葬儀にまつわる習わしやしきたりは地域によって異なり、時代とともに変化もみられます。
また火葬や霊柩車・お墓など、葬儀には多種多様な事柄が深くかかわってきます。
こうした一連の情報について、包括的かつ専門的に研究している学術機関が「日本葬送文化学会」です。
コロナ禍をきっかけにした葬儀の小規模化・簡素化の進行や、デジタル化への対応など、葬儀業界では課題が山積している状況となっています。
さまざまな課題解決に向けて、日本葬送文化学会の活動が葬儀業界に大きな影響を与える可能性もありますので、その概要や活動内容などについて把握しておきたいところでしょう。
そこで本記事では日本葬送文化学会の取り組みや活動、取り上げられているテーマなどについて詳しく紹介します。
日本葬送文化学会の概要

日本葬送文化学会には、葬儀事業者のみならず、葬祭具メーカーや火葬場・霊園の運営・管理者から、学者や研究者・学生まで幅広い人材が参画しています。
世界中の葬送文化や葬儀の歴史などの学術的なテーマから、葬祭関連事業の在り方など現実に即した内容まで、網羅的に研究しているようです。
【団体名称】日本葬送文化学会
【所在地】〒103-0027 東京都中央区日本橋3-2-14 日本橋KNビル4階 ウィズスクエア内
【設立】2001(平成13)年
【代表者】会長:長江曜子
【公式ホームページ】https://www.sosobunka.com/
日本葬送文化学会の沿革

日本葬送文化学会は、前身である葬送文化研究会が1985年に発足して以降、葬儀や火葬、お墓など葬送文化の変遷や歴史、国内外の葬祭ビジネスなどについて、35年以上にわたって調査・研究を続けている団体です。
2001年に葬送文化研究会から日本葬送文化学会に発展し、現在にいたっています。
葬送文化研究会の発起人であり、建築学者で東京電機大学名誉教授の八木澤壮一氏は、現在も日本葬送文化学会の名誉会員として在籍されています。
日本葬送文化学会の事業・取り組み
日本葬送文化学会では、葬儀にまつわる事象について幅広く取り扱い、見識を深めるべく活動しているようです。
調査や研究の結果を定期的に報告するだけでなく、一般の方々に向けた情報発信もおこなっています。
月例会

日本葬送文化学会では、毎月開催される東京・上野駅前の東京文化会館での定例会、および年に2回おこなわれる野外研修を活動の柱としているようです。
定例会では、会員による調査・研究内容の発表のほか、葬送に関連する研究者や事業者による講演なども開催されています。
また野外研修会では、国内外の葬送関連施設や企業の見学、旧跡での実地調査などもおこなっているようです。
会報誌『葬送文化』の発行

日本葬送文化学会では、機関紙『葬送文化』を年に1回のペースで発行しています。
『葬送文化』には、国内外の葬送関連ニュースや研究論文、定期発表会や研修会など日本葬送文化学会としての活動報告などが掲載されているようです。
『葬送文化』は、2023年7月時点で23号(2022年3月10日刊行)まで発行されています。
YouTubeチャンネルでの情報発信
日本葬送文化学会では、YouTubeチャンネルを開設しています。
会員向けのコンテンツが多いようですが、一部の基調講演などは一般の方でも視聴可能となっています。
日本葬送文化学会の特徴

日本葬送文化学会の際立った特徴としては、参加している会員の多様性があげられます。
学術団体ですので、大学などで教鞭をとっている教授や、博士号をもつ方が参加しているのは当然ですが、その専攻は民俗学や社会学から経営学・建築学までさまざまです。
また実業家会員が属している業種も、葬儀社や冠婚葬祭互助会事業者だけでなく、墓石販売や霊園管理・海洋散骨など多種多様です。
こういった異なる立場の方々が参加することで、葬送文化を多角的に捉えられるのかもしれません。
日本葬送文化学会で取り上げられた話題

日本葬送文化学会では、さまざまな時代の葬送文化の調査・研究をおこないつつ、現在の葬儀や火葬・埋葬に関する話題を取り上げ、将来に向けた提言などもおこなっています。
さまざまなニュースの中でも「葬儀」「火葬施設」は、基調講演などのテーマに選ばれることも多いようです。
葬儀を取り巻く環境の変化
日本では、景気停滞などの影響もあってか、葬儀の規模も縮小傾向にあり、都市部を中心に少人数で営む「家族葬」が主流になりつつあるようです。
また宗教的な葬送儀式を排して、火葬のみをおこなう「直葬(火葬式)」を選ぶ方が増加するなど、簡素化も進んでいるといわれます。
かつては日本中でみられた、周辺住民が喪家を手伝うといった習慣が残る地域も減少傾向にあり、地域で長く受け継がれてきた葬儀にまつわるしきたりなども消えつつあるようです。
そうした環境の中、これからの日本における「弔い」のもつ意味について、日本葬送文化学会でも研究を進めています。
火葬施設の現状
亡くなった方の99%以上が火葬によって葬られていますが、各地では火葬場の老朽化が問題になっています。
また超高齢化社会・多死社会を迎えた日本では、火葬施設の不足が表面化しており、待機期間の長期化は喫緊の課題となっています。
しかし地域住民の反対などもあり、各自治体での火葬場新設は容易ではありません。
日本葬送文化学会では、こうした火葬施設の問題についても議論が続けられています。
日本葬送文化学会の役員・理事
役職 | 氏名 | 所属団体等 |
会長 | 長江 曜子 | ・加藤組・石匠あづま家 代表取締役社長 ・聖徳大学教授 ・日本石材産業協会 学術顧問 石材店を営みながら、世界45カ国を飛び回り、墓地・墓石や葬送の研究に力を注ぐ研究者。 |
副会長(WEB) | 勝山 宏則 | ・大成祭典株式会社 代表取締役社長 ・葬祭ディレクター技能審査 審査官 |
副会長 (学術) | 山田 慎也 | ・国立歴史民俗博物館 副館長(民俗研究系 教授) 「葬儀の変容と死生観」をテーマに、民俗学の視点で葬送を研究する。 |
副会長(事務・情報・例会運営) | 和田 裕助 | ・有限会社Y.E.Y. 代表取締役 jFuneral.comを主催し、新しい葬送ビジネスマーケティングを研究。日本葬送文化学会ではデジタル化と業務効率化を担当 |
副会長(女性・国際) | 村田 ますみ | ・株式会社ハウスボートクラブ 取締役会長 ・YOMI International株式会社 代表取締役CEO ・鎌倉新書 終活アンバサダー |
副会長(中部支部支部長) | 石垣 智徳 | ・南山大学経営学部経営学科 教授 日本葬送文化学会の2023年1月定例会では「尾張地区における葬儀規模の縮小化-イズモ葬祭のケース」を講演 |
名誉会員 | 八木澤 壮一 | ・東京電機大学名誉教授 ・共立女子大学教授 ・日本葬送文化学会 初代会長 建築学者として、火葬場に関する調査・研究、および建築計画・設計に携わっている |
名誉会員 | 山床 節子 | ・葬送ジャーナリスト ・日本葬送文化学会 初代事務局長 八木澤壮一氏とともに日本葬送文化学会を設立 |
名誉会員 | 柴田 千頭男 | ・日本ルーテル教団牧師 ・日本ルーテル学院大学 名誉教授 |
名誉会員 | 杉山 昌司 | ・建築家 戸田火葬場のほか、数多くの斎場設計を手掛ける |
常任理事(顧問) | 福田 充 | ・葬送ビジネス研究家 ・日本葬送文化学会 前会長 ・フューネラルビジネス 元編集長 |
常任理事(中部支部事務局) | 浅井 秀明 | ・出雲殿グループ 代表取締役社長 ・全日本冠婚葬祭互助協会 副会長 |
常任理事(会計) | 石井 範明 | ・株式会社誠行社 専務取締役 |
常任理事(監査) | 田村 良久 | ・株式会社タムラ 代表取締役 |
常任理事(監査、中部支部) | 可児 錠二 | ・トモエ陶業株式会社 代表取締役社長 |
常任理事 | 多村 至恩 | ・社会学者 ・本願寺仏教音楽、儀礼研究所常任研究員 |
常任理事 | 深澤 芳次 | ・石の声 株式会社 代表取締役社長 |
常任理事 | 菅原 裕典 | ・株式会社 清月記 代表取締役 |
常任理事 | 橘 さつき | ・ライター |
常任理事 | 碑文谷 創 | ・葬送ジャーナリスト 葬祭ディレクター技能審査のテキスト『葬儀概論(現在三訂版)』の著者 |
常任理事 | 土居 浩 | ・ものつくり大学 教養教育センター 教授 ・国立歴史民俗博物館 客員教授 |
顧問 | 杉浦 昌則 | ・株式会社セレマ |
顧問 | 岩崎 孝一 | ・株式会社吾妻設計 代表取締役社長 |
まとめ
本記事では、古今東西の葬送文化について調査・研究をおこない、今後の日本における「弔い」文化や死生観などについての提言などもおこなっている日本葬送文化学会について、詳しく紹介しました。
少子高齢化や核家族化の進行により、長年にわたって受け継がれてきた日本の葬送文化は急速に失われつつあるといわれています。
生活スタイルや住環境も変化していますので、葬送文化も時代とともに姿を変えるのは、止むを得ないことなのかもしれません。
しかし、大切な方の死を悼み、ご遺族の心痛を慰めるという「弔い」の精神文化だけは、人として失いたくないものです。
日本葬送文化学会では、こうした日本人の「死生観」について、つねに問いかけているようです。