相続税の基本のきVol.5 相続税額をざっくり把握する方法は?一般公開

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故人様を見送った後、ご遺族様が向き合うことになる大きな課題の一つが「相続」です。葬儀社で働く皆さまは、ご遺族様と接する機会が多く、時に相続に関するご質問を受けることもあるでしょう。

「相続税はいくらかかるの?」「申告は必要?」といった疑問に対して、基本的な知識をお持ちいただくことで、ご遺族様の不安を少しでも和らげるサポートができます。

この記事では、相続税の課税条件や相続税をざっくりと把握できる早見表、具体的な計算方法まで、専門知識がなくても理解できるように解説していきます。葬儀後のご遺族様との対話の中で活用できる知識として、ぜひお役立てください。

葬儀社なら知っておきたい相続税の基本解説

Vol.1_相続税ってどんな財産にかかるの?
Vol.2_相続税の相談は誰にすればよい?
Vol.3_相続税は誰が対象になるのか?
Vol.4_相続を放棄すれば相続税は支払わなくて良い?
・Vol.5_相続税額をざっくり把握する方法は?(本記事)
Vol.6_相続税を安くする方法はある?
Vol.7_遺産はどのように分割する?
Vol.8_相続税が払えない場合はどうする?
Vol.9_相続すると相続税以外の税金もかかる?
Vol.10_生活保護を受給していても相続できる?
Vol.11_単身者の相続はどうなる?
Vol.12_相続でよくあるトラブルとその対策は?
Vol.13_配偶者(夫・妻)が相続すると相続税がかからない?
Vol.14_相続が始まると銀行口座が凍結される?
Vol.15_相続手続きに必要な書類は?
Vol.16_相続と贈与の違いは?
Vol.17_相続税の税務調査とは?
Vol.18_相続税と葬儀費用・祭祀財産との関係は?
Vol.19_遺産は寄付できる?寄付先はどこ?
Vol.20_デジタル遺産の相続や管理は?

目次

相続税はすべての人が払うわけではない

相続が発生したからといって、必ずしも相続税を支払う必要があるわけではありません。実際には、相続税が課税されるケースは一部に限られています。相続税が課税されるかどうかは、「相続税の基礎控除額」という金額が基準となります。

故人様の財産から債務(借金など)と葬式費用を差し引いた「正味の財産額」が、この基礎控除額を超える場合にのみ、相続税が課税されるのです。

基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」という計算式で求められます。例えば、ご遺族様が配偶者のみ(1人)の場合は3,600万円、配偶者と子1人(2人)の場合は4,200万円、配偶者と子2人(3人)の場合は4,800万円といったように、ご遺族様の人数が増えるほど基礎控除額も大きくなります。

法定相続人について詳しくは『相続税基本のきVol.3_相続税は誰が対象になるのか?』で解説しています。

このように相続税の課税条件を考えると、故人様の残された財産が比較的少ない場合や、ご遺族様の数が多い場合には、相続税の支払いが発生しないことも多いのです。たとえば、令和5年に発生した相続で、相続税申告が必要な割合は全体の約9.9%でした(国税庁の「相続税の申告実績の概要」より)。

相続税をざっくり把握できる早見表

相続税の計算は非常に複雑なため、多くの税理士事務所が運営するウェブサイトでは、「相続税額をざっくり知りたい」という方に向けて、早見表を提供しています。この記事でも、相続税の概要を把握するための早見表をご紹介します。

まず早見表を利用する際には、正味の財産額を算出する必要があります。以下の相続財産のうち、不動産や有価証券、個人財産や事業用財産についてはそれぞれ、国税庁が定める計算ルールに基づいて価値算出を行います。

相続財産の種類について詳しくは『相続税基本のきVol.1_相続税ってどんな財産にかかるの?』で解説しています。

なお、相続税には故人様の配偶者が相続した財産のうち、「1億6,000万円」または「法定相続分」のいずれか大きい金額までについては、相続税が課されなくなる「配偶者の税額軽減」という制度があります。そのため、相続人に配偶者がいるか否かで早見表を分けて作成しています。

相続人に配偶者がいる場合の相続税早見表

相続人の中に配偶者がいる場合の、家族全体の相続税の目安額は以下の通りです。なお、早見表は法定相続分(民法が定める財産の分け方)に従って遺産分割したケースを想定しています。

正味の財産額配偶者+子ども1人配偶者+子ども2人配偶者+子ども3人配偶者+子ども4人
5,000万円40万円10万円00
6,000万円90万円60万円30万円0
7,000万円160万円113万円80万円50万円
8,000万円235万円175万円138万円100万円
9,000万円310万円240万円200万円163万円
1億円385万円315万円262万円225万円
1.5億円920万円747万円665万円587万円
2億円1,670万円1,350万円1,217万円1,125万円
2.5億円2,460万円1,985万円1,800万円1,687万円
3億円3,460万円2,860万円2,540万円2,350万円
5億円7,605万円6,555万円5,962万円5,500万円
10億円1億9,750万円1億7,810万円1億6,635万円1億5,650万円

※正味の財産額は、基礎控除を差し引く前の金額です。

相続人に配偶者がいない場合の相続税早見表

次に、配偶者が先に亡くなっている場合など、相続人の中に配偶者がいないときの家族全体の相続税の目安額です。なお、こちらの早見表も法定相続分(民法が定める財産の分け方)に従って遺産分割したケースを想定しています。

正味の財産額子ども1人子ども2人子ども3人子ども4人
5,000万円160万円80万円20万円0
6,000万円310万円180万円120万円60万円
7,000万円480万円320万円220万円160万円
8,000万円680万円470万円330万円260万円
9,000万円920万円620万円480万円360万円
1億円1,220万円770万円630万円490万円
1.5億円2,860万円1,840万円1,440万円1,240万円
2億円4,860万円3,340万円2,460万円2,120万円
2.5億円6,930万円4,920万円3,960万円3,120万円
3億円9,180万円6,920万円5,460万円4,580万円
5億円1億9,000万円1億5,210万円1億2,980万円1億1,040万円
10億円4億5,820万円3億9,500万円3億5,000万円3億1,770万円

※正味の財産額は、基礎控除を差し引く前の金額です。

5ステップでわかる相続税の計算方法

ここからは、相続税の計算方法を5つのステップに分けて紹介します。複雑に感じるかもしれませんが、以下の流れで順を追って見ていけば、相続税の計算方法を十分理解できます。

ステップ1:故人様の正味の財産額を計算する

相続税を計算する最初のステップは、故人様が残した「正味の財産額」を把握することです。正味の財産額とは、故人様が所有していたすべての財産の総額から、債務や葬式費用を差し引いた金額を指します。

正味の財産額 = 財産の総額 – (債務 + 葬式費用)

まず、財産の総額を把握する必要があります。財産には様々な種類があり、現金や預貯金、不動産(土地・建物)、有価証券(株式・投資信託など)といった一般的なものから、生命保険金や死亡退職金、美術品・貴金属・骨董品なども含まれます。

次に、財産の総額から「債務」と「葬式費用」を差し引きます。債務には住宅ローンなどの借入金や、まだ納めていなかった税金など、故人様が確実に返済や支払い、納税すべきだったものが含まれます。葬式費用については、お通夜やお葬式当日の費用、戒名料、納骨費用などが対象となります。ただし、初七日や四十九日の法要費用、香典返しの費用は葬式費用には含まれませんのでご注意ください。

具体例
故人様の財産総額が1億円で、債務と葬式費用の合計が1,000万円だった場合、
正味の財産額は9,000万円となります。

ご遺族様がこの「正味の財産額」を正確に把握するには、銀行や証券会社、不動産関連の書類など様々な資料を集める必要があります。故人様の財産状況を生前から把握しておくことが理想的ですが、葬儀の際に初めて相続の話が出ることも少なくありません。そのような場合には、財産や債務を把握するところから始まります。

ステップ2:基礎控除額を引いて課税対象額を計算する

ステップ1で故人様の「正味の財産額」が算出できたら、次はこの金額から「相続税の基礎控除額」を差し引いて、実際に相続税が課税される対象となる金額(課税対象額)を計算します。

課税対象額 = 正味の財産額 – 基礎控除額

相続税の基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算できます。前述したように、正味の財産額が基礎控除額を下回る場合は、相続税の申告・納付は不要です。

具体例
故人様の正味の財産額が9,000万円で、相続人が配偶者と子2人の場合
基礎控除額は4,800万円なので、課税対象額は「9,000万円-4,800万円=4,200万円」となります。つまり、この4,200万円に対して相続税が課税されることになります。

ステップ3:課税対象額を法定相続分で分ける

相続税の計算は、ステップ3からステップ5にかけて少し複雑な流れになります。

まずステップ3では、課税対象額を各相続人の法定相続分にしたがって分けます。
次にステップ4で相続人ごとに分けた金額に、相続税の税率をかけて、各相続人の相続税額を計算します。
「仮に法定相続分で分けた場合に、各相続人が支払う相続税」を計算するということです。そしてそれらを合計して家族全体にかかる相続税を求めます。
最後にステップ5で、家族全体にかかる相続税を、実際の相続分に応じて再配分するという流れです。

回りくどく感じるかもしれませんが、相続税の計算ルールとしてこのような手順が定められています。

それでは「ステップ3:課税対象額を法定相続分で分ける」に入ります。
「法定相続分」とは、民法が定める財産の分け方の割合です。必ずしもこの割合で遺産分割する必要はありませんが、相続税の計算をする際には、一度この法定相続分で分割する工程があるのです。

相続人の構成によって、法定相続分は以下のように変わります。

  • 配偶者と子1人の場合:配偶者が2分の1、子が2分の1
  • 配偶者と子2人の場合:配偶者が2分の1、子がそれぞれ4分の1ずつ
  • 配偶者のみの場合:配偶者が全て
  • 子のみ3人の場合:子がそれぞれ3分の1ずつ

この法定相続分に基づいて、ステップ2で求めた課税対象額を各ご遺族様に分配します。

具体例
課税対象額が4,200万円で、ご遺族様が配偶者と子2人の場合、以下のように分配されます。
・配偶者:4,200万円 × 1/2 = 2,100万円
・子(長男):4,200万円 × 1/4 = 1,050万円
・子(長女):4,200万円 × 1/4 = 1,050万円

この分配によって得られた金額を「法定相続分に応ずる取得金額」と呼びます。
相続税の税率はこの「法定相続分に応ずる取得金額」に対して適用されるということです。

ステップ4:家族全体にかかる相続税を計算する

ステップ3で各相続人の「法定相続分に応ずる取得金額」が算出できたら、次はその金額に相続税の税率を適用して、「仮に法定相続分で分けた場合に、各相続人が支払う相続税」を計算します。

相続税には、金額に応じて税率が段階的に高くなる「累進課税方式」が採用されています。取得金額が大きくなるほど税率も高くなるという仕組みで、税率の適用が非常に複雑なため、以下のような計算表を用いて計算されることが多いです。

相続税の速算表

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
1,000万円超から3,000万円以下15%50万円
3,000万円超から5,000万円以下20%200万円
5,000万円超から1億円以下30%700万円
1億円超から2億円以下40%1,700万円
2億円超から3億円以下45%2,700万円
3億円超から6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

この表を使って計算する際は、「法定相続分に応ずる取得金額×税率-控除額」という計算式を用います。

具体例
「法定相続分に応ずる取得金額」が2,100万円の配偶者の場合は、
1,000万円超から3,000万円以下の区分に該当するため、税率15%、控除額50万円が適用されます。計算すると、「2,100万円 × 15% – 50万円 = 265万円」となります。

同様に、「法定相続分に応ずる取得金額」が1,050万円の子の場合も、
1,000万円超から3,000万円以下の区分となるため、「1,050万円 × 15% – 50万円 = 107.5万円」と計算されます

このようにして、すべてのご遺族様の税額が計算できたら、それらを合計して「相続税の総額」を求めます。この例では、「265万円+107.5万円+107.5万円=480万円」が相続税の総額となります。

この段階で、家族全体として支払う相続税の金額が確定します。

ステップ5:相続人それぞれの相続税を計算する

ステップ4で「相続税の総額」を計算したら、最後のステップとして、この総額を実際の遺産分割の割合に応じてご遺族様に配分します。これまでの計算は「法定相続分」に基づいて行ってきましたが、実際の遺産分割は必ずしも法定相続分通りになるとは限りません。

具体例
相続税の総額が480万円となった家族の場合を考えてみましょう。法定相続分では配偶者が2分の1、子2人がそれぞれ4分の1ずつとなりますが、実際の遺産分割では様々なパターンが考えられます。

①長男がすべての財産を相続することになった場合
相続税の総額480万円は全額長男が負担することになります。

②配偶者が財産の8割、子2人がそれぞれ1割ずつ相続することになった場合
相続税の総額480万円も同じ割合で分配されるため、配偶者は384万円(480万円×80%)、子はそれぞれ48万円(480万円×10%)の相続税を支払うことになります。

なお、実際には配偶者の相続には「配偶者の税額軽減」が適用できるため、「1億6,000万円」または「法定相続分」のいずれか大きい金額までについては、相続税が非課税になります。

まとめ

この記事では、相続税の基本的な仕組みを、「課税される条件」「ざっくりとした税額の把握できる早見表」「具体的な計算方法」という流れで解説してきました。特にご遺族様が求めているのは「相続税をざっくりとでいいから把握したい」という点でしょう。そのような場合には、相続税早見表をお見せすれば、大まかな税額のイメージをつかんでもらうことができます。

なお、記事内で解説した相続税の基礎控除額は、2015年1月1日の相続税制改正により大幅に引き下げられたという経緯があります。その結果、相続税の納付が必要になった件数は、前年の52,572件から一気に103,043件へと倍増しました(課税件数の推移はこちら)。ご遺族様の中には、税制改正以前の基礎控除額をもとに納付義務の有無や、相続税額を計算している方もいらっしゃるかもしれません。

そのため、この記事で解説した相続税の基礎知識を正しく理解し、ご遺族様に適切な情報をお伝えできれば、申告漏れや計算ミスによる追加課税などのトラブルを防ぎ、ご遺族様の心理的・経済的負担を軽減することができます。

葬儀社として、このような知識を活かし、ご遺族様の相続に関する不安にも寄り添えることが、信頼関係の構築につながり、長期的な関係性を築く上で大きな強みとなるでしょう。

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