東京博善 株式会社 |火葬場運営企業の業績・利益をまとめて分析

東京博善

企業の業績・利益を調べる場合、帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、企業の業績・利益の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。

今回は東京博善 株式会社 の現状について、貸借対照表をもとに分析いたします。
決算公告は、上場企業の決算資料ほど詳細ではありませんが、事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。

目次

東京博善 株式会社 の概要


東京博善 株式会社 は、東証プライム上場企業である「株式会社 広済堂ホールディングス」のグループ企業で、東京都23区において6か所の葬儀場併設の火葬場を運営しています。

1921年(大正10年)4月に旧東京博善 株式会社が解散し、現在の会社が設立されました。
当時は「町屋日暮里」「砂村亀戸」「代々木」「落合」の4箇所の火葬場を運営していたようです。

当時は重油火葬炉が主流でしたが、町屋葬祭場(現 町屋斎場)において1975年(昭和49年)に日本初となるガス火葬炉の稼働を開始しました。
1984年(昭和59年)に廣済堂グループとなった東京博善では、各火葬炉の近代計画を開始し、2000年(平成12年)に全斎場の近代化工事が完了しました。

出典:東京博善 株式会社 東京博善の歩み

東京博善の事業展開

東京博善は東京23区において、葬儀場が併設された6か所の火葬場を運営しており、東京23区内における火葬の約70%を取り扱っています。
各火葬場では「東京博善のお葬式」名義で葬儀サービスが提供されていますが、葬儀事業を運営しているのは同じ広済堂ホールディングスのグループ企業である「株式会社 広済堂ライフウェル」です。

また葬祭大手「公益社」の持株会社である上場企業「 燦ホールディングス 株式会社」との合弁事業として、2022年に設立された[株式会社 グランセレモ 東京」も、葬儀施行会社となっています。

東京博善が運営する葬儀場併設の火葬場は、以下のとおりです。

そのほか東京博善は、毎年開催される葬祭業界の大規模展示会である「エンディング産業展」の主催企業です。
2022年に運営会社のTSO International 株式会社と事業譲渡契約が締結され現在、TSO Internationalは共催・運営サポートという形となっています。

また、海洋散骨サービスをおこなっている「株式会社 ハウスボートクラブ」と2022年に業務提携契約が結ばれました。
東京博善運営の火葬施設の利用者で、海洋散骨サービスを希望する方に「海の上で偲ぶ会」を提案しています。

同じく2022年に、資産コンサルティング事業として「東京博善あんしんサポート 株式会社」を設立しました。
専属の相続専門税理士が、斎場利用者を対象として、相続に関する手続きのサポートをおこなっています。

【名称】株式会社 東京博善
【代表取締役】和田 翔雄
【設立】1921年(大正10年) 4月27日
【資本金】2億円
【所在地】東京都港区芝浦1-2-3 シーバンスS館13階
【公式サイト】https://www.tokyohakuzen.co.jp/
【事業内容】火葬場・斎場運営
      
出典:東京博善 株式会社 会社概要

東京博善 経営方法の問題点

東京23区の公営火葬場は、都立 瑞江葬儀所臨海斎場のみであるため、多くの火葬は民営火葬場が担っており、他の地域と異なる特殊な状況となっています。
くわえて民営火葬事業のほとんどを、広済堂ホールディングス傘下の東京博善が占めているため、これまで多くの問題が発生してきました。

過去に発生した主な問題としては、以下のようなものがあげられます。

  • 火葬料金の値上げ
  • 骨壺の独占販売
  • 僧侶控室の撤去
  • 火葬申込書への個人情報記載要請

上記のような問題の多くは、すでに解消されつつあるようですが、火葬料金の値上げについては、2024年3月に東京博善より通知があり、2024年6月1日より90,000円~となっています。

火葬場事業は、公共性が重視されるにもかかわらず、行政が民間企業に運営を任せていることが、多くの問題点を生み出す結果となっているといえるでしょう。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

決算公告とは

決算公告は、その会社が健全な経営を行っているかを確認できる、計算書類となります。
以下に、決算公告についての簡単な概要を記載しました。

株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告と言います。

公告の方法は全部で3つあります。

  • 官報に掲載
  • 日刊新聞紙に掲載
  • 電子公告(会社のウェブサイトに掲載)

決算公告は義務的な側面が強いですが、取引先や銀行に情報の開示を行うことで、自社の透明性や健全性を見せることができるという、重要な側面も持ち合わせております。

ここからは東京博善の業績・利益を分析していきたいと思います。

東京博善の決算公告は「葬祭公益」である火葬料収入と式場収入や休憩料収入、商品売上収入などの「葬祭収益」で構成されています。
上記「事業展開」にあるとおり、葬儀サービスは「広済堂ライフウェル」と「グランセレモ東京」が提供しているため、葬儀サービス収入は東京博善の業績には含まれていません。

東京博善の貸借対照表

決算期154期155期156期157期158期
利益剰余金387億0千4百万円382億1千9百万円378億4千1百万円377億6千7百万円392億3千2百万円
会計年度2020年3月期2021年3月期2022年3月期2023年3月期2024年3月期
資産流動資産213億6千9百万円89億4千8百万円116億0千2百万円123億3千8百万円142億3千5百万円
固定資産271億0千4百万円263億9千9百万円253億1千5百万円248億4千0百万円252億4千2百万円
有形固定資産256億0千9百万円249億0千9百万円237億3千8百万円232億8千2百万円236億2千9百万円
無形固定資産9千6百万円6千6百万円6千5百万円1億5千1百万円1億4千9百万円
投資その他の資産13億9千9百万円14億2千3百万円15億1千2百万円14億0千7百万円14億6千4百万円
繰延資産
資産合計484億7千3百万円353億4千7百万円369億1千7百万円371億7千7百万円394億7千7百万円
負債流動負債14億1千9百万円18億9千4百万円13億1千5百万円17億0千7百万円25億1千0百万円
役員賞与引当金
賞与引当金
その他
固定負債5億0千3百万円3千3百万円2千9百万円3千8百万円3千3百万円
退職給付引当金
雑収入復活引当金
役員退職慰労引当金
その他
負債の部計19億2千2百万円19億2千7百万円13億4千4百万円17億4千6百万円25億4千3百万円
純資産株主資本465億5千4百万円334億0千4百万円355億2千6百万円354億5千2百万円369億1千7百万円
資本金40億5千0百万円40億5千0百万円53億0千0百万円1億0千0百万円2億0千0百万円
 資本剰余金38億0千0百万円38億0千0百万円50億5千0百万円102億5千0百万円101億5千0百万円
資本準備金38億0千0百万円38億0千0百万円50億5千0百万円50億5千0百万円50億5千0百万円
その他資本余剰金51億0千0百万円
 利益剰余金387億0千4百万円382億1千9百万円378億4千1百万円377億6千7百万円392億3千2百万円
利益準備金6億1千5百万円6億1千5百万円6億1千5百万円6億1千5百万円6億1千5百万円
特別償却準備金
その他利益剰余金380億8千9百万円376億0千4百万円372億2千6百万円371億5千2百万円386億1千7百万円
自己株式-126億6千5百万円-126億6千5百万円-126億6千5百万円-126億6千5百万円
評価・換算差額等
その他有価証券評価差額金
(うち当期純損失)
新株予約権
評価・換算差額等-3百万円1千6百万円4千7百万円-2千0百万円1千7百万円
その他有価証券評価差額金-3百万円1千6百万円4千7百万円-2千0百万円1千7百万円
純資産の部計465億5千1百万円334億2千0百万円355億7千3百万円354億3千2百万円369億3千4百万円
負債・純資産合計484億7千3百万円353億4千7百万円369億1千7百万円371億7千7百万円394億7千7百万円

貸借対照表でまずチェックしたい箇所は、純資産の部です。
総資産に対する純資産の比率である「自己資本比率」が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
例えば自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされています。
自己資本比率が10%を下回っている場合は、経営状態は良いとは言えません。

自己資本比率が低い場合は、借入金などの負債が多いので、資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で、自己資本比率が高い場合は、返済義務を有しない資金を大量に抱えているので、倒産リスクは低くなると考えられます。

自己資本比率は、中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、自己資本比率は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は、最低でも20%程度はあると安心です。

逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は、最低でも15%程度は欲しいところです。

のれん:その会社が持つ技術やブランドで、目には見えない価値の高い資産のこと

貸借対照表の左右(運用状況と調達状況)の合計額は必ず一致する
「資産」=「負債」+「純資産」という計算式が成り立つことから、貸借対照表のことをバランスシート(Balance Sheet)またはビーエス (B/S) と呼ぶこともある

東京博善の自己資本比率は93.56%

自己資本比率は「自己資本比率(%)=純資産÷総資産×100」で求めることができます。
東京博善の、2024年3月期の自己資本比率を求める式は、下記のようになります。

369億3千4百万円 ÷ 394億7千7百万円=93.56% 

上記の式から同社の自己資本比率は、93.56%(前年比1.75%減)となっています。

東京博善の経営状況は安定しており、全く問題ない状態といえるでしょう。

東京博善の利益剰余金の推移

利益剰余金とは、簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずに、コツコツと社内で貯めたお金です。
正確な会計用語ではないですが、利益剰余金のことを内部留保とも言います。

内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。
利益剰余金は、貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。

内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で経営が赤字になった際に、従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため企業が生き残るための重要な資金源となります。

東京博善の場合は、以下のように推移しております。

東京博善の2024年3月期における利益剰余金は、392億3千2百万円(前年同期比3.9%増)となりました。
2020年から毎年微減を続けていましたが、2024年には15億円近く増加し、堅調に積み上げられています。

東京博善の損益計算書

損益計算書とは、企業が1年間の経営状況を把握するために作成される資料で、P/L(profit and loss statement)とも呼ばれます。

損益計算書を確認することで、当該企業が「どれだけ売り上げ(=収益)」「費用を何に使って(=費用)」「どれくらいの儲けが出たのか(=利益)」が一目で分かるものです。特に注目したい項目は、売上高・営業利益・経常利益・当期純利益となります。

決算期154期155期156期157期158期
会計年度2020年3月期2021年3月期2022年3月期2023年3月期2024年3月期
売上高87億3千6百万円83億3千3百万円93億4千7百万円110億0千2百万円131億9千1百万円
売上原価49億8千5百万円47億4千2百万円50億1千7百万円54億8千8百万円52億7千6百万円
売上総利益37億5千1百万円35億9千1百万円43億3千0百万円55億1千4百万円79億1千5百万円
販売費及び一般管理費11億8千6百万円11億5千4百万円12億6千1百万円23億3千8百万円29億3千5百万円
営業利益25億6千5百万円24億3千7百万円30億6千9百万円31億7千6百万円49億8千0百万円
営業外収益1億2千7百万円5千8百万円1億4千6百万円5千0百万円6千5百万円
営業外費用3百万円3百万円4千3百万円1千5百万円0百万円
経常利益26億8千9百万円24億9千2百万円31億7千2百万円32億1千1百万円50億4千5百万円
特別利益0百万円0百万円0百万円0百万円0百万円
特別損失2億3千2百万円1億3千4百万円1億0千2百万円3千5百万円7百万円
税引前当期純利益24億5千7百万円23億5千8百万円30億6千9百万円31億7千6百万円50億3千8百万円
法人税、住民税及び事業税5億8千4百万円7億0千5百万円9億7千4百万円11億9千8百万円14億2千4百万円
法人等調整額1億7千2百万円3千1百万円-2千6百万円-7千0百万円9千8百万円
当期純利益17億0千0百万円16億2千2百万円21億2千2百万円20億4千9百万円35億1千7百万円

東京博善の損益計算書を確認すると、売上高、経常利益、営業利益がすべて増加しており、財務状況は安定しているといえそうです。

ここからは、各項目の推移をグラフでご紹介します。

売上金額の推移

東京博善の2024年3月期の売上金額は、131億9千1百万円(前年同期比19.9%増)となりました。
2021年3月期にはわずかに減少しましたが、翌年には増加に転じその後は順調に回復しています。

営業利益の推移

営業利益とは、おもな営業活動で得られた「売上総利益」から販管費(=販売費および一般管理費)を差し引いたもので、1年間の本業における利益を表す数字です。

つまり、どのくらい本業で儲ける能力があるかを表す数字となります。
葬儀業界でいえば、葬儀施行や葬儀付帯業務(会食・返礼品など)による利益が、営業利益にあたります。

東京博善の場合は、以下のように推移しております。

東京博善の2024年3月期における営業利益は、49億8千0百万円(前年同期比56.8%増)となりました。
2021年3月期にわずかな減少がありましたが、翌年からは増加に転じ、2024年3月期は前年より大幅に増加しています。

営業利益率(営業利益 ÷ 売上率 × 100)は37.75%となっており、優良水準とされる11%を大幅に上回っています。

経常利益の推移

経常利益は、企業が1年間で得たすべての利益を表す数字で「営業利益」+「営業外収益」-「営業外費用」で算出されます。
本業以外の稼ぎ(金融商品、株、為替などの取引で発生した利益)も含め、その会社全体でどれだけ稼ぐ力があるか分かります。

東京博善の場合は、以下のように推移しております。

東京博善の2024年3月期の経常利益は、50億4千5百万円(前年同期比57.1%増)と、前年に比べ20億円近くの増加となりました。
当期純利益も、35億1千7百万円(前年同期比71.6%増)となっていますので、経営状況は順調といえそうです。

東京博善 株式会社のまとめ

今回は東京博善 株式会社の決算公告を参考に、同社の財務状況や業績の推移を分析しました。
決算公告資料を見ても、財務健全性や経営状態に不安要素は感じられません。

近年では、東京23区内における高額な火葬費用に対して、各方面から問題提起がなされ始めており、これまでのような火葬費用の値上げは難しくなることが予想されます。
そのため広済堂ホールディングスでは、収益確保に向けて「葬祭収益セグメント」を強化するとともに、相続関連サービス「東京博善あんしんサポート」を軸とした「資産コンサルティングセグメント」の事業拡大を表明しています。

こうした動きを反映してか、東京博善の親会社である広済堂ホールディングスでは、これまでの「葬祭セグメント」を「葬祭公益セグメント(主に火葬事業)」と「葬祭収益セグメント(式場利用料や控室利用料・葬儀サービスなど)」に分割して開示しています。
東京博善の決算公告では、かねてより収益の分解情報も開示されていますが、上記のような事情もあってか、今期からより細分化されました。

こうした動向を考慮すると、今後の東京博善においては、火葬費用の値上げではなく、周辺領域での収益確保に注力する可能性が高そうです。

今後の事業運営が注目される、 東京博善の2025年3月期の決算公告が待たれます。

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