葬儀業界において、『よりそう』というと『よりそうお葬式』という葬儀ポータルで認知されています。
2022年3月7日には武田鉄矢さん、吉谷彩子さんを起用したよりそうのCMされており、消費者にも認知が高まっていっている状況です。
一方で事業全体としてはどのようなことをおこなっているか、資金調達の情報が度々発信される中、経営状態はどのようなものか、把握できる範囲でみていきたいと思います。(本記事は2022年5月9日時点に調査した内容をもとに構成しております。あらかじめご了承下さい。)
ビジネスモデル・事業について
『よりそう』様では『よりそうお葬式』以外にも、永代供養などライフエンディング領域全体に事業を展開しています。
ここでは『よりそう』様が現在展開している事業内容について詳しく紹介します。
現状の事業全体では
『よりそう』様が現時点で提供しているサービスは以下の通りです。
『よりそう』様が提供しているサービス内容は、葬儀から納骨までのサービスに集中しており、一見すると特筆すべき点はなさそうな印象です。
実際のところ「小さなお葬式」を運営するユニクエスト様や、「いい葬儀」を運営する鎌倉新書様も同様のサービスを提供しています。
ユニクエスト様は多角的な事業展開から葬儀領域への集中に方針を転換し、ネットだけでなく実店舗の運営に乗り出しました。
また鎌倉新書様は、介護や保険・生前契約から不動産相続サポートや遺品整理などの死後手続きまで、葬儀の前後に発生するイベント全体に対応する窓口を設けています。
一方『よりそう』様は、終活から死後手続きまでをワンストップで提供するための仕組みづくりを進めているようです。
そのための下地作りとして、これまでバラバラに展開していた葬儀周辺事業を『よりそう』ブランドに集約し、縦割りではなく横断的な組織への転換を進めています。
また目標達成のための人材確保にも着手していますが、こちらはやや難航しているようです。
今後は介護や看取りなどの生前サービスや、税理士や弁護士などと連携した相続サービスへの事業拡大も予想され、現在は将来に向けて足場固めといった様相です。
かつてAmazonに僧侶手配サービス「お坊さん便」を出品したり、Yahooショッピングに「シンプルなお葬式」を出店したりと、独特な戦略をとってきた『よりそう』様ですので、今後も予想外の動きがあるかもしれません。
主力事業『よりそうお葬式』について
中核事業である葬儀ポータルサイト『よりそうお葬式』は、定額料金で葬儀サービス(家族葬:3プラン・直葬:3プラン)を提供する「定額型」のビジネスモデルです。
同様のサービスには「小さなお葬式(ユニクエスト)」や「イオンのお葬式(イオンライフ)」などがあります。
しかし『よりそう』様が特徴的なのは、別タイプの葬儀ポータルサイトも運営している点です。
「くらべる葬儀(旧葬儀レビ」は、利用者が希望する地域の葬儀社の情報を提供し、最大5社から一括見積を取るサービスを提供しています。
利用者と葬儀社をつなげる役割を担う「紹介型」葬儀ポータルサイトで、同様のサービスの代表格が「いい葬儀(鎌倉新書)」です。
ただし、事業の中心を『よりそうお葬式』に置いているのは、原則的に提供サービスのURLを「yoriso.com」に集約した点からも明らかです。
このことから、今後展開する事業にも『よりそう』ブランドを用いると予想されます。
『よりそうお葬式』葬儀ポータルの競争激化
一定期間ではありますが、「定額型 葬儀ポータル」における価格競争が激化し、総額表示が課題となり『よりそうお葬式』「小さなお葬式」「イオンのお葬式」では消費者庁より景品表示法違反で指導を受けております。
小さなお葬式
1回目 2018年(平成30年)12月21日⇒景品表示法の周知徹底と指導のみ
引用:消費者庁 措置命令1回目
2回目 2021年(令和3年)7月2日⇒課徴金 1億180万円の支払い
引用:消費者庁 措置命令2回目
■景品表示法違反概要
「小さな火葬式」「小さな一日葬」「小さな家族葬」と称する葬儀サービスについて、「追加料金一切不要の安心価格プラン金額がお葬式にかかる全ての費用です。」などと記載し、あたかも必要な物品又は役務を追加又は変更する場合でも、同欄に記載された価格以外に追加料金が発生しないかのように表示していた。
実際には少なくとも、以下の事項に該当する場合には、追加料金が発生するものであった。
- 寝台車又は霊 柩車の搬送距離が50kmを超える場合
- 葬儀社等における安置日数が各プランの設定日数を超える場合
- 自宅における安置日数が各プラン設定日数を超え、ドライアイスを追加する場合
- 火葬場利用料が市民料金を超える場合
- 「小さな一日葬」と称する葬儀サービスの外部の式場利用料が50,000円を超える場合
- 「小さな家族葬」と称する葬儀サービスの外部の式場利用料が100,000円を超える場合
よりそうお葬式
1回目 2019年(令和元年)6月14日⇒景品表示法の周知徹底と指導のみ
引用:消費者庁 措置命令1回目
2回目 2020年(令和2年)3月27日⇒課徴金 417万円の支払い
引用:消費者庁 措置命令2回目
■景品表示法違反概要
自社ウェブサイト内の「全てセットの定額」と表示のタブをクリックすることにより表示されるウェブページにおいて、「必要なものが全てコミコミだから安心 この金額で葬儀ができます」などと表示することにより、あたかも必要な物品又は役務を追加又は変更する場合でも、表示された価格以外に追加料金が発生しないかのように表示していた。
実際には、以下の事項に該当する場合には、追加料金が発生するものであった。
- 寝台車又は霊柩車の搬送距離が1回最大50キロメートルを超える場合
- 葬儀社等における安置日数が4日を超えてドライアイスの追加が必要となる場合
- 火葬場利用料が1万5000円を超える場合又は式場利用料が5万円を超える場合
イオンのお葬式
1回目 2017年(平成29年)12月22日⇒景品表示法の周知徹底と指導のみ
引用:消費者庁 措置命令1回目
2回目 2019年(平成31年)4月12日⇒課徴金 179万円の支払い
引用:消費者庁 措置命令2回目
■景品表示法違反概要
「追加料金不要」と記載した上で、「家族葬498,000円(税込)」などと記載することにより、あたかも必要な物品又は役務を追加又は変更する場合でも、記載された価格以外に追加料金が発生しないかのように表示していた。
実際には少なくとも、以下の事項に該当する場合には追加料金が発生するものであった。
- 寝台車又は霊柩車の移動距離が50kmを超える場合
- 式場等における安置日数が4日を超える場合
- 自宅等における安置日数が4日を超え、ドライアイス等を追加する場合
- 式場利用料が50,000円(税込)を超える場合
- 火葬場利用料が15,000円を超える場合
定額型葬儀ポータルの現状
現状は価格競争は落ち着きをみせており、『定額型 葬儀ポータル』の最低価格は以下のようになっています。
- 小さなお葬式 :税込97,900円
- よりそうお葬式:税込89,100円
- イオンのお葬式:税込99,000円
- DMMのお葬式:税込143,000円
なおDMMフィナンシャルサービス様も、同様のサービス「DMMのお葬式」を運営しておりましたが、2022年4月25日に新規受付終了、5月31日をもって全サービスの提供終了をHP上で告知しています。市場競争の熾烈化による事業撤退ということで、新規受付終了当日の発表という異例の対応となったようです。 【「DMM のお葬式」全サービス終了のお知らせ】
これまでの事業展開
「よりそう」様がここに至るまでの事業展開として以下のような経緯があったようです。
もともと『よりそう』様は、葬儀だけでなく歯科医院や不動産に関する複数のレビューサイトを運営する「みんれび」として2009年にスタートしました。「みんれび」という社名は「みんなのレビュー」を省略したようです。
『よりそう』様の事業沿革は以下の通りです。
- 2009年3月 株式会社みんれび設立
- 2009年6月 葬儀比較サイト「葬儀レビ(現くらべる葬儀)」
- 2013年5月 僧侶派遣サービス「お坊さん便(現よりそうお坊さん便)」
- 2013年8月 「シンプルなお葬式(現よりそうお葬式)」
- 2014年4月 定額セット価格での「海洋散骨Umie(現よりそう海洋散骨)」
- 2014年5月 低価格の仏壇通販サイト「格安のお仏壇(現よりそう仏壇選び)」
- 2015年1月 「シンプルな永代供養墓(現よりそう永代供養墓)」
- 2015年12月 amazonに「お坊さん便」を出品
- 2017年8月 Yahoo!ショッピングに「シンプルなお葬式」出店
- 2018年6月 「みんれび」から「よりそう」に社名変更
現在では提供サービス名を『よりそう』ブランドに統一し、葬儀と納骨に範囲を絞って事業を展開しています。
決算公告の推移
『よりそう』様は非上場企業ですので、財務状況を確認する情報として決算公告がありました。
この情報から、重要情報としてあげてみたのが利益剰余金です。
利益余剰金とは、企業が生み出した利益を積み立てたお金で、会社内部に蓄積されているものを指します。 企業会計において貸借対照表の純資産の部に記載される、株主資本の一部です。 利益剰余金は利益準備金とその他利益剰余金で構成されています。
黒字経営の企業において、一般的に内部留保と呼ばれる利益剰余金は年々増加するのが一般的です。
『よりそう』様が公開している第9期(2018年)・第10期(2019年)・第11期(2020年)・第12期(2021年)の決算公告を確認すると、4期連続で当期純損失が発生しており、結果的に利益剰余金のマイナスが年々増加しています。
『よりそうお葬式』と同様の「定額型」葬儀ポータルサイトの運営企業としては、ユニクエスト様やイオンライフ様・DMMファイナンシャルサービス様があります。
しかし前述したように「DMMのお葬式」は実質的に撤退していますし、イオンライフ様の【第42期決算公告(2021年)】によると、利益剰余金は-2億6607万円となっています。
一方「小さなお葬式」を運営するユニクエスト様の経営状況は、順調に推移しているようで利益剰余金推移を比較すると、以下のようになっています。
利益剰余金のマイナスが増大し続ければ、最終的に債務超過に陥る可能性があります。
債務超過の状態が長くなれば資金ショートの危険性が高まり、経営が不安定になりかねません。
短期的には、さらなる増資などの方法が有効ですが、根本的な問題解決には経営状況の黒字転換が不可欠です。
こういった状況から今後の『よりそう』様については、如何に早く黒字転換できるかにかかっているといえるでしょう。
資金調達
『よりそう』様の第三者割当増資による資金調達額は、これまでに約63億円となっています。
ここ数年は赤字が続いている『よりそう』様に、これだけの資金が集まる理由は何なのでしょうか。
これまでの資金調達
2022年1月までに『よりそう』様は、シリーズEまでの大規模な資金調達を行ってきました。
これまで『よりそう』様が行ってきた資金調達の推移は以下の通りです。
2015年8月 シリーズ B 2億8,500万円
グローバル・ブレインがリード・インベスターを務め、三井住友海上キャピタルとSMBCベンチャーキャピタルが参加
この頃はまだ、代表取締役の芦沢雅治氏と取締役副社長兼COO秋田将志氏の二人が中心となり、提携葬儀社を増やしている段階でした。
葬儀社1軒1軒に電話で連絡を取ったり、葬儀社の集まりに顔を出したりしながら、認知度を高めていたようです。
2017年8月 シリーズ C 10億円
グロービス・キャピタル・パートナーズ、Spiral Ventures Japan、みずほキャピタルと既存投資家のグローバル・ブレイン、三井住友海上キャピタル、SMBCベンチャーキャピタルの計6社。
さらに日本政策金融公庫より資本性ローン及び新株予約権付融資を組み合わせた借入を実施。
当時は提携葬儀社も500社ほどでしたが、徐々に組織化が進み社外からも取締役を迎えています。
当時の役員は以下の通りです。
- 代表取締役 芦沢雅治氏
- 取締役副社長 秋田将志氏
- 取締役CFO 山田一慶氏
- 社外取締役 深山和彦氏(グローバル・ブレイン:パートナー)
- 新社外取締役 福島智史氏(グロービス・キャピタル・パートナーズ:ディレクター)
- 新社外取締役 嶋聡氏(元ソフトバンク顧問)
2019年9月2日 シリーズD 20億円
SBIインベストメント、三井住友トラスト・インベストメント、新生企業投資、南都銀行、山口キャピタル、AG キャピタル
この前年には創業メンバーの中原功寛氏が経営企画部部長として再参画し、同年4月には取締役COO(最高執行責任者)として篠崎新悟氏(元リクルート戸建・流通・請負営業統括本部長)を迎えています。
2022年1月12日 シリーズE 35億円
フィデリティ・インターナショナル、農林中金キャピタル、Sumisei Innovation Fund、博報堂DYベンチャーズ、Sony Innovation Fund by IGV、HT Asia Technology Fund、株式会社ヤマシタ
葬儀ポータルとして『よりそうお葬式』の認知度は徐々に向上しているものの、メインターゲット層である60~70代へのアプローチ不足を補うため、篠崎新悟氏参画後はマスプロモーションでの訴求を強化しています。
2020年より関東エリアでのCM放映を開始し、2022年3月7日から武田鉄矢さん、吉谷彩子さんをCMに起用しています。
【CM】よりそうお葬式「選べるプラン」篇 15秒
【CM】よりそうお葬式「喪主の不安」篇 15秒
【CM】よりそうお葬式「三重丸」編 30秒
よりそうに資金が集まる背景
高齢化が進む日本では、年間死亡者数が増加し続ける「多死社会」が2040年まで継続すると予想されており、ライフエンディング領域は投資対象として注目されています。
しかし大手葬儀社でも上場企業は7社で、葬儀ポータル運営企業で上場しているのは「いい葬儀」の鎌倉新書様のみです。
また大手葬儀ポータル「小さなお葬式」を運営するユニクエスト様は、アルファクラブ武蔵野様の子会社となっており、親会社も現在のところ上場する気配はありません。
上記のような事情から、今後上場が期待できる投資先として『よりそう』様に資金が集まっていると考えられます。
『よりそう』様が上場すれば支援企業は上場益が得られますし、豊富な資金により『よりそう』様の成長速度も一気に加速する可能性があります。
投資先が鎌倉新書様1社に絞られている葬儀ポータル領域では、『よりそう』様の業績さえ回復すれば、上場に成功する可能性は少なくありません。
こういった事情から、TVCMを放映することで『よりそうお葬式』の知名度を向上させ、一気に収益状況を改善して上場にこぎつけたいようです。
葬儀ポータルの今後
これまで葬儀ポータルサイトは、ネットでの集客と葬儀社への送客を事業の中核としてきました。
一般の利用者には分かりにくかった葬儀費用を明確化して、業界全体をけん引し、健全化した功績は大きいでしょう。
しかし価格競争が一段落し、葬儀費用のおおまかな価格相場が定着した現在では、集客と送客だけのビジネスモデルは通用しなくなっているようです。
葬儀ポータル運営企業も、それぞれ独自の方針を打ち出して、新たなビジネスモデルの構築を急いでいます。
介護や終活・相続などの葬儀周辺領域に間口を広げる、あるいは窓口を増やす企業もあれば、実店舗の運営やFC(フランチャイズ)戦略を取る企業もあります。
また葬儀業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に向けて、葬儀社向けの顧客管理システムの開発を進めている企業も増えているようです。
こういった事情から、今後は葬儀ポータルと各地の葬儀社様との関わり方も、大きく変わってくると予想されます。
送客する側と受ける側といった一方通行ではなく、相互協力といった形式になる可能性も少なくないでしょう。
まとめ
「家族葬」という葬儀形式が一般化した現在では、地方の中小葬儀社様も独自プランを設定するなど、葬儀費用の明瞭化が進んでいます。
またMEO対策を施して自社HPからの集客力を強化すれば、葬儀ポータルからの送客が不要になる中小葬儀社様も増加するでしょう。
『よりそう』様は、老後の不安や死後への心配を一貫してサポートする『ライフエンディング・プラットフォームの創出』を目標に掲げています。
葬儀業界全体も、ライフエンディング領域全体への業務拡大の動きが盛んになっていますので、この潮流に乗り遅れないよう地域密着型の葬儀社様も、万全の準備を進めておくことをおすすめします。