株式会社 アルス~シティホール~┃冠婚葬祭互助会の業績・利益をまとめて分析

株式会社 アルス~シティホール~┃冠婚葬祭互助会の業績・利益をまとめて分析

葬儀社の業績・利益を調べる場合、帝国データバンク(TDB)か、商工リサーチ(TSR)、はたまた日経テレコンで調べるのが一般的ですが、いずれも有料です。
ちょっと知りたい、ざっくり今すぐ把握したい、葬儀社の業績・利益の比較をしてみたい、そんな方に向けてまとめました。

今回は株式会社 アルスの現状について、貸借対照表をもとに分析いたします。
上場企業の決算資料ほど詳細ではありませんが、事業の大まかな状況はつかめますので、ぜひ最後までご覧ください。

目次

株式会社 アルスの概要

株式会社 アルスは山梨県富士吉田市に本社を置き、山梨県内で婚礼・葬祭サービス事業や貸衣装事業を運営する冠婚葬祭互助会事業者です。
1999年9月に「株式会社 メモワール」のグループ会社として設立され、山梨県内でグループ各社とのネットワークを活かした事業展開をおこなっています。

グループ会社の「株式会社 メモワール」は1970年12月に神奈川県で創業されたのち、1973年4月に「横浜市冠婚葬祭互助会」を設立しました。
1985年には現在の社名である「株式会社 メモワール」に改称しており、神奈川県で婚礼・葬祭サービス事業の運営を中心とした冠婚葬祭互助会事業者として営業しています。

そのほかグループ会社として「株式会社 セレモジャパン」、「株式会社 東日本セレモニー」を設立して創業地の神奈川県をはじめ、東京・静岡・山梨で冠婚葬祭互助会事業を営業中です。

互助会会員数は35,982人、葬儀件数は1,026件となっています。(2023年5月現在)

【名称】株式会社 アルス
【設立】1999年(昭和56年)9月
【代表取締役】渡邊 正典
【所在地】山梨県富士吉田市上吉田東3-2-22
【資本金】5,000万円
【公式サイト】http://www.ars-corp.co.jp/
【事業内容】・互助会事業
      ・貸衣装事業
      ・葬祭事業
      ・仏壇・仏具事業
      ・介護事業

出典:株式会社 アルス 会社概要

葬儀社の決算公告とは

決算公告資料はその会社が健全な経営を行っているかを確認できる計算書類となります。株式会社は定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務があり、その行為を決算公告といいます。

公告の方法は全部で3つあります。

  • 官報に掲載
  • 日刊新聞紙に掲載
  • 電子公告(会社のウェブサイトに掲載)

決算公告は義務的な側面が強いですが、取引先や銀行に情報の開示を行うことで、自社の透明性や健全性を見せることができるという重要な側面も持ち合わせております。

なぜ葬儀社は決算公告をおこなうのか?

大手葬儀社、あるいは葬儀・葬祭事業を長きにわたって営んでいる会社は、冠婚葬祭互助会を運営するケースが少なくありません。

冠婚葬祭互助会とは、冠婚葬祭などの行事に備えるために、毎月一定の掛金を複数回の支払いで積み立てるサービスです。
冠婚葬祭互助会の会員になることで、葬儀や婚礼といったライフイベントの際に会員割引を受けられるなど、さまざまな面で優遇されます。

一般的な専門葬儀社は、開業にあたって特に許認可は必要ありませんが、冠婚葬祭互助会は経済産業大臣の認可を受けた企業のみ行える事業です。

出典:一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会ホームページより
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会員から掛金として支払われた前受金は割賦販売法によって積み立てられた前受金の2分の1を次の何らかの方法で保全することが義務付けられています。

  • 法務局に供託する
  • 経済産業省の指定する保証会社と供託委託契約を結ぶ
  • 銀行や信託会社などの金融機関と供託委託契約を結ぶ

上記のいずれかの方法を選択する必要があります。

また、経済産業省は割賦販売法に基づき互助会事業の経営指導や立入検査等を行っています。
なお現在、冠婚葬祭互助会事業者として登録されている事業者は以下より確認することができます。

経済産業省 前払式特定取引業者(冠婚葬祭互助会)許可事業者一覧

上記のように、冠婚葬祭互助会では政府・行政の認可団体として運営している側面があり、義務である決算公告を発表する事業者が多い状況です。

アルスの貸借対照表 

決算期第38期第39期第40期第41期第42期第43期
会計年度2018年5月期2019年5月期2020年5月期2021年5月期2022年5月期2023年5月期
利益剰余金2億8千8百万円3億4千3百万円3億9千0百万円4億3千0百万円5億5千0百万円7億3千1百万円


流動資産22億8千2百万円25億7千9百万円23億7千2百万円25億7千3百万円28億2千3百万円28億2千4百万円
固定資産27億0千6百万円26億2千1百万円29億4千0百万円28億6千5百万円28億3千5百万円29億8千0百万円
有形固定資産
無形固定資産
投資その他の資産
繰延資産
資産合計49億8千7百万円52億0千1百万円53億1千3百万円54億3千8百万円56億5千8百万円58億0千3百万円


流動負債45億9千4百万円5億3千7百万円5億1千3百万円5億0千1百万円5億4千1百万円5億5千1百万円
役員賞与引当金
賞与引当金
その他
固定負債5千6百万円42億7千2百万円43億6千0百万円44億5千7百万円45億1千7百万円44億7千1百万円
退職給付引当金
雑収入復活引当金
役員退職慰労引当金
その他
負債の部計46億5千0百万円48億0千8百万円48億7千3百万円49億5千8百万円50億5千8百万円50億2千2百万円



株主資本3億3千8百万円3億9千3百万円4億4千0百万円4億8千0百万円6億0千0百万円7億8千1百万円
資本金5千0百万円5千0百万円5千0百万円5千0百万円5千0百万円5千0百万円
 資本余剰金
資本準備金
その他資本余剰金
 利益剰余金2億8千8百万円3億4千3百万円3億9千0百万円4億3千0百万円5億5千0百万円7億3千1百万円
利益準備金
特別償却準備金
その他利益剰余金
評価・換算差額等
その他有価証券評価差額金
(うち当期純損失)2千0百万円5千5百万円4千7百万円4千0百万円1億2千0百万円1億8千2百万円
新株予約権
自己資本
評価・換算差額等
その他有価証券評価差額金
純資産の部計3億3千8百万円3億9千3百万円4億4千0百万円4億8千0百万円6億0千0百万円7億8千1百万円
負債・純資産合計49億8千7百万円52億0千1百万円53億1千3百万円54億3千8百万円56億5千8百万円58億0千3百万円

貸借対照表でまずチェックしたい箇所は純資産の部です。総資産に対する純資産の比率である「自己資本比率」が高いほど、その企業の経営状態は良好であると考えられます。
自己資本比率が50%以上であれば、経営状態は良好とされていますが、10%を下回っている場合は改善が必要な状況といえるでしょう。

自己資本比率が低い場合は借入金などの負債が多いので資金繰りが厳しいと予測ができます。
一方で、自己資本比率が高い場合は返済義務を有しない資金を大量に抱えているので倒産リスクは低くなると考えられます。

自己資本比率は中長期的にその企業の安定性を確認できる指標ですが、自己資本比率は業種によって大きく異なります。
例えば固定資産(建物や土地や機械など)を多く抱えている業種(製造業や鉄道会社)は最低でも20%程度はあると安心です。

逆に流動資産(ソフトウェアや”のれん”など)を多く抱えている業種(IT企業や卸売業)は最低でも15%程度は欲しいところです。

のれん:その会社が持つ技術やブランドで、目には見えない価値の高い資産のこと

貸借対照表の左右(運用状況と調達状況)の合計額は必ず一致する
「資産」=「負債」+「純資産」という計算式が成り立つことから、貸借対照表のことをバランスシート(Balance Sheet)またはビーエス (B/S) と呼ぶこともあります。

アルスの自己資本比率は13.46%

自己資本比率は「自己資本比率(%)=純資産÷総資産×100」で求めることができます。
アルスの自己資本比率は次のように計算されます。

7億8千1百万円÷58億0千3百万円×100=13.46

アルスの2023年5月期における自己資本比率は、13.46%(前年同期比2.86%増)となっています。

2018年5月期から年々自己資本比率が増加している状況です。

  • 2018年5月期:6.78%
  • 2019年5月期:7.56%(前年同期比11.5%増)
  • 2020年5月期:8.28%(前年同期比9.52%増)
  • 2021年5月期:8.83%(前年同期比6.64%増)
  • 2022年5月期:10.60%(前年同期比1.77%増)
  • 2023年5月期:13.46%(前年同期比2.86%増)

アルスの資産と負債について

自己資本比率の次に確認したいのは、資産と負債の額になります。
貸借対照表でいうところの資産は左側に、負債は右側上段に記載があります。

この赤い円の箇所を確認することで、その会社の資産と借金の額を確認できます。

資産合計の推移

貸借対照表の左側に記載されており、「会社の所有する資産」を表します。
資産は下記の3つに構成されています。

・流動資産 = 1年以内に現金化もしくは費用化できる資産
例) 現金、有価証券、商品、製品など

・固定資産 = 長期にわたって会社が保有するものや1年を超えて現金もしくは費用となる資産で有形固定資産や無形固定資産がある。
例)・有形固定資産:建物、土地、車など
  ・無形固定資産:ソフトウェアなど

繰延(くりのべ)資産 = 会社設立にかかった費用や社債発行にかかった費用を一括して費用として計上せずに資産として計上し期間内(数年など)に分けて償却するものとなります。
例) 創立費、開業費、開発費など

アルスの資産合計の推移は以下のようになっています。

アルスの2023年5月期における資産合計は、58億0千3百万円(前年同期比2.56%増)となっています。
過去5年間にわたって緩やかな増加を続けており、経営の安定性がうかがえます。

負債合計の推移

貸借対照表の右側上段に記載されており、「返す必要のある他人からの借金」を表します。
負債は下記の2つで構成されています。

流動負債 = 1年以内に支払い期日を迎える負債となります。
例) 家賃、従業員の給与や賞与、買掛金(サービスや商品の金額を後払いするもの)など

固定負債 = 1年以内に支払い期日を迎えない負債となりますので、流動負債以外の負債は固定負債になるということです。
例) 従業員の退職金、社債、長期借入金など

アルスの負債合計の推移は以下のようになっています。

アルスの2023年5月期における負債合計は50億2千2百万円(前年同期比0.71%減)となっており、2018年5月期から年々微増で推移していましたが、わずかながら減少しました。
貸借対照表を見ると、2018年5月期から2019年5月期にかけて流動負債が大きく減少しており、固定負債が大きく増加しています。

また、同時期にグループ会社の「株式会社 メモワール」でも、流動負債の減少と固定負債の増加が見られました。
これは借り入れを短期から長期に変更するなど、なにかしらの対応をおこなった可能性を示唆しています。

長期の融資を受けるための審査は厳しく、利益を継続的に出す見込みがなければ融資を受けられないと言われています。
グループ会社で同時期に流動負債の減少と固定負債の増加が見られたことから、グループとして資金の調達をおこなった可能性がありそうです。

財務安定性指標の一つである流動比率(流動資産÷流動負債×100)を見ると、アルスの2023年5月期の時点では512.52%(安全ラインは100%以上)となっています。
2018年5月期では49.67%であったときの状況と比べると大きく改善されており、現状での支払い能力について不安要素は見られません。

アルスの純資産について

自己資本比率、資産合計、そして負債合計をみてきましたが、最後に確認したいのは「純資産」となります。
純資産は貸借対照表でいうところの右側下段に記載があります。

純資産は資産(現金、土地、建物など)から負債(借金)を差し引いたものです。

この赤い丸の箇所を確認することでその会社の純資産を確認できます。

アルスの純資産合計、利益剰余金の推移はそれぞれ以下のようになっています。(各用語についても分かりやすく解説しています)

純資産合計の推移

会社の所有する現金や建物などの資産から負債(借金)を差し引いたものとなります。
純資産の割合が高ければ財務健全性が高いと考えられます。一方で、純資産がマイナスの状態を債務超過といい、2期連続で債務超過の状態が続いた場合、東証上場の廃止基準に抵触することがあります。

アルスの2023年5月期における純資産合計は、7億8千1百万円(前年同期比30.17%増)となっています。

アルスの純資産合計は2018年5月期から増加傾向で推移していますが2023年5月期ではさらに大きく増加しました。

2020年からの新型コロナ関連の影響を大きく受けることとなった葬儀業界の中でも、アルスはその影響を抑えて健全な財務状況を維持し続けているようです。

当期純利益の推移

会社が1年間で得た全収益から法人税や住民税そして費用を差し引いたものが当期純利益となります。
この当期純利益がマイナスとなると当期純損失となります。

当期純利益の額をみることで、その会社の収益性がどのくらいなのか判断できる指標になります。

アルスの2023年5月期における純利益は、1億8千2百万円(前年同期比51.67%増)となっています。
新型コロナの影響で、2019年5月期から2021年5月期にかけて当期純利益も減少傾向にありましたが、2022年5月期に続き2023年5月期でも大幅に増加しています。
アルスの業績は順調に回復しているようです。

利益剰余金の推移

利益剰余金とは簡単に言うと会社の貯金のようなもので、その会社の生んだ利益を分配せずにコツコツと社内で貯めたお金です。正確な会計用語ではないですが利益剰余金のことを内部留保とも言います。
内部留保は恐らく聞き馴染みのある単語だと思います。利益剰余金は貸借対照表で言うところの純資産の部に記載があります。

内部留保(利益剰余金)が多くあればあるほど、金融危機などの影響で収益状況が悪化した際にも、従業員の給与や固定費の支払いに活用できるため、企業が生き残るための重要な資金源となります。

アルスの場合は以下のように推移しております。

アルスの2022年5月期における利益剰余金は、7億3千1百万円(前年同期比32.91%増)となりました。
前年同期に比べ1億8千万円以上の増加となり、2018年以降では、最高の増加率となりました。

2020年の新型コロナの発生は、業種問わず多数の日本企業に想定外の大損失を与えてきましたが、利益剰余金はそういった突発的に発生する損失に備える資金でもあります。
年々積み上がっているアルスの利益剰余金は、新型コロナを含めた種々の財務的な脅威への対応に大きく貢献しているといえるでしょう。

株式会社 アルスのまとめ

今回は株式会社 アルスの決算公告を参考に、現状分析を行いました。
新型コロナの影響はアルスの事業運営にも及んだようですが、2022年以降はコロナ禍以前を上回るペースで成長している印象です。

アルスは2024年3月に、小規模の葬儀に対応する「メモワールホール泉」をオープンしました。
2024年秋には、自宅にいるようなお見送りが可能な「やすらぎの邸宅」上白根(仮称)をオープンさせる予定で、引き続き今後の事業展開と決算公告が注目されます。

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