上場葬儀社における売上・利益・施行状況に関するまとめ

上場している葬儀社における葬儀・葬祭・式典事業セグメントを抽出

葬儀事業において上場している企業様は現在7社あります。株式関連サイトは葬儀系というカテゴリでみるとより多くの企業様がありますが、ここでは葬儀・葬祭事業を運営されている企業様のみとしています。
各社様では現状、葬儀・葬祭事業をどの様なかたちで運営されているのか、公開されている情報をもとに解説を進めて参ります。

上場している企業では、大きく分けて以下3種類の発表・公表が定期的におこなわれております。
①決算説明資料(1年に1回)、②有価証券報告書(1年に1回)、③決算短信(3ヶ月に1回)上記の公開資料のいずれかより、『葬儀・葬祭・式典事業』のセグメント情報を抽出しております。

目次

上場葬儀社における直近の決算数字の推移

上場している葬儀社の葬儀・葬祭セグメントにおける売上・利益の前期比※前期比の成長率のみ表示しております。詳細の数字は記事内あるいは各社様のIR情報にてご確認下さい。

会社名 葬儀事業の社名・屋号名 発表日 回次 種類 事業セグメント名称
平安レイサービス㈱ 湘和会堂 2022年2月7日 53期 第3四半期 葬祭事業
㈱サン・ライフHD ファミリーホール 2022年2月9日 4期 第3四半期 式典事業
㈱ティア ティア 2022年2月8日 26期 第1四半期 葬祭事業
燦HD㈱ 公益社,葬仙,タルイ 2022年2月10日 93期 第3四半期 葬祭3社
㈱ニチリョク ラステル 2022年2月10日 56期 第3四半期 葬祭事業
㈱きずなHD ファミーユ 2022年1月14日 5期 第2四半期 葬儀施行業
こころネット㈱ たまのや 2022年2月14日 56期 第3四半期 葬祭事業

※各社様のIR情報より、葬儀・葬祭・式典事業の事業業績結果を抽出させていただきました。

なお各社様の平均年齢・平均年収は以下の通りです。

上場している葬儀社の平均年齢・平均年収※平均年齢・平均年収はYahoo!ファイナンスの各企業の概要情報から取得しております。

平安レイサービス様 2022年3月期 第3四半期 葬祭事業の内容

平安レイ

葬儀事業における売上高は5,505百万円(前年同期比4.7%増加)、営業利益は1,389百万円(前年同期比10.2%増加)となっています。

葬祭事業(湘和会堂)の公表内容

老朽化した「湘和会堂鵠沼(くげぬま)」から中小規模葬儀に対応可能な「湘和会堂片瀬鵠沼(神奈川県藤沢市)」への建替えを行い2021年11月に開業、2021年12月には1日1軒の貸切型葬祭施設「湘和会館南湖(神奈川県茅ヶ崎市)」も開業しています。
故人を生花で囲む「花園」や遺影を装飾し思い出の品も飾れる「追悼壇」、大型スピーカー「バックロードホーンスピーカー」などのオリジナルサービスを充実させることで、葬儀単価の向上を実現しました。

その結果「湘和会堂鵠沼」建替えによる休業の影響もあり葬儀件数が微減となったものの、増収増益となっています。
新型コロナウイルス対策としては、従来の感染症対策を徹底しつつ、不特定多数の方と接触することのない貸切型葬儀の有益性を活かした広告戦略を拡大しました。

解説

葬儀の縮小傾向に対応するため、老朽化した大型葬祭施設を中小規模の葬儀に対応可能な施設への建て替えを順次進めているようです。

また各葬儀場の安置施設を「殯(もがり:遺族が故人に添い寝する風習)」を参考に、畳ベッドを備えた24時間面会可能な「貴殯室(きひんしつ)」に改修するなど、顧客満足の向上に注力しています。

今後の展望としては、中核店舗周辺に複数出店するドミナント戦略により神奈川県全域を対象にシェアを拡大しつつ、FC(フランチャイズ)事業により葬祭事業の全国展開を想定しているようです。

サン・ライフホールディングス 2022年3月期 第3四半期 式典事業の内容

サンライフHD

葬祭事業の売上高は5,802百万円(前年同期比6.4%増)、営業利益は1,185百万円(前年同期比24.6%増)となっています。

式典事業(ファミリーホール)の公表内容

新型コロナウイルス禍の当期は、感染対策を徹底しつつ利用者との接点増加のためイベントの活用など相談体制の強化を行うとともに、新たに2拠点を開設しています。
2021年4月に開設された一般葬、家族葬対応施設「サン・ライフ小田急相模原駅前ファミリーホール」(神奈 川県相模原市南区)は、大小2フロアの式場や多目的ホールをもつ4階建ての葬祭施設です。

また2021年12月に開設された家族葬対応施設「ファミリーホール日野」(東京都日野市)は貸切型の家族葬専用ホールとなっています。

解説

新規オープンした2拠点を含め各葬儀場の安置施設に力を入れているようで、24時間面会可能な個室型の安置室は、直葬にも対応可能です。
また付き添い安置可能な控室にホテル並みの設備を整えることで、顧客満足度の向上に寄与しています。

葬儀内容についても他社との差別化を図っており、直葬(火葬式)プランに「納棺の儀」を含めるなど、簡素でも満足度の高い葬儀を提供することで、葬儀単価の低下に対応しているようです。

人材の確保と育成が課題とされる葬祭業界ですが、葬祭専門学校を運営している点では、他社より有利といえるでしょう。

ティア 2022年9月期 第1四半期 葬祭事業の内容

ティア

葬祭事業の売上高は3,235百万円(前年同期比2.9%増)、営業利益は590百万円(前年同期比3.3%減)となっています。

葬祭事業(ティア)の公表内容

今期は「ティア桶狭間」「ティア岡崎竜美丘」の直営2店舗と、FC(フランチャイズ)店舗「ティア豊田中央」が開業し、三重県のFCを直営に切り替え「ティア桑名星川」としてリニューアルしています。
その結果、店舗数は135(直営店舗80、FC55店舗)となり、拠点が増加したことにより葬儀施行件数は3,396(前年同期比5.9%増)となりました。

しかし祭壇や生花の単価減少により、葬儀単価も前年同期比1.8%減となっています。

解説

260店舗体制・経常利益10億を目標に掲げた中長期経営計画(最終年度2024年9月期)によれば、2022年9月期までに直営7店舗、FC7店舗の出店を計画しています。
計画初年度の第1四半期にあたる今期は直営2店舗・FC1店舗を出店しており、出店計画は順調に推移しているようです。

ティア様は半径3kmの範囲内に集中出店するドミナント戦略により、重点地域である東海地方でのシェアを拡大させてきました。
将来的に全国的な認知度を獲得すべく、まずは関東・関西地方への出店を強化していくようです。
そのためにM&Aにも積極的に取り組み、情報分析力の向上にも力を入れています。

また生花事業や湯灌・エンバーミングといった葬儀周辺事業を、外部委託から自社での施行に切り替え、墓石事業も拡大を目指しているようです。

燦ホールディングス 2022年3月期 第3四半期 葬祭3社 公益社,葬仙,タルイの内容

燦HD

燦HD全体としての売上高は19,262百万円(前年同期比10%増)、営業利益4,231百万円(前年同期比76%増)となっています。
またグループ各社の売上高・営業利益は以下の通りです。

  • 公益社 売上高12,194百万円(同6.1%増)営業利益1,488百万円(同124.3%増)
  • 葬仙 売上高981百万円(同7.9%増)営業利益37百万円(同440.0%増)
  • タルイ 売上高1,210百万円(同3.7%減)営業利益(同3.3%減)

葬祭3社 公益社,葬仙,タルイの公表内容

燦HD全体としては、営業エリア拡大に向けて9月に「公益社会館 長居」(大阪市住吉区)、10月に「公益社練馬会館」(東京都練馬区)、11月に「公益社 国分寺会館」(東京都国分寺市)を立て続けに開業しています。

公益社グループでは500万円以下の葬儀施行件数が前年同期にくらべ7.2%増加したものの、そのうち約30%が新型コロナウイルス関連の葬儀だったため、葬儀1件あたりの単価は減少しました。
500万円以上の大規模葬儀施行件数が増加したことにより、全体の葬儀施行件数は前年同期比7.5%増となっています。
葬儀施行件数が増加したにもかかわらず、人件費などのコストが減少した結果、増収増益となりました。

また公益社グループ内の「ライフフォワード(株)」では「ライフエンディングサポート事業の拡充」を実現するため、終活関連プラットフォーム事業に加え、法事や相続・遺品整理などのサービスを関東地方や関西地方でスタートしました。
さらに住友生命グループ、アドバンスクリエイトと共同で「終活相談付き みんなの葬儀保険(限定告知型)」を開発し、公益社・葬仙・タルイの3社で販売しています。

葬仙グループでは米子エリア・安来エリアを中心に葬儀施行件数が上昇した結果、全体の葬儀施行件数も前年同期にくらべ9.3%の増加し、前年同期にくらべ増収増益となっています。

タルイグループでは葬祭施設の小規模葬儀対応リニューアルが奏功し、葬儀件数は前年同期比4.1%増となったものの、葬儀1件あたりの単価減少により売上高・営業利益ともに微減となりました。

解説

続く第4四半期には「公益社 生駒会館(2月19日開業)」(奈良県生駒市)及び「葬仙 東朝日町ホール(3月開業)」(島根県松江市)と2拠点が開業し、今後も営業エリアを拡大する見込みです。
また2021年7月には「公益社」様と「大和証券」様の顧客紹介についての業務提携契約締結が成立し、さらなる集客強化を図っています。

さらに2022年2月28日には、都内で6か所の火葬場を運営する「東京博善」を子会社に持つ「広済堂HD」様と「燦HD」様との業務提携契約が発表され、葬祭事業を営む合弁会社「株式会社グランセレモ東京」を2022年4月に設立する予定です。

火葬という極めて公共性の高い事業を営む「広済堂HD」様が、多くの葬儀実績を持つ「燦HD」様と提携して葬祭事業に乗り出す以上、周辺の葬儀社様にとって大きな脅威になることが想定されます。
「株式会社グランセレモ東京」は2022年7月に開業予定とのことですが、今後の展開から目を離せません。

ニチリョク 2022年3月期 第3四半期 葬祭事業の内容

ニチリョク

葬祭事業の売上高は1,114百万円(前年同期比16.8%増)、営業利益は382百万円(前年同期比94.2%増)となっています。

葬祭事業(ラステル)の公表内容

終活や葬儀後の諸手続きをサポートする有料会員サービス「愛彩花倶楽部」を「さくら倶楽部」に名称を変更するとともにサービス内容を見直しました。
また最終的な顧客獲得に向けた取り組みとして、潜在顧客に対する間口を広げるために、新たに無料会員サービス「あおい倶楽部」を設立しています。

葬儀ポータルサイト以外からの受注拡大を目指した結果、受注件数が同期比過去最高を記録し、増収増益となりました。

解説

今期は「大和証券」様や家族信託事業を営む「ファミトラ」様との顧客紹介に関する業務提携により、集客の強化を図っています。
また、1600クラブ8万4千人の下部組織をもつ「公益財団法人神奈川県老人クラブ連合会」との業務委託契約を締結しました。

これにより、自社顧客7万6千人を超える人数の老人会会員に対し、終活相談やイベントを通して葬儀の会員優待などのアピールが可能になります。
今後も各都道府県や政令指定都市を対象に、同様の提携契約を締結することで、葬祭事業の拡大を目指していくようです。

きずなホールディングス 2022年5月期 第2四半期 葬儀施行事業の内容

きずなHD

きずなHD全体としては売上高4244百万円(前年同期比12.0%増)、営業利益は451百万円(前年同期比31.7%増)となっています。

葬儀施行事業(家族葬のファミーユ)の公表内容

今期は5店舗の直営店を開業しグループ内の店舗数は104となったことから、葬儀施行件数は4,816件(前年同期比12.7%増)となりました。
高単価・高付加価値のオーダーメイド型のオリジナルプランは1,116件(前年同期比16.3%増)、全葬儀施行数に占める割合も23.2%(前年同期は22.4%)と向上しています。
新型コロナウィルスの影響で葬儀単価は0.6%減少したにも関わらず、増収増益となりました。

解説

2030年に300店舗を目標に掲げ、直営店出店とM&A(合併買収)により年間10~15店舗のペースで開業を計画しています。
前期にM&Aで傘下に収めた「備前屋(岡山県)」ブランドでも、今期1店舗を新規開業しました。

M&Aによる営業エリア拡大には「対象エリアでの認知度向上にかかるコストと時間の削減」や「地場におけるコネクションと多店舗展開ノウハウの融合による相乗効果」の二つのメリットを想定しており、ドミナント戦略の一部として今後も強化していくようです。

また既存エリアでの集中出店によるエリア内のシェア拡大とともに、近隣店舗間での人員配置を流動的に行うことで、労働生産性を高める狙いもあるようです。

こころネット 2022年3月期 第3四半期 葬祭事業の内容

こころネット

葬祭事業の売上高3,656百万円(前年同期比3.8%増)、営業利益334百万円(前年同期比16.9%増)となっています。

葬祭事業(株式会社たまのや)の公表内容

新型コロナウイルスの影響による会食機会の減少などに対応するために、高付加価値の葬儀付帯商材の販売促進に注力した結果、葬儀単価は微増となりました。
また利用者の小規模葬儀へのニーズに対応するべく「とわノイエ会津」(福島県会津若松市)を開業しています。

解説

こころネットグループは、北関東地方を中心とした地域の中小葬儀社などを吸収合併しながら、徐々に営業エリアを拡大してきました。
第4四半期には2018年12月に子会社化した「株式会社北関東センター」において、貸切型葬祭施設「とわノイエ越戸」(栃木県宇都宮市)を2022年3月1日に開業しています。
今後も「とわノイエ」ブランドとして、家族葬向けの貸切型葬祭施設を展開していくと想定されます。

またSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みとしてCO2削減に向けた「CoCoLoプロジェクト」に参画し、2021年8月以降、葬祭施設「たまのや こころ斎苑 黒岩南」を含む3施設に自家消費型太陽光発電システムを導入しています。

まとめ

企業の内情が分かりにくい葬儀業界において、定期的な情報開示を行っている上場企業は比較的良心的といえるでしょう。
ご紹介した7社が公開している決算資料は、株主以外の方はあまり目にする機会が少ないですが、地域密着型の葬儀社様にとっての経営改善のヒントが多数隠されています。

決算資料から見てとれる各社の傾向として、やはり葬儀の小規模化への対応は共通しています。
収益確保のため、各社とも大規模葬祭施設から中小規模葬儀に対応可能な施設への転換や、葬儀だけでなくライフエンディング全体に目を向けた施策に取り組んでいました。

また顧客満足度向上のための顧客管理システムや、人材・資産・資金・情報を一元管理するERP(企業経営の基本となる資源要素(ヒト・モノ・カネ・情報)を適切に分配し有効活用する計画=考え方の意味。現在では「基幹系情報システム」を指すことが多い)の利用など、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進も着実に進んでいるようです。
こういった大手葬儀社様の動向に目を向ければ、葬儀の規模縮小による葬儀施行単価の減少や、競合増加による集客力の低下などへの対応法が見つかるはずです。

大手葬儀社様は営業エリア拡大のために、FC戦略やM&Aという手法で既存の地域密着型葬儀社を取り込んでいます。
特定エリアに複数の葬祭施設をもつ中規模の葬儀社を取り込めば、該当エリアにドミナント戦略を取れるうえに、地域独自の葬送習慣への対応も比較的容易です。

さらにエリアごとに集中出店するドミナント戦略は、エリア内のシェア拡大だけでなく、人材不足の解消にも寄与します。
社内で同等の教育を受けたスタッフは、近隣店舗同士や近隣エリアでの応援が可能なため、エリア内での流動的な人員配置を可能にします。

大手葬儀社様が営業エリア拡大を進める以上、業界再編は避けられないでしょう。
地域密着型の葬儀社様が、この大きな波のなかでどの様にポジションをとっていくか課題になるかと思います。その際の参考情報をお届けできるよう引き続き、情報発信をおこなってまいります。

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