碑文谷創の葬送基礎講座9  ネット系葬儀斡旋事業者の実態は?

ネット系葬儀斡旋事業のシェアを推測

近年流行っているのはネットを介した「葬儀斡旋業」である。

といってもシェアはそれほどにはならないだろう。

本年6月発表の人口動態統計2018(平成30)の年間死亡者数1,362,482人(確定数は9月発表予定。これは月報(概数)の年間合計)である。
斡旋事業者取扱件数は総数でも5%未満の5~6万件程度ではなかろうか。

 

目次

各社のHP公表数字から見る

鎌倉新書「いい葬儀」

件数は公表されておらず提携葬儀社1,054社、葬儀口コミ18,419とあるので年間取扱数は1万件いっているかどうか。

 

ユニクエスト「小さなお葬式」

2006年創業=当時ユニオンクエスト、2013年以降親会社は互助会大手のアルファクラブ武蔵野)の「小さなお葬式」は「受注件数№1」をうたっている。
2017年1月累計10万件突破、2018年5月15万件突破、とあるので年間3~4万件程度か。しかしグラフを見ると2017年に14万件強。2018年に16万件強なので年間は2万件程度というところだろう。(同社公表のHPに基づく)

 

よりそう「シンプルなお葬式」

2013年にアマゾンの「お坊さん便」で注目を浴びた2009年創業の「よりそう」(旧みんれび)。
取扱件数は公表されていないようだ。公表数字は「問い合わせ年間30,000件」「葬儀レビ提携業者500社突破(2014年1月)」であるから、多く見ても5千件程度か。

 

イオンのお葬式

総合スーパーのイオンを中核としたイオングループは営業収益約8兆5千億円という超ビッグ企業グループ。
2009(平成21)年、このイオンがイオンリテールとして葬祭事業に進出したということで葬祭業界は大騒ぎになった。

しかし当初発表された計画を大幅に下回る中、2014年にイオンライフとして分社。
専業化することでより積極化を図ろうとしているのか、本体から切り離していつでもやめられるようにしたのか憶測を呼んでいる。

2019年5月に最初からの葬祭関係責任者であった広原章隆氏から島田諭氏に社長交代。イオンのお葬式はいずれにしても新しい段階に入ったようだ。

取扱件数についての公表数字はない。葬儀社620社と提携していて実績累計6万件というのであるから、いくら伸長したとはいえ年間2万件を超えてはいなさそうである。

 

以上鎌倉新書、よりそう、ユニクエスト、イオンライフ4社の多めの取扱件数の合計が5万5千件である。あくまで多めである。

葬儀社に聞くと、「ネット斡旋事業者による仕事は増えている」というので市場は漸増傾向にはあるだろうが、シェアからいえば、今のところは驚くべきものではない。

 

手数料商売の危うさ

ネット斡旋事業者は顧客からネットを介して注文を受け、その仕事を現地の提携葬祭事業者に振る。
施行するのはあくまで現地葬儀社。
斡旋手数料の割合は25~35%のようだ。

価格決定権はネット斡旋事業者にある(「いい葬儀」を除く)。
仮に「家族葬46万円」であるとすると、手数料を30%とすると13.8万円が斡旋事業者の取り分、施行する葬儀社は32.2万円となる。
これはまだいい。

「最低価格」となると問題が出てくる。
小さなお葬式 小さなお別れ葬140,000円
イオンのお葬式 直葬プラン129,000円~
よりそう 直葬プラン128,000円~
まさにダンピング合戦である。

市区町村が生活保護世帯を対象とした福祉葬で葬儀社に支払う金額が20~21万円である。
これでさえ適正さが疑われているのに、その6掛けというのはありえない。

 

斡旋手数料のからくり

直葬が仮に13万円とすると、斡旋事業者には3.9万円入る。安いとはいえ紹介だけで実作業は行わないでである(マネージングが無料というわけではないのはもちろんだが)。

問題は施行する葬儀社で、9.1万円で仕事をしろ、ということになる。
サービスの手抜きがあって当然という価格設定である。

斡旋事業者は自分で仕事をしていないので「適正」がわからない。
単純に他の事業者の価格設定より低めに設定して自分のところへ顧客を誘引しようとしているからする価格設定である。

仮に20万円で3件の場合、手数料は合計18万円である。
15万円にして4件であれば手数料は同額の18万円。13万円にして5件であれば19.5万円となる。
斡旋事業者にすれば同じ広告で20万円3件よりも13万円5件の方が効率がいいとなる。

しかし、いくら安価にしても一人が死んで行われるお葬式であることを考える必要がある。
実際に仕事を受ける葬儀社の立場からいえばこうした低価格設定する斡旋事業者はブラック企業である。

 

斡旋事業者の低価格戦略の意図

斡旋事業者が15万円以下の価格を設定するのはそこに顧客を誘引しようとするのではなく、「これだけ低価格で良心的なサービスをする会社です」と訴えて、主に40~60万円台の商品に誘引することを目的とした見せかけである。だから今コースの多様化を図り、価格設定の高いコースへの誘導が行われている。

消費者が適正サービス、適正価格がわからないことにつけ込んでいるのだ。

 

消費者の身で考える必要

でも消費者の身になって考えてみればいい。
いくら「本来30万円のサービスを半額の15万円で提供するのだから安いでしょう」といっても、その価格帯を選択する消費者にすれば15万円は大きな金額なのである。

15万円支払ったのにサービスが手抜きだらけというのでは怒って当たり前である。
低価格サービスへの不満が最近表面化している。

例えばレストランに2人で5万円の料理を食べに行くとする。お客はそこで大事に扱われうまい食事にありつける。
15万円も払ったのにこんなサービスしか受けられない、と憤慨しても当然である。

ネット葬儀斡旋事業者だけにいうことではないが、15万円なので仕方がない、と考えるのは事業者発想、15万円払ったのだからそれなりの満足を要求、というのが消費者発想。
低価格でも最低この部分については保証することが必要となるだろう。

 

消費者には適正な情報を公開し、安い価格帯においては、それなりに納得するサービスを考えて提供するのでなければいけない。
「安かろう悪かろう」を当然とする時代は遠い過去のものである。

 

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