上場企業における葬儀ポータル進出┃葬儀のてびきびと(全研本社)・葬儀屋さんの動向解説

葬儀のてびきびと(全研本社)・葬儀屋さん(クルーズ)葬儀ポータルの動向解説-min

葬儀ポータルサイト運営は、2000年代に入ってから台頭してきた事業形態ですが、収益化するのは想像以上に難しいようで、すでに撤退する企業も出始めています。
新規参入が相次いだ葬儀ポータル業界では、他社との差別化を図るための値下げ合戦が繰り広げられた結果、景品表示法違反により行政指導・処分を受ける事案も複数回発生しました。

そんな状況下においても、葬儀ポータル業界への新規参入は続いているようで、中には上場企業が運営に関わっているケースもみられます。

そこで本記事では、2020年以降に設立された葬儀ポータルサイトの中から、全研本社が運営する「葬儀のてびきびと」と、日本エンディングパートナーズが運営する「葬儀屋さん」について分析します。
各地の葬儀社様にも、両社から提携依頼の連絡が来ることもあるかと思いますので、サイト概要の把握に役立てていただければ幸いです。

目次

葬儀ポータルサイトの概要

葬儀ポータル解説

本題に入る前に、葬儀ポータルサイトが提供しているサービスや、収益化の仕組みについて簡単に解説します。
葬儀ポータルサイトは、大きく分けて「定額型」「紹介型」の2種類に分類されます。

葬儀ポータル種類
出典:公正取引委員会|(令和3年12月2日)株式会社ユニクエストに対する独占禁止法違反被疑事件の処理について

代表的な「定額型」葬儀ポータルサイトには、「小さなお葬式(ユニクエスト)」や、「よりそうお葬式(よりそう)」などがあります。
一方「紹介型」ポータルサイトの代表格としては「いい葬儀(鎌倉新書)」があげられます。

「定額型」と「紹介型」では、サービス内容は異なるものの、葬儀を希望される方をネットで集客し、提携葬儀社に送客して紹介手数料を得るという収益の仕組みは同様です。

葬儀ポータル「葬儀のてびきびと」の概要

葬儀のてびきびと

2023年4月1日よりサービスが開始された「葬儀のてびきびと」は、ITと語学を中核事業とする全研本社株式会社が運営する葬儀ポータルサイトです。
スタートしたばかりということもあってか、2023年6月時点では東京・神奈川・千葉・埼玉の一都三県を中心に事業を展開しているようです。

運営会社

現在ではITと語学を事業の中核としている全研本社ですが、1978年7月の設立当初は学習教材などの出版を取り扱っていました。
当時の社名は「ワールド出版株式会社」でしたが、1983年12月に商号を「全国教育研究所株式会社」に変更しています。
現社名の「全研本社」は、この「全国教育研究所株式会社」に由来するようです。

2000年1月に開始したIT事業をはじめ、現在では不動産事業や介護事業など、多角的に事業範囲を拡大しています。
「葬儀のてびきびと」についても、拡大の継続が予想される終活市場参入の第一歩と思われます。

【会社名】全研本社株式会社
【設立】1978年(昭和53年)7月14日
【本社所在地】〒160-8361 東京都新宿区西新宿6-18-1 住友不動産新宿セントラルパークタワー18・19階
【代表者】林 順之亮
【従業員数】468名(2022年6月30日現在)
【事業内容】IT事業・語学事業・不動産事業・その他(介護など)
【公式HP】https://www.zenken.co.jp/

サイトの特徴

特徴

「葬儀のてびきびと」は、故人様の人柄が偲ばれるような「人生を振り返るお葬式」を目指しているようです。
簡素で低価格な葬儀ばかりがもてはやされる風潮に疑問を呈し、ご遺族の希望に重点を置いた葬儀プランを提供するとしています。

とはいえ、人生の中で葬儀の喪主を務める機会は限られるため、どのような葬儀を希望するか聞かれても、具体的にイメージできる方は少ないでしょう。
そのようなご遺族様のために、「葬儀のてびきびと」では、実際に営まれた葬儀の事例を紹介しています。

近年では、葬儀ポータルサイト側が葬儀プランを設定し、提携葬儀社に施行を委託する「定額型」の葬儀ポータルサイトが主流となっています。
しかし「葬儀のてびきびと」では、「型にはまった式ではなく、その人らしいお葬式」を打ち出しており、独自の葬儀プランは設定していません。

「葬儀のてびきびと」では、提供するサービスとして以下をあげています。

  • 葬儀に関する無料相談の受付
  • 希望に適した斎場選びのアドバイス
  • 葬儀社の紹介
  • 葬儀の事例紹介

ご遺族の希望に沿った葬儀を営むために、最適な葬儀社を紹介するとしていることから「葬儀のてびきびと」は、利用者と葬儀社のマッチング、および紹介のみをおこなう「紹介型」の葬儀ポータルサイトと思われます。

収益化に向けた課題

「葬儀のてびきびと」は、これまでの葬儀ポータルとは一線を画したサービスの提供に取り組んでいますが、事業を成功に導くためには多くの課題をクリアする必要があります。
さしあたっての課題だけでも「人材確保」「提携葬儀社」「業務のシステム化」があげられます。

人材確保

人員確保

「葬儀のてびきびと」を事業として継続させるために、喫緊の課題は葬儀プランの作成を担う人材の確保でしょう。

一般的な葬儀ポータルサイトの場合、利用者と提携葬儀社の仲介が主な業務となります。
「定額型」の葬儀ポータルサイトであれば、あらかじめ用意された数種類の葬儀プランの中から希望プランを選び、必要に応じてオプションサービス追加したら、あとは提携葬儀社に委託するかたちとなります。

また「紹介型」の葬儀ポータルサイトでは、希望に合った複数の提携葬儀社から一括見積を取って利用者に提供します。
葬儀社が決まったら利用者に葬儀社を紹介しますが、葬儀プランの打ち合わせなどは委託先の葬儀社が担当するのが一般的です。

しかし「葬儀のてびきびと」では、葬儀プランの作成にも携わるようですので、他の葬儀ポータルサイトにくらべ、取扱業務が多くなります。
また葬儀プランの作成には、葬儀の施行に関する知識をもった人材が必要になりますが、葬儀業界は全般的に人手不足の状況が続いていますので、優秀な人材を確保するだけでも容易ではありません。

当面は、今いる人材だけで対応するほかなく、取扱い可能な件数も限られるため、営業エリアを一都三県に絞ってのスタートになったとも考えられます。
しかし葬儀ポータル事業で安定した収益を確保するためには、可能な限り多くの利用者を集めて提携葬儀社に送客する必要があるため、営業エリアの拡大は必須といえるでしょう。

すでに積極的な採用活動を実施していると思われますが、人材確保が難航した場合は、好待遇を提示してのヘッドハンティングなども視野に入れる必要があるかもしれません。

提携葬儀社の開拓

新規開拓 (1)

葬儀ポータルサイトは、実際に葬儀を施行する提携葬儀社があるからこそ成り立つビジネスですので、可能な限り多くの葬儀社と提携契約を締結する必要があります。
この点については「葬儀のてびきびと」でも同様と思われますが、提携葬儀社の新規開拓については非常に厳しい状況といわざるを得ません。

葬儀ポータルサイトという事業形態が誕生して20年以上が経過しましたが、30%前後といわれる仲介手数料が設定されているため、提携葬儀社にとっては「労多くして功少なし(ろうおおくしてこうすくなし)」といった状況が続いています。
そのため近年では、葬儀ポータルからの顧客紹介を敬遠する葬儀社も、少しずつですが出始めているようです。

こうした状況下で、新たに「葬儀のてびきびと」が提携を持ち掛けても、葬儀社側が簡単に受け入れるとは考えにくいでしょう。
また提携葬儀社の新規開拓にあたっては、各葬儀社に対する営業活動が不可欠となりますが、ここでも人材確保の問題が浮上します。

先行している大手葬儀ポータルサイトも、設立当初は創業者が自ら各地の葬儀社に足を運び、粘り強く交渉を重ねたようです。
全研本社内にも営業担当社員は数多く在籍していると思われますが、こういった泥臭い営業活動に適性のある人材は限られますので、やはり新規採用が必要でしょう。

「葬儀のてびきびと」が営業エリアを拡大するためには、上記のような課題を1つ1つクリアする必要があります。

業務のシステム化

システム化

これまでの葬儀ポータルサイトでは、担当業務も「集客」「送客」に集約される、比較的シンプルな仕組みでした。
しかし「葬儀のてびきびと」では、葬儀プランの作成にも携わるとしていることから、業務のシステム化はさらに難しくなります。

葬儀ポータルサイト事業は、葬儀社の集客業務を代行するというビジネスモデルですので、利用者からの問い合わせや相談も葬儀ポータルサイト側が担います。
そのためコールセンターの設置は不可欠ですが、利用者との意思疎通を図るためには、コールセンタースタッフにも一定の葬儀知識が必要です。

一般的な葬儀社であれば、電話対応も葬儀社従業員がおこなうケースが多いため、利用者とのやり取りでトラブルになることも少ないでしょう。
しかし葬儀ポータルサイトのコールセンタースタッフを、葬儀社での勤務経験者だけで占めるのは困難ですので、就業前の研修などで葬儀知識を補うほかありません。

「葬儀のてびきびと」の特徴を考えると、従来の葬儀ポータルサイトにくらべて利用者とのやり取りも増加するうえ、さらに複雑化する可能性が高いため、システム化が難航する可能性もあります。
とはいえ、事業を安定的に継続するためには、業務フローを確立したうえでのマニュアル化は不可欠ですので、何としてもシステム化するほかありません。

集客に向けた動き

「葬儀のてびきびと」では、すでにInstagram(インスタグラム)アカウントや、YouTubeチャンネルの開設など、集客に向けた動きを加速させています。

まだ放映はされていないようですが、CM動画も作成済みです。

しかし、現時点では営業エリアが一都三県に限られていますし、サイトの特徴として掲げている葬儀事例も思うように集まっていないようです。
公式ホームページ内の「てびきびとの葬送事例集」では、カテゴリーが5つ(式スタイル・斎場場所・費用・おもてなし・祭壇)設けられていますが、現時点で稼働しているのは「式スタイル」のみです。

こうした現状を鑑みると、集客対策だけが先行しているようで、ややちぐはぐな印象を受けます。

葬儀ポータル「葬儀屋さん」の概要

葬儀屋さん

「葬儀屋さん」は、「葬礼文化を大切にし、人々の心がつながる健やかな社会を実現する。」をテーマに、日本エンディングパートナーズ株式会社が運営している葬儀ポータルサイトです。
「紹介型」の葬儀ポータルサイトとして、2020年5月25日にサービスが開始されています。

運営会社

「葬儀屋さん」を運営する日本エンディングパートナーズ株式会社は、EC事業やゲーム事業など展開するクルーズ株式会社と、冠婚葬祭や墓石加工・販売などを中心に事業を展開するこころネット株式会社が共同出資するかたちで設立されました。

*2023年3月31日時点における両社の持ち株比率は、50%ずつとなっているようです。

日本エンディングパートナーズ株式会社の中核事業は「葬儀屋さん」の運営ですが、提携葬儀社向けに「オンライン訃報サービス」なども提供しています。

【会社名】日本エンディングパートナーズ株式会社
【設立】2020年5月
【本社所在地】〒111-0034 東京都台東区雷門1丁目16−4 立花国際ビル 201号室
【代表者】二瓶 収
【事業内容】

  • 葬儀場検索メディア「葬儀屋さん」の運営
  • Webマーケティング支援
  • EC決済サービスの導入支援
  • インターネット通販の導入支援

【公式HP】http://japanep.co.jp/

サイトの特徴

共同経営

「葬儀屋さん」は、非常にオーソドックスな「紹介型」葬儀ポータルサイトで、他のサイトと比較しても、際立って特徴的な部分は見当たりません。
先行している「紹介型」ポータルサイトの良い部分を踏襲している印象で、どちらかというと保守的なサイト構成といえるかもしれません。

特殊性がみられるのは、むしろ運営企業である日本エンディングパートナーズ株式会社が設立された経緯です。

葬儀ポータルサイトを運営している企業の多くは、異業種から参入するケースが多くを占めており、葬儀社や冠婚葬祭互助会が運営しているケースはほとんど見かけません。
しかし「葬儀屋さん」については、葬儀関連事業を展開するこころネットが運営に関わっており、これは非常に珍しいケースといえるでしょう。

葬儀業界では数少ない上場企業の1つであるこころネットが、どういった経緯で日本エンディングパートナーズ設立に出資したのかは定かではありません。
しかし同社の代表取締役を務めている二瓶 収氏は、こころネットに関連する人物であり、企業として「葬儀屋さん」の運営に積極的に携わっている様子がうかがえます。

*日本エンディングパートナーズ株式会社の設立時点では、クルーズ株式会社 社長特命執行責任者である湊本 崇文氏が代表を務めていました。

葬儀ポータルサイトから顧客の紹介を受けた場合、当然ながら仲介手数料の支払いが発生しますので、葬儀社側としては積極的に利用したくはないでしょう。
しかし自社が運営に関わっている葬儀ポータルサイトからの紹介であれば、何らかの優遇措置が取られる可能性もありそうです。

今後も葬儀ポータルサイトの運営に葬儀社が関わるケースが続くようであれば、葬儀業界にとっても時代の転換点になるかもしれません。

葬儀ポータル業界の動向

動向

葬儀ポータル業界でも事業の多角化が進んでおり、大手葬儀ポータルサイト運営企業各社も、さまざまな取り組みをおこなっています。
ここでは現在の葬儀ポータル業界で進められている動きについて、大手葬儀ポータルサイトを中心に紹介します。

いい葬儀(鎌倉新書)

鎌倉新書

「いい葬儀」や「いいお墓」など、ライフエンディング領域で網羅的に事業を拡大している株式会社 鎌倉新書ですが、近年では地方自治体を中心に業務提携を進めており、すでに連携自治体は300を超えています。
内閣府「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」にも参画し、提携自治体に対して以下のような支援を提供しています。

  • おくやみコーナーの開設・運営
  • おくやみハンドブックの発行
  • エンディングノートの作成
  • 終活ガイドブックの配布
  • 介護保険ガイドブックの無償制作
  • 終活連携協定

鎌倉新書では、社内に自治体支援事業の専門部署を立ち上げ、事業範囲の拡大に取り組んでいるようです。
官民協働事業自体の利益に加え、他の事業における潜在顧客との接点増加などのメリットも大きいと思われます。

よりそうお葬式(よりそう)

よりそう

葬儀ポータルサイト「よりそうお葬式」を運営する株式会社 よりそうでは、これまでも海洋散骨や樹木葬・永代供養など終活関連サービスを提供してきました。
さらに2023年7月19日には、アットセルが運営するお墓のポータルサイト「お墓さがし」について、事業譲渡を受けたと発表しました。

よりそうでは、ライフエンディング領域全体への事業拡大を目標に掲げており、今回の事業譲渡も、その一環と思われます。
よりそうの業績は、ここ数年かなり厳しい状況が続いていましたので、将来にわたって収益が期待できる「お墓さがし」にかける期待は大きいのではないでしょうか。

なお株式会社 よりそうは、2023年5月30日より代表取締役会長CEO 芦沢 雅治氏代表取締役社長COO 篠﨑 新悟氏共同代表制に移行しています。

小さなお葬式(ユニクエスト)

小さなお葬式

アルファクラブ武蔵野の子会社で、葬儀ポータルサイト「小さなお葬式」を運営するユニクエストでは、「小さなお葬式」名義の実店舗を次々に開設するなど、葬儀事業に力を入れているようです。

直営店舗だけでなくフランチャイズ(FC)事業も展開しているほか、傘下のライフアンドデザイン・グループ株式会社のグループ企業各社も、出店攻勢を強めています。
一般的な葬儀ポータルサイト運営企業は、葬儀の実務にほとんど関わることはありませんので、ユニクエストの動向は非常にユニークです。

こうした展開を見越して、葬儀ノウハウを入手するために、アルファクラブの子会社になったのではないかという、うがった見方をしてしまいます。
「小さなお葬式」名義の葬祭ホールは、すでに直営・FC合わせて30店舗以上となっており、50店舗を目標にしているようです。

まとめ

本記事では「葬儀のてびきびと(全研本社)」「葬儀屋さん(日本エンディングパートナーズ)」を例にとって、葬儀ポータル業界の変化について解説しました。
また大手葬儀ポータルサイトにおける直近の動向も紹介しましたので、おおまかな業界の全体像も把握していただけたかと存じます。

葬儀を希望する消費者を集客し、葬儀社を紹介することで収益を得る「葬儀ポータルサイト」という業態が誕生して20年以上が経過しました。
新規参入が相次いだ葬儀ポータル業界は、すでに飽和状態にあるともいわれており、収益化できなかった企業の撤退も始まっています。

これまでの葬儀ポータルサイト業界は、先行する大手スタートアップ企業を、ベンチャー企業が後追いするケースが多かった印象です。
しかし「葬儀のてびきびと」や「葬儀屋さん」などでは、すでに別事業で大きな成功を収め、株式公開に成功している上場企業が新規参入したかたちとなっています。

もし「葬儀のてびきびと」や「葬儀屋さん」が大きな成功を収めるようであれば、葬儀ポータル業界における大きな転換点になるかもしれません。
葬研では、今後も葬儀ポータル業界の動向に注目していきたいと思います。

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