葬儀・葬祭を取り扱う事業者と聞くと、いわゆる「葬儀屋さん」をイメージするかもしれませんが、実はさまざまな業種の事業者が関わっています。
主な事業者を挙げるだけでも、以下の8種類が存在します。
近年の葬儀業界は、葬儀の施行を取り扱う事業者だけで構成されているわけではありません。
上記のうち「葬儀ポータル」や「葬儀アフィリエイト」は、実際に葬儀を執り行うことはありませんが、集客の面で葬儀業界に大きな影響を与えています。
こういった事情から、葬儀業界全体の構造も複雑化しているため、以前に比べ分かりづらくなっています。
そこで葬研では、葬儀事業者を構成する事業者8種類について、それぞれ詳しく解説することにいたしました。
本記事では、インターネットに特化して葬儀サービスを展開する『葬儀ポータル』を取り上げて、事業の仕組みやメリット・デメリットについて紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
葬儀ポータルとは?
『葬儀ポータル』とは、インターネットを活用して葬儀関連の情報提供や集客を行うことで提携する葬儀社様にご遺族を送客する仲介サービスです。
葬儀社様とご遺族を結びつけるという意味で『マッチングサービス』とも呼ばれています。
葬儀ポータルは20年以上の歴史を持つ点にも注目です。
現在では約50社以上の業者が参入し、インターネットを活用した効果的な集客手段として広く利用されています。
行政側や業界内での呼称
葬儀ポータルがインターネットを通じて、葬儀の集客と仲介を行う役割を担っているため、行政側では葬儀ポータルを「ネット葬儀事業者」「葬儀ブローカー」と呼び、業界内では「ネット葬儀社」や「葬儀送客事業者」とも呼ばれています。
葬儀ポータルのビジネスモデル
葬儀ポータルは、葬儀の施行を希望する消費者をインターネットを活用して集め、該当地域内の提携葬儀社に送客し、紹介手数料を得ることで成り立っています。
これまでの葬儀業界では、葬送という宗教儀式に携わる業務の特殊性もあり、集客のための広報活動に消極的な傾向がありました。
しかし近年の葬儀業界では新規参入が相次いで競争が激化し、積極的な集客対策が不可欠な状況となっています。
また一般消費者にとっても、葬儀に関する情報は家族や知人からの口コミ程度だったため、何となく分かりずらい部分が多かったようです。
葬儀費用の内訳も一般の方にとっては複雑で分かりづらく、信頼できる葬儀社を探すのも一苦労といった状況が続いていました。
そんな状況にビジネスチャンスを見出したIT企業などが立ち上げたのが、少ない投資で新規参入が可能な葬儀ポータル事業です。
葬儀ポータルは利用者にとって葬儀に関する有益な情報を提供し、利便性を高めることで効率的に集客をおこない、順調に業績を伸ばしているかにみえました。
ところが、そんな葬儀ポータル業界にも新規参入が相次ぎ、過当競争状態に陥ったことにより、過度の値下げ合戦が繰り広げられました。
現在では値下げ競争も落ち着きつつあるといわれていますが、すでに葬儀ポータルというビジネスモデルも過渡期に直面し、変革を余儀なくされている状況といえるでしょう。
葬儀ポータルの種類
葬儀ポータルの主な運営手法は「定額型」と「紹介型」です。
両者ともお客様にとって便利な葬儀手続きや情報提供を目指していますが、運営手法によって異なるサービスを提供していることがわかります。
「定額型」と「紹介型」について詳しくご紹介いたします。
定額型
『定額型』は、葬儀プランの内容や価格を葬儀ポータル側が設定し、各地の葬儀社にプラン通りの葬儀施行を委託する、現在では主流の形式です。
代表的な例としては、以下があります。
定額型では葬儀ポータル側が葬儀社様に代わって集客を行い、提携する葬儀社様にお客様を送客します。
定額型葬儀ポータルでは価格やサービス内容が統一されています。
お客様は掲載されているプランからご希望の葬祭プランを選べるため、手続きがスムーズです。
一方で葬儀社側では、自社で集客したお客様と葬儀ポータルサイト経由でのお客様との間で、価格やサービスの質など差異が生じることもあります。
紹介型
『紹介型』とは、お客様のご希望に合った葬儀社様を紹介する、仲介業者的な立ち位置のサービスです。
お客様の情報を伺い、複数の葬儀社様から比較検討できるようサポートします。
代表的な紹介型葬儀ポータルは、鎌倉新書様が提供する「いい葬儀」です。
紹介型葬儀ポータルサイトでは、葬儀プランや価格設定は葬儀社様が行うため、採算の合わない無理な受け入れをしなくても済みます。
一方で、紹介型葬儀ポータルサイトでは、お客様に選ばれるための魅力的な葬儀プラン開発が必要です。
葬儀ポータルのメリット・デメリット
葬儀ポータルのメリットとデメリットを把握するために、以下のポイントに注目しましょう。
- 葬儀ポータルは情報の窓口として、葬儀に関する情報を提供している
- 自社で葬祭事業を営んでいない傾向にあるため、葬儀ポータルサイト本体の集客力が重要である
- 葬儀ポータルの利便性はお客様にとって最大のメリットである
- 葬儀ポータル業界内での競争が、今後も激化する可能性がある
- 葬儀ポータル事業を継続するためには集客力が生命線となるため、常にお客様のニーズに応える必要がある
以上の点を考慮しながら、葬儀ポータルのメリットとデメリットを詳しく解説していきます。
メリット
葬儀ポータルのメリットは、お客様の目線と葬儀社様の目線の2視点から考えるとわかりやすいです。
お客様視点 | 葬儀社様視点 |
葬儀の情報や葬儀の価格が分かりやすく表示されている 各葬儀社様のプランを比較しやすく、必要な費用が明確である 支払方法も明記されており、クレジットカードやローンなどの選択肢が事前に選べる | 自社の認知度が向上する 集客率の向上が期待できる ゼロからホームページを制作する手間や費用を削減できる ホームページがなくても効果的に集客できる |
具体的な葬儀ポータルのメリットについて、利用者の視点と事業者の視点から解説していきましょう。
お客様側の視点
お客様にとって葬儀ポータル最大のメリットは、利便性です。
具体的には、以下の利便性が考えられます。
- 葬儀の情報や葬儀の価格が分かりやすく表示されている
- 各葬儀社様のプランを比較しやすく、必要な費用が明確である
- 支払方法も明記されており、クレジットカードやローンなどの選択肢が事前に選べる
葬儀ポータル登場以前は、一般の方にとって葬儀に関する情報が不足していたことから、費用やプランの比較が困難でした。
しかし、葬儀ポータルサイトの登場により、各葬儀ポータルサイトや葬儀社様の価格プランを比較しやすくなりました。
さらに、お客様にとって分かりやすい費用や支払方法が明記されるように変化。
一方、地域密着型の葬儀社様のホームページでは、現在でも支払方法に関する情報が不足している場合があります。
葬儀ポータルの普及により、これまで一般の方がわからなかった葬儀に関する情報の透明性と、希望に合った葬儀プラン選択の一助となっていることがわかります。
葬儀社側の視点
葬儀ポータルのメリットを葬儀社様側の視点から考えてみましょう。
葬儀社様が得られるメリットは以下の通りです。
- 自社の認知度が向上する
- 集客率の向上が期待できる
- ゼロからホームページを制作する手間や費用を削減できる
- ホームページがなくても効果的に集客できる
知名度のある葬儀ポータルでは年間相談件数が数千〜数万件にものぼるため、業務提携することで集客率の向上が期待できます。
また葬儀ポータルに掲載されることで、認知度が上がる可能性もあります。
実際のところ、葬儀ポータルから利用者の紹介を受けていれば、公式ホームページがなくても集客は可能でしょう。
しかし葬儀ポータルと提携したことのある葬儀社様はお分かりかと存じますが、葬儀ポータルに支払う紹介手数料は、想像以上に収益を圧迫します。
集客面でのメリットはあるものの、葬儀ポータルからの紹介に依存しすぎないよう、自社での集客にも注力されることをおすすめします。
デメリット
では、葬儀ポータルのデメリットについても、お客様の目線と葬儀社様の目線から考えてみましょう。
お客様視点 | 葬儀社様視点 |
葬儀プランが限定される(定額型の場合) お客様と葬儀社様の認識の齟齬(そご)が発生しやすい 当日変更などの柔軟な対応ができない 葬儀ポータルサイト掲載のプランに含まれる内容だけでの葬儀施行は困難な場合がある 結果的に追加料金が必要となり、最終的な請求額が高額になるケースも散見される 葬儀ポータルから紹介される葬儀社の教育レベルが一定していないため、葬儀に不満が残る可能性がある | 値下げ競争による負担が増える 葬儀社様との業務提携解除が増加する 各葬儀社様と葬儀ポータルの設定価格に差異が生じる(定額型) プランやオペレーションに制限がある(紹介型)魅力的な掲載内容が求められる(紹介型) |
お客様側の視点
一見、お客様視点で見ると何もデメリットがなさそうに思えるポータルサイトですが、以下のような点には注意が必要です。
- 葬儀プランが限定される(定額型の場合)
- お客様と葬儀社様の認識の齟齬(そご)が発生しやすい。
- 当日変更などの柔軟な対応ができない
- 葬儀ポータルサイト掲載のプランに含まれる内容だけでの葬儀施行は困難である
- 結果的に追加料金が必要となり、最終的な請求額が高額になるケースも散見される
- 葬儀ポータルから紹介される葬儀社の教育レベルが一定していないため、葬儀に不満が残る可能性がある
地域で長く葬儀に携わっている葬儀社であれば、積み重ねた経験と知識があるため、利用者の希望にも柔軟に対応できますし、葬儀当日であっても多少の内容変更は可能です。
葬儀前の打ち合わせを通して、ご遺族の葬儀に対する希望を聞き出すノウハウも持っているため、通常はご遺族とのあいだで大きな認識の齟齬をきたすことはありません。
しかし葬儀ポータルの主な業務は「利用者の集客」と「葬儀社への送客」のみですので、運営会社に勤務する方の多くは葬儀の現場に立ち会うことはなく、葬儀に関する知識も限定的になるのは仕方のないことでしょう。
葬儀を希望されるご遺族と、葬儀を施行する葬儀社のあいだに葬儀ポータルが介在することで、本来は起きるはずのないトラブルが発生しやすくなるのが、利用者にとっての最大のデメリットとなります。
また低価格を前面に打ち出している葬儀ポータルでは、掲載されている葬儀プランも安価に設定されていますが、その分内容的には非常に簡素なものになります。
一般の方がイメージするような葬儀内容を実現するためには、オプションサービスの追加が必要となるケースも多く、最終的には思っていたほど低価格にならない可能性もあります。
葬儀社側の視点
葬儀ポータルサイトは、中小など一部の葬儀社様にとって負担や制約をもたらす一面もあります。
- 値下げ競争による負担増
- 葬儀社との業務提携解除の増加
- 各葬儀社様と葬儀ポータルの設定価格に差異が生じる(定額型)
- プランやオペレーションに制限がある(紹介型)
- 魅力的な掲載内容が求められる(紹介型)
例えば、葬儀ポータル同士の過度な値下げ競争による葬儀社様の負担増は、収益を大きく圧迫します。
葬儀ポータルサイトは、提携葬儀社から紹介手数料として中間マージンを受け取ることで成立しているビジネスモデルです。
多くのポータルサイトでは売上の約30%が手数料として取られてしまうため、実際に葬儀を施行する葬儀社様の利益は少なくなってしまいます。
最悪の場合、採算を取るために葬儀社様は葬儀ポータルサイトで申し込みをしたお客様への対応の質を下げなければならないこともあるようです。
自社で集客したほうが安定的な収益を得られたかもしれない葬儀社様にとって、クレームや評判を下げなければならないとなると、死活問題に発展します。
お客様が感じる葬儀ポータルサイトの利便性は、上記の問題を抱えながら提供されていることを、改めて認識しなければなりません。
まとめ
今回は、葬儀関連事業を展開する事業者の中でも、『葬儀ポータルサイト』に焦点を当てて解説いたしました。
葬儀ポータルは、定額型と紹介型の2種類が存在します。
定額型は価格の明確化や比較がしやすいという手法で、紹介型は利用者の希望に合った葬儀社を紹介するという手法で利便性を提供しています。
葬儀ポータルの存在はインターネットでの集客が初めての葬儀社様にとって、認知度向上や集客に寄与するでしょう。
一方で、葬儀ポータルでの収益や価格競争などの課題も存在します。
特に、定額型の葬儀ポータルサイトでは、制約により葬儀プランの自由度が制限されることを覚えておかなければなりません。
提携する葬儀ポータルが自社にとって有益かどうかを判断するためには、葬儀ポータル運営会社の発信する情報が法律に抵触していないかや、提携葬儀社様が採算の取れる収益形態を提供しているかなどを確認することが求められます。
葬研では、今後も葬儀社様向けに幅広く情報を発信してまいりますので、ぜひ参考にしていただければと存じます。