エコ時代の埋葬:ルーク・ペリー氏の場合

Coeioウェブサイト

エコな埋葬は次の時代の葬送形態となるのか?

以前お届けいたしました記事「アメリカの葬儀系スタートアップ紹介」の中では、特別なキノコをもちいて作られた「インフィニティ埋葬スーツ」による環境に配慮した埋葬をご紹介しました。

 

Coeioウェブサイトより(<a href="http://coeio.com/press/" target="_blank" rel="noopener">リンク</a>)

Coeioウェブサイトより(リンク

 

このスーツを開発したCoeioの創業者、ジェー・リム・リー氏によると、アメリカで一般的な土葬であれ、近年増加しつつある火葬であれ、既存の葬送形態では人体に含まれている環境有害物質が土壌ないし大気中に放出されてしまうという欠点があるとされています。

 

環境有害物質といっても人体に含まれている量は微々たるものではないのかと思われれるかもしれません。

 

しかし、米国全体で毎年約280万人(参照1)にも及ぶ人々がなくなっていることを考えると、既存の葬送形態による環境への負荷は看過できないものであることがわかります。

 

このような中、先日報じられたところによりますと、『ビバリーヒルズ青春白書』などで有名なアメリカの俳優ルーク・ペリー氏がインフィニティー埋葬スーツにより埋葬されたことが明らかになりました(参照2, 3)。

故ルーク・ペリー氏

故ルーク・ペリー氏

 

ペリー氏の選択にはどのような反応があったのでしょうか?

 

本記事では、ペリー氏の選択に対する各方面の反応を概観することによって、環境に配慮した埋葬の動向を探ります。

 

目次

Coeioの概要

はじめに、Coeioの「マッシュルームスーツ」について確認しておきましょう(あわせて過去記事「アメリカの葬儀系スタートアップ紹介」もお読みください)。

 

コンセプト

上述しましたように、Coeioの基本的なアイディアは、既存の葬送形態では大気中ないし土壌中に放出されてしまう人体に含まれる環境有害物質を特殊なキノコを用いた埋葬用スーツによって分解するというものです。

インフィニティ埋葬スーツ (<a href="http://coeio.com/infinity-burial-suit-2/" target="_blank" rel="noopener">http://coeio.com/infinity-burial-suit-2/</a>)

インフィニティ埋葬スーツ (http://coeio.com/infinity-burial-suit-2/)

インフィニティ埋葬スーツは100%生分解性であり、化学物質や保存料は一切使用せずに作られています。

スーツには特殊なキノコと微生物が組み込まれており、これらは遺体の分解を助け、環境有害物質を無害化しつつ、植物に栄養を届けるという3つの役割を果たします。

 

インフィニティ埋葬スーツを用いた場合、土壌を環境有害物質により汚染することなく、周囲の植物の栄養価となることで遺体はいわば「大きな生命の連鎖」の中にかえされることになります。

 

創業者

創業者であるジェー・リム・リー氏はMITを卒業ののち、菌類をもちいて汚染された環境をもとの状態に戻すマイコレメディエーションを研究していました。

ジェー・リム・リー氏(<a href="https://twitter.com/jaerhimlee" target="_blank" rel="noopener">https://twitter.com/jaerhimlee</a>)

ジェー・リム・リー氏(https://twitter.com/jaerhimlee

自然葬墓地を訪れた際に、リー氏は

菌類は死や我々と地球との関係についての考え方の文化的なシフトへのシンボルおよびツールになりえないだろうか?

というインフィニティ埋葬スーツに結実するアイディアを得たようです。

 

リー氏は2008年に試作品スーツを着てファッションショーに登場し、これに引き続きインフィニティ埋葬プロジェクトを立ち上げ、2011年にはTEDトークにも登壇、そして2015年の4月にCoeioを創業しました。

 

他の製品

現在、Coeioはインフィニティ埋葬スーツに加えて、新たに遺体を覆うシュラウド(きょうかたびら)の準備も進めています。

さらにペット用の製品の販売も行っています。

ペット用の製品 (<a href="http://theforeverspot.com/purchase/" target="_blank" rel="noopener">http://theforeverspot.com/purchase/</a>)

ペット用の製品 (http://theforeverspot.com/purchase/)

 

価格

インフィニティ埋葬スーツの価格は1500ドルで、日本円にして約16万円です、インフィニティ埋葬シュラウドも同様に1500ドルで販売されています。

 

ペット用の製品はサイズにより値段が異なりますが、一番小型で安価なもので75ドル(8000円程度)、大型犬にフィットするような一番大きい製品では250ドル(2万7000円程度)という価格設定になっています。

 

この価格設定を高いとみるか、それとも穏当とみるか?

これについては、以下でペリー氏のニュースに対する反応を見る過程で検討してみましょう。

 

ペリー氏の選択に対する反応

ペリー氏が亡くなったのは、2019年の3月4日のことでした。

しかしながら、当初はペリー氏の葬送がどのような形態であったかは明らかにされていませんでした(参照4)。

 

そのような中、およそ2カ月後の5月3日にペリー氏の娘であるソフィー・ペリー氏がインスタグラムに投稿した記事により、ペリー氏がインフィニティ埋葬スーツを選択していたことがはじめて明らかにされました。

このインスタグラムの投稿において、ソフィー・ペリー氏は次のように語っています。

12月のこと、私は2人の親友と一緒にサンフランシスコへ。このうちの一人がそれまでカリフォルニアに行ったことがなかったので、レッドウッド国立公園に連れて行くことになりました。この写真はそのときのものです。「なんて美しいのだろう!」と思い撮りました。今や私にとってキノコは全く新しい意味を帯びています。どう説明してもなかなかキノコ埋葬スーツのすばらしさを伝えきれませんが、おおざっぱにいうと、これはキノコによるエコフレンドリーな埋葬という選択肢です。私にいえるのは、coeio.comをみてみるか「キノコ 埋葬 スーツ」で検索してみてということだけ。父はこれを見つけて、今まで見たことがないくらい感激していました。父はこのスーツで埋葬されましたが、これは父の最後の願いでした。キノコはこの美しき惑星にとり実に美しきものです。このすばらしさをここにシャアしたいと思います。

https://www.instagram.com/p/Bw_9mDLlJqr/

 

インスタグラムに対する反応

10日あまりのうちに、この投稿には7千を超える「いいね」が寄せられています。

投稿に対するコメントには、否定的なものから肯定的なものまでさまざまな反応がみられれます。

否定的なコメントの例としては、「気味が悪い」といったものや、「キノコスーツのために1500ドルも払うなんて馬鹿げている」といったものがみられます。

他方でこれとは対照的に「素晴らしいアイデアだ」、「シェアしてくれてありがとう」といった肯定的があるのも事実です。

 

メディアの反応

このインスタグラムの投稿はすぐさま様々なインターネット上のニュースで取り上げられました。

これには、CNNやBBCといったメジャーな報道局も含まれ、インスタグラムの投稿と合わせて、リー氏率いるCoeioのサービスが紹介されました。

 

BBCの記事では、インスタグラムの投稿ならびにcoeioの紹介を行った後、「自然葬(green burial)」というコンセプトは新しいものではないと指摘したうえで、英国国内の自然葬業者の紹介を行っています(参照2)。

 

BBCによる自然創業者の紹介は環境問題に強い関心が寄せられている英国において人々の関心と合致することが予測され、環境にやさしい葬送としての自然葬が今後よりポピュラーになるのを後押しする可能性があるのではないかと思われます。

 

また、インスタグラムの投稿に対してみられた「1500ドルは高すぎる」という声に関して、金融情報サイトであるMarket Watchは1500ドルというのは実はリーズナブルな価格設定であると分析しています(参照5)。

Market Watchによると、棺による伝統的な葬送には平均して8000から1万ドル、火葬については1100から5000ドルの費用がかかるとされています。

これに照らすと、一見したところ高いように思われるインフィニティ埋葬スーツは実際のところお手頃な価格であることがわかります。

これに加えて、環境問題への意識の高まりに鑑みればトレンドになりうるとMarket Watchは結論付けています。

 

エコ埋葬の今後

いずれせよ、ソフィー・ペリー氏のインスタグラムの投稿やメディアでのとりあげにより、インフィニティ埋葬スーツが多くの人の関心を引くこととなったことは間違いありません。

 

すでにみたように、インスタグラムの投稿には7千を超える「いいね」が集まり、多数のインターネット上のニュースがペリー氏の選択を取り上げています。

また、これに合わせて、「キノコ スーツ」という検索語での検索が世界全体で急上昇していることもグーグルトレンドにより確認されます。

 

2015年に出発したCoeioはまだまだ成長途上ですが、Market Watchが分析しているように、高騰する葬儀価格という経済的な問題と、高まりつつある環境問題に対する意識という二つのトレンドにこたえるCoeioの製品が多くの人々の選択肢になる可能性は十分にありうるように思われます。

 

今後ルーク・ペリー氏のような有名人やインフルエンサーががCoeioの製品を選択することを宣言し、インターネット上のホットトピックになれば、今回と同様に多くの人がCoeioのインフィニティ埋葬スーツに注目し、認知度も高まることが予測されます。

 

上で言及したリー氏の着想に表れているように、Coeioの製品は単にエコフレンドな葬送形態というにとどまらず、この地球上に生まれ、死にゆく我々がどのような存在としてあるべきかというコンセプチュアル・イメージと共に、提供されています。

 

ペリー氏のように、こうしたアイデアに感銘を受け、インフィニティ埋葬スーツを選ぶ著名人が現れ、Coeioが大きく成長する可能性は極めて現実的なのではないでしょうか。

 

参照

1. Centers for Disease Control and Prevention, https://www.cdc.gov/nchs/nvss/deaths.htm, [last access, 14 May 2019].

2. ‘Would you get buried in a mushroom suit like Luke Perry’, https://www.bbc.co.uk/news/48140812?ns_source=twitter&ocid=socialflow_twitter&ns_mchannel=social&ns_campaign=bbcnews, [last access, 14 May 2019].

3. ‘Luke Perry’s daughter says he was buried in a mushroom suit’, https://edition.cnn.com/2019/05/04/entertainment/luke-perry-mushroom-suit-trnd/index.html, [last access, 14 May 2019].

4. ‘Luke Perry laid to rest near Tennessee home, according to death certificate’, https://eu.tennessean.com/story/entertainment/2019/03/13/luke-perry-buried-dickson-county-tennessee-death-certificiate/3151538002/, [last access, 14 May 2019].

5. ‘Luke Perry was buried in a mushroom suit – which could become a trend’, https://www.marketwatch.com/story/the-woman-who-made-luke-perrys-mushroom-burial-suit-is-shaking-up-the-death-care-market-2019-05-07, [last access, 15 May 2019].

 

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