碑文谷創の葬送基礎講座

碑文谷創の葬送基礎講座21 火葬の歴史

投稿日:2020年2月3日 更新日:

 

前回は、明治中期1887(明治20)年以降、太平洋戦争前夜の1935(昭和10)年頃までの大都市限定の葬祭業の変化を概観しました。
いわば葬祭業の黎明期ともいうべき時代です。
触れていなかった重要なものに「火葬」があります。
現代の葬儀の歴史(変化)について語る前に、今回は火葬(cremation)の歴史について概観しておきます。

天皇、皇后が火葬を希望

「宮内庁は昨年4月、新たな陵と葬儀のあり方の検討を行うと表明。両陛下は武蔵陵墓地の用地に余裕がなくなっていることや国民生活への影響を少なくすることを考慮して検討を進めてほしいとの意向を示されていた。また一般社会で火葬が通常化していることなどから火葬を希望された。」(日本経済新聞2013年11月14日)
天皇、皇后(現在の上皇、上皇后)が明治天皇、大正天皇、昭和天皇が土葬されたのとは異なり、現代日本では一般化している火葬を希望された、とのニュースは皇室の近代化というニュアンスで報道されました。

ちなみに日本の火葬率は99.99%(胎児を除く。土葬は全国でわずか117件。厚労省「平成30年衛生行政報告例平成30年度」)となっています。

 

火葬の起源

「火葬は仏教の葬法」と言われ、記録によれば700年(飛鳥時代)に僧道昭のときが最初とされています。
しかし、考古学上は5世紀後半頃の遺跡から焼骨が発見されていることから、6世紀半ばの仏教伝来以前から日本でも火葬が行われていたと思われます。
天皇の火葬は、女性としては史上3人目の女性天皇である持統天皇(645-703)が最初。以降、天皇は土葬されるケースもあれば火葬されるケースもありました。

 

全体にはなかなか浸透しなかった火葬

室町時代後期以降、僧侶や天皇家のみならず貴族や武士の間では火葬が進みました。
しかし民衆の葬法は、仏教葬が進展して支配的になっていっても、全体から見れば土葬が多かったと思われます。

私たちが現在入手できる最初のものは1896(明治29)年のデータです。ここでは火葬率は26.8%です。
目立つのは江戸、大阪といった大都市部であり、地方では浄土真宗系が強い北陸等です。
火葬の進展を妨げた原因には火葬施設を整えることや燃料の問題もあったと思われます。

 

伝染病予防法と火葬推進

火葬が推進される契機となったのが当時「伝染病」といわれた感染症の猛威でした。

特にコレラ被害は大きく、1879(明治12)年と1886(明治19)年の大流行では死亡者が10万人以上に及んだと言われています。
明治政府がそれまでの「火葬黙認」から「積極的な火葬促進」に舵を切ったきっかけとなったのが1895(明治28)年の海軍を中心としたコレラの大流行です。このとき死亡者は4万人を超えたといわれます。

明治政府は1897(明治30)年に伝染病予防法を制定、公衆衛生の観点から火葬促進をはかります。
火葬率は、1896(明治29)年に26.8%であったのが、1900(明治33)年に29.2%、1909(明治42)年には34.8%となり、1940(昭和15)年には55.7%と過半数を超えるようになりました。
しかし、戦争期に突入したため、その本格的な推進は太平洋戦争の終結後となります。

 

戦後に急伸した火葬率

戦後、特に1952(昭和27)年に火葬場整備費に対する国の融資制度が発足すると、各地方自治体で火葬施設の新設、統廃合、改善が推進され、火葬率上昇の大きな要因となりました。

 1960(昭和35)年に63.1%と6割を超えると、1965(昭和40)年は71.8%、1970(昭和45)年79.2%、1975(昭和50)年86.5%、1980(昭和55)年91.1%、1985(昭和60)年94.5%、1990(平成2)年97.1%と増え続け、1995(平成7)年に98.3%、2000(平成12)年に99.1%、2010(平成22)年に99.9%、2015(平成27)年には統計上100%の99.99%(厚労省衛生行政報告例)となっています。

 

戦後日本の火葬率の推移

 

ちなみに、今ではあたりまえの昼間火葬・即日拾骨が可能となったのは1927(昭和2)年東京町屋の火葬場が最初です。
火葬に重油を用いることで可能となりました。
また、戦前には火葬場の象徴となっていた煙突も1990年代以降姿を消しつつあります。

 

※「欧米では火葬率が低い」等といわれますが、元々英国や北欧、ドイツ等のプロテスタント系では火葬率が高く、1960年代に行われたローマ・カトリックのバチカン公会議で火葬が容認されたことから、今では「近代葬法」として火葬が注目を集めています。中国、韓国、北米では著しく火葬率が高まりつつあります。宗教的にはムスリム(イスラム教の信者)以外では宗教的に火葬を禁忌するところが少なくなっています。

 

 

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碑文谷創(ひもんやはじめ)

碑文谷創(ひもんやはじめ)

葬送ジャーナリスト。評論(死、葬送、宗教)

1946年生まれ。東北出身(岩手・一関市、宮城・仙台市)。東京神学大学大学院修士課程中退。出版社に勤務し、44歳で独立、葬送文化専門雑誌『SOGI』編集長(1990~2016)。

葬祭ディレクター技能審査企画委員(1995~2016))、経産省「ライフエンディング・ステージ」研究会委員(2010~2011)、IFSA(一般社団法人日本遺体衛生保全協会)顧問(1993~)等を歴任。

現在、死、葬送、宗教に関する評論・講演活動を展開。著書:『葬儀概論』(現在4訂)『死に方を忘れた日本人』『「お葬式」はなぜするの ?』、『Q&Aでわかる葬儀・お墓で困らない本』ほか多数。

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