推移は2023年8月期は66億4千5百万円(前年比成長率は2.8%)、2022年8月期は64億6千6百万円(前年比成長率は-1%)、2021年8月期は65億3千4百万円(前年比成長率は-2%)となっています。
2020年以降の利益剰余金は、新型コロナの影響もあってか減少傾向でした。しかし、2023年に回復の兆しを見せています。
あいネットサービスのまとめ
今回、あいネットサービスの決算公告の分析を行っている中で純資産合計が同業他社と比較しても高い数字となっていることがわかりました。また、新型コロナの影響で当期純利益が減少した時期もありましたが、回復の兆しを見せています。
新型コロナによる影響が大きかったとされる葬儀業界ですが、貸借対照表をみる限りではあいネットサービスの財務状況は安定してきています。引き続き、2024年8月期の決算公告にも注目したいと思います。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。より詳しい情報を知りたい方はお気軽にお問合せ下さい。
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