葬儀社の売上・利益・業績を調べる場合、上場しているなら決算発表情報・有価証券報告書をみれば分かります。非上場になると帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、売上・利益・業績の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。
今回は株式会社サンセルモの現状について、決算公告をもとに分析いたします。
決算公告は上場企業の決算資料ほど詳細ではありませんが、事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。
株式会社サンセルモの概要
株式会社サンセルモの歴史は、1968年に安田征史氏と実父の安田謙次氏によって設立された「株式会社熊本互助センター」と「株式会社八代婚礼センター」まで遡ります。
もともと質屋を営んでいた創業家ですが、1956年頃に婚礼で使用される晴れ着などの衣装を借りる方が増えたため、質屋から貸衣装店に事業を転換しました。
そして、互助会が発展していることに着目した謙次氏は、1966年頃に互助会の仕組みを熊本県で導入しました。
のちに「株式会社熊本互助センター」と「株式会社八代婚礼センター」の両社は統合されて「株式会社全日本互助センター」に一本化され、さらに1989年には「株式会社セルモ」に社名変更されています。
株式会社セルモは、「株式会社サンレー東京」より事業を継承するかたちで関東に進出し、セルモ関東本部とセルモ上総支社を開設しました。
その後も株式会社セルモは事業の拡大を継続していましたが、2004年にセルモ東京支社、2005年にセルモ千葉支社を分社化し、株式会社サンセルモとして展開を開始したようです。
現在、株式会社サンセルモでは冠婚葬祭互助会事業をはじめ、葬祭事業(玉泉院)、婚礼事業(代官山鳳鳴館、エルブライトハウス等)、ホテル事業を展開しております。
葬儀社の決算公告とは
決算公告資料はその会社が健全な経営を行っているかを確認できる計算書類となります。株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告といいます。
ただし、大会社については貸借対照表と合わせて損益計算書も公告することが義務付けられています。
次の2つの条件のうちいずれか1つが該当する株式会社は「大会社」という定義になります。
1つ目は資本金が5億円以上、2つ目は負債額が200億円以上の株式会社のいずれかとなります。
公告の方法は全部で3つあります。
- 官報に掲載
- 日刊新聞紙に掲載
- 電子公告(会社のウェブサイトに掲載)
決算公告の簡単な概要については以上になります。
なお上場企業の決算報告書(有価証券報告書)はEDINETで公開されており、誰でも閲覧可能です。
なぜ葬儀社は決算公告をおこなうのか?
大手葬儀社、あるいは葬儀・葬祭事業を長きにわたって営んでいる会社は、冠婚葬祭互助会を運営するケースが少なくありません。
冠婚葬祭互助会とは、冠婚葬祭などの行事に備えるために、毎月一定の掛金を複数回の支払いで積み立てるサービスです。
冠婚葬祭互助会の会員になることで、葬儀や婚礼といったライフイベントの際に会員割引を受けられるなど、さまざまな面で優遇されます。
一般的な専門葬儀社は、開業にあたって特に許認可は必要ありませんが、冠婚葬祭互助会は経済産業大臣の認可を受けた企業のみ行える事業です。

https://www.zengokyo.or.jp/about/gojokai/fabric/
会員から掛金として支払われた前受金は割賦販売法によって積み立てられた前受金の2分の1を次の何らかの方法で保全することが義務付けられています。
- 法務局への供託
- 経済産業省の指定する保証会社との供託委託契約締結
- 銀行や信託会社などの金融機関と供託委託契約締結
以上の3つの方法のいずれかを選択する必要があります。
また、経済産業省は割賦販売法に基づき互助会事業の経営指導や立入検査等を行っています。
なお現在、冠婚葬祭互助会事業者として登録されている事業者は以下より確認することができます。
経済産業省 前払式特定取引業者(冠婚葬祭互助会)許可事業者一覧
上記のように、冠婚葬祭互助会では政府・行政の認可団体として運営している側面があり、義務である決算公告を発表する事業者が多い状況です。
サンセルモの貸借対照表

貸借対照表でまずチェックしたい箇所は純資産の部です。総資産に対する純資産の比率である自己資本比率が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
例えば自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされています。自己資本比率が10%を下回っている場合は経営状態は良いとは言えません。
自己資本比率が低い場合は、借入金などの負債が多い状況と考えられますので、資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で自己資本比率が高い場合は、返済義務を有しない資金を大量に抱えているので、倒産リスクは低くなると考えられます。

自己資本比率は中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、適切な自己資本比率の目安は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は最低でも20%程度はあると安心です。
逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は最低でも15%程度は欲しいところです。
サンセルモの自己資本比率は8.76%
自己資本比率は「自己資本比率(%)=純資産÷総資産」の計算式で算出可能です。
サンセルモの2022年7月期の自己資本比率を求める式は下記のようになります。
32億3千2百万円(純資産)÷ 368億9千8百万円(総資産)
上記の式から同社の自己資本比率は8.76%(前年比で2.01ポイント)となりました。
サンセルモ 利益剰余金の推移
利益剰余金とは簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずにコツコツと社内で貯めたお金です。正確な会計用語ではないですが利益剰余金のことを内部留保とも言います。
内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。利益剰余金は貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。
内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で収益状況が悪化した際にも、従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため、企業が生き残るための重要な資金源となります。
サンセルモの場合は以下のように推移しております。

過去4年間の利益剰余金の成長率の推移は、2019年7月期は30億5千0百万円(前年比成長率は15.79%)、2020年7月期は27億9千3百万円(前年比成長率は-8.43%)、2021年7月期は23億1千8百万円(前年比成長率は-17.01%)、2022年7月期は29億1千5百万円(前年比成長率は25.75%)となっています。
新型コロナの影響が最も大きかった2020年から2021年にかけては、利益剰余金も減少していましたが、2022年7月期には大幅な回復をみせています。
この状態を考慮すると、2023年7月期には新型コロナ発生前の2019年7月期を上回る可能性も高そうです。
サンセルモの損益計算書
損益計算書を確認することで、当該企業が「どれだけ売り上げ(=収益)」「費用を何に使って(=費用)」「どれくらいの儲けが出たのか(=利益)」が一目で分かるものです。
特に注目したい項目は、売上高・営業利益・経常利益・当期純利益となります。
損益計算書

サンセルモの損益計算書を確認すると、重要ポイントである売上高・営業利益・経常利益・当期純利益のいずれについても、前年同期を上回っているのが分かります。
売上金額の推移

過去4年間の売上高の成長率の推移は、2019年7月期は80億4千2百万円(前年比成長率は-3.26%)、2020年7月期は67億9千0百万円(前年比成長率は-15.57%)、2021年7月期は59億1千0百万円(前年比成長率は-12.96%)、2022年7月期は70億2千3百万円(前年比成長率は18.83%)となっておりました。
サンセルモの売上高は、新型コロナの影響が最も大きかった2020年7月期〜2021年7月期こそ減少していましたが、2022年7月期は大幅な増加となっています。
営業利益の推移
営業利益とは、売上総利益から販管費(=販売費および一般管理費)を差し引いて算出されます。つまり、どのくらい本業で儲ける能力があるかを表す数字となります。

過去4年間の営業利益の成長率の推移は、2019年7月期は4億1千2百万円(前年比成長率は-49.2%)、2020年7月期は4億1千1百万円(前年比成長率は-0.24%)、2021年7月期は2億1千2百万円(前年比成長率は-48.42%)、2022年7月期は4億0千9百万円(前年比成長率は92.92%)となっておりました。
2019年7月期には69.80%だった売上原価率も、2022年7月期には65.95%まで改善しており、新型コロナが蔓延していた期間の徹底した企業努力がうかがえます。
事業活動による純粋な利益を表す営業利益率は「営業利益÷売上高」で求められますが、おおむね5%を超えると優良とされています
4億0千9百万円(営業利益) ÷70億2千3百万 円(売上高)
上記の式からサンセルモの営業利益率は5.82%となっています。
経常利益の推移
経常利益はその会社の実力が一番分かる数字で、本業以外の稼ぎ(金融商品、株、為替などの取引で発生した利益)も含めその会社全体でどれだけ稼ぐ力があるか分かります。

過去4年間の経常利益の成長率の推移は、2019年7月期は6億5千6百万円(前年比成長率は-41.74%)、2020年7月期は1億3千3百万円(前年比成長率は-79.73%)、2021年7月期は1億0千0百万円(前年比成長率は-24.81%)、2022年7月期は7億3千1百万円(前年比成長率は631%)となっておりました。
新型コロナの影響が最も大きかった2020年・2021年は減少していたサンセルモの経常利益ですが、2022年7月期は新型コロナ発生前の2019年7月期を上回るほどの回復をみせています。
株式会社サンセルモのまとめ
今回はサンセルモの決算公告を分析しました。
利益剰余金、売上高、営業利益、経常利益全て増加しており、コロナの影響から回復している様子が伺えます。
同社は近年、祭壇マッピング(プロジェクションマッピング技術)の葬儀会場(玉泉院 袖ヶ浦会館)を始めるなど、新しい取り組みを行っており、2023年7月期の決算が待たれるところです。
葬研では、今後もサンセルモの動向に注目していきたいと思います。