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アメリカの葬儀ビジネスは明るい?

投稿日:2019年5月7日 更新日:

 

◇◇◇ アメリカの葬儀ビジネスは明るい?

ーアメリカ合衆国の葬儀ビジネス市場と大手葬儀社についてー

 

霊園にも葬儀にもカルチャーショック

在米30年の筆者はロサンゼルス(L.A.)郊外の街グレンデール(Glendale)へ1年前に引っ越してから、霊園「Forest Lawn Memorial Park(フォレストローン・メモリアルパーク)」(歌手の故マイケル・ジャクソンさんをはじめ多くの著名人が眠っている)を時々ウォーキングしている。理由は、アメリカ人の友人から「美術館もあって、一般人も自由に散歩できる静かな場所」と聞いて行ってみて気に入ったからだ。霊園・墓地には、用事がない限り行かない場所だと思っていた私はカルチャーショックを受けた。噴水もあり、森のように美しく、教会や美術館は豪華。ウォーキングやジョギングをしている人が目立つ。アメリカでは、葬儀だけではなく、霊園も明るい雰囲気がある。

 

霊園「フォレストローン・メモリアルパーク」

 

「アメリカの葬儀は楽しくて明るい」。これは、筆者が初めてアメリカ人の葬儀に出席した時の感想だ。これまで、アメリカ人友人の父親の葬儀、日本人友人のアメリカ人の夫の葬儀、アメリカ人親友の父親の葬儀、アメリカ人友人の父親の葬儀、計4回、アメリカで行なわれた葬儀に出席したが、毎回、「楽しくて明るい」という感想を持つ。

葬儀での神父(牧師)の説教やスピーチにも、故人の家族・親戚・友人・同僚などのスピーチ(弔辞というよりもユーモアにあふれた楽しい思い出話がほとんど)にも、葬儀ディレクターの司会中のコメントにも、コメディセンスがたっぷり入っている。故人の活躍した経歴を称えたり、故人の人柄を紹介したり、故人との愉快な思い出を話したり、故人への感謝を表したり。聖歌隊の讃美歌を聴いたり、出席者全員で讃美歌を歌ったり。皆で一緒に場を盛り上げて、故人を天国へ見送る。神父(牧師)の「さあ、祝福しましょう!」という声で葬儀は明るく始まり、ユーモアあふれる多くのスピーチに笑い、明るい気持ちで故人を天国へ見送って葬儀を終える。これが一般的なアメリカの葬儀の光景だ。(註:キリスト教式の場合)

筆者が特に驚いたのは、日本の通夜に似た「ビューイング」(ViewingまたはVisitationと呼び、葬儀の前日に行なわれる儀式。弔問客がお棺の中の故人と対面し別れを告げる)で見たお棺の中(上半身が見えるようにお棺の上部の扉が開いている)に入った故人の姿。まるで生きたまま眠っているかのように美しいことだ。これは、エンバーミングの技術(遺体を消毒、保存処理、修復、化粧をして長期保存する技術)で可能になっている。

故人の家族や親戚の多くは黒を基調とした服装をするが、弔問客や参列者の服装には明るい色もあり、喪服ではなく自由な服装が可能なことも日本人にとっては驚くことである。

アメリカの葬儀の雰囲気が明るいのは、宗教や死生観が背景にある。特にキリスト教では、「死後は神の元へ帰り、天国で幸せに暮らす」と信じられているため、「故人を祝福する」という意味の下、葬儀は行なわれる。葬儀の後に開く食事会も、感謝祭やクリスマスのディナーパーティーや結婚披露宴の雰囲気を思わせる。料理を食べながら、皆で故人との思い出話などに花を咲かせる。アメリカ人にとって葬儀とは、まさに「命を祝う行事」なのだ。

今回、アメリカ合衆国の葬儀ビジネス市場と大手葬儀社について調べてみた。

 

 

アメリカでは年間240万件の葬儀

毎年どのくらいのアメリカ人やアメリカ在住者が亡くなっているのだろうか? アメリカの人口は、現在、3億28,703,301人(2019年4月10日午前8時現在。アメリカ合衆国国勢調査局のウエブサイトより)。8秒ごとに赤ちゃん1人が生まれ、11秒ごとに1人が亡くなっている。アメリカ合衆国疾病管理予防センター(CDC)の調査(2016年調べ)によると、2016年には2,744,248人が死亡している。葬儀が行なわれる数の年間平均は、約240万件という。

2019年のアメリカの葬儀ビジネス市場の収益は170億ドルと予測されている(マーケットリサーチ会社IBIS World調べ)。アメリカ人の平均寿命は78.69 歳 ‎(CDCの2016年調べ) 、60歳以上の人口は2020年までに約7,600万人の見込みという数字から、同市場の明るい未来が予想できる。

 

国勢調査局サイトに表示される人口数

 

全米葬儀ディレクター協会(The National Funeral Directors Association)によると、2016年の葬儀にかかる中間費用(遺体の処理や埋葬を含めた費用)は、7,360ドル(約80万円。1ドル110円で換算。以下同様)。お棺を埋葬する際にブリアル・ボールト(BURIAL VAULT )という土の重みや水の侵入を防ぐための防御装置を取り付ける場合は、さらに1,395ドル(約15万円)かかる。その場合、合計の中間費用は8,755ドル(約96万円)。一方で、火葬で葬儀を行なう場合にかかる中間費用は6,260ドル(約69万円)となる。

埋葬で行なう葬儀の中間費用の内訳は、基本料金に2,100ドル(約23万円)、葬儀会場まで遺体(お棺に入った)を搬送する料金に325ドル(約3万6,000円)、エンバーミング料金に725ドル(約8万円)、遺体をお棺に入れる準備(エンバーミング以外の)料金に250ドル(約2万8,000円)、ビューイングの料金(葬儀社のスタッフへの手数料金や施設使用料金など)に425ドル(約4万7,000円)、葬儀の料金(葬儀社のスタッフへの手数料金や施設使用料金など)に500ドル(約5万5,000円)、霊柩車料金に325ドル(約3万6,000円)、葬儀サービスの車(リムジンやバンなど)料金に150ドル(約1万7,000円)、葬儀の際に参列者に配る案内状やプログラムなどの印刷代に160ドル(約1万8,000円)、金属製のお棺代に2,400ドル(約26万円)となっている。

火葬で行なう葬儀の中間費用の内訳は、基本料金に2,100ドル(約23万円)、葬儀会場まで遺体(お棺に入った)を搬送する料金に325ドル(約3万6,000円)、エンバーミング料金に725ドル(約8万円)、遺体をお棺に入れる準備(エンバーミング以外の)料金に250ドル(約2万8,000円)、ビューイングの料金(葬儀社のスタッフへの手数料金や施設使用料金など)に425ドル(約4万7,000円)、葬儀の料金(葬儀社のスタッフへの手数料金や施設使用料金など)に500ドル(約5万5,000円)、葬儀サービスの車(リムジンやバンなど)料金に150ドル(約1万7,000円)、葬儀の際に参列者に配る案内状やプログラムなどの印刷代に160ドル(約1万8,000円)、火葬の料金(外部の火葬業者に依頼する場合)に350ドル(約3万9,000円)、火葬用のお棺代に1,000ドル(約11万円)、骨壺代に275ドル(約3万円)となっている。

現在の葬儀会場の数は、全米に19,136か所(葬儀業界の情報案内National Directory of Morticians Redbookの2019年調べ)。このうち、およそ89.2% の葬儀会場は家族または個人経営による中小企業の葬儀社によって経営され、残りの10.8% の葬儀会場は大手上場企業の葬儀社によって経営されている。2004年には 21,528か所の葬儀会場があり、その数は年々減少傾向にある。

 

葬儀会場の建物や内部の様子

 

アメリカの葬儀の形態は、一般的な葬儀(funeral。一般的な葬儀には、ビューイング、葬式、食事会、埋葬式 [火葬の場合は納骨式] が含まれる)、埋葬や火葬の後に遺体無しで行なうメモリアルサービス(memorial services)と呼ぶ葬儀、家族や内輪で行なう家族葬(private services)がある。

 

一般的な葬儀の様子

 

消費者が葬儀に求めていることは何だろうか? 検索サービスのグーグル(Google)のアメリカ版(英語)で調べてみた。「funeral (葬儀・葬式)」と文字を打つと、消費者が検索するキーワードの多い順番で葬儀に続く言葉が出てくる。それらを見てみると、「funeral flowers (葬儀用の花)」「funeral home (葬儀会場)」「funeral potatoes (葬儀用のポテト料理。主にモルモン教徒が葬儀の後に開く食事会で食べるポテトグラタンに似た料理)」「funeral songs (葬儀の時に歌う歌)」「funeral arrangements (葬儀の手配)」「funeral services (葬儀・葬式)」「funeral attire (葬儀の服装)」「funeral home near me (自宅近くの葬儀会場)」とある。

 

葬儀の後の食事会で出される料理

 

ローカルビジネスレビューサイトYelp(イェルプ)の情報を参考に葬儀社を利用した人々の声を調べてみると、消費者が求めていることが浮き彫りになる。
それらは、「グーグルで検索して葬儀社を見つけた。葬儀社の事業スタイルとカスタマーサービスが整っていることを最優先にした。費用の明確さも重要。利用した後に実感したことは、葬儀社のスタッフの思いやりが利用者にとって一番助かった。遺族の悲しみを無視してビジネスライクな態度は幻滅する。親身になってくれるスタッフが揃っている葬儀社が最適」「葬儀社の誠実な事業姿勢を重視する。親身な態度から良心的な料金まで、消費者の立場になってサービスを提供してくれる葬儀社を求める」「温かい思いやりのあるスタッフがいて、ビジネスのエチケットがきちんとしている葬儀社を選びたい。パーソナルタッチが効いたサービス(営業時間以外にも携帯電話で対応してくれるなど人間性豊かなサービス)が鍵」「良心的な料金を設定している葬儀社を選びたい」「プレニード(故人が死亡する前に葬儀サービスや墓地を購入しておく事前販売商品)を購入していたが、墓地の場所が契約した内容と違っていたり、不親切な対応を受けた。信頼できる葬儀社を選ぶべき」という声が目立つ。

各レビューから分かることは、「消費者の大半は、葬儀の料金の額はもとより、葬儀社のスタッフの対応の良さ(思いやりや誠実さ)を求めている」ということだ。

アメリカ消費者同盟(Consumer Federation of America / CFA)の調査によると、「アメリカの最大手葬儀社サービス・コーポレーション・インターナショナルは、他社に比べて葬儀などの料金が47% ~72%高いが、同社のウエブサイト上では料金を提示していない。消費者はオンラインで料金を調べたいと希望している」という。

シンクタンクのピュー研究所(The Pew Research Center) では、「82%の消費者がオンラインで料金や客の評価を調べてから葬儀社を決めている」という調査結果(2016年)もある。

 

大手葬儀社は海外でも活躍

前述の通り、全米には19,136か所の葬儀会場がある。そのほとんどは、家族や個人経営による中小企業の葬儀社が所有する。中小企業の各葬儀社が年間に行なう葬儀の数は、平均で113件。各社の平均従業員数は正社員3人、パートタイム従業員3人となっており、ほとんどが小規模だ。

大手葬儀社は、アメリカの葬儀社全体の10.8%となっており、そのトップを誇るのがテキサス州ヒューストンに本社を構えるサービス・コーポレーション・インターナショナル (Service Corporation International / SCI)だ。この次に、ストンモア・パートナーズ社(StoneMor Partners L.P.) 、キャリッジ・サービシズ社(Carriage Services, Inc.)と続く。サービス・コーポレーション・インターナショナルとストンモア・パートナーズ社は、海外へも進出しており、世界企業へと発展している。

 

霊園での埋葬式の様子

 

以下に、アメリカのトップ3の大手葬儀社を調べてみた。

1位
サービス・コーポレーション・インターナショナル(Service Corporation International / SCI)
[事業内容] 1962年創業。本社所在地はテキサス州ヒューストン。葬儀会場を経営し、葬儀サービスおよび葬儀商品を扱う。霊園も保有し、霊園商品も扱う。海外(カナダ、プエルトリコ)へも進出し、アメリカ最大の葬儀社チェーンだが、表立って宣伝はしていない。理由は、消費者が葬儀社や霊園のチェーン化を嫌うため。そのため、買収した葬儀社や霊園の名称は変えずに残している。アメリカの葬儀業界全体の売り上げの16%を占めている(2017年度)。
[売上規模] 32億ドル(2018年度)
[拠点数] 葬儀会場は2,000か所以上。霊園は400か所。(2019年)
[特記] 葬儀消費者同盟(Funeral Consumers Alliance / FCA)と アメリカ消費者同盟(Consumer Federation of America / CFA)の調査によると、同社のサービスや商品の料金は他社に比べて47% ~72%高いという。同社のウエブサイト上では料金を提示していない(提示を拒否している)。

2位
ストンモア・パートナーズ社(StoneMor Partners L.P. )
[事業内容] 1999年創業。本社所在地はペンシルベニア州トレボース。葬儀会場を経営し、葬儀サービスおよび葬儀商品を扱う。霊園も保有し、霊園商品も扱う。海外(プエルトリコ)へも進出している。
[売上規模] 3.2億ドル(2018年度)
[拠点数] 葬儀会場は90か所。霊園は322か所。(2019年)

3位
キャリッジ・サービシズ社(Carriage Services, Inc.)
[事業内容] 1991年創業。本社所在地はテキサス州ヒューストン。葬儀会場を経営し、葬儀サービスおよび葬儀商品を扱う。霊園も保有し、霊園商品(火葬も行なう)も扱う。
[売上規模] 2.7億ドル(2018年度)
[拠点数] 葬儀会場は182か所。霊園は29か所。(2018年12月)

以上から、大手葬儀社1位のサービス・コーポレーション・インターナショナルが圧倒的に巨大企業だと分かる。歴史のある葬儀社や霊園の買収を繰り返して、事業を発展させているが、消費者の「誠実で思いやりのある葬儀社を求めている」というニーズに合っているのかどうか疑問が残る。

買収が盛んなアメリカの葬儀社の動向が見逃せない。今後、さらに取材を続けていく。

 

葬儀は一時的なお別れ

アメリカの有力な大手葬儀社によって、葬儀会場や霊園の買収が行なわれ、コンビニエンスストア、ファストフード店、ファストファッション店などのように、葬儀ビジネスのチェーン化が水面下で行なわれている。歴史のある葬儀社や霊園が大手チェーン葬儀社に買われて消えてゆくのは、時代の流れのせいだろうか。

一方、アメリカの葬儀ビジネス市場の規模は大きい。人口も日本と比べて多く、葬儀ビジネスの将来は明るく見える。アメリカの葬儀は、「喪に服す」のではなく、まさに「命の祝福をする」という意味でも明るい。

 

葬儀でお供えする花々

 

先月、筆者は友人の父親の葬儀に出席した際にとても感動したことがある。葬儀ディレクターの音頭で、天国へ召す故人の祝福を表すため、故人のお棺へ向かって出席者全員が拍手をしたのだ。「故人とは一時的なお別れをするが、いつか神の許で再会できる。喜んで故人を天国へ見送りましょう」という意味を込めて、皆が力強い拍手をするという行為は意外だったが、気持ちが晴れた。葬儀で拍手をしながら、筆者は「美しく人生を閉じることの素晴らしさ」を感じ、「ますます元気に美しく生きていこう」という意欲さえ湧いた。

葬儀社や葬儀ディレクターによって、葬儀が良くも悪くも進行していく。アメリカの葬儀業界の表と裏を追究していき、日本の葬儀業界に貢献していけたら筆者も幸いである。

 

筆者がウォーキングしている近所の霊園 「フォレストローン・メモリアルパーク」

  • この記事を書いた人
藤本庸子

YOKO FUJIMOTO

藤本庸子 米国ロサンゼルス在住30年のライター

共立女子短期大学国文科卒。廣告社株式会社に2年勤めた(営業職)後、米国カリフォルニア州サンディエゴおよびフロリダ州マイアミへ語学留学。帰国後、雑誌「アンアン(anan)」「ヴァンテーヌ(Vingtaine)」「メンズクラブ(MEN'S CLUB)」などのライターを経て再び渡米。ロサンゼルスのリー・ストラスバーグ演劇研究所にて演劇活動をした後、ライターへ復帰。米国起業家向け雑誌「Entrepreneur Magazine」にてスタッフライター、NHKラジオ第一放送「ラジオ深夜便」ワールドネットワークにてリポーターの経験も。現在、新聞、雑誌、テレビなど、さまざまな分野および媒体の仕事をこなしながら、小説を執筆中。

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