故人様を見送った後、ご遺族様が向き合うことになる大きな課題の一つが「相続」です。葬儀社で働く皆さまは、ご遺族様と接する機会が多く、時に相続に関するご質問を受けることもあるでしょう。
「相続税はいくらかかるの?」「申告は必要?」といった疑問に対して、基本的な知識をお持ちいただくことで、ご遺族様の不安を少しでも和らげるサポートができます。
この記事では、相続税の課税条件や相続税をざっくりと把握できる早見表、具体的な計算方法まで、専門知識がなくても理解できるように解説していきます。葬儀後のご遺族様との対話の中で活用できる知識として、ぜひお役立てください。
相続税はすべての人が払うわけではない

相続が発生したからといって、必ずしも相続税を支払う必要があるわけではありません。実際には、相続税が課税されるケースは一部に限られています。相続税が課税されるかどうかは、「相続税の基礎控除額」という金額が基準となります。
故人様の財産から債務(借金など)と葬式費用を差し引いた「正味の財産額」が、この基礎控除額を超える場合にのみ、相続税が課税されるのです。

基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」という計算式で求められます。例えば、ご遺族様が配偶者のみ(1人)の場合は3,600万円、配偶者と子1人(2人)の場合は4,200万円、配偶者と子2人(3人)の場合は4,800万円といったように、ご遺族様の人数が増えるほど基礎控除額も大きくなります。
法定相続人について詳しくは『相続税基本のきVol.3_相続税は誰が対象になるのか?』で解説しています。
このように相続税の課税条件を考えると、故人様の残された財産が比較的少ない場合や、ご遺族様の数が多い場合には、相続税の支払いが発生しないことも多いのです。たとえば、令和5年に発生した相続で、相続税申告が必要な割合は全体の約9.9%でした(国税庁の「相続税の申告実績の概要」より)。
相続税をざっくり把握できる早見表

相続税の計算は非常に複雑なため、多くの税理士事務所が運営するウェブサイトでは、「相続税額をざっくり知りたい」という方に向けて、早見表を提供しています。この記事でも、相続税の概要を把握するための早見表をご紹介します。
まず早見表を利用する際には、正味の財産額を算出する必要があります。以下の相続財産のうち、不動産や有価証券、個人財産や事業用財産についてはそれぞれ、国税庁が定める計算ルールに基づいて価値算出を行います。

相続財産の種類について詳しくは『相続税基本のきVol.1_相続税ってどんな財産にかかるの?』で解説しています。
なお、相続税には故人様の配偶者が相続した財産のうち、「1億6,000万円」または「法定相続分」のいずれか大きい金額までについては、相続税が課されなくなる「配偶者の税額軽減」という制度があります。そのため、相続人に配偶者がいるか否かで早見表を分けて作成しています。
相続人に配偶者がいる場合の相続税早見表
相続人の中に配偶者がいる場合の、家族全体の相続税の目安額は以下の通りです。なお、早見表は法定相続分(民法が定める財産の分け方)に従って遺産分割したケースを想定しています。
| 正味の財産額 | 配偶者+子ども1人 | 配偶者+子ども2人 | 配偶者+子ども3人 | 配偶者+子ども4人 |
|---|---|---|---|---|
| 5,000万円 | 40万円 | 10万円 | 0 | 0 |
| 6,000万円 | 90万円 | 60万円 | 30万円 | 0 |
| 7,000万円 | 160万円 | 113万円 | 80万円 | 50万円 |
| 8,000万円 | 235万円 | 175万円 | 138万円 | 100万円 |
| 9,000万円 | 310万円 | 240万円 | 200万円 | 163万円 |
| 1億円 | 385万円 | 315万円 | 262万円 | 225万円 |
| 1.5億円 | 920万円 | 747万円 | 665万円 | 587万円 |
| 2億円 | 1,670万円 | 1,350万円 | 1,217万円 | 1,125万円 |
| 2.5億円 | 2,460万円 | 1,985万円 | 1,800万円 | 1,687万円 |
| 3億円 | 3,460万円 | 2,860万円 | 2,540万円 | 2,350万円 |
| 5億円 | 7,605万円 | 6,555万円 | 5,962万円 | 5,500万円 |
| 10億円 | 1億9,750万円 | 1億7,810万円 | 1億6,635万円 | 1億5,650万円 |
※正味の財産額は、基礎控除を差し引く前の金額です。
相続人に配偶者がいない場合の相続税早見表
次に、配偶者が先に亡くなっている場合など、相続人の中に配偶者がいないときの家族全体の相続税の目安額です。なお、こちらの早見表も法定相続分(民法が定める財産の分け方)に従って遺産分割したケースを想定しています。
| 正味の財産額 | 子ども1人 | 子ども2人 | 子ども3人 | 子ども4人 |
|---|---|---|---|---|
| 5,000万円 | 160万円 | 80万円 | 20万円 | 0 |
| 6,000万円 | 310万円 | 180万円 | 120万円 | 60万円 |
| 7,000万円 | 480万円 | 320万円 | 220万円 | 160万円 |
| 8,000万円 | 680万円 | 470万円 | 330万円 | 260万円 |
| 9,000万円 | 920万円 | 620万円 | 480万円 | 360万円 |
| 1億円 | 1,220万円 | 770万円 | 630万円 | 490万円 |
| 1.5億円 | 2,860万円 | 1,840万円 | 1,440万円 | 1,240万円 |
| 2億円 | 4,860万円 | 3,340万円 | 2,460万円 | 2,120万円 |
| 2.5億円 | 6,930万円 | 4,920万円 | 3,960万円 | 3,120万円 |
| 3億円 | 9,180万円 | 6,920万円 | 5,460万円 | 4,580万円 |
| 5億円 | 1億9,000万円 | 1億5,210万円 | 1億2,980万円 | 1億1,040万円 |
| 10億円 | 4億5,820万円 | 3億9,500万円 | 3億5,000万円 | 3億1,770万円 |
※正味の財産額は、基礎控除を差し引く前の金額です。
5ステップでわかる相続税の計算方法

ここからは、相続税の計算方法を5つのステップに分けて紹介します。複雑に感じるかもしれませんが、以下の流れで順を追って見ていけば、相続税の計算方法を十分理解できます。

ステップ1:故人様の正味の財産額を計算する
相続税を計算する最初のステップは、故人様が残した「正味の財産額」を把握することです。正味の財産額とは、故人様が所有していたすべての財産の総額から、債務や葬式費用を差し引いた金額を指します。
まず、財産の総額を把握する必要があります。財産には様々な種類があり、現金や預貯金、不動産(土地・建物)、有価証券(株式・投資信託など)といった一般的なものから、生命保険金や死亡退職金、美術品・貴金属・骨董品なども含まれます。
次に、財産の総額から「債務」と「葬式費用」を差し引きます。債務には住宅ローンなどの借入金や、まだ納めていなかった税金など、故人様が確実に返済や支払い、納税すべきだったものが含まれます。葬式費用については、お通夜やお葬式当日の費用、戒名料、納骨費用などが対象となります。ただし、初七日や四十九日の法要費用、香典返しの費用は葬式費用には含まれませんのでご注意ください。
ご遺族様がこの「正味の財産額」を正確に把握するには、銀行や証券会社、不動産関連の書類など様々な資料を集める必要があります。故人様の財産状況を生前から把握しておくことが理想的ですが、葬儀の際に初めて相続の話が出ることも少なくありません。そのような場合には、財産や債務を把握するところから始まります。
ステップ2:基礎控除額を引いて課税対象額を計算する
ステップ1で故人様の「正味の財産額」が算出できたら、次はこの金額から「相続税の基礎控除額」を差し引いて、実際に相続税が課税される対象となる金額(課税対象額)を計算します。
相続税の基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算できます。前述したように、正味の財産額が基礎控除額を下回る場合は、相続税の申告・納付は不要です。
ステップ3:課税対象額を法定相続分で分ける
相続税の計算は、ステップ3からステップ5にかけて少し複雑な流れになります。

まずステップ3では、課税対象額を各相続人の法定相続分にしたがって分けます。
次にステップ4で相続人ごとに分けた金額に、相続税の税率をかけて、各相続人の相続税額を計算します。
「仮に法定相続分で分けた場合に、各相続人が支払う相続税」を計算するということです。そしてそれらを合計して家族全体にかかる相続税を求めます。
最後にステップ5で、家族全体にかかる相続税を、実際の相続分に応じて再配分するという流れです。
回りくどく感じるかもしれませんが、相続税の計算ルールとしてこのような手順が定められています。
それでは「ステップ3:課税対象額を法定相続分で分ける」に入ります。
「法定相続分」とは、民法が定める財産の分け方の割合です。必ずしもこの割合で遺産分割する必要はありませんが、相続税の計算をする際には、一度この法定相続分で分割する工程があるのです。
相続人の構成によって、法定相続分は以下のように変わります。
- 配偶者と子1人の場合:配偶者が2分の1、子が2分の1
- 配偶者と子2人の場合:配偶者が2分の1、子がそれぞれ4分の1ずつ
- 配偶者のみの場合:配偶者が全て
- 子のみ3人の場合:子がそれぞれ3分の1ずつ
この法定相続分に基づいて、ステップ2で求めた課税対象額を各ご遺族様に分配します。
この分配によって得られた金額を「法定相続分に応ずる取得金額」と呼びます。
相続税の税率はこの「法定相続分に応ずる取得金額」に対して適用されるということです。
ステップ4:家族全体にかかる相続税を計算する
ステップ3で各相続人の「法定相続分に応ずる取得金額」が算出できたら、次はその金額に相続税の税率を適用して、「仮に法定相続分で分けた場合に、各相続人が支払う相続税」を計算します。
相続税には、金額に応じて税率が段階的に高くなる「累進課税方式」が採用されています。取得金額が大きくなるほど税率も高くなるという仕組みで、税率の適用が非常に複雑なため、以下のような計算表を用いて計算されることが多いです。
相続税の速算表
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | - |
| 1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
この表を使って計算する際は、「法定相続分に応ずる取得金額×税率-控除額」という計算式を用います。
この段階で、家族全体として支払う相続税の金額が確定します。
ステップ5:相続人それぞれの相続税を計算する
ステップ4で「相続税の総額」を計算したら、最後のステップとして、この総額を実際の遺産分割の割合に応じてご遺族様に配分します。これまでの計算は「法定相続分」に基づいて行ってきましたが、実際の遺産分割は必ずしも法定相続分通りになるとは限りません。
なお、実際には配偶者の相続には「配偶者の税額軽減」が適用できるため、「1億6,000万円」または「法定相続分」のいずれか大きい金額までについては、相続税が非課税になります。
まとめ
この記事では、相続税の基本的な仕組みを、「課税される条件」「ざっくりとした税額の把握できる早見表」「具体的な計算方法」という流れで解説してきました。特にご遺族様が求めているのは「相続税をざっくりとでいいから把握したい」という点でしょう。そのような場合には、相続税早見表をお見せすれば、大まかな税額のイメージをつかんでもらうことができます。
なお、記事内で解説した相続税の基礎控除額は、2015年1月1日の相続税制改正により大幅に引き下げられたという経緯があります。その結果、相続税の納付が必要になった件数は、前年の52,572件から一気に103,043件へと倍増しました(課税件数の推移はこちら)。ご遺族様の中には、税制改正以前の基礎控除額をもとに納付義務の有無や、相続税額を計算している方もいらっしゃるかもしれません。
そのため、この記事で解説した相続税の基礎知識を正しく理解し、ご遺族様に適切な情報をお伝えできれば、申告漏れや計算ミスによる追加課税などのトラブルを防ぎ、ご遺族様の心理的・経済的負担を軽減することができます。
葬儀社として、このような知識を活かし、ご遺族様の相続に関する不安にも寄り添えることが、信頼関係の構築につながり、長期的な関係性を築く上で大きな強みとなるでしょう。


